Apology
「アレン魔力の操作ができるの?」
思わず冷たい声が漏れる。
今日起きた事のおおよその流れを聞いた私の残ったのは苛立ちだった。
私は毎日必死で生きてきた。1日生きるのでギリギリの給金を稼ぐため朝早くから嫌な人達に従った。
街を歩くと、親を連れて何不自由なく暮らしている同じ年頃や自分より幼い少女達に汚いだの何だの言われた。その度に女としてのプライドや可愛くありたいという気持ちはズタボロになった。
それでも、いつかは此処を出て幸せになる。
そう思って辛くても笑顔で生きてきた。
人に必要とされる様に、良い子でいればいつか幸せになれると。そんな言葉を信じて。
それが何だ?此処に自分と一緒にいる少年は、魔力の操作ができて物体に纏わせられる?そんな事が出来れば、いくらでも働く先はある。何だって出来る。
"私が、此処を出る為に、どんなに頑張ってるか。毎日どんな気持ちで生きてるか。そんな事も知らずにコイツは、いつでも出られるのに此処にいるのだ。此処で無様に足掻いている私を見て心の中で笑っているんだ。"
そう思うと、我慢できる筈がなかった。気づいてた時には怒鳴っていた。
「なら、何で此処にいるのよ!もっと他の場所でも働けるのに。私の事を馬鹿にしてるの!?出てきなさいよ!!此処から!!すぐに!!」
アレンは呆然としていた。
「ノーラ、何で怒ってるの?僕、何か悪いことした?」
分からない。というのは、知っているのが当然だと考えている人にとっては腹立たしい事なのだ。特に今回の場合は尚更だった。
「アナタは私を馬鹿にしてるの?何かした?じゃ無いわ何もしないから怒ってるの!!馬鹿にするのも大概にして!!!!貴方は!貴方は私の事を馬鹿にしないと思ってた!それに、悪い人じゃないと思ってた。なのに……何なのよ!!早く出てって!!」
私はアレンを押し出して扉を閉める。
「まって、まってよノーラ!!何で怒ってるの!謝るから!ちょっと待って!」
扉の外からアレンの声が聞こえる。
聞きたくない!そう思って私は耳を塞ぐ。30分ほどでアレンの声は聞こえなくなった。
私は扉にもたれ掛かる。涙が止まらない。馬鹿にされたと思うと悔しかった、悲しかった。そして寂しかった。どうしても涙が止められない程に。
「うぅっっ、うっ!!ッッウッなんっでっ、何でよっうっっ信じてたのにっ……裏切り者っ!うぅっ」
その夜一晩中泣きつづけた。
○○○
僕は一人。夜の街を歩いていた。
ノーラの事が大好きだった。初めて会った時に抱きしめられて凄く安心した。顔を見る度に楽しそうに笑う顔がどんどん好きになった。
そんなノーラに怒られてしまい、とてもショックを受けた。そして、何故怒らせたかも分からない自分が大嫌いになった。
いく当てもなくフラフラと街を歩く。
スラムの一角、ノーラが此処は誰の場所でも無いから自由に使って良いと教えてくれた。取り敢えず、その場所に腰を下ろす。
そして、ノーラがそばにいない事が本当に寂しくなった。涙が出そうになるが必死で堪える。男は泣いたらダメなのだ。
「おい、邪魔だぞ。此処はオレが寝るんだ」
酔っ払った男が話しかけてくる。
「他の場所も空いてるよ」
「俺はそこが良いんだよ」
鬱陶しい。心の底からイライラする。
男が僕を掴もうと手を伸ばすので、伸びてきた男の手を強く握り、とめる。
「痛っ!!くそ!離せ!!」
手を振りほどこうと暴れる男の手を離すと、男はよろめいた後に走って何処かへ去っていった。
その後、壁にもたれて寝ていると、再び誰かが側に近づいてくる気配があった。
「何?」
「何でも無いさ、何か辛い事があったのかと思ってね」
年上の女の人だ。何処かノーラに似た雰囲気がある。金髪と茶色い目の色が同じだった。彼女は笑顔で笑いかけてくる。
「どうだい?姉さんに話して見ないかい?」
