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FOUR of COINS 天使の日常ってこんなもの

□登場人物□

 大天使ヒジリ→天地聖あまちひじり

 大天使ランカム→天翔神威あまかけるかむい

 大天使アリエル→天陽愛理あまひとあいり


 高倉亜美たかくらあみ

 押谷麗華おしたにれいか

 白蓮留美しろはするみ

 関 奈々(せきなな)

 城市義孝きいちよしたか

 坂口アンリ(さかぐちあんり)

 体育教師 真狩まがり


 泣かないで わたしがいるよ

 ずっと、ずっと、あなたのそばに

 つらかったり、かなしかったらわたしをよんで

 あなたのそばへ飛んでいくから





「ヒジリ、朝だぞ、そろそろ起きないとチュー五千回するぞ」

「あ、うん。もう目覚めたから。そっこーで起きるから」

「そうか……つまらん……」


 ベッドの上に座って長身のランカムを見上げれば、そこにはすでに制服姿にエプロン姿をしたランカムがいた。凛々しい表情のまま、いそいそと制服を取り出してはヒジリのパジャマのボタンを外しにかかろうとするので、そばにあったウサギのぬいぐるみを顔に投げ込んだ。


「ランカムのバカ……着替えるから出てってよ」


 怒りで翼が出てしまった。これは背中に直接付いてるわけではないので、パジャマを破くということではないのだが。


「わかったわかった、じゃぁ、アリエルと共に降りてくるんだぞ」

「ラジャ……」


 制服に着替え、ねむけ眼をこすりながらアリエルの部屋に行く。扉を叩いて中に入ると天盤付きのベッドの上であくびをしているアリエルがいた。


「おはよう、ヒジリ……」

「おはようアリエル……」


 二人そろって大あくびして、アリエルを制服に着替えさせた。二階にある簡易的な洗面台で軽く顔を洗い、リビングに入った。テーブルの上には目玉焼きとウィンナー、ほうれん草とひじきがお皿の上に盛りつけられている。


「今日から本格的に学校に行くんだぞ。早くご飯を食べてくれ」

「ランカムは朝なんでそんなに強いだよ……」


 ヒジリとアリエルがテーブル席に着くと、味噌汁をそれぞれお椀に注ぎ手に持ったランカムが共に座った。

 

「目覚まし10個セットしてたんだ。すわ幽鬼の来襲かと思わせる轟音なんだぞ、そりゃ目も覚めるだろう――」


 ヒジリとアリエルが目を合わせて、あきらかにやり過ぎだろとテレパシーで訴えた。


「天の計画にも含まれているのだし、俺達が失敗するわけにはいかない。ちなみに遅刻なんて以ての外だから、お前は早く目を覚まして飯を作れと大天使ウリエルから伝言があった」

「ウリエルから? 伝言するなんて珍しいね!」

「彼は人間に関わるの極力避ける派なんだけど、自分ができないぶん俺達に託すみたいなことを言っていてな……あの低い声音を聴いて高速で料理したが。ほんと、一度聴かせてやりたいよ」

「遠慮願いまーす」

「私もぉ……ウリエルは堅物だし……って、大天使はみな地獄耳だからここまでにしましょ……」 


 三人は和食を食べて、ランカム教を出た。この神殿は喫茶店、占い屋も兼任してるのでもう何でも屋となっている。信者もいっぱいなので信者に喫茶店を任せて学校への道のりを急いだ。



――――――


「おっはよ~、ヒジリ、神威、愛理!」

「あ!おはよ、レイカちゃん、亜美ちゃん、ルミちゃんとナナちゃんも!」


 がばり!とヒジリは両肩をおさえられた。勢いがあったため、レイカのストレートなポニーテールが揺れている。その横からひょっこりとボブカットの亜美が顔を出した。


「おはよう……ございます」

「あはは、亜美ちゃん、敬語は無しで良いんだよ?」

「う、うん!ありがとう、ヒジリ」


 ヒジリと亜美がニコニコ笑顔で喋っていると、その横から渋い顔の二人が話に割り込んできた。


「あ~、レイカと亜美はずるいんだ!おはよう、ヒジリ、神威くん、愛理さん」

「ヒジリは分かるが、俺と愛理は敬語付けか?」


 口調や態度から威圧感を感じるし、とてもじゃないが天翔神威は同年代とは思えない。クラスメイトで一番背の高い男子よりもさらに背が高いのだから誰よりも大人びて見えるのだろう、レイカと亜美、ルミとナナは顔を引き攣らせた。


