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龍の子   作者: 選択肢が多すぎて辛い
序章 
8/17

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 アレンとノーラ二人の熱い友情?愛情?に、少し場違い感を感じ始めたので、私はギルドマスターを呼びに行くことに決めた。今日はもう2回も怒られているので、ハッキリ言ってあまり行きたくないのだが、仕方ない。


「2人とも、ちょっとココで待ってて頂戴」


 そう言って会議室を離れ、ギルドマスターの部屋へと向かう。


「すいません、マスター。ソーネチカです」

「おう、入れ」


 荒々しい声が扉の奥から聞こえてくる。


「失礼します。」


 扉の奥には岩をめちゃくちゃに削り取った様な無骨な男が座っていた。腕も胸も手も全てが太い。彼がギルドマスターのライザーだ。鋭い眼光が野生の獣みたいで恐ろしい。


「で、今度は何をやらかした?」


 まさかの、やらかした前提である。確かに今日は色々とやらかしたが、普段は真面目に働いているのだから、この言い草は酷いと思う。


「アレンが戻って来まして、少し報告を」

「ほう、戻って来たのか良かったじゃないか」


 そう言うと、スッと興味を失いライザーは机の上にある書類へと視線を移した。


「あの、話に続きがあるんですが」

「なんだ?大怪我でもしたのか?自己責任だろ。俺は知らんぞ?」

「いえ、無傷です。それどころかパイア10頭の討伐にも成功しています」

「………………はぁ?」


 ライザーがアホみたいな声を出す。

 彼は第一線を退いたものの元々A級の冒険者だ。書類でしか魔物について知らない私とは違って本物の魔物と戦ってその脅威を理解している。きっと、私以上に事実が信じられないのだろう。

 そんな思いでライザー見ていたソーニャだが、ライザーはすぐに落ち着きを取り戻した。流石に復帰が早いな……と感心していると、彼は全てを包み込む様な慈悲深い瞳となった。


「悪いな、お前がそこまでストレスを感じていたなんて気付かなかったんだ。それなのに、さっき怒鳴ってしまった。気付いてないみたいだが、頭が少しおかしくなってる。今日は家で休むと良い。馬車を呼ぼうか?いつも働いてくれている、お前達には感謝しているんだ」


心外だ


「いやいやいや、結構ですよ。私は大丈夫ですから。そんな生暖かくて、気持ち悪い声を出さないでください。取り敢えず、こっちに来てください。会議室で待機させてるんで」


 兎に角、ライザーとアレンについて話しながら、追い立てる様に会議室へと向かう。中からはノーラとアレンの声が聞こえて来た。


「ならアレンは本当に山で暮らしてたの?山の近くの村じゃなくて?」

「うん、そうだよ。前も言ったじゃんか」

「聞いたけど、本当なんて思わなかったもの。どんな生活してたの?」

「もう会えないけれど、父さんに色々と教えてもらってたんだよ」


 扉越しに聞こえる話は普段なら荒唐無稽に思える内容だが、今なら少し信じる事が出来る。

ライザーは扉をノックしたものの、返事を待たずに部屋に入る。私はそれに続いた。

 

「よぉ、俺はここのギルドマスターである。ライザー・ウッドだ。ライザーと呼んでくれ」

「アレンです。はじめまして」

「宜しくな、アレン」

「お前は?」

「あっ……その…………私は」

「チッ、失礼な女だな」

「ご、ごめんなさ……」

「ふん」


 アレンと挨拶した後、ライザーは軽蔑した様な目でノーラを見ながら名前を尋ねる。ライザーのただでさえ鋭い目にマイナスの感情が加算されると初対面のノーラには凄く威圧感があるだろう。結果、ビクッとしてうまく答えられず、そのまま問い詰める。さらに威圧的な態度に萎縮してしまい口籠る。