そう言う女性の目はアレンの腰元にある財布がわりの袋にむいていた。本当は、すぐに追っ払いたい気分だった。でも、一瞬でもノーラに似ていると思った自分の感を信じる事にして、ノーラと喧嘩してしまった経緯について話す。話を聞いた女性は少し考える様な素振りを見せて
「あんたは本当に物に魔力を纏わせられるのかい?」
「できるよ」
僕は手近にあった石に魔力を纏わせて近くの木に投げつける。石は良い感じに木に穴を開けた。それを見た女性は凄く怖がるような顔になった後、優しい様な目つきにかわり、僕の体にしなだれかかる。少し気持ち悪いし変な匂いがする。
「それは、そのノーラって子が悪いさ。アンタは悪く無い。その女は性根が腐ってるから、きっと魔力を使えるアンタに嫉妬したんだよ。嫉妬さ、嫉妬。それでアンタを追い払ったんだ。
そんな狂れた女なんて、お姉さんが忘れさせてやるよ。ほら、おいで」
そう言って、女性はアレンの手を掴み自身の胸に近づける。
何がしたいのか分からないが、凄く気持ち悪く感じて手を振り払う。
そして、その場を離れる事にした。後ろから女性の声が追いかけてくる。
「何だい!人が優しくしてやってんのに。死んじまえ化け物!!」
結局僕は他の場所で眠った。
朝早く、太陽が路地を射し眩しくて目を覚ます。
そして、すぐに荷物を持ってギルドへ向かった。ギルドに入るとソーニャがいた。ちょうど、ソーニャも用事があったみたいで手招きされたので、寄っていく。
「アレン!貴方、魔力操作が出来るって本当?」
「うん、できるよ。どうして知ってるの?」
「そんな事いいのよ!何で、その事を昨日言わなかったのよ!!私、さっきギルドマスターに怒られちゃったじゃない!!」
なんで、彼女が怒られるのか分からないが少し申し訳ない気持ちになる。
「なんか、ごめん」
「良いのよ、それより貴方酷い顔よ何かあったの?」
「ノーラに怒られたんだ。それで……」
「珍しいわね、何があったの?」
昨日起きた事を話す間、黙って聞いていたソーニャは納得の表情を浮かべていた。
「それは、どっちもどっちね」
どうやらソーニャにはノーラが怒った理由がわかるらしい。だから、必死になって理由を尋ねる。
「なんで?僕、何かしたの?僕はノーラの事が好きだし。このままお別れなんて嫌だよ」
ソーニャは少し困った顔になる。
「ねぇ、アレン。貴方は本当に魔力操作が特別な事って知らなかったの?」
ソーニャは僕の顔をジッと見ながら確認する。
「うん、知らなかった」
確かに、よく考えたら街の中でうまく魔力を使える人は少なそうだ。僕は小さい頃からできたし、父さんも普通にやっていたので気づかなかった。
「そう、信じられないけれど嘘じゃないみたいね……」
そういうと、ソーニャは少し考え事をする顔になり、しばらくして話始める。
「まず私が、貴方が魔力操作を使える事について知っていたのは他の冒険者達から聞いた為よ。昨日の夜、貴方が冒険者ギルドに来た時、沢山冒険者がいたでしょう?」
はやく、理由を教えてほしいが、取り敢えず昨日の事を思い出して肯定する。
「貴方が帰った後、高位の冒険者達が『あの少年は誰だっ!』って騒ぎ出したの。貴方、魔力量がかなり多いみたいね。それで冒険者達は驚いたらしいわ。今まで見たことある貴族達よりも凄いって。しかも、その場にいたニコっていう子がアレンは魔力操作も使えるって言ってね、もうギルド内は大騒ぎ。貴方を自分のパーティーに入れたいって冒険者達が次々に声を上げて大変なことになったの。まぁ、お陰様で昨日あなたを普通の子として扱った私が怒られたんだけどね」
そう言って、ソーニャは少しアレンを睨む。恨み言を言われても、そんなこと聞きたくない。
「何が言いたいかっていうとね。貴方の年齢で魔力操作が出来るって言うのはそれ程に凄いってこと。熟練の冒険者がパーティーに欲しがるほどに。で、ノーラのことなんだけど」