「えと……神威くんと愛理さんは別格な感じがして……ねー?」


 おさげのルミがうんうん頷き。


「だよね……気軽に話せる気がしないよ」


 ナナは引き攣り笑いをそのままに、くるんとしたカールの髪を人差し指で回して見せた。そのあと二人が愛理に視線を移すと、目をキラキラさせながら手を合わせて拝んだり、両手を組んでほぅ…と吐息を吐いた。

 何事だとヒジリが目をやるとまさかと思った。二人はバーンと飛び出た愛理の大きな胸に目が釘付けだったり、崇拝にも似た彼女らの視線に、ヒジリも自分の胸に手を当てたが少し残念だったので、神威によしよしされた。


「そんな謙遜しなくても良いのよぅ……頼れるお姉さん、お兄さんて感じで気軽に話して欲しいわぁ」


 おっとりしたその喋り方がヒジリとまったく違うと気づかない超鈍感な神威と愛理に、一同はどうしたものかと悩みながら学校の正門にたどり着いた。


「あ、ヤバ!体育教師の真狩まがりじゃん!」


 ジャージ姿の男性が正門に立っていた。

 どの生徒らも縮こまっている。


「今日は持ち物検査の日だっけ?あ~、しまった、漫画持ってきてた……」


「あの人そんなに厳しいの?」


「うん……あー、もう怒られるの覚悟で行こう」


 六人でコソコソ正門を通ろうとすると、竹刀で通せんぼされた。


「お前ら持ち物検査させろ!さぁ、お前からだ……高倉亜美は通れ、白蓮留美、関奈々は……よし、通れ」


 三人はほっと安心して正門を通る。

 レイカもそれに続いて通ろうとしたらカバンを奪われて覗き込まれた。


「なんだなんだ押谷ぃ、漫画なんて持ってきやがって。没収だ、没収」


「うあー、ひど」


「何が酷いだ!放課後職員室に取りに来い! 次は――っと、お前ら見ない顔だな?名前は」


 真狩がヒジリに標的を映し手で触れようとした瞬間、その手を振り払われた。


「俺が天翔神威あまかけるかむい、この愛らしい子が天地聖あまちひじり、こっちが天陽愛理あまひとあいりだ。1-1クラスに昨日から三人、そろって転入してきた」


「ほぅ……この俺に盾突くとは、お前は覚えた…ほら、お前らはとっとと入れ!押谷は分かってるな!」


 悔しそうに無言で立ちすくむレイカを連れて、ヒジリ達六人は靴置き場で徒労した。


「あー、朝から疲れたね……て、今日の5時間目が体育なんだよ……あー、また真狩に会うのイヤだ~~!」


 喚くレイカを亜美がどうどうと宥めている。

 

「体育館で男子がバスケ、女子がバレーボールだよね……体育指導が真狩先生だから男女わかれてても一緒だしね」

「ふーん、そうなんだぁ」


 片腕をブンブン回すヒジリに、神威がにんまりと微笑んだ。


「楽しみだな」

「神威と愛理と比べるとダメなんだけど、それでも勉強よりは良いかなって」


 ニシシ、とヒジリが笑うと大きな手で頭を撫でられた。


「同じ体育館なら俺の雄姿を見てくれ」

「暇があれば見るよ」

「ヒジリは相変わらずつれない」


 六人で教室につき、ホームルームを終えて授業に集中した。

 神威と愛理は数学に手間取ると思いきや普通に理解している。

 神威は化学にも精通しているのかテキパキ動いて実験しているし、愛理は歴史に強いのかスラスラと暗記していた。


「ズルいズルい……神威も愛理もなんでできるの」


 涙目のヒジリが机に突っ伏した。


「数学は公式があるでしょう?それを見て当てはめてるだけなんだけど」


 くすくす笑いながらヒジリの頬をつつく愛理に、頬を膨らませてぶーたれた。


「応用問題は得意なんだ。天使歴が長いだけに」

「ん?何か言った?」

「いーや、何でもない」


 レイカと亜美も数学や化学に手こずっているところを見ると、自分達はやり過ぎらしい。昼が過ぎ、六人と亜美の彼氏も加わって教室で昼を食べてるとヒジリが気づいた。


「ねぇ、そういえば坂口アンリはどうして一緒に食べないの?」


 天翔神威の席の前が坂口アンリだ。

 そのアンリはというと、一人でぽつんとパンを食べている。


「ん~、しばらく一人にしてほしいって」

「へぇ……」


 神威が含み笑いをすると、アンリがびくりと肩を揺らしてこちらを見てきたが速攻で視線をずらされた。


「亜美が女子グループからハブられてるってレイカ達から聞いたときはビックリしたな。俺、心底心配したんだぜ?」

「あ……心配かけてごめんなさい」

「良いんだよ、また元通りになったんだろ?あ、俺は城市義孝きいちよしたかで、サッカー部員だ。神威は部活入らないのか?」


 こんがり焼けた肌のヨシタカに、ヒジリは目が点になった。

 