 そして、そのまま顔を真っ赤にして涙目で俯いた。

 流石にライザーを引っ叩きたくなるが、やりたい事は分かっているのでグッと堪える。


「それで、本題に入るがパイア10匹を一人で討伐したそうだな。牙も此処にあるし依頼達成だ。後で報酬を渡そう」

「ありがとうございます」


 アレンのテンションも先程より明らかに低くなっている。それを無視してライザーは会話を続けた。


「ハッキリ言って、お前の実力はA級冒険者を超えるだろう。パイアと相性が良かったとしても、最低B級上位の力がある筈だ」

「そう」


 A級冒険者とは英雄と言われる部類だ。ノーラや私からすれば雲の上の存在になる。貴族達と対等に扱われ民衆に尊敬される。そんな冒険者達である。昨日と今日のアレンを見てる限り、しっくりこないが……


「それでだ、お前が所属するに相応しいパーティーを紹介してやろう。勿論A級パーティーだ。もし、実力が多少足りなくても、お前はまだ若い。すぐに追いつけるだろう。それに、今の生活とも離れられる。金だってすぐに稼げるからな。横の女みたいにボロボロの服を着る必要も無いし、臭い飯を食う必要もない。付き合う相手も全員が才能のある人々だ。お前に相応しい生活が…………」

「うるさい」


 アレンの前に立っていたソーニャは、冷や汗が止まらなかった。1mmたりとも動ける気がしない。目の前に化物が現れたと錯覚するような異常な圧力に襲われた為だ。

 隣を見るとライザーからも汗が吹き出していた。

 アレンの視線はライザーに向いてるのでわたしは巻き添えだろう。もしくはストップをかけなかった罰か……暫くしてライザーがゆっくり口を開く。少し声が震えている気がする。


「悪かった、お前を試したんだ。ノーラにも悪い事をした許してくれ」


 ライザーが、そう口にして頭を下げるとソーニャは漸く馬鹿みたいな圧力から解放された。思わず腰が抜けて、その場にへたり込む。


「ソーニャ!?どうしたの?」

「どうしたのって貴女、何も感じなかったの?」


ノーラは一瞬首を傾げる


「勿論、少し悔しかったけれどライザーさんが言ったのは本当のことだから……」


 どうやら、何も感じなかったらしい。アレンが調整していたのだろうか?多くの冒険者を見てきたソーニャだが、こんな経験は初めてだった。

 そして、二度と経験したく無い感覚だった。

「それで、試したってどういう事?」


 ノーラが少し落ち込んでるものの、普通に会話してる事を確認して、アレンがライザーに続きを促す。


「あっ、あぁ、人というのは本気でキレた時に本性が現れるからな……お前の力はハッキリ言って危険だ。だから、お前について正確に把握しておく必要があった。それで、お前を挑発したんだ。悪かった」


 アレンは少し考えた後、いつもの、フワフワした雰囲気に戻った。


「ふぅー、次したら攻撃するよ。凄く嫌な気分」

「あぁ、約束するよ。それで、パーティーはどうする。一応、望むなら紹介するが?というのも、お前は昨日冒険者ギルドに入ったんだろう?だとするとD級からのスタートだ。だが、パーティーに入ればパーティーと同じランクまで飛び級できる」

「ランクが高いと何かあるの?」

「アレン、敬語」


ノーラが私の横から小さく呟く。


「いや、大丈夫だ。俺はそこまで気にしない。それでランクが上がると、依頼が受けやすくなる。依頼者が何級以上の冒険者が良いって指定できるシステムがあるんだ。特に護衛任務とかでな。だから、ランクが高い方が得をする」

「今日の依頼は僕がやって良かったの?」


アレンが首を傾げる。


「あぁ、討伐任務には基本的に制限がない。要は倒せれば良いんだからな。もし、無理だと思えば俺たちギルドが任務を受けさせない」


 破格の条件だと思うがアレンは少し悩んでいるようだった。多分ギルドマスターも困っているだろう。価値観が分からない。

 ソレが不気味だ。ギルドマスターはここの責任者として彼を手懐ける必要があるので、彼にとっての飴がわからないと言うのは、手探りでダンジョンの中を進む様な感覚だろう。いつ死ぬか分からない。


