別話 伝説と『天秤』の邂逅
緊張で詰まる肺をたしなめ、息を整えながら魔石灯に魔力を込める。魔力を込める量に気を付けながら明かりを調整する。ぼんやりと明かりが点く。
手元の薄暗い明かりを頼りにあたりを見渡す。すると、そこは三方を壁に囲まれた小部屋だった。今ここに壁を崩して入ったことを考えると、ここは隠し部屋だろう。その事実に気付いた瞬間、心臓の鼓動がより大きくなった。
これはまたとない機会だ。何か新しい発見があるかもしれない。歴史に名を残せるかもしれない…。
そんな希望を抱き始めた時だ。物が部屋の真ん中にしか配置されていないことと、その真ん中に置いてある雑多な品々の中でも特に目を引く大きな石の箱に気が付く。
真ん中に近づき、箱を開けてみる。中には天秤が入っていた。その天秤は飾り彫りなど一切なく、表面の質感が特徴的で、例えるのが難しい。強いて表現するなら、「かなり滑らか」と言うのが正解だろう。持ってみた感じはとても軽い。
特徴がこれだけ揃っていたら、誰にでもこれが何かはわかる。これは製造不能の超技術と呼ばれるものだ。
とてつもない発見をした、と訴える早鐘のような心臓を無視し、冷静を装い考える。これはいったいどんな機能があるのか、と。この手のものは研究を何回か重ねて真の役割が知られるものだ。今ここで知るすべはない。
しかしこの場はとりあえず引き上げることとした。魔力に気を使っていたのにも関わらず、瘴気が燻ってきた。
自分が崩した壁を乗り越えると、心臓の鼓動と同じくらいの速足で出口へ向かった。