ノーラの名前が出て、思わず身を乗り出す。それを見たソーニャが少し微笑んだ。なんか恥ずかしい。
「あの子昔から凄く苦労してるの。そもそも、12歳の親がいない女の子が一人で真っ当に生きていくなんて本当に大変な事だからね。大抵の子は死んでしまうか、体を売って生活するかのどちらかよ。
その上、散々苦労して真っ当に生きていてもマトモな評価すらして貰えないしね。
実際、ほんの少し前まで毎日仕事から帰ってくる度に泣いてたわ。そんな子の前に、いつでも簡単にお金を稼げるのに、稼がない人がいて何をすれば良いか教えてっ!なんて言ってきたらどう思う?馬鹿にしてんのかって思わないかしら?」
そう言われて、ようやく自分が何をしたのか理解した。確かに、ムカつくかもしれない。何というか、凄い自己嫌悪だ。何というか、周りは見ているつもりだったけれど、周りの事は考えれてなかった。今まで、周りは野生動物だったから考える気もなかったし。こんな失敗してから気づくなんて最悪だ。
「ねぇ、ソーニャ……僕はどうすれば良いの。ノーラに嫌われたくないよ」
しかも、情けない事に人と仲直りなんて考えた事なかったしので、どうすればいいか分からない。魔物同士なら獲物をあげれば良いみたいだったが、人の場合はどうなんだろう。とりあえず、魔物の肉をとってくるのは確定として、ソーニャにいい方法が無いか尋ねる。
「そうねぇ。もし、私のお願いを聞いてくれるなら貴方とノーラの仲直りを手伝ってあげても良いわよ」
「分かった!!なんでもいって!僕、何でもやるから!!」
『計画通り」とソーニャは心の中で呟いた。
○○○
アレンに頼みたい事とは、パイアと呼ばれる魔物の討伐だ。見た目は体高2m程の巨大な猪で、オスメスともに長い牙が生えている。それが必殺の武器となる。
最近、街の近くにある山に大量発生しているらしい。かなり凶暴で人だろうと何だろうと襲いかかり食料とする為、他の生き物を狩に出た猟師や冒険者襲われ被害が出ていた。また、山の先にあるイーリス王国との交易には山の横の谷を通るため早い内に対処する必要がある。
「という訳で、パイアを討伐して欲しいの。十匹で良いわ」
「どうやったら倒したってわかるの?」
「この鞄に牙を持って帰ってくれたら良いわ。20本あれば十匹倒したってわかるでしょう?」
そう言って貸し出し用の鞄を渡すとアレンは中身を確認して頷いた。
「話を続けるわね。今回の報酬は金貨が2枚よ」
「金貨2枚?昨日は銀貨1枚と銅貨20枚だったよ?」
アレンが的外れな事をいってくる。銅貨100枚で銀貨。銀貨100枚で金貨。つまり、昨日の約200倍のお金が稼げる。そう聞けば確かに驚くべきことかも知れない。しかし、仕事の難易度は昨日の200倍以上だ。
パイアは魔獣だ。魔力を使う獣である。普通の剣で蹴り付けても傷一つ付かない毛と皮膚。そして成人男性50人以上の力に岩を貫通する牙。要は化け物なのだ。
「何と比べてるのよ……パイアの討伐よ。危険度を考えたら安いぐらいだわ」
話を続けるが、アレンは報酬の高さに納得出来ないと言わんばかりに首を傾げ続けていた。そんな、アレンを放って話を続ける。
「とはいえ、今回はパーティーでの仕事になるから報酬はそれより少なくなるわ」
「パーティー?」
「えぇ、パーティーよ。そりゃ、子供一人を人食い猪まみれの山に放り込む訳ないじゃない。いま、募集してるから少し待ってて頂戴。昼頃には集まると思うわ」
そういうと、アレンは難しい顔をした。
やはり、子供にこの依頼はやり過ぎだ。怯えているのだろう。やはり、依頼をキャンセルするべきかもしれない。そんな事を考えていたら、彼は鞄を引っ掴んで立ち上がった。そして
「僕、一人でも大丈夫だから行ってくるよ。ノーラと早く仲直りしたいし。此処に牙を入れてこれば良いんだよね!!依頼の人は断っといてーー!!
