その都市は成長する
「それで?本当に領主にさっきのこと、報告しに行くの?」
現在俺たちは、先ほどの関所を離れてから数分経ったところであり、森の木が少なくなってきた森の道を移動しているところである。
「まあ、ヴェニートの領主は確か、金さえ払えば話を聞いてくれるんじゃなかったかのう。だから、さっさと話しをして、本題じゃ」
「…そう」
カーテンを開け、外が見えるようになっているので、そこから外を見ながら二人の会話を聞く。
「ところでフェリシア様?その口調、普段から気を付けなくていいので?」
クロイシュルトが口調を変え、フレニアに聞く。
「はっ、わしはこういうの慣れとるんじゃよ。まあ、普段と同じにしててもショーンのようにボロを出したりはせん」
「ボロを出した覚えはないんですが…」
「どうじゃろうな。これからわからんぞ?」
よーし。絶対ボロ出さないでやる。何ならフレニアがボロを出すように誘導してやるぐらいの気概でいよう。
「そう思うなら。まずわしとクラウディアの心の中での呼び方を、直したらどうじゃ?」
「…ハイ、ソウデスネ」
それから少し経ち、小規模な村が見えてきた。さっきの守衛たちの村だろう。何人かさっきの守衛たちと同じ格好をした人たちが見える。
小規模な村といっても、ある程度の大きさの畑が見られるし、宿屋や雑貨屋などの商店がいくつか見られる。その中に比較的新しい建物がある。その周囲に守衛たちが多いことを考えると、最近できた、守衛の詰め所といった所か。
戦争に巻き込まれる側も大変なんだな。
色々気になるところもあるが、あくまでも我々の目的は交易都市ヴェニートへ向かうことであり、日もまだ沈まないのでこの村はスルーだ。
それからさらに進んでいくと、今までの道が舗装された、幅の広い道に合流した。
具体的には、馬車三台が余裕をもって並ぶくらいだ。
「これがベルクツェンの大街道ですか?」
「正確には違うわね。この道は大街道から延びた側道よ。今と逆側に進んだらまた違う大きな都市があるのよ」
「それで舗装されてると」
「そうね」
周りの風景は、木の数が次第に減っていっている。もう森というよりは林といった感じだ。
さっきまでは全くすれ違うものはなかったのだが、この道では馬車とすれ違ったり徒歩の旅人とすれ違ったりしている。確実に都市が近付いてきているのが感じられる。
「ベルクツェンの大街道が見えてきたようじゃな」
「あれが…」
フレニアがそう言うまで本を読んでいた。そして再び窓に目をやると、いくつかの建物が並んでいるのが見えた。
「あれが?」
「ベルクツェンの大街道は往来が多いから、そこそこ大きい道との交差地点を中心に、等間隔で宿場を兼ねた警備兵の詰め所が配置されてるのよ」
「なるほどなあ」
そんな会話をしている内に今の道が大街道に合流する。
確かに大街道と言われるぐらいはあるといった道の広さだ。さっきの四倍近く広い。日本でも大きい街くらいでしか見たことない広さだ。そして往来の量が明らかに増えた。さすがに現代の車の数ほどとは言わないが、外を見れば一台以上は馬車が見えるくらいには増えた。
「クラウディア、覚えているとは思うが念の為の確認じゃ。わしらは次の宿場で一泊し、そして明日の内に一気にヴェニートへ行く。良いか?」
「ええ、しっかりと」
その会話を聞き、俺は本へ目を戻した。
そしてその後、数時間かけて次の宿場へたどり着き、そこで一泊。
ちなみに部屋割りはフレニアとクロイシュルトが同じ部屋、そして俺が一人だった。
翌日、他の宿泊者が起きていないほど早く出発することになった。
外は未だに日が出てきていない。
「余計なお世話かもしれませんが、この時間帯に出発する場合はお気を付けください。魔族は活動が活発ですし、警備兵は最低限しか配備していませんので」
出発するときに警備兵に言われた。
「いよいよ、見えてきたようじゃな」
そのフレニアの一言で目を覚ます。今朝が早かったため寝てしまっていたようだ。
窓から首を出して前を見ると、壁とその手前に広がっている町が見えた。壁がかなり長いことが窺えるが、町の規模としては普通といった感じだ。交易都市と言われるにしては規模が小さいというか…。
「ショーンは本でこの都市のことをあまり調べなかったようじゃの」
「ええ、都市の情報なんていちいち調べてたらキリがありませんからね」
「この都市はのう、壁が何重にもかけて建てられているんじゃよ」
「何重にも?」
「守るために何重にも建てたわけではないぞ。都市が広がっていったから、その外郭を覆うためにこの都市の領主がたまに壁の建設をするんじゃよ」
「なんか非効率な上に費用がすごそうですね。しかも都市の維持が大変じゃないんですかね」
壁の建設費用なんて回数を増やすたびに高くなるだろうし、もろもろの維持費とか治安とか、とにかく不安点が多い。
「まあ、この立地でなきゃまずできない芸当じゃろうな。『王国』と『連合国』の国境。しかもベルクツェンの大街道の中でも屈指の交差点の密集地の上にできた上に、周りにも交差点がある。自然と金が集まる上に、かなり前から両国に随分手をかけられて育てられた都市じゃ」
「その上、毎年ここで店を開くために人が集まってきているそうよ。ある歴史書で『成長する都市』と記述されて、一時期その呼び名が残り二つの大陸にも轟いたそうよ」
はたけば、はたくだけいいとこが出てきそうだなこの都市。
「治安維持ってどうなってるんですか?」
「外部からの脅威は、金に物を言わせて大量の警備兵がいるらしいが…、そういえばこの都市の治安維持がどうなってるか聞いたことがないの」
「私もないわね。今度探りましょうか」
「そうじゃな。まあ今度、だがな」
そして馬車は昨日の関所の確認のような検問を受け、特に問題なくヴェニートへ入った。