傷口は水で洗い流せ
諸事情により、タイトルを変えました。
これからもよろしくお願いします。
噛まれた左手首の痛みがさらに増していっている。一度脚から力が抜けてしまったが、もう一度気合を入れ立ち上がる。
「ショーンさん!大丈夫ですか?先生に聞きましたよ、魔族との戦闘は初めてだったみたいじゃないですか」
守衛隊長(仮)さんが駆け寄ってくる。
魔族とは、さっきのオオカミのことだ。この世界には、竜など、ザ・ファンタジーな生き物もいるらしいが、地球にもいるような野生動物もいる。人族と呼ばれている生き物以外は魔族と呼ばれている。例外もいる上に、呼び分けの基準も詳しくはあるらしいが、それを調べるのは後回しにした。時間がかかりそうだったからね。
「え、ええ。ただここを噛まれてしまいました。感染症とか大丈夫でしょうか?」
「感染症?傷熱のことでしょうか?」
「傷熱?」
病気のことについては地球と同じと思ってあまり調べてないが、傷熱って何だろう。そもそも、菌とかウイルスとか、地球と同じなのだろうか。
「ええ、傷を負う機会がなければ、あまり馴染みがないかもしれませんが、傷を負うとたまに熱が出るんですよ。まあ人によって程度とか違いますけど」
「そういえばショーンには、あまり病気のことを教えなかったね。今度、教えてあげよう。まあ私も専門家ではないから、本で読んだことしか知らないがね」
「…ありがとうございます」
フレニアの話し方がすごく気になる。常に敬っているように振舞うというだけでもボロが出そうで気を抜けない。
「さあさ、どうぞこの薬をお飲みください。そこまで良いものではないですが、そのくらいの傷なら明後日くらいには治るでしょう」
「どうもありがとうございます」
ガラス製の瓶に薄い緑色の液体が入ったものを手渡される。これがいわゆるポーションか。粘度はない。蓋を開けて一気に飲む。これはかなり薄められているものなので、量が結構多い。少し渋みが強く、香りがやけに雑草なお茶といった感じだ。
守衛隊長(仮)さんに瓶を返し、他の二人が治療を受けているところに歩いていく。
「そういえば、どうしてここら辺にオオカミが居たんでしょうか」
「…ええ、ここら辺にオオカミは居ないと思ったのですが、念の為に私が領主殿に報告しておきましょう」
「良いのですか?ありがとうございます、先生」
先ほどの戦闘でオオカミに噛みつかれた二人は、布が敷かれたところで治療を受けていた。特に傷が酷い、最初襲われていた方は魔法をかけられていた。回復の魔法だ。魔法をかけている人は左手をかざし、右手にはぼんやりと光る石を持っている。この石は、魔力が込められた石、いわゆる魔石で、魔法を極めていなくてもある程度のレベルのものまでは使えるようになるらしい。
この回復魔法は、治癒速度を少し早めるほどらしい。
「ショーン君。こっちに」
「はい」
クロイシュルトに呼ばれる。
「あなたはもう回復薬は飲んだのね」
「はい」
「じゃあ、包帯を巻くだけで良いわね」
クロイシュルトは、あらかじめ受け取っておいたのか包帯と布を手に持っていた。クロイシュルトの前に座ると、クロイシュルトが布を傷口にあて…。
「ちょっと待ってください」
「どうしたの?」
「消毒もしてないし、そもそも水でも洗ってなくて」
……?なぜかみんなが変な顔をする。
「えっと、消毒?って?水で洗う?なんで?」
「なんでって、雑菌が傷口に入るからじゃ…」
「布で塞げばいいんじゃないのか?」
周りが不思議そうに聞いてくる。
「そもそも雑菌が体に入るのって悪いのか?」
「えぇっと?」
どうしたものかと、フレニアの方を見るが、フレニアもよくわかっていないようだ。
「えっと、雑菌が傷口に入ると病気になりやすくなると思うんですが…」
「傷熱か?おまじないみたいなものか?」
「…いや、おまじないというよりは…」
……おそらくこの世界の住民は回復魔法や、魔法を使うポーションで菌やウイルスに対しての認識がおかしいようだ。
「…そうです!おまじないです。私の故郷では、傷口を水で洗って、蒸留酒なんかで軽く湿らすと傷熱になりにくくなるっていうものがあるんですよ」
「そんなおまじないがあるのか」
「ならやってみても良いかもな」
その後馬車に積んであった水の魔石と、守衛の一人が持ってきていた蒸留酒を受け取り、消毒をしてから傷口を手当てした。他の二人も同じ手当てを望んだので、同じように手当てをした。
ちなみに蒸留酒をこっそり持ってきていた守衛は守衛隊長(仮)にこっぴどく叱られていた。
「では、我々はそろそろ先へ向かいますね。魔獣の報告、任せてください」
「何から何までありがとうございます。先生」
そうして俺たちは関所を後にして再び移動を始めた。