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私は、ギルドの一角に腰掛けて昨日の事を思い出していた。新しい綺麗なお家と、私の大切な人、可愛らしい服、凄く幸せで、頑張ろうという気持ちになる。早く仕事を終わらせてアレンに会いたい。
暫くするとニコと妹のミアが手を繋いでやって来た。2人はスラム街に家族で住んでいる為ローテーションで働いている。この二人が来たという事は、今日は父親の仕事が休みなのだろう。因みに、2人の父親はD級冒険者パーティーに所属していて、普段は門から出て山に向かうまでの草原で魔物の討伐をしているらしい。
一昨日、アレンショックに見舞われたニコが心配になり声をかける。
「久しぶり、ニコ調子は戻った?」
声をかけるとニコは何故か首を傾げる。暫くして何かに気が付いたのように手をポンと打った。まだアレンショックを引きずってる可能性がある。
「お前、ノーラか?」
「じゃなかったら、誰なのよ」
まさか、私の顔まで忘れるなんてショックだ。
「いや、なんか服もいつもと違って綺麗だし、少し印象が変わったから。ほら、いっつも、もっと汚かっただろ?色々と」
どうやら、調子は取り戻したみたいだ。失礼な部分が元に戻ってる。もう少しショックを引きずってた方が良かったかも知れない。
「ノーラちゃん、とっても綺麗です」
ニコの後ろにいた、彼の妹ミアがそう言ってくれる。とても無口な子で最近ようやく打ち解けてきた。
「アレンはどうしたんだ?」
「アレンは後の方に参加する事になったの。だから別行動よ」
後の方とは子供向け依頼の後の依頼。つまり、冒険者らしいと言えば良いのか分からないが魔物退治とかのことだ。
「やっぱり、そうなったか。お前は、まだアレンと連絡を取れるのか?」
「えぇ、一緒の家にいるもの」
それを聞いてニコが驚いた様な呆れた様な声をだす。
「アレンは、まだお前の処にいるのか?」
「違うわ、今は私がアレンのところにいるの」
「アレンの所?」
「そうなの……
今の状況を報告しようとすると、丁度ボードの方に依頼を持った受付が来た為、話は中断された。
急いで依頼板に向かう。受けたい依頼は人気の無い類なので本来は焦る必要が無いのだが、習慣というか体に染み付いた動きが咄嗟に出てしまった。案の定、依頼板には受けたかった依頼が沢山残っていた。私は目的のものを剥がし、小さい手を必死に伸ばしてるミアちゃんのために人気のある裁縫工場の依頼も一枚剥がす。
「はい、ミアちゃん」
依頼板を手渡すとミアは嬉しそうに目を細める。
「ありがとう、ノーラちゃん」
ニコが可愛がるのも納得の可愛さである。アレンと似た黒髪が凄く魅力的だ。ニコは父親似でミアは母親似らしい。2人の母親には会った事ないがきっと美人なのだろう。
暫くするとニコが男の子達の群れから現れる。目的の依頼を受けれたらしい。
「ふぅ、ミア?良い依頼は取れたか?」
ニコが優しくミアに声を掛けるとミアは嬉しそうに笑い依頼をニコに見せる。
「ノーラちゃんが取ってくれたの」
「そうか、良かったな!ノーラ助かったよ」
ニコは心底嬉しそうに見える。2人を見ていると、いつもは羨ましい気持ちになったが、今日は不思議とそんな事にならなかった。代わりに少し強く依頼板を握る。
「気にしないでいいよ。私も受けたい依頼を取れたから」
そう言うと、ミアは私の依頼を覗き見て何とも言えない顔になった。
「ノーラちゃん、ハウスキーパーだよ。ソレ」
「えぇ、わかってる。それで良いの。私はもう行くわ、ミアちゃんも遅れないようにね。」
私はそう言って2人に別れを告げて貴族街へと向かう。
"こんな依頼、二度と受けないって思ってたのにな"
貴族街に向かいながら、そんな事を思う。ほんの少し前まで、どうしても嫌だった仕事をわざわざ自分から受ける事になるとは不思議な感覚だった。
私が選んだ屋敷は、この街最高の貴族フリードベルク伯爵の屋敷だ。此処だと自分の上司がメイドになるからだ。仕事を始めたばかりの頃、上司となった執事がロリコンで、一度襲われた事があった。その時は偶然に上の立場の執事が来て助けてくれたのだが、それ以来上司が執事になる依頼を受ける事は無くなった。あの時を思い出すと未だに嫌な気分になる。