「まぁ、それなら時間を掛けて考えれば良い。別に今すぐってわけじゃない。じゃあ、俺はソーニャと報酬を取ってくる。お前達は少し此処で待っていてくれ」


 部屋を出るライザーに続き、わたしも外に出る。暫く無言で廊下を歩いた後にライザーは突然くるっと振り向いた。


「なんだ、あの化け物は!何処からきた?下手したら領主様より強いぞ!!」


まさかの発言に心底驚いた。

領主様は、この街の最強だ。魔力は遺伝する。遺伝する以上、人はより強い血統を生み出そうとする。そうして出来たのが貴族。そしてここの領主様は伯爵だ。伯爵といえば貴族の中でもトップクラスそんな方々に並ぶ魔力量とは一体どれ程のものだろう。


「領主様よりって、本気ですか?」

「あぁ、最低でも俺が知ってるどんな貴族だろうとあれ程の魔力を放出するのは不可能だ。下手したらS級クラスの実力があるだろうな……」


 S級という言葉にソーニャは息を飲む。彼等は伝説だ。この街には相応しいものが一人もいない。それどころか、この国にも1パーティーしか存在しない正真正銘の化物だ。巷では"王には血族がいるが、Sランクは当人だけ"と言って王様よりも崇める人々がいるくらいだ。


「取り敢えず、俺はスグに領主様と連絡を取る。アレを野放しにするのはマズい。お前は暴走しないように出来るだけ見張っていろ。今後の対応は出来る限り、お前が担当するんだ!分かったな」


 無茶振りだ。もし怒らせてしまったらどうやって落ち着かせれば良いのか不明だし、そもそもアレンは常識が欠けてる部分があるので何をやらかすかも分からない。


「そんな、私じゃあ絶対抑えられませんよ!?」


 そういうと、ライザーは一瞬停止するが。たぶん、私以外でも抑えられない事に気付いたのだろう。


「なんか、頑張れ!」


と、適当な事を言って部屋に戻っていった。


 今後の事を考えて胃を痛くしながら、会議室に戻るとノーラがアレンを叱っていた。内容は敬語の練習をしなさいという物だ。アレンは項垂れて『はい、ごめんなさい』と繰り返している。D級冒険者としてすら通用しないノーラに説教されてる、この子がS級レベルの実力を持つ可能性がある。というのだから世界は不思議だ。そして、同時に素晴らしい名案が思い浮かんだ。飴は案外近くにあったのかも知れない。


「アレン、報酬を持ってきたわよ」


 今の光景に少し自分を取り戻しせたので、いつも通りの声が出せた。


「やった!!」


アレンはすぐに立ち上がって待ちきれない様子で椅子に座る。ノーラは人の報酬を覗き見て良いものなのか分からず困った顔で立っていたがアレンが座らないの?と椅子を引いた事で嬉しそうに腰掛けた。


「じゃあ、まずはコレが約束してた金貨2枚。それと、さっきの謝罪としてギルドマスターがS評価をつけたので銀貨40枚の追加報酬よ」

「おおっ!!」

 

 銀色の輝きを見てアレンは嬉しそうに笑う。思わず可愛いと感じてしまうが、彼が化け物じみた力を持つ事を思うと複雑な気分になる。ノーラは初めて見る大量の銀貨と2枚の金貨に呆然としていた。


「それで、アレンはパイアの牙をどうするつもりなの?」

「??」


 説明が足りなかったみたいだ。パイアなんて狩るのは熟練の冒険者ばかりなので、つい省略してしまった。


「魔物の肉とか特別な素材は基本的に高い値段がつくの。肉は美味しいものが多いし、パイアの牙は綺麗だから装飾品として価値が高いのよ?だからギルドとしては買取を行いたいんだけど、良いかしら?」

