閉じられた書庫と喋る本と才能
ここの文章を書かなくていいことに最近気づいたのでこれからは無理やり何らかの文章で埋めるなんてことはしません。
「だからあ、呼んだ?って聞いたの。あんた、耳、聞こえる?」
本が喋った……。今ならあのハンバーガー屋のCMで少年少女たちが発狂していた理由が分かる気がする。
「あんた、何言ってんの?っていうかここが何かわからずに入ってきた感じっぽいね。よし。それなら私がここが何なのかを説明してあげよう。言葉はわかるはずだね?」
「ええ、まあ」
「うん。いいだろう。まずここがどういう場所なのかを説明しよう。ここは隔時の書庫って名前で、通常の時空から隔離されてるんだ。どういうことかというと、外とここは時間の流れが違うってことさ。ちなみに今は外と比べて時間の流れが、かなり遅い。どのくらいかというと、向こうで瞬きする間には、こっちでは10日くらい経つだろうね」
「いや、なが…」
「で、なんで扉を開けられないかというと、適性が無い者にはここの扉を内側から開けることができないからさ。な?簡単だろ?」
簡単だがそれだけに恐ろしさもわかりやすいな。…ていうかプロコーピーはなぜこんなところに俺を入れたんだ?殺すことが目的なのか?いや、それはおかしい気がするな。彼らは俺を人手として呼び出した。ならすぐ殺すのはおかしい。この本は何か知っているだろうか?
「多分だけど、わかるよ」
「…え?」
「君が言おうとしたことがなんでわかったか疑問みたいだね。すでに何度かしたけど、私は心が読めるんだよ」
「じゃあ、今まで考えてたこと…」
「だだ洩れ」
「まじか」
「…なんで心を読めるか。それはね、私がここの案内人、そして訪問者の鏡写しの存在なようなものだからさ。だから言葉も通じるし、心も読める。そういうことさ」
「えぇ…。…鏡写しなのに俺が知らない情報を持っているのはなんでなんだ?」
「その理由は、私が案内人でもあるからだね。ただ、君の認識はちょっと間違っていて、私の知識はあくまでも案内人としてのものしかないよ。で、プロク君が君をここに入れた理由だけど、多分、適性や才能を図るためじゃないかな。やっぱり、適当なところに人員を配置しないと効率的じゃないからね」
「適正…才能……ね…」
「昔に何かあったみたいだけど今はそんなこと考えてないで、何するか考えなさいな」
「そう…だな…。どうしたら、適性とか才能とかがわかるんだ?」
「私は鏡写しの君だ。私に聞いてみるといい」
「じゃあ、教えてくれ」
「よし来た。君は……」
自分が唾を飲む音が聞こえた。
「ほう!」
「…」
「まず適正についてだが、君はないことはない、みたいだ。説明していなかったが、なんの適正かというと、ずばりこの部屋の、時空凌駕の適正があるかどうかだよ!」
「なるほど?」
「…君はずいぶん変わった解釈をするんだね」
「え?」
「いや、何でもない。この適正があると何がいいか、というと、気付かずに殺されることがないということかな。この説明はめんどくさい。いつか誰かから聞いてくれ。で、この適正がこの部屋でどう働くかというと、この部屋ですぎる時間が多少はいじれるようになるんだ」
「つまり、プロコーピーがここを開けるまで生きていられるように時間の流れを調節できるのか?」
「そういうこと」
「それで、どのくらいまで変えられるんだ?」
「通常の時の流れより少し遅いくらい、といったくらいかな」
「じゃあそう調節したい。」
「やってみよう。………できたよ。それで、才能のほうは聞いてくかい?」
「…ああ。きこう」
「君の才能は、異世界から来たということもあってなかなかすごいものだよ。なんと、『魂』の思念を読み取ることができるんだって!これはすごいよ?そこら辺の物の意思がわかるようになるんだ」
「それは…すごいな」
「そう言ってる割にはすごいと思ってないみたいだけどねえ。まあ、君の過去なんて私は知ったこっちゃないし、普通にすごいから喜ぶべきだと思うけどね。あ、そうだ。ここの物の思念を読み取るのはやめておきな。多分脳が壊れちゃう」
「…ああ。わかった」
「………はあ。つまらないなあ。そんな感じだと話してる人も嫌な気分になるから、一人の時以外はやめてくれるかい?…さあ、気分転換にでもこの世界に対しての知識でも広げたらいいじゃないかな」
「…そう、だな。そうするよ。何か、こういう情報を知っておいたらいいみたいなのはあるか?」
「そうだね。ここら辺の文化や歴史、地理とかが妥当じゃないかな」
「なるほど。じゃあ、地理を調べたいな。案内を頼む」
「はいよ。お任せあれ」
するとこの本が…そういえば名前はなんていうんだろう。
「好きに呼んでくれていいよ」
………じゃあ、案内本と呼ぼう。案内本が浮かんだ。そして、進みだしたので、後についていくことにした。少し進み、ベランダのような構造の開けたとこに出て、この書庫の広さを改めて知った。何層にも階層が分かれており、パッと見たところ十階以上はあるようだった。いったい何冊ほどの本があるのだろうか。
「あえて言うなら、無限に、かな」
「心の声、洩れてるんだったか…。なんか気持ち悪いな」
「まあまあ、そう言わずにさ、私は君が唯一完全な信頼ができる存在なんだから、慣れてくれないと」
「そんな簡単に他人は信頼できないだろ」
「他人は、ね。私は鏡に映った君だ。自分が信頼できない存在はいないだろ?もしできないなら、この世にいることがおかしいじゃないか」
「まあ、そうだな」
結構えぐいこと言うんだな。
「心外だなあ。事実じゃないか」
「人によってはその事実が辛すぎることがあるんだよ」
「ふーん」
「興味ないんだな」
「まあね」
そんな会話をしながら歩いていると、何かを忘れているような、そんな違和感に見舞われていたが、結局わからなかった。それにしても、いったいこれからどうなるんだろうか。