第6話 役割とは
タイシと別れた後、伝説の靴は驚くほどに大人しくなった。こうしてれば普通の靴なんだよな、と思いながら帰宅して、あまりに濃かった1日を振り返る。
魔王を倒して元の世界に帰ってきた。消えて無くなるはずの靴を履きっぱなしだったのは想定外だけど、おかげでミイナとタイシに再会できた。
悪いことは何も起きていない。それでも胸がすっきりしないのは、ミイナに言われたことが引っかかるから。
『あったでしょ? 向こうの世界に飛ばされる時、こう、カアアアアアン!!! ってクるやつ』
『あたし、向こうに行くまで仕事辞めてプロのダンサーになりたいと思ってたの。もういいって思うところまで踊りたかった。だからかな、向こうに飛ばされた瞬間もうカアアアアアン!!! てキたの! ああ、あたしここで満足するまで踊る運命なんだって』
ミイナは「運命」について……おそらく向こうの世界で「役割」と呼ばれるものについて、興奮気味に話してくれた。
きっとそれだけインパクトがあったのだ。この世界に来た意味はこれだと、確信してしまうくらいの。
私にはそういうの、全く無かった。
とてもなめらかに、シームレスに、ぬるっと世界を移動した。そして成り行きで魔法使いの適性を見出されて、大魔女と呼ばれた人に弟子入りし、酒場で勇者と出会って今に至る。
向こうの世界が「役割」ありきで動いていることは知っていた。だから勇者に勧誘されたとき、私の役割は見つかったと思った。魔王を倒す偉業こそが、私の為すべきことなんだなあ、と。
ねえ、どんな役割を持ってこの世界で生きてるの? なんて。他のみんなも同じに違いない、と信じて疑わなかったから、あえて聞くこともなかった。
私のそんな思い込みが、そもそも間違っていたのかもしれない。タイシにもLINEして聞いてみよう、そう思いながら帰還初日は眠りの中へと幕を下ろした。
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「役割? あったよ」
寝落ちして聞けなかった問いを合流早々投げかければ、タイシはさらりと返答する。
「俺の役割は村を守ること。6歳の俺を生かしてくれた優しい村を救うこと」
迷いなく話すタイシに、「役割」について熱く語るミイナの姿が重なった。やっぱり私以外の人にはあったんだ。心に響くような、為さねばならない「役割」が。
「それもやっぱりカーン! って来たの?」
「は?」
「いやだから、心にカーン! って……」
「何言ってんの?」
渋い顔をしたタイシを見て、おかしいことを言ったのだと一拍遅れて気がついた。どうやらミイナとタイシは感じ方が違ったらしい。
思えばカーン! って何だ。勢いはあるけど何が起こったのか全然わからないじゃないか。なんだか、すごく恥ずかしいことを言った気がする。じんわりと熱を帯びた頬に手を当てながら、あのね、と言い訳兼説明を続けた。
「ミイナが言ってたの。向こうに飛ばされたとき、あたしの使命はこれだ! って。カーン! て来たって」
「そんなんあいつだけだろ」
「そっか……」
否定が速い。そういうものだと思っていた自分も一緒に否定されたようで、少し落ち込む。
私の気持ちを知ってか知らずか、タイシは淡々と話し続ける。
「俺はもっとじわじわ来たよ。ナージューリャに拾われて、あの村に居座って大体1週間くらいかな……俺はここを守るために来たんだなって」
その横顔が少し寂しそうで、タイシの過去へと思いを馳せた。
タイシは、元の世界に恋人を残している。
知らない世界に飛ばされたばかりのタイシを拾ってくれた人。共に育って、共に笑った人。
私たちがタイシの住む村に着いた時、彼女は……ナーリュージャは泣きながら歓迎してくれた。「いつかこんな日が来ると思っていた」と。向こうの世界で生まれ育った彼女にとって、私たちは単なる勇者一行ではなくて、愛する人を迎えに来た異世界からの使者でもあったのだ。
「……魔王を倒したら元の世界に帰れるって、タイシも知ってたんだよね」
全て終わってから聞くのは野暮かもしれない。それでも今だからこそ、聞いてみたかった。
「ナーリュージャと向こうの世界で幸せになるっていう選択肢は無かったの?」
「やりたかったけど、できなかった」
タイシは寂しそうに呟く。
「村の近くに魔物の巣があっただろ。あれを何とかしなきゃ村は安全にならない。でもそこの巣だけ叩いたとしてもさ、究極的には魔物が存在する限り村はずっと危険なんだよ。だからあの村にずっと平和でいてもらうには、魔王に死んでもらわなきゃならない」
俺の役割は結局そこに繋がったんだよ、とタイシは言葉を結ぶ。
全てを放って自由に生きられたなら、タイシはナーリュージャと向こうの世界で共に生きたはず。でもそれをさせない、役割というものがあった。
向こうの世界での「役割」は、人の生き方すら縛ってしまう。ミイナの役割はミイナの生き方に沿ったものだったけど、タイシは違った。魔王を倒したくなくても、役割を果たす最短ルートなら、その道を歩まねばならない。
恐ろしいと思った。同時に不思議だった。
なぜ私には、そういう「役割」への自覚が全く生まれなかったんだろう?
考え込む間にも足は動く。私が答えを出せないうちに目的地に着いたようで、タイシは声を弾ませる。
「あった、ここ。ちょっと時間かかるけど、終わったら何かおごるから」
そう言って入店するタイシを二度見した。こんな場所に何の用があるんだろう。疑問は店の中で聞くとして、その背中を追いかける。
そうして私は、外観からして可愛らしいアクセサリー用品店へと、ゆっくり足を踏み入れた。
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