帰還
アレンがシーラと共に森から村へと戻っている頃の事、ノーラはメイドから貰った本を胸に抱いて新しい家に帰っていた。
お家の合鍵はは預かっている。受け取った時、信用されている気がして凄く嬉しかった。ポケットに手を入れて鍵をギュッと握りしめる。
鍵を使って、入るのが待ち遠しい。アレンを迎えるのも、帰った時にお家にアレンがいてくれるのも、きっと嬉しい。
もし、スラムにいたら一生知らない気持ちだったんだと思う。
家の前に来てドアのノブを回すと鍵は閉まっていた。ドキドキしながら鍵を取り出して差し込む。
ガチャっと音がしてカギが開いた。
「アレンはいないのかぁ……残念……」
私はなんだかんだアレンに迎えて欲しかったらしい。少し寂しい感じがする。でも、アレンが帰るのを此処で待つのも楽しいと思う。おかえりって言える相手がいるのは凄く良い事だ。小さい頃は少し複雑な気分だった。
けれど、あの時とは状況も自分も変わってる。今なら、前より嬉しい気分になれるだろう。
大好きな歌を口ずさみ、お家の中を進むとテーブルの上に紙が置いてあった。
"ノーラへ"
"ちょっと仕事で鶏肉をとってきます"
"多分、明日か明後日に帰ります"
"とっても美味しいので期待しててね"
"アレンより"
と、走り書きで書いてある。
お仕事なら仕方ないか……ムゥゥ!
なんだか、凄く部屋が大きく感じるよ……
部屋を見渡すと、昨日とても気持ちよかったソファがあった。急ぎ足で駆け寄り、腰を落とす。昨日と同じ様に、優しく私を受け止めてくれるけれど昨日より嬉しい気持ちにはなれない。
少し寂しいな……少し前まで一人でいても平気だったのに……
私はアレンが部屋の隅に作った氷室からお肉を取り出す。コレもアレンが置いていってくれた物だ。昨日も食べたけれど、とっても美味しかった。
火打ち石を打って少しだけ焼いた。
昨日、アレンが火打ち石を使おうとして魔力を込めて爆発させたのを思い出す。ブスブスと煙を上げながら呆然と目を見開いていたアレンは見ていて凄く面白かった。
「はぁ、会いたいなぁ……」
気付いたら、そんな事を呟いていた。
パン!!と自分の頬を打つ。
頬っぺたが少しヒリヒリする。でも、痛いくらいが丁度いい。こんなんじゃ駄目だ。私は、アレンを支えようと思ってたのに、足を引っ張る様な事を言っている場合じゃないし、ダラダラしている時間もない。
心に鞭を打って、テキパキと行動する。お皿を綺麗に洗い、お水で体を拭く。余ったお水で服を洗い、荷物を部屋に片付ける。
今日のお給料は貯金箱に入れる。そして今日、メガネのメイドさんに貸して貰った本を開く。簡単な絵と沢山の文字が書いてある。メイドとしての心構え、ルールに始まり、料理を出す時のマナーやお部屋のノックの仕方とか、ぎっしりだ。
3日後には返さないといけないから読みきれるかどうかは微妙な所だ。
…………………
…………………
…………
…………
……
「ふわぁ〜〜、んん!!」
気付いたら外は真っ暗になっていた。
背中を伸ばすとパキパキと音がする。
手に持っている本の残りページをペラペラとまくってみると、後半分ほどだ。
「何とかなりそう、良かった」
そして、眠る前に魔力を動かす練習をする。
本に書いてある仕事には魔力を使えないと出来そうにも無い事が沢山書いてあった。そして魔力を使える様になる為の練習方法も。
目を閉じて大きな種をイメージする。そこにゆっくりと力を込めて少しずつ花を咲かせていく。
……………何も起きない。
でも、本には一日一回このイメージを行いなさい。と書いてあったので、今日は諦める事にする。そもそも、魔力は簡単に使えるものじゃ無いから仕方ない。本には、もう一つ使える人に手伝ってもらうと良いとも書いてあった。だから、アレンが帰ってきたら手伝って貰おう。
結局アレンを頼るのかって少し心をよぎるけれど、早く魔力を使える様にならないと何も変えられない。
自分の事を理解していない人間の行動が一番迷惑だと思うから。一人で出来ないことが分かってる以上は助けてもらうべきだ。
外を見ると、とっても遅い時間になっていた。今日は寝なくちゃ……
