無題の英雄譚
魔導式戦闘車、またの名を戦車。
その名の通り戦うために作られた兵器だが、それにはガソリンを使うエンジンや、
実弾を放つ主砲はなく、それらのすべてが魔法の力によって動いている。
昔は、いわば【原始的】な戦車も存在したのだが、
ウィルベント帝国が戦車を開発した後は、もはや実弾を使う武装など、
無力にすぎなく、「大砲撃つなら詠唱せよ」などということわざができるほどで、
銃火器は古代の兵器と揶揄されるまでに落ちぶれていた。
帝国軍が初期に開発したものは直方体の車体に砲を載せそれらを動かすための魔素を積んだだけの、
簡素な作りだったが、次第に戦車どうしの戦闘が始まると、装甲や速度、火力などが強化されていった。
そもそも魔法は戦車開発前にも存在していたのだが、古代の人々は「不思議な力」程度にしか
認識していなかった。だが、400年前ごろの研究者たちが魔法や魔素の原理を解明させると
急速に魔法そのものが発展していった
まず魔素には五つの属性があり、炎、氷、風、雷、光とそれぞれ固有の能力を有している。
しかし炎と言っても火が噴き出すのではなく、ある条件がそろったとき、発熱するだけであり、
条件を変えることによって魔法の性質が変わる。
そしてそれらの魔素を固めた魔素塊を砲弾として射出しているのが戦車の砲となる
例えば、魔素塊の属性が炎と風で条件が『衝撃を受ける』だった場合
着弾した瞬間、炎属性の魔素により熱が発生、
風属性の魔素が破裂し、爆炎が着弾地点を包み込む。
条件が『空気に触れる』だと、射出した直後、魔素塊の表面から爆風が発生し、
そのまま飛び続け、魔素塊内の魔素が消失すると同時に爆風も止む。
といったように条件や性質、属性を変えることで、
敵戦車を撃破するに最適な砲弾を研究してきたものの、最適解は導き出されていないのが、
現実である。
ジャックたちの乗る『Nona-23』は皇国内のレルフ社が開発、製造した戦車で、
皇国軍初の、魔素庫が置かれ、
砲弾を車両内で加工することで、砲弾の性質を即座に変えられるという、
最新の技術が使用されていて、期待が大きかったものの、
ベテランの戦車兵たちではなく、名も知れていない新人たちが乗ることになり、
軍全体としては「正式採用はないだろうな」と考えられていた。
皇国内には主に二つの戦車開発部がある。
戦車は『Nona-23』を作ったレルフ社と、
主に重戦車の製造をするエライズ社により開発されているのだが両社は非常に仲が悪く、
正式採用の座を奪い合うような関係だった。
そして今回、両社から提出された試作車両の一つが、『Nona-23』だった。