「えっ!?ちょっと待って!!アレン!!」
私の声はアレンに届かなかったようでアレンは鞄を引っ掴んで猛スピードで門へと走っていく。取り敢えず、追いかけようと思い外に出るが、人が居ないことで障害物のないアレンの直線ダッシュは異常に早かった。既に豆粒みたいになっていて、とてもではないが一般女性である自分では追いつけない。
"まずい、まずい、まずい"
このままだと、確実にアレンは死ぬ。それ自体は良くあることだ。冒険者の殉職率は低くない。しかし、ノーラが悲しむ可能性とギルド側から受けさせた依頼である事を考えると焦らずにはいられなかった。
"取り敢えず、目的の山までは25kmはある。歩けば到着するのが大体6・7時間後。でも、あの速度で走っていけば分からない。今すぐ誰かが行ってくれれば馬を使えば間に合うかも知れない"
私は急いで依頼掲示板に向かう。
そして、アレンの補助をする依頼を確認し、大慌てで書き直す。冒険者ランクA以上を募集する内容をB以上に変更した。冒険者ランクとは成功評価と同じくD〜Sまででランク付けされており、ランクが上であるほどギルドからの信用度が上がっていく。ちなみに、冒険者の中で熟練と言われるのはBランクパーティ以上。パイアの討伐は、1匹ですら、そんなレベルの冒険者でないと不可能だ。それも成り立てBランクではなく、しばらくBランクとして活動した安定したBランクパーティーだ。だいたい、今回の依頼はアレンの試金石という意味合いでAランクパーティーに同行させるつもりだった。彼等なら、必要に応じてストップをかけられるし、逃走もできる。10匹と言うのは、アレンの判断能力を確かめるために適当に行っただけで、本来不可能な数字。
それが、まさか一人で行くなんて……途中で諦めて引き返してくれれば良いのだけど……そう思いつつ、次に報告しなければいけない相手を思い出すと深い深いため息が口から漏れ出た。
ギルドマスターに報告だ。
「すいません、ソーネチカです」
○○○
30分後ギルドマスターに絞られたソーニャは罪悪感で締め付けられそうになっていた。今すぐ使えるAランクパーティーはいない。というか、この街にAランクパーティーなんてほぼいない。Bランクパーティーにとっては危険な任務の為、任務を強制することは出来ない。それがギルドマスターの判断だった。
つまり、ギルドマスターの判断は基本的には見捨てるということだ。そして、憂鬱な気分で書類をまとめていると、前に暗い顔をするノーラがいた。
昨日は寝れなかったのだろう。クマが凄い。
「ソーニャ、アレンは見なかった。私、昨日喧嘩して、その時すこし酷いことを言っちゃったの」
まさかのアレンの話題……悪い事は連続して起こるモノらしい。
「何が起きたのか聞かせてくれる?」
どうしようも無くなって
取り敢えず、時間稼ぎをする事にした。
「それでね。その後、アレンの事を考えたんだけど。アレンって子供だし、嘘をつけないと思うの」
子供が子供に対して凄い言い草だ。
「もし、アレンが魔力の事を本当に知らなかったら。私は凄く傷つけたかもしれない。どうしたら良いの?ちゃんと謝れるかな?」
そう言って涙ぐむノーラに
『ごめん、アレン死んだかも!』
とは言いづらい。とても言いづらい……どうやって伝えるか迷うソーニャに後ろから声がかかる。
「おい、ソーニャ。その、アレンってやつの書類、ちゃんと処理しとけよ」
ギルドマスターの声だ。
"あんのクソハゲ空気読めよ、ボケが!"
思わず怒鳴り散らしたくなるが、取り敢えず抑える
「処理ってどう言う事?何かあったの?」
「えっ、ええっと……」
必死に良い感じの言い訳を考えるが、思い付かず諦めて全てを白状した。
勿論、ノーラは泣いた。泣き喚いた。そして泣き疲れて眠ってしまった。あの状態では仕事も無理だっただろうし、ある意味では有難いが、ソーニャはアレンが帰ってきたら本気で説教することを心に誓った。
"だから、絶対帰ってきなさいよアレン"
昼前になると冒険者達が全員仕事に向かいギルド内は一気に静かになる。
アレンがギルドを飛び出して、そろそろ6時間になる。たぶん、遅くても、そろそろ森に辿り着いた頃だろう。ソーニャは仕事をしながら、そんな事を思う。アレンのサポートをする依頼はまだ、張り出されているが誰も受けない。そして、眠っていたノーラが目を覚ました。
「うぅ、ソーニャ?」
正直、もう少し寝ていて欲しかった。
「私、寝ちゃったのね」
しばらくして、突然ガバッと起き上がるとノーラはソーニャを問い詰める。
「アレンは?どうなったの?」
ソーニャが首を横に振るとノーラは青い顔になって俯いた。
「ノーラ、落ち着いて。貴女は悪く無いわ。取り敢えず、ご飯を食べに行きましょう?」
少しでも気が逸れればと思うがノーラは首を横に振る。
「いやだ、私はここで待ってる」
こうなったらテコでも動かない。ノーラの説得は諦めて1時間後、昼食を食べに行く同僚に2人分のお持ち帰りをお願いした。
同僚は昼ご飯にハンバーガーを用意してくれた。大好物だ。それをノーラに手渡すとノーラが再び泣き始めた。
"えっ?何で?"