「僕は良いよ。牙は食べられないし。ノーラが欲しいならあげるよ?」


そういうと、ノーラはフルフルと首を横に振る。


「私もいらない。使い方が分からないし……」

「なら、買い取るわね。大きさ的に上級と最上級のものだから1kgにつき銀貨8枚と10枚ね」

「「高っ!?」」


 物の価値を知らない二人の子供はまったく同時に同じリアクションを取る。そして、それが可笑しくて顔を見合わせて笑っていた。


「はい、じゃあ大体50キロあるので金貨4枚と銀貨20枚です」

「ソーニャ、本当に良いの?騙してない?」

「騙してないわ。A級の冒険者なら一回の冒険でこの10倍くらい稼ぐわよ」


 それを聞いてアレンとノーラは目を丸くする。実際は、そこから武具の整備代とか諸費用が引かれるので、その3割か4割しか残らないのだが……


「私、昨日のお給料は銅貨60枚だったのに……」


 ノーラが悔しそうに呟く。まったくだ。ギルドで働いているとはいえ月の給料は金貨1枚前後だ簡単に金貨6.5枚も稼がれると堪ったものではない。

 実際は、普通の人ができない事を特別な技術を持った人間が命がけで行う仕事なので妥当なのは理解できるのだが……

「ねぇ、ソーニャ」

「どうかしたの?」

「さっき、肉も売れるって言ってたけどパイアの肉も売れるの?」

「売れるけど、この時期は難しいわ。今は夏でとっても暑いでしょう?だから持って帰るまでに肉が腐っちゃうのよ。氷室持って歩くわけにはいかないでしょう?」

「じゃあ、腐らなかったら売れるの?」

「そうね、高級品よ。100グラムで銀貨1枚で買ってるわ」

「じゃあ、僕も売りたい」


 そう言ってアレンは鞄から肉を取り出す。

 だから腐るからと言おうとしてアレンの持つ肉が冷気を放っているのがわかる。触ってみると凄く冷たい。アレンに貸した鞄には魔法が込められていない。

 ただの安い布で作った鞄に保冷機能などある訳がない。しかし、此処には冷えた肉がある。そこから導き出される唯一の答えは……魔法だった。一定以上の魔力量を超えた人間は"魔法"と言うものが使えるようになる。原因は不明だ。

 一番有力な仮説は、魔力は人の体の中で何らかの反応を起こし固有の性質を獲得する。そして、一定以上の濃度になると魔法として、その性質を現実に反映させる。というものだ。使える人間の目安はだいたい男爵以上の貴族、A級冒険者以上とされる。


「アレン、貴方魔法も使えるの?」

「使えるよ?」

「嘘でしょ……」


 また、報告する事が増えた。先に言っとけよと心の底からおもう。再び私は会議室を出てギルドマスター室に向けて走る事になった。


「ギルマス!!」


毎度ノックするのも面倒になり部屋に飛び込む。


「ノックをしろ、それと略すな」

「アレンが魔法を使いました」


ソーニャが伝えると、ライザーは焦る事なく


「そりゃ、使えるだろう」


と言い放った。


「さっき言ったが、あいつは多分S級程度の実力がある。寧ろ、魔法を使えない方がおかしい」

「えっ?そっか……そうですよね」


 言われて気づいた。

 中途半端にいつもの感覚を取り戻したせいで普段通りの反応をしてしまった。


「それで、どんな魔法だったんだ?」

「分かりません。でも、肉を冷やして腐らせる事なく持ち帰りました。だから、物体を凍らせる魔法だと思います」


ギルマスの魔法は見せて貰った事がある。物の色を変える魔法だった。厳密には反射する色を変える魔法らしい。打ち上げではハゲ頭を7色に光らせる自虐ネタが鉄板になりつつある。冷凍保存と宴会芸、有用性が天と地の差だ。


「かなり、強力だな」

「かも知れません」

「まぁ良い、また何かあれば教えてくれ。それと肉は100g銀貨2枚で買っとけ。今なら売れるから」

「はい、失礼します」


もう何も起こるな。と心から願い部屋を出た。


「ごめんね、少し驚いちゃって。それで、肉の買取だけど了解よ。時期を考慮して割高で買い取るわ」


結局、アレンは自分で食べる為の2kg程度の肉を残して25kg程を売却した。金貨5枚だ。今日だけで金貨11.6枚。コレは中層区域に住む一般家庭の賞与を抜いた年収とほぼ同額だった。横にいるノーラが目を点にしていた。


「それで、アレン。今、お金があるでしょう?だから家のうちに家を借りておくと良いわよ」

「なんで?」


 何で?と言う方が何で?だ。普通は家に住みたい物ではなかろうか。それに、街の治安を考えてもアレンみたいな子がスラムに住んでいると困る。あそこは喧嘩が日常茶飯事だ。アレンが巻き込まれると大事故に繋がる。ので、適当な理由をつける事にした。