屋敷に辿り着くと裏口に回りメイド達が住む寮に向かう。そこにはメガネかけたキツイ印象のメイドが座っている。今までも何度か見た人だ。
「あの、冒険者ギルドで依頼を受けたノーラです」
冒険者ギルドで貰った依頼板を手渡すと眼鏡メイドは手元にある書類から少し目を離した。
「もう少し此処で待つ様に。そろそろ担当が降りて来るはずです」
「はい、分かりました」
了解を示して少し後ろに下がり上司が降りて来るのを待つ。暫くすると褐色肌に茶髪。更に特徴的な猫の耳と尻尾を持った小さな女の子が受付に向かっていった。身なりから察するにノーラと同じ仕事を受けたスラムの少女だろう。スラム出身の獣人は凄く珍しい。何か事情がありそうだ。
「冒険者ギルドから来たアンナです。お願いします」
少女は手に持っていた依頼板を手渡す。
「あなたも、そこで少し待ってなさい」
女性の指示を受けてアンナは頷き私の横に並んだ。
「はじめまして、私はノーラ。今日はよろしくね」
「アンナです。アンって呼んで下さい」
簡単な自己紹介を済ますと黙って待機する。喋ると、目の前にいるメイドの仕事の邪魔になるかもしれないからだ。ノーラの到着からキッチリ5分後ノーラより少し年上のメイド服を着た女性が降りてきた。
「私が今日、あなた達を監督します。来なさい」
女性はそう言うとテキパキと歩いていく。
私とアンちゃんは置いて行かれない様に急いで追いかけた。
「先ずは、此処を掃除しなさい」
着いたのは、ゴミ溜めだ。生ゴミや家庭ゴミそれにオシメ等が捨てられている。いつから溜まっているのか分からないが、かなり臭い。メイドはちゃっかりハンカチで鼻を抑えている。
「裏口から出たところに捨てる場所があるから。そこへ運びなさい。あっそうだ、こんな物でも貴女達には高級品だろうから持って行ってくれても構わないわよ」
メイドが憎たらしい顔でそう言うと、アンちゃんが不愉快そうな顔をする。当然の反応だけど此処では我慢しないとダメだ。
アンちゃんの顔を見たメイドはアンちゃんを見てニヤリと笑う。
「ほら、早く働きなさい」
そう言われても汚くて入るのには少し躊躇する。でも、結局入るしか無いので覚悟を決めゴミだめに足を踏み出そうとすると、
「きゃっ!?」
とアンちゃんの悲鳴が聞こえて、彼女が盛大にゴミだめへとダイブした。身体中に生ゴミや汚水がついて酷い事になっている。
「何するんですか!!」
「何って、動きが遅いから少し急がせただけよ。それに、普段からゴミ溜めで寝てるのだから慣れてるでしょう。さっさと済ましなさいな」
どうやら、アンちゃんはメイドに何かされたらしい。多分、足を引っ掛けられたか背中を押されたかだろう。私も覚えがあるので、何となく分かる。
「綺麗になったら呼びに来なさい。私は、その辺に居るから。それと、汚いから他の人に近づかないようにね。特に狩人には、獣臭くて殺されちゃうかもしれないわよ」
メイドはそう言って去っていった。凄く嫌なやつだ。横でアンちゃんが涙を流している。私が怒った顔をしてても仕方ないので笑顔でアンちゃんを宥める。
「泣いたらダメよ。それに目を擦るのもダメ。バイキンが入るからね。大丈夫アンちゃんは可愛いから、あの女は嫉妬して嫌がらせしてるのよ。泣いてたら可愛い顔が台無しになるから泣き止まないとね」
私はアンちゃんの頭を撫でてゴミ溜めから少し離れた場所に座らせる。そして、井戸から水をくんでくる。
「少し冷たいけど、身体を綺麗にするわね。先に手を洗って。いっぱい悪い物がついてるから」
「あっ、ありがっとっ」
アンちゃんは未だ肩を震わせながら手を洗う。彼女が手を洗い終えると服を脱がせ体の汚れた場所を拭いてから服を洗う。少しの間、下着だけになるが、そこは我慢してもらうしかない。服を綺麗に洗い出来るだけ水を絞ると再び服を着せる。
「はい。少し、汚れが残っちゃったけど……」
「大丈夫、ありがと……」
アンちゃんがしっかりと服を着た事を確認して手をパンと鳴らした。
「さっ、サボってたって言われないように遅れた分は急いでやるわよ」
私達は大急ぎでゴミだめに戻り片付けを再開した。
ゴミだめが片付いたのは、丁度お昼頃だった。
仕事を終えて寮に向かおうとすると脇道から先程のメイドに声をかけられた。
近づくと、メイドは綺麗なマットを地面に広げて、クッキーをつまみながら本を読んでいた。