「俺は何が得意か分からないからな」

「5限目バスケだろ。一緒のグループ入ろうぜ」

「良いだろう」


 神威よりは少し背が低いが、同年代の男子よりかは背が高い。ヒジリが見上げると、ヨシタカが鼻の下を指で擦った。


「セントベリエンヌ学園って運動系強いんだぜ。陸上はレイカ入ってるし、ルミは水泳、ナナは漫研入ってるけどな」

「私は漫研と美術部も兼ねてるんだから……ルミも水泳と漫研入ってるし……」

「ナナも私と一緒に水泳入ろうよ」

「私は泳げないんだよぅ」


 水泳か……私も入ろうかなとヒジリが言う前に、神威に遮られた。


「ヒジリのあられもない水着姿を誰にも見せるつもりは無いから」

「あんたは保護者かっつーの」


 レイカの見事なツッコミにも負けず、神威は自作の弁当を美味しく平らげていた。







***


 

「いけいけーーっ!」

「神威が決めるぞ!誰でも良いから止めろ――ッ!」


 背の高い神威は皆からパスを受け、それをダンクシュートしてみせた。体育館いっぱいに歓声が沸く。

 

「お前ぇっ!何が得意なのが分からないだ!こんだけ動けるならどの運動部からも引っ張りだこに決まってるだろう!」


 同じチームのヨシタカが神威に体当たりした。

 

「良いか、お前はサッカー部が手に入れる!」

「ダメだ、俺の優先順位はヒジリ一択しかない」

「このヒジリ馬鹿め!パス回しや駆け引きが上手い、ダンクできるならバスケの芦屋にぜったい獲られる!テニスも渡並がお前を狙ってそうだし、足が早いなら――」


「あたしの出番よね~?」

「げ……レイカ!」


 にやけ顔のレイカがバレーボールをヨシタカにぶつけてきた。

 それを難なく受け取って苦虫を踏みつぶした顔になる。


「ばっちし見てました~。ねー、陸上入らない?マネージャーにヒジリを口説くから」

「あ、アホか!そんなの言ったら……」

「魅力的な誘いだが、生憎と家の事情も含まれるので部活は無しで。うちは家計を養わなければいけないし」


 ザ・必殺、『家計が火の車』を出すとヨシタカ達の話を聞いてた運動部員たちは諦めてくれた。








「あ~あ~、神威が陸上に入ってくれたらインターハイも狙えるのに!ヒジリから言ってくんない?」

「いや、無理だから」


 あんなにキッパリと跳ね避けている神威に自分から懇願するとなると、どんなセクハラまがいのことをさせられるか。キス1万回はくだらないのではなかろうか――寒気がしてブルブル震えると、愛理がぶっと噴き出し笑った。


「ほらほら、バレーに集中しないと、真狩先生のスパルタレッスンで集中砲火されちゃうわよ?」

「押谷、天地ィ~!よそ見してる暇あるのか!お前らはレシーブ10本追加だっ!!!」

「……!」


 他の生徒には緩い球だが、レイカには明らかに強めの球でサーブしてくる。おかげでレシーブを受けた腕が赤く鬱血していた。その横に居たヒジリにも強めの球が飛んでくる。もう少しで顔面で受け止めそうになったとき、横から伸びた手が球を受け止めてくれていた。


「!!」

「ヒジリを狙うなんて馬鹿なひとね」


 愛理がひと睨みすると、こちらを見て罵声を浴びせていた真狩がもの凄い冷や汗を流し始めた。そして他の女子を狙い始めたのである。


「あ、愛理、ありがと」

「どういたしまして~」


 自身のところにも強めのサーブが来てそれを軽々とレシーブしたら、愛理の放った球が真狩の顔に命中した。女子達みなが騒然として男子が真狩を担いで保健室に運び込む。それらを眺めながら神威が愛理のそばに駆け寄った。


「愛理、よくやった」

「私はまったく本気出してないのに、あの男もヤワよね」


 ははは、ほほほ、と黒く笑いあう神威と愛理に、ヒジリを含めたクラスメイト達は誰も話しかけられなかった。



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