「お金が稼げる以上、それに相応しい場所に住む必要があるのよ。後、服も今の服じゃなくてしっかりした物を、用意しないとダメだわ」

「服なんて全部一緒じゃ……

「ダメよ、しっかりした服を着ないと依頼を受けれないんだから。私が買い物に付き合ってあげるから一緒に行くわよ」


 アレンはノーラに助けを求める。しかし、ノーラはこっち側だ。


「アレン、ちゃんとしないとダメよ」

「えぇ〜。社会ってやっぱり意味わかんないし面倒くさい。僕、ノーラの家で十分なのに……」


 私が合図をして部屋を出ると、アレンはぶつぶつ文句を言いながらノーラに引きずられて付いてきた。

"やっぱり、アレンはノーラに任せましょう!"

 私は、頭の中で名案を実現する為の作戦を練り始めた。


○○○


 ノーラに引き摺られてたどり着いたのは商業ギルドと言われる場所だった。

 此処で家が買えるらしい。正直、まったく乗り気にならない。街の人たちは冷たいしノーラといる方が楽しいと思う。

 街に着いた日の事を思い出すと確信は深くなる。

 ノーラと一緒じゃなくても楽しかった時間はニコとガンの所で働いていた時くらいだ。

 なんで、お金を払ってわざわざ嫌な思いをしなくてはいけないのか。

 はぁぁ〜〜〜って気分だ。

列に並んで暫くすると、名前を呼ばれた。

 カウンターにはスーツの男が立っていた。

 一緒に来てくれたソーニャが代わりに男と話してくれる。2人がテキパキと会話し書類を埋めていくのは凄く格好良く見える。


「凄い」


横にいるノーラも同じ事を思ったようでボソッと呟いた。因みに、ノーラはギルドの前で一人だけ逃げようとしたので、ソーニャと一緒に引き留めた。


「えぇ、ですから家を一つお願いします」

「分かりました。では、お嬢さん。こちらをご覧下さい」

「…………」

「ノーラ、呼ばれてるよ?」

「私じゃなくてアレンの事だと思うわ」


僕は男なので、どう考えてもノーラの事だと思う。


「失礼、坊ちゃん。ご覧下さい」


 僕の事だった。

"あとで絶対に髪を切ろう"

 出されたのは町の地図と部屋の間取りだった。


「それで、どんな所に住みたいですか?」

「んー安全な所?」

「坊ちゃん此処で扱う物件は全て安全な土地に建ってますよ」


 男はそう言ってくるが、この街の事に対して詳しく無いし、正直何処でも良い。

 流石にソレをそのままいう訳にもいかず、少し考える。チラッと外をみると美味しそうなパンを持って歩く男が見えた。アレが食べたい。


「じゃあ、美味しいものがいっぱいある所」

「でしたら、飲食街の近くですね」


そう言って男は地図の一部を指差す。どうやら、この近くみたいだ。それに冒険者ギルドも近い。此処に来るまでに美味しそうな御飯が一杯売ってたし丁度良いかも知れない。


「この辺りだと、2つお家がありますね」

「こちらは私のオススメです。お部屋が2つとダイニングにキッチンがあります。あと、隣の倉庫も使えます」

「こちらも部屋の構成は同じですが、少し狭くなっています。その代わり倉庫が大きいです。冒険者様なら倉庫が大きい方がいいかも知れないので、此方の方が良いかも知れませんね」

 

 何が違うのか全くわからない。ただ、家がすごく広い事だけは分かった。部屋も沢山ある。何に使うのかは分からないが……家は寝る為の場所では無いのだろうか。よく分からずに間取り図と睨めっこしているとソーニャが軽く説明してくれた。


「キッチンは料理をするところ。ダイニングはご飯を食べたり寛いだりするところ。シャワーは説明いらないわよね。倉庫は荷物置きよ。部屋は誰かに貸すと良いわ。人を呼んだり()()()()()()()()。まぁ、アレンの家だし好きにしたら良いのよ」