私は、お部屋に戻って目を閉じた。
……すー、すー
ノーラはベッドに横たわると直ぐに寝息を立て始めた。
○○○
「嘘、討伐してきたの」
僕たちがギルドに入って第一声がコレだ。凄く失礼だし、何だか帰ってきた事が悪い事みたいに聞こえる。
「あら、アレンお帰りなさい。それにロックさん達も、アレンと一緒に何処か行かれてたのですか?」
失礼な人の 横にいたソーニャが声をかけてくれる。
「コカトリスの討伐に。我々は足を引っ張るばかりだったが」
「ふふ、ご謙遜を。では、依頼の達成報告という事ですね。報酬額の高い依頼ですから会議室でお話ししましょう」
「えぇ」
通されたのは、この前に報酬を受け取った時と同じ場所だった。
「それでは依頼板の提出をお願いします」
アレスが村長から貰った依頼板をソーニャに渡す。評価はAランクだ。
「はい、確かに」
ソーニャは依頼板を受け取ると立ち上がり
「では、確認してきますので少しだけお待ち下さい」
そう言って部屋を出て行った。
「ソーネチカちゃん、可愛いよなぁ。なんで門兵と結婚したんだろ。俺が養ってあげるのに」
「おそらく 冒険者と 結婚していても アレックス お前とでは なかったと 思うぞ」
「それに、ギルド員からしたら、冒険者はいつ死ぬか分からないからあまり結婚したくない相手らしいぞ」
「それは弱い奴の話でしょ?俺もドラゴンスレイヤーなんだから簡単な事で死にませんよ」
「子供に負けてる時点で論外だろ」
「ロックさんまで!?」
アレックスはガーン!!と言いながら硬直した。
「お待たせしました」
「ソーネチカちゃん!俺ってギルドで結構人気あるよな?ほら、強いし格好いいだろう?」
丁度ソーニャが入ってきたのでアレックスはソーニャに問いかける。
「えっと……アレックスさんの話は聞いたことないですね。ロックさんとアレスさんの話題ならありますが」
「まじかよ」
アレックスは衝撃を受けた顔で固まった。
「そんな事より、コレが今回の報酬の金貨8枚です。お納め下さい。」
「そんな事……」
アレックスの呟きは無視される
「たしかに受け取った。それで本当に折半でいいのか?」
「うん、大丈夫だよ。ビンとか水筒も貰ったし」
「正直、ビンとか保存液合わせても金貨1枚にもならないが……まぁ、良いならありがたく受け取るよ」
帰り道にロックと報酬の話になった。元々ロックは僕がコカトリスに勝てないと思っていたらしく活躍によって報酬を分配する事になっていたからだ。しかし、予定通りに討伐を終えたので元々決まっていた金貨は5:3で配ればよかったのだが、ロックは森の調査やコカトリスの位置特定の補充として6:2にしようと言ってきた。
で、ギルドに着くまでに色々あって報酬は折半。その代わり借りていた目玉ケースと毒入れをもらう事になった。
「では、とりあえずの報酬支払いは終わりましたので、次は買取ですね。何かこちらで引き取らせて頂ける物はございますか?」
「俺達は毒を頼む」
ロック達は瓶14個並べる。
「僕は目玉を買って欲しいな」
僕は目玉を4つ並べる。
「毒は売らないのか?」
「うん、便利だからね」
「アレンは毒を売らないとダメよ?」
「どうして?」
「毒を管理する為には許可がいるからよ。A級冒険者以上は特例で許可が出てるけど、貴方は違うでしょ」
「えぇ〜〜」
「文句言わないの、目玉なら持って帰って良いわよ?」
「要らないよ、気持ち悪いし」
そういうと、コカトリスの宝石みたいな目はギョロンと僕の方に向けて動く。マジでありえない、というか使用用途が不明すぎる。
「確かに気持ち悪いわね」
ソーニャが喋ると眼はグルッとソーニャの方を向いた。コレは家に置きたくないタイプだ。
僕は諦めて毒を2つ並べる。
「はい、では買取させて頂きます」
「毒を入れてる瓶はギルド規定の30cc瓶はですね」
「あぁ」
「では、新しい物と交換して瓶ごと引き取らせて頂きます。1瓶銀貨50枚ですのでロック様のパーティーには金貨7枚、アレン様には1枚です。次に魔眼の方はですが、此方の2つは少し歪みがあるので減額させて頂きます」
そう言ってソーニャは頭を叩いて殺した方の目玉を指す。