アンちゃんはメイドの持つ美味しそうなクッキーに思わず喉を鳴らす。
「臭いんだから、それ以上寄らないでね」
流石にイラッとした。ついついギリッと歯軋りする。
「何か?」
「いえ、何でも」
メイドはフンっと鼻を鳴らしてピクニックセットを片付けていく。
「1時間休憩です。好きにしなさい」
メイドはそう言ってメイド寮に向かっていった。
メイドが視界から消えたのを確認するとアンちゃんは木にもたれかかった。
「アンちゃん、私は少し行きたいところがあるから離れるね」
アンちゃんにそう告げて、私はメイド寮に向けて歩き出す。この仕事を受けた目的は教養を身につける事だ。でも、今日みたいな雑用ばかりしていても見本になる人を見ることも出来ない。それじゃあ駄目だ。
アレンは凄いと思う。私と同い年なのに魔法を使えて、いっぱいお金も稼げる。わたしは彼に追いつきたい。本当なら彼が戦う時に側で一緒に武器を取りたいが、正直今からどれだけ努力をしても足手纏いにしかならない可能性が高い。なら、せめて彼が他の面で苦労することが無いようにサポートしようと思った
私は、メイド寮の一階にいる眼鏡のメイドに声をかける。あの人は時々他の人に指示を出しているから、多少の裁量があると思う。
「すいません。少しだけいいですか?」
声をかけると、眼鏡のメイドは顔をあげてクィッと眼鏡の位置を直す。
「何でしょうか?」
仕事の邪魔をするなと、言わんばかりの視線に少し怯んでしまうが引くわけにはいかない。しっかりとメイドの目を見て話す。
「あの、私を此処で働かせて下さい。しっかりとした礼儀を身につけたいんです」
大きく頭を下げる。
「ダメです」
顔は見えないけれど即答だった。
「お願いします!」
もう一度頼むがメイドは返事をしてくれない。
「なら、何が悪いかだけでも教えて下さい!すぐに直しますから」
………………やっぱり返事はない。きっとダメって事だろうけれど、諦めたくない。昨日頑張ると決めたばかりだから。出ていけと言われないのを良いことに、もう少しだけ待ってみる。自分から諦めるのは、どうしても嫌だ。
………………だから
……………もう少し
…………もう少しだけ
……後少し
20分ぐらいは経っただろうか。ハァと溜息が聞こえた。遅れて女性の声がきこえる。
少しだけ胸が高揚する。
「まず、顔をあげなさい」
声をかけられたら、すぐに顔を上げる。テキパキ動いて少しでも私をアピールしたい。
「まず、服装が論外です。礼服を用意しろとは言いませんが、もう少し綺麗な服をお持ちなさい。次に、魔力が無さすぎます。確かに、屋敷内では魔力を上手く扱えない者もいますが、此処は伯爵家の屋敷で貴族の子女も働いていますから、使えない子達は少しの例外です。基本的に全員が魔力で肉体を強化し、物に纏わせ貴女とは比較にならない速さで仕事をこなします。我々としても、態々礼儀を仕込むなら魔力が扱えない者より扱える者を選びます。
あと、教養も必要です。計算能力や言語能力、料理の知識などでも何か秀でているものがなければ。貴女を雇う理由がありません」
まるで、弾丸のようにダメ出しされた。
それでも、メイドからの指摘を一言一句聞き取りながら。昔着ていた服の切れ端に書き込んでいく。正直、こんなの出来るのかな?と、思うけれどやるしかない。此処は街で一番身分が高い人の屋敷だから、きっと一番素晴らしい礼儀を身につけられる。
自分にできることであれば何だってするつもりだ。
「後、メモをする心意気は褒めますが正直、布が汚くて見苦しいです。我々は主人が快適に過ごせるように仕えます。そんなボロ布を横で出されると不快でしょう。字も汚いです。綺麗な字を書くように心がけなさい。それが出来ないなら死ぬ気で記憶して後で書きなさい」
「はい、頑張ります。」
状況が動いた事が嬉しくて笑顔で返事をする。確かにボロクソ言われたが正直、先ほどのメイドや今まで出会った同類達に比べるとすごく優しく感じられた。
全て、自分の為に言っている事だと言うのは理解できるから。
メイドは、言うべきことは言ったと手を振るので私はお礼を言って、メイド寮を後にする。
「少し待ちなさい」
アンちゃんの所に戻ろうとすると眼鏡のメイドがもう一度、声をかけてくる。
「諦めずに、此処で頭を下げ続けた事と指摘を受けても笑顔で返事が出来る事については評価出来ます。継続するように」.