「??、好きにして良いの?」

「ええ、勿論ですよ。貴方が購入されるのですから」


黒服の人も肯定してくれる。


「じゃあ、こっちが良い」


とりあえず部屋の大きい方を選んでおく。

実際、家は結局どっちでも良い、


「ねぇ、ノーラもし良かったら、此処に一緒に住もうよ!きっと楽しいよ!」


 提案をノーラが受け入れてくれたら、きっと街での暮らしも楽しくなる気がする。


「えっ?私?」

「うん、だって誰を呼んでも良いって言ってるし。ノーラと一緒に住めたら楽しいに決まってるから」


 ノーラはとても嬉しそうな顔になる。

「私が一緒に住んで良いの?」

「うん!もちろん!!」


 迷いなく頷ける。一人で住むより好きな人と一緒にいた方が絶対に楽しい。

 

「最高にうれしい!ありがと、アレン」


 ノーラが凄く嬉しそうな笑顔で笑いかけてくる。でもすぐに恥ずかしかなったのか、目を逸らされてしまった。でも口角は上がりっぱなしだし嬉しそうだ。

 喜んでもらえた事も確信できたし、前を見てスーツの人と話を続ける。横にいるソーニャがなんかニヤニヤとこっちを見ていた。


「では、取り敢えず最低期間の3ヶ月契約で宜しいですか?」

「うん、お願いします」


 そして、取り敢えずは3ヶ月分の家賃と保証金として金貨を2枚払う。


「確かに頂戴しました。では、此方が契約書です。お家の方にご案内しますね」


頷いて、早速家に向かおうとしたが、ソーニャに止められた。


「いいえ、今日はこの後にも行く場所があるので結構よ。鍵を渡して頂けたらそれで良いわ」


ソーニャがそういうと、男は鍵が4つ付いた鍵束をくれた。家の鍵と予備、倉庫の鍵と予備らしい。


「コレがお家の鍵です。部屋の片付けは定期的に行っているのでそのまま住めますよ。家具の方も最低限は備え付けてますのでご安心ください」

「はい、ありがとうございます!」


 ギルドを出て次は服屋に向かう。探すのは動きやすくて丈夫な服らしい。正直、要らないと思う。

 服は魔力を纏わせれば肌を守る機能が強化されて凄く丈夫になるから。別にわざわざ高いものを買う必要なんてない筈だ。

 

「という訳で、服なんて要らないと思うんだけど」

「それは違うわ。折角可愛いんだから色んな服を着た方が得よ!」

「カッコいい服を着てた方が良いわよ」


 速攻否定された。しかも、ソーニャに至ってはカワイイとか言い出した。せめて格好良いにして欲しい。


「それに、服は自分のステータスなのよ。コレを買えるだけの力があると言う証明なの。だから、安い服を着ていたら誰も信用してくれないわ」

「相手の強さなんて、見たらわかると思うけど」


 と言うより、周りの人の強さがわからないなんて不安すぎると思う。何処に化け物がいるか分からない。もし襲われたら、どうするつもりなのか。


「普通は分からないわよ。魔力量を感じれるようになる為には、自分にも魔力がそれなりに必要だからね。私もノーラも、この街の人の殆どは分からないわ。だから、象徴として服とか装飾品を身につけるのよ」


 意味は理解できるが、色々と納得は出来なかった。


「そうねぇ、服を着ていたら周りの人に自分の能力を伝えられるの。だから、誰かに絡まれたりはしなくなるわ。歩くたびに人に喧嘩売られたり、挑発されたりするのは嫌でしょう?」

「それは嫌だね」

「なら、服は買いましょう」


 向かったのは服屋が沢山並んでいる通りだった。色とりどりの服が飾られていて森の中みたいだった。

 僕は余り欲しいと思わないが、ノーラは少し恥ずかしそうにしながらも、キラキラした目で周りを見ていた。ソーニャも楽しそうにしている。

 

「此処が冒険者の人達がよく来る店よ。覚えておくと良いわ」


 ソーニャに連れてこられた店は他の店と比べると大人しい色合いで動きやすそうな服が沢山置いてあった。


「好きなデザインのものを選ぶと良いわ。全部買えるだろうし」


そう言われて、店内を見渡す。全部そこまで変わらない気がする。ポケットの位置が違うとかボタンの柄が違うとか言われてもいまいち分からない。

 