「無傷の物はコレクターの方から懸賞金がかけられていますから1対金貨10枚で引き取らせて頂き、傷ありの方は規定の各金貨4枚から25パーセント減額し金貨6枚で買い取らせて頂きます。宜しいですか?」
凄くお金持ちになったけれど、それ以上に気になる言葉があった。
「なぁ、目玉集めてる奴って何に使うんだ?」
アレスが同じ事を口に出すと、ソーニャはビクッと反応した。
「その、部屋に飾るそうです。コレクターの方は部屋一面を覆うほどの目玉を収集されてて、今から持っていくと思うと……部屋はアーチ状で音が響くんですよ、一歩進む毎にコツって靴の音に反応して部屋中の目が私を見るんです。もぅ、最悪ですよ」
うわぁ気持ち悪い。ロック達もドン引きしてる。
もちろん僕もドン引きだ。
「ドンマイ、ソーネチカちゃん」
「はぁ、仕方ないです。コレも仕事ですから。買取も以上ですね。それではお疲れ様です。明日はゆっくり休んでくださいね。それとアレンは受付にこの紙を持っていって」
渡された紙には、Cランク冒険者認定証と書かれていた。
「コカトリスの魔眼納品のクエストも達成した事になるから、ランクアップの期待は十分満たしてるし、それを持っていったら、Cランクとして認められるわ」
「はーい」
「やるな、俺達はCランクに上がるまで3年くらいかかったのに」
「そうなの?」
「あぁ。でも、あの頃は魔力もほとんど使えなかったけどな。Cランクの平均的な実力は魔力を体に纏わせられる程度だから、お前がCランクになるのは当然だ」
アレスさんはそう言いながら懐かしそうな顔をする。ジッと眺めていると頭の上に硬い手が置かれてぐしゃぐしゃと撫でられた。アレックスだ。
「まっ、コレからも頑張りな。俺達は疲れてから先に帰るぞ?また会う事があったら声をかけてくれ」
そう言ってロック達はギルドを出ていった。
Cランクの認定をもらう頃には日が暮れはじめて、沢山の人が帰ってきていた。
時折、後ろを確認していたけれど、ノーラは帰ってきてない。もう暫く待って一緒に帰ろう。
ギルドの椅子に座って辺りを見渡す。狩りに行く人達は皆パーティーを組んでるし、朝早くの仕事をする人達は友達や家族で働く人が多いみたいだ。
一人で働いている人は少ないみたいだ。
僕も誰かと働きたいなぁ。勿論、一番一緒に働きたいのはノーラだけど、きっと難しい。
何かの参考になれば良いと思って、酒を飲んだら報酬を受け取ったりしているパーティーを眺める。
色々な人達が集まってパーティーを組んでいる。
実力もまちまちって感じだ。強そうな人と弱そうな人が組んでる場合もあれば、同じくらいの人たちで組んでる場合もある。
2つ気づいた事がある。
1つは特殊な集団について。
大体のパーティーは耳が長い人や小さい人、僕と同じ様な見た目の人、ドワーフの人、巨人みたいな人とか色々な人が集まっている。けれど、獣の格好をした人達は絶対に似た様な人達が集まってる。
犬の人は犬の人同士、猫の人は猫の人同士、狐の人は狐の人みたいな感じ。何でかは全くわからないけれど、例外が全くない。
もう一つは全員が重そうな武装をしている事。剣を持っていたり、槍を持っていたり、弓を持っていたり。それに、殆どの人が鎧を着ている。凄く重そうだ。
僕も武器を持ちたいな……ロックの剣やアレスの槍、アレックスの弓矢はすごくカッコ良かった。僕の木の棒とは全然ちがった。
今度、誰かに武器を買える場所について教えてもらおうと決心する。
頭の中でどんな武器を使うかイメージする。やっぱり相手を殴り飛ばせる武器が一番僕に合うけれど、剣の方がカッコいい気がする。
「どうしようかな……」
「どうしたの?」
呟きに突然返事が返ってきた事に驚いて前を見るとノーラがいた。
「わわっ!?」
すぐに頭に衝撃が走る。椅子ごと後ろに倒れてしまった。ちょっと痛い。
「大丈夫!?」
「うん、ただいま!」
伸ばされたノーラの手を取って起き上がり、そのままの勢いでノーラに抱きつく。ノーラはビックリして体が一瞬硬直したけれどすぐに抱き返してくれた。
数秒ギュってした後手を離す。
「おかえり」
ノーラはすごく可愛い笑顔で迎えてくれた。