女性は顔を伏せたまま、それだけ告げると再び行きなさいと手を振った。
自分で行った事が認められて評価された事が嬉しくて、思わず笑顔になる。
「ありがとうございます!」
と大きくお礼を言ってメイド寮を後にした。
アンちゃんの所に戻る途中、ピカッと何かが光を反射し目を焼いた。
光源を探すとそこにはハゲが光をミラーボール並みにキラキラと反射させながら歩いていた。
"ギルドマスターさん?"
ライザーが伯爵家の本邸に向かって進んでいた。とはいえ、大した関係もないので声をかけるのも変かと思い結局そのまま戻ることにした。
午後からの仕事は、雑草抜きだった。眼鏡じゃない嫌なメイドはバケツを持ってきて「此処に雑草を入れなさい」とだけ告げて何処かに去っていった。
すぐに仕事に取り掛かる。
勿論、全力でだ。此処で働きたいと宣言した以上は誰が見ているか分からない様な場所で手を抜くわけには行かない。
「イタッ」
暫くしてアンちゃんが突然声を上げた。見ると彼女は剥き出しの手を摩っていた。どうやら、草で手を切ったらしい。私も自分の手を見ると何箇所かから血が出ていた。
「アンちゃん、痛かったらゆっくりで良いのよ」
「ウウン、頑張る」
アンちゃんは首を横に振って再び仕事を再開した。
広大な庭の雑草抜きを始めて2時間ほど経った頃。
メイドが一人声をかけてきた。綺麗に洗濯されているメイド服と美しい所作そして整った容姿は彼女が高貴な身分である事を訴えていた。前に立たれるだけで思わず畏ってしまう。
「貴女達、これを使いなさいな」
メイドはそう言って手の甲に不思議な花の模様があしらわれた手袋を2セット手ずから差し出してくる。初めて、屋敷のメイドから物を貰った事と身分の高そうな人に直接手渡しされた事に強い衝撃を受けた。
手袋は分厚い布で編まれた物で、おそらくコレを付けていれば手を怪我する事は無いだろう。
「「ありがとうございます」」
すぐにアンちゃんと2人で頭を下げると、綺麗なメイドは満足そうに微笑んだ。
「あら、手を怪我してるの?見せて」
私が手を見せるとメイドは、怪我した手を白い綺麗な手で包み込んでくれる。
「ふふっ、よく頑張ってるわね。続けて頑張って」
暖かい感じがして自分の手を見ると、全ての傷が癒えていた。傷跡すら残っていない。
「あなたもね」
そう言って、メイドはアンちゃんの手も癒す。
「これって魔法?」
ボソッと呟くと、メイドは上品に微笑んで歩き去って行った。
私に出来るお礼が無いので、せめて感謝してる事を示す為にメイドの人が見えなくなるまで深々と頭を下げ続けた。
「優しい方でした」
「そうね、それに凄く綺麗だったわ」
正直、あんな人になりたい!と思わずにいられなかった。
その後、アンちゃんと綺麗なメイドさんから貰った手袋を装着し張り切って草むしりを再開する。
夕方の5時、嫌なメイドがあくびをしながら戻ってきた。
「あら、コレだけしか終わらなかったの。本当に役立た…………」
メイドは変わらず憎まれ口を叩こうとして、私が付けている手袋を見た瞬間、突然ピタっと停止した。
じっくり5秒ほど停止して、再び動き出したメイドは恐る恐る口を開く。
「貴女達、それは何?」
「手袋です。通りかかった方に頂きました」
答えるとメイドの顔がどんどんと青ざめていく。
「どんな方が通ったの?」
「えっと、綺麗な服を着た金色の髪の可愛くて綺麗な人です」
アンちゃんが綺麗で金髪である事以外理解できない答えを返す。ただ、嫌なメイドにはそれで充分だったみたいで
「嘘でしょ!?なんで……エカテリーナ様が」