聞けば、昨日の夜はアレンが初めて仕事をした記念にハンバーガーを食べたと言う。
"最早、運まで敵になったか……こりゃ、アレン死んだな……"
ソーニャは天を仰ぎ見た。そして神に祈りを捧げていると
「ただいま!!ソーニャ帰ったよ!!」
アレンがギルドに飛び込んできた。予想外の光景に言葉が詰まる。呆然たしているとノーラが大急ぎでアレンの方に走っていき抱きついた。そして、ノーラがいると思っていなかったアレンが訳がわからず混乱する。
「アレン!!大丈夫?怪我してない?」
「えっ!?ノーラ?へ?え?」
そんな、微笑ましい光景にちょっとした違和感がある。よくよくアレンを見ると彼の服は血塗れだ。そして鞄はパンパンで手には牙を一束ぶら下げている。
パイアの牙は希少だ。20本なんて売ってくれる人は居ない。欲しければ自分で手に入れるしかないのだ。
つまり、アレンが手に持っている牙は本人が手に入れたものと言う事になる。
「貴女逃げ帰ったんじゃ無いの!?」
思わず大声で訪ねてしまう。
そして、少し冷静になったノーラはアレンの服に着く血に反応した。
「アレン!この血はどうしたの?大丈夫?私、どうしたら良いの?」
結局、3者3様に混乱して、その場にカオスな状態が構築された。はじめに落ち着いた風に振る舞えたのは大人のソーニャだった。取り敢えずギルドの会議室にアレンとノーラを連れて行く。
会議室は大広間の酒場に似た雰囲気と違い、家具なども落ち着いた物を選んでいる。
「え〜っと?なら貴方は一人でパイアのオスを10匹討伐したの?しかも大人サイズのパイアを」
「うん、そうだよ」
私の問いにアレンは普通に答えているが、明らかな異常事態だ。
私の長年かけて築いてきた常識がギシギシと嫌な音を立てている。
戻ってくるのが早すぎる。山までほぼ25kmあり、大人の足でも片道5時間〜6時間かかる筈だ。それを往復8時間も経たない間に戻って来て此処にいるとか意味不明だった。
更に、アレンは何一つ怪我をしているように見えない。服についている血は全てパイアの物らしい。
そもそも、無傷でパイアを倒すなんて芸当ができるのはA級パーティーとか貴族様ぐらいのはずだ。
つまり、色々と意味不明な状況だった。
(実際のところ、アレンに流れる血は生粋の貴族様であるが、今は誰もそんな事知らない。)
そして、私がどうすれば良いのか頭を悩ませている中、前ではアレンとノーラがイチャイチャしている。取り敢えず、現状の問題を放り投げて野次馬根性丸出しで成り行きをニヤニヤと眺める事にした。
「あの……ノーラ。その、僕、ずっと山の中で過ごしていて、えっと。魔力操作が出来るのが特別な事って知らなかったんだ。絶対に、ノーラを馬鹿にしてたとか、秘密にしてたとか、そんなんじゃないんだよ。だから、その……ごめんなさい」
アレンはぎこちなく頭を下げる。
そして。アレンと同じくらい緊張していたノーラは取り敢えず、昨日までのお姉さん的立場を思い出そうとしていたが失敗したらしい。かなり、子供っぽくぎこちない。
「その、私も怒ってないの。本当は私が怒っているのはアレンに対してじゃなかった。
私は、私とか他の男の人とか、いつも私を馬鹿にする人達に怒ってたの。それで、またいつも見たいに、本当はそんな事無いのに、自分で勝手に馬鹿にされてると勘違いして、それで、怒っちゃって。本当は私が一番駄目なのに。本当にごめんなさい」
私は、ノーラの言い分に驚いた。確かに、文体はめちゃくちゃで子供っぽいが、内容は自分の事をしっかり理解していて、彼女の成長を感じられる物だった。
2人はお互い笑みを浮かべて許し合い。しっかりと仲直りしていた。




