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TWO of COINS ランカム教の神殿で


 ランカムがヒジリとアリエルの前から居なくなったとき、ランカム教の神殿ではこんなことになっていた。アリエルの先読みの力でヒジリはこれらのやり取りを見聞きできたのである。


『この神殿、神の計画の一端にて私の管理下の元で支配させてもらう』


 本人降臨したので神殿がひっくり返りそうになっていた。

 

『そ、そ、そ、それはもう、ランカム様に使われるならこの門戸栄一朗、誠心誠意お仕えさせていただきます!』

『ならばその力、我が元で賢く使わせてもらおう』

『ありがたき幸せです。何なりとお申し付けください』

『食材の流通に特化したものはいるか?それとこの神殿で喫茶店、夜に居酒屋を開きたいのだがそれは可能かどうか、門戸ならばどう思う』

『衛生管理の資格を持つ者が調理した方が良いのではないでしょうか。あと、市にご報告させていただかねばなりません。この神殿を使われるならば、ご随意にさせていただいているガブリエル教、ミカエル教、ラファエル教らに宣伝されるのも手ではありますが……』


 いっちゃなんだがランカムは何でもできる。一夜にしてガブリエルからミカエル、ラファエル教らになんちゃって喫茶店と居酒屋するぜとテレパシーで送ったそうな。

 ガブリエルが『俗物ですが地上にいるならば倣うのも天のお導き。地上に居る間は誠意を尽くすように』意外に厳しかった。

 ミカエルが『ランカムばっかりずるいー!私もそっちで働きたい』ランカムがもう一人いるのかと疑ってしまった。

 ラファエルが『身体に優しい食材を届けさせましょう。野菜、果物など欲しい食材を格安で提供します』ラファさんが神かと。


 次の日、朝一でランカム教の正門に野菜と果物、新鮮なお肉が保冷箱に入って陳列していた。緑色の服着たラファエル教の信者さんが門のところで倒れてたので介抱してあげたら『ラファエル様のためなので』と。今生の別れでも無いのに泣きそうになった。


 新装開店したこの神殿。新聞やチラシで宣伝はしていないので、お客はほぼ信者だった。緑色服着たのがラファエル教、赤色服がミカエル教、白色がガブリエル教の信者さん。それぞれ理念が同じだし、違うところなど無いに等しいのでケンカも一切なかったし、何かことが起ころうとすればランカムが出てくるので大丈夫。

 信者さんによるとこのランカム喫茶店は大成功らしい。自分達の他にもお客さんが大勢並んでくれていた。つまりは、信者さんらがネットに書き込みしてくれたのだ。閑古鳥が鳴いたらどうしようかと思っていたが杞憂だった。目が回るほど忙しい。


「ヒジリ、2番のテーブルにショートケーキのセットとチョコレートのケーキセットだ。持っていけるか?」

「うん、行けるよ」

「3番のテーブル客にはサンドウィッチか……アイスコーヒー2つとシナモンロールを先に持って行ってくれ」

「ラジャ!」

「サンドウィッチが焼ける間にオムライスできるからな。忙しいけど頑張ってくれ」

「うん!」


 最初こそ失敗続きだったけど、その都度ランカムがフォローしてくれたから仕事に慣れてきたのもある。この人はどうして、そんなに先のことも要領よくこなせるのだろう。


「ランカム、ヒジリ、お疲れさま~!これ、差し入れね」

「ありがとう、アリエル~~……っと、その子は」

「こ、こんにちは。高倉亜美です……」


 中学生くらいの女の子だ。


「お悩み相談の女の子なの♪ 上の階でお茶するからごめんね。夜は頑張るから~」

「アリエルもほどほどにな」

「私が疲れ知らずなのはランカムも知ってるでしょ?任せなさ~い」

 

 天使は無尽蔵の力を持つ。しかも彼女は大天使で力が強い。最初だけに心配気に彼女を見つめたらウィンクされた。彼女はバーガーショップの袋をテーブル台の上に置き、わたしとランカムの分をそれぞれ置いてくれた。昼食に食べられる分量だ。


「では、お先。また夜にね~」

「あぁ。アリエルも頑張ってくれ」


 むしろそっちのが最優先の使命だ。ヒジリもアリエルにエールを送った。




――――――――――


 