と慌てていた。綺麗なメイドの人はエカテリーナ様って言うんだ……私にはそっちの方が大事だった。
「貴女達、私の事は話してないでしょうね!」
突然、すごい剣幕になって私の肩を掴みブンブンと振り回す。脳味噌がシェイクされて少し気持ち悪い。
「は、話してません」
「もし、私のことを誰かに聞かれたら私は向こうで働いていたって答えなさい。分かったわね」
メイドがそう言って睨みつけてくるが、どうやら手遅れだったらしい。後ろにエカテリーナ様が立っていた。
「無駄ですよステファニー、貴女が向こうの木陰に隠れてサボっていたのは知っています」
嫌なメイドのステファニーの顔が引きつる。
「エカテリーナ様」
「カーチャで良いわ。いつも言っているでしょう」
「すいません」
ステファニーがどんどん縮こまっていく。
「ステファニー、貴女には失望しました。いつも言ってましたよね働きに来てくれている子達を虐めてはいけないと。彼女達に渡す為に私が用意した手袋はどうしたのですか?折角、いつも庇ってあげていたと言うのに、結局貴女も下の者を虐めるのですね。それも、こんなに可愛らしい子達を。全く、救えません。この事は貴女の家にも報告しますしフリードベル様にも報告致します。最悪は避ける様に進言しますが、厳しい処遇が下るでしょう。今日は部屋で反省していなさい」
「えっ、あの、……うぅ、はい」
ステファニーは反抗しようとするが、エカテリーナ様の視線を浴びると何も言えなくなり結局、一言も反抗する事なく絶望的な顔でメイド寮へと帰っていった。私とアンちゃんは、かなりスカッとしたがソレは秘密だ。
「貴女達には申し訳ない事をしました。良く働いてくれたとサマンサ元メイド長も褒めていましたよ。不快な思いをしたと思いますが、また働きに来てくださいね。それでは。」
そう言ってエカテリーナ様は再び本邸へと帰っていった。手袋をどうすべきか混乱する。返すべきなのだろうが、汚してしまったものを、そのまま返すのは間違っている気もする。
「手袋は持っていってくれて大丈夫よ。同じような仕事があった時に、使いなさい」
エカテリーナ様は振り向いて、笑顔で告げると再び歩き出した。
私達はメイド寮に向かう為、彼女と逆向きに歩いていく。メイド寮では眼鏡のメイドが仕事を続けていた。
「あの、仕事が終了しました」
アンちゃんと一緒に報告すると、眼鏡のメイドは顔を上げて立ち上がる。依頼板にはSと書いてあった。この仕事でS評価を貰ったのは初めてだ。
「ありがとうございました。此方をお返しします」
「「ありがとうございます!!」」
私とアンちゃんは笑顔で受け取る。
「それでは、気をつけてお帰り下さい」
そして気分良く出口へ向かう。
「あぁ、ノーラさんは少し待ちなさい」
突然、呼び止められて足を止めると眼鏡のメイド が裏から1冊の本を持ってきた。
「もし、本当に此処で働きたいのであればコレを持ち帰り書かれている事を覚えなさい。3日後に再び同じ依頼を出しますからソレを受けて返しに来なさい」
「良いんですか?」
本は高級品だ。私じゃあコツコツ貯金して1年に一冊手に入れる事が出来たら良い方だろう。
「えぇ、貴女を時々見ていたお陰で我々の汚点を知る事が出来ましたから。まぁ、お礼の様なものです。それに、貴女には人を気遣っている余裕などありませんよ。必死になって全てのチャンスにしがみつく程で無ければ、貴女の身分では礼儀を学ぶ事が出来ませんからね」
「はい!ありがとうございます」
私は再び眼鏡のメイドに礼を言って冒険者ギルドに向けて歩き出した。