「アレンならコレが似合うと思うわぁ」


ソーニャが持ってきたのはスカートだった。

 何かを投げつけたい衝動に駆られる。


「そうですねぇ、お嬢様はカワイイのでお似合いですよぉ」


何処からか現れた叔母さん店員が混ざってくる。


「何度も言うけど、僕は男だよ?何でスカートなの」

「何を仰いますかお客様!男性がスカートを履かないのは似合わないからです。お客様なら是非スカートを買うと良いです。良いですか、カワイイとは正義なのです!!」


しかも、突然エキサイトしだした。

 場が一気にシーンとする。周りの客や店の前を通った客までシーンとしている。が、店員は止まらない。


「お客様ならスカートはきっと輝きます。さぁ、さぁさぁ!!是非ご試着を!!!きっと服も喜びますから!!」


 そう言って店員はグイグイと試着室に僕を押し入れようとする。どう対応すれば良いのか分からないので、抵抗しようがない。


「さぁさっ、早く着替え……」


パーーーン!!!と気持ちいい音が鳴り響いた。


「母さん、お客さんが引いてるだろ!!落ち着け!」


 奥から茶髪茶目の子綺麗な男が、人を叩く為だけに生まれたような紙を折りたたんだの道具を持って現れた。


「あら、ルイス帰ってたのね」

「帰ってたのね、じゃないよ。何やってんのさ」

「いい素材を見つけたら服を着せたくなるのは服屋の(さが)さね。だから、つい」

「まったく……悪かったね。普段は良い人なんだけど。偶にあんな感じになるんだよ」


 まともそうな人が来てくれた事で凄く安心した。もう少しで倒錯的な趣味を持つ人になるところだった。


「ところで、カワイイ顔してるね。僕のベイビーを着てみないかい?」


 ルイスはカーキ色の軍服を押し出してそんなこと言い出した。

 "お前もかっ"

 店内の人間、殆どの心が一致した。

 せめてもの救いはルイスのセンスが非常に良かった事だ。ポケットや簡単な武器を入れる場所のある、機能的で僕が着ても違和感のない服を選んでくれた。

 後ろで、ルイスの母親が「絶対私のスカートの方が似合うのに」と呟いていたが、それは無視しておく。

 自分の服を買ったら次に必要なのはノーラの服だ。服を着ていたら襲われにくくなる。それが本当なら僕よりノーラの方が服は必要だし、是非着て欲しい。きっと可愛くなるし、ノーラが虐められたりしたら絶対に嫌だ。例え押しつけになっても服を選んでもらう必要がある。


○○○


「アレン、本当にありがとう」

「どういたしまして。とっても似合ってるよ」

「そうね、とても可愛いわ」


 僕とソーニャが褒めるとノーラは少し顔を赤くして跳ねるように歩く。

白のショートワンピースと赤い羽織りがよく似合っていて、少し痩せてはいるが、可愛らしい顔立ちと無邪気な笑顔で少しだけ人目を引いていた。あんなに喜ばれると買った身としても、とても嬉しい。


 その後、簡単な普段着を何枚か買って新しい家に向かった。新しい家は、バランス良くカラフルな家具が配置されたウキウキする内装だった。大きなソファーと壁にかけられた鮮やかなタペストリーが凄く印象的に映る。


「うわぁぁ!凄い!!お城みたい!!」


ノーラが目をキラキラさせて家の中を見渡す。

家はかなり広い。凄くゆとりのある間取りだと思う。

家というのは、もっと窮屈なイメージがあったけど全然そんな事はなかった。


「ノーラ!部屋を見に行こうよ!」

「うん!!」


 部屋は両方とも同じくらいの広さでベッドと机それとタンスが置いてあった。


「アレン、ノーラ、私はもう行くわね。必要なものがあれば徐々に買い足せばいいから、今日はゆっくりしなさい」

「「はーい!!今日はありがとう」」

「じゃあ、今日から改めてよろしくね」


 ノーラに手を差し出すと、ノーラはすぐに握り返してくれた。


「私こそ、よろしくお願いします。それと本当にありがとう。まるで夢みたいな1日だったわ!!」

「きっと、これからも楽しくなるよ!そんな気がする」


 














 













 



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