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平凡男子、断食系男子になる

「渡井さん! 本当に好きなんです! 僕と付き合ってください!」


 放課後、誰もいない教室で、僕は目の前に立つ少女に5回目の(・・・・)告白をした。

 5回目とはいえ、やはり緊張するものは緊張する。

 息を呑んで待つ僕の視線の先で、彼女――渡井愛佳わたらいあいかは、スッと視線を虚空に彷徨わせてから……ポツリと言った。


「いいよ」


 その言葉を脳が理解するまで、しばしの時を必要とした。


 なにせ、彼女に一目惚れしてからこれまで約半年、4回告白して4回フラれてきたのだ。

 今回も、正直フラれるだろう。もういっそのことばっさり拒絶された方が諦めがつくかもしれない。そのくらいの気持ちだったのだ。

 しかし、数秒経つと理解が追い付き、胸の奥から歓喜が湧き上がって来る。

 その湧き上がる感情が、衝動的に口から放たれる――――その一瞬前に


「ただし!!」


 渡井さんの強い声が、教室内に響いた。


「キスも、それ以上のことも、結婚するまでは一切ナシ。それでもいいなら、付き合おう?」


 まるで挑むような鋭い視線と共に告げられた言葉に、両目を見開く。


(ずいぶん古風なことを言うんだな)


 思わずそんなことを考えるが、別にその程度のことはなんの問題にもならなかった。……少なくともその時は。


 その時の僕は、あの(・・)渡井愛佳が告白を受け入れてくれたという事実で胸がいっぱいになっていて、そんな条件は些細なことだと思ってしまっていたのだ。

 彼女と恋人同士になれる。彼女の隣に立つことが出来る。

 そんな夢のような状況の前には、キスやそれ以上のことが出来ないことなど、なんの問題にもならないと。

 だから、僕は――


「も、問題ないよ、全然。それでいいから付き合おう! あっ、いや、よろしくお願いします!!」


 この幸運を逃すまいと、一も二もなくその条件を呑んでしまった。

 ……それが、生き地獄の始まりだとも知らずに。






 ―― それから半年後


 僕――倉瀬聡くらせさとしは、未だに渡井さんと恋人関係を継続している。


 彼女、渡井愛佳は僕と同じ高校に通う同級生で、所謂いわゆる学園のアイドルだ。


 その美しく整った容姿に加え、明るく人好きする性格で、男女問わず人気を集めている。

 成績も優秀で、その上彼女は新体操の強豪校である我が校で、女子新体操部の絶対的エースでもある。

 日本女子新体操界の期待の星として、雑誌やテレビの取材も受けるほどだと言えば、彼女の凄さが分かるだろうか。


 当然だが、そんな彼女はモテる。それはもう物凄くモテる。

 もう1年近く前になるが、去年の8月に彼女が全国大会に出場して、1年生でありながら種目別で優勝して以降、その人気は頂点に達し、一時期はほぼ週一のペースで学校問わず告白を受けていたらしい。

 しかし、彼女は「今は新体操に専念したい」と言って、それらを全て断っていた。

 今から半年前の高校1年の冬に、僕の告白を受け入れるまでは。


 え? そんな彼女と恋人になれるなら、お前もそれなりのスペックなんだろうなって?

 いやいや、僕は凡人も凡人。容姿も平凡なら成績も中の上程度。運動に関してはどちらかというと苦手。まあ典型的な男子高生Aって感じだ。


 そんな僕に、彼女がなんでオッケーを出してくれたのか。

 最初は、5回も告白した熱意が通じたのかと思っていた。

 しかし、告白成功当初の熱が冷め、半年も経てば嫌でも分かった。


 彼女が、別に僕のことを好きでもなんでもないってことくらい。

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― 新着の感想 ―
誰も居ないのに誰に告白してるんだろうと、本気で思ってしまった。5回目とかあるし、エア告白なのかと。 そうだよな。 そう表現するしかないよな。
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