「思い悩んでたよね。何か悩みがあるなら教えて?」


 巻き髪カールのアリエルは、着ていた上着をハンガーにかけた。

 亜美をソファに座らせて自慢の紅茶をふるまうと、自身もソファに座り込む。


「実は……学校で自分の居場所が無くて」

「友達はいないの?」

「いる……けど、でもケンカしちゃって」

「へぇ……で、アリエル像にお願いしてたんだ」


 アリエル教もあるにはあるが、この教団はけっこうシビアだ。男性信者が多いので、恋は盲目となってしまったら大変。そんな気は毛頭ないし、ランカムとヒジリに協力するには甚大すぎる。それでも自身が降臨すると、ランカムのように祭り上げられる。

 降り時はまだ先かもしれないと思い、少しだけ容姿を変えていた。金色の巻き毛を黒色にするだけで、誰にも自分がアリエルだと気づかれなかった。しめしめと思いつつ、アリエルはこっそり少女に近づいたのだ。


「私これでも感が鋭い方なのね。よければ占ってあげよっか?」 

「良いんですか?でも、わたしお金持ってないです……」 

「こーゆーのは無料なのよね」


 なにせ神の計画の一旦を担っていますから――声には出さずに、コインを出した。


「100円硬貨?」

「イエス・ノー占いよ。これでやってみよっか。何を占って欲しい?」


 ここからが本領発揮。アリエルは眉間に集中して先読みの力を行使する。すると色んな時空からの情報を見聞きできるのだ。ヒジリ以外の大天使ならばみな得意である。100円硬貨は媒体を使っているように見せかけている。あっても無くても力が使えるのは同じであった。


「友達と仲直りできますか」

「花の絵が出たらイエス、100円の文字の方がノーにしようか……よっと……ありゃ、ノーか」

「う……」

「あ、泣かないで……じゃぁ、謝ったら仲直りできるかな……よっと……むむ、ノーなの?キィィ、このぉ……」


 アリエルは先読みの力をぐんと深く視る。すると、亜美の友達らしき中にリーダー格の女子が居た。


「えっと、もしかして茶髪で、目付きの悪い女の子が友達にいない?」

「アンリのことかな……あの子は最近、わたしたちの女子グループに入ってきたばっかりで」

「この子が指示して、亜美ちゃんをハブってるみたいなんだけど」


 苛立ちを隠さずに亜美に言うと、彼女の顔がさぁっと青白くなった。

 

「実は……坂口アンリって言って、この子とは元々仲が悪かったんです」

「ふむふむ……でもまだ仲はマシだったの?」

「アンリの好きな男子が、私を好きだって告白してきて……それを知らずにオーケーしたら、次の日から友達みんな喋ってくれなくて……」


 アリエルは坂口アンリに集中して先読みをした。片親しかいないためか、何でも持っている亜美に苛立ち、しかも好きな男子が亜美にぞっこんときたら堪忍袋の緒が切れたのだろう。そこに幽鬼が取り憑く隙ができた。亜美を孤立させるように女子グループ内であることないこと吹き込んで、自分は高みの見物だ。

 

「この件については私に任せてくれないかしら?」


 アリエル教に救いを求めてきた時点で、アリエルはぜったいにこの子を救おうと決めていた。夜の居酒屋はランカム教の信者に任せ、単身で坂口アンリに近づこう――そう思っていた矢先に。


「アリエル。一人で行くのは感心しないな」

「ランカム」

「わたしも天使の端くれだもん。アリエルについてくよ!」

「ヒジリ……さてはランカム、あなたね」


 先読みの力を使うのはアリエルだけではない。ランカムもまた、大天使の一員なのだ。ヒジリを連れて彼女らの話を聞いていたから、夜は三人で坂口アンリの元へ向かう――そう三人で話し合った。




―――――――――――




「ふふ……今日の亜美の顔を見た?めっちゃ焦ってたじゃん。明日は万引きしてこないと仲直りしないって言おっかな」


 アンリは自分の家で、ジュースを飲みながらグループラインをしていた。それを見たルミが反対の声を出してきた。

 

「ちょっとアンリ、万引きはやり過ぎだよ。無視だって……亜美は悪い子じゃないよ」


「わたし、亜美におはよう言えなくて悲しかった……なんでこんなことになったの」


 ルミが怒り顔で、ナナが泣き顔の顔文字を打ってきた。


「そうよ、あたし、もう亜美に無視すんのやめる。元々、アンリが後からやってきて私達を引っ掻き回したんじゃない。うちらのグループがイヤならアンリが出ていきなよ」


「なんですって! レイカも無視やってたでしょ」


「あたしはまだ亜美と繋がってるけどね。ルミとナナも、明日は普通に接してよね。それと、亜美に謝ろう――でないと、先生にイジメやってましたて言うから」


 ルミとナナはレイカにつられるように、了承していた。

 それを面白くないようにアンリはラインに暴言を吐く。

 

