青紫
十二色相環 青紫の方
時代背景として2000年代前半の話ってことを念頭において欲しい。
色盲という言葉がまだ一般的だった時代。
盲という字が差別的なニュアンスを含んでいたのはいつからだろうか。
色覚異常は遺伝であるがは職業を制限されることが多々あった。
中傷や侵害だという声により小学校での色覚検査制度の変更もあったが
偏見や就職の格差が是正され始め、社会の理解が改められ16ていくのは近年の話である。
現在の話、「色覚多様性」と呼び名を変えその受け止め方は「血液型」と同じ様に個性として捉える見方が広まっている。
あまり聞いていて心地良くは無いと思う。
僕はどうするべきだったか気付けたとしても…。
だから絡まった細糸を解くような慎重さで必死に記憶を探る。
大昔という程でもないのに主観的に見てもとても訊き返したくなる。
まるで現実味がない。
決して私達には分からないけれど、
ただ僕たちはいつからか知れず、
世界を何色かもわからない、色の付いた眼鏡で見ていたのかもしれない。
そう思った。
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暫くその車は山の斜面に沿って走っていた。
僕と、1人のヒッチハイカーを乗せた車だ。
車と言っても軽自動車で、凱風吹く5月、新緑色の森にはあまり似合わない。
ここは岐阜の山中で、太陽も出ているのに人っ子1人歩いていない。
さっきまで日本海を見に行こうとしていたとした僕が何故、岐阜か。
それはこの搭乗者が関係している。
「で、颯斗さんはどこ行くんですか?」
「いや、もうどこでもいいよ。」「じゃあここまでお願いします」
そう言って、赤信号の間に彼女はスマホのマップ画面を見せて
目的地を示したのだった。
ことの始めを回想する。
自分は自動車で国道を走っている。いつの間にか市街地を抜けている。
看板が立っている。視界の隅に古びた路上の脇道に紫紺色の服を着た人が見える。
見上げる空は灰色に染まる事を拒み続けていた。下の地面に燻んだ滲みを作っている。
人影は頼り無げな日傘を憮然として提げていた。
それから「誰にも言わないで下さい。」彼女はそう言った。
字面はそうでも無い。だが語調の端々と有無を言わせない凄みを感じた。
だから乗せることにした。その理由を挙げれば何より清廉、という事を思わせる、
はしばみ色の潤う瞳が自分の心に訴えて離さない事だった。
「颯斗さん、前、見てください。」
はっと声に気づく。信号機の色は緑色に変わっている。
僕はすみませんと謝る、
「」