「どいつもこいつも亜美亜美って!何でよ、あんな子、学校に来なくて良いじゃないよ!あんな子、男子に媚びうって気持ち悪いったらないんだから!」


 身体の中で幽鬼がゆらゆらと笑いだす。それにつられてアンリも笑った。


「そうだ、明日は早く学校行って、上靴に画びょう入れて机にラクガキしてやろう……誰がやったかなんてわかるわけないんだから……」


 くつくつ、と腹の底から笑いだすと、肩をポンと叩かれた。


「っっ??」


「イジメは感心しないわね……月夜の晩にこんばんは、坂口アンリさん」


 いつの間にか窓が開いている。鍵がかかってなかったっけ?


「こんな小物に魅入られるとはたかが知れているな……本来の心根が卑しいのか、はたまた無いモノねだりなのか」


 ビュオォォッ!

 強い風が吹いて身体が震えるのは、部屋の温度がどんどん下がっていっているからか。歯をガチガチと鳴らして、目の前の美丈夫な人物を見上げると、目に写すのも苦痛だという感じに目線を逸らされた。

 窓からもう一人入ってきた女の子は、背中に美しい純白の羽根が生えている。その子は土足で部屋に入ると、部屋の中を見渡した。


「マジカルステッキの実験台になってもらうね、シャラリララ~ン……ふぎゃっっ!」


 三人の中で一番弱そうな少女に狙いを定めて、アンリは取り憑かれたかのような動きを見せた。抗えない力で少女の首に力を込める。血の気が引いてきた少女は、弱弱しい動きでステッキが額に触れた。そこから脳天が吹き飛びそうな威力を感じれば、傍にいた美丈夫の男が白銀の剣で自分の髪を切り付けていた。


「ヒジリを離さないと、首と銅を斬る」

「ランカム……地上でご法度は止めてね……よいしょっと」


 金色の巻き毛の女性はことも無さげに腕を体内に突っ込んできた。

 そこからアンリの意識が途絶えてしまう。



―――――


「ぐぎゃああぁあぁ」


 アリエルの力とは、抗えない力ともいう。

 それらを上手に使うからこそのアリエルは、ガブリエルに次いで力の強い大天使だった。


「煮たせるか焼き切るか……」

「ランカムは物騒過ぎるよね」

「あの世での苦しみの時期が少し短くなるのであれば、ここで慈悲を見せるのも天使の役目だと思わないか」

「わたし達がジャッジするのは良くないのよねー。というわけで、あなたに選ばせてあげるわ。天使わたしの慈悲とはこういうものよ……」


 アリエルの手に掴んでいた幽鬼を離すと、一目散に逃げ惑った。 

 坂口アンリの部屋内では結界を設けているため、幽鬼の逃げられる場所は限られているが――やはり一番弱いヒジリに目的が行くのは皆が分かっていた。


「ヒジリを標的にするとは、やはり焼き切ってしまおうか」

 

 ランカムが持つ白銀の剣に炎が纏う。この炎は幽鬼を焼き切る殺傷能力に優れていた。

 幽鬼の黒くて長い尻尾が焼き切れた。凄まじい悲鳴を上げてヒジリに襲い掛かる。


「ん~、やっぱりダメかぁ~。クラン、お願いね」

「グオオオオオオオオオオ――――ッ!」


 アリエルの獣神クランがミニサイズからライオン並みにでかくなった。隠していたするどい爪と牙をむき出しにすると、幽鬼をひと撫でで鋭く掻き抉る。そして黒い幽鬼を無惨にも食べつくすと、ペッと何かを吐き出した。


「クラン、ごくろうさま」

「グルル♪」

「可愛いなぁ~~♪ アリエルゥ、わたしもクラン欲しいよ」

「ヒジリには私がいるではないか。私を愛でて欲しい」

「ランカムは黙ってて!」 


 幽鬼から飛び出てきたのは浄化された魂だった。

 この魂を天に送ると天から感謝された。


【やはり君たちに任せてよかった】


「あ、神さまの声だ!神さま、わたしにもクランみたいな可愛い子くださ~い」


【これからもヒジリを任せましたよ。ランカム、アリエル】


「はい……ありがたき幸せ」

「了解いたしました」

「ぐるる~~ん♪」

「お~~~い、神さまぜったい聞こえてるでしょ! ひどくね……?」


 ヒジリはランカムに抱きしめられながら、アリエルと共にその場を後にした。部屋の中には坂口アンリが倒れている。その場を先読みで視たランカムとアリエルは、二人そろって口角を上げた。





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