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最凶魔導師のまったりスローライフ  作者: 霧丈來逗
第一章 貴族の兄弟
9/19

9、心配と思惑

今回はエトワールとアルフォンソを父親、ドラティエラ伯爵視点です。



 アルフォンソ、エトワール、いったいどこにいるのだ。


 そんな言葉が後悔と共に私の頭をよぎる。私兵に探させ情報を集めているもののなかなか見つからない。手がかりも僅かだ。


 私は目頭をもみほぐす。他の者が私の今の姿を見たら驚くだろうな。

 外交を任されている私は隙を見せることが許されない。それどころか相手の懐にもぐりこまねばならない。それをずっと続けてきた結果、周りにこういった姿を見せられなくなった。私の苦悩を見抜けた者は今までに二人だけ。先代皇帝レイストル様ともう一人…。




 

 ふいに何かの気配を感じ目を開ける。人ではない何か…





 すると座っている私の斜め前に一羽の赤褐色の梟がいた。口には手紙らしきものを銜えて居る。

 この梟、どこから来た?この部屋の窓は開いていないし扉も締まっている。使用人たちも気づいた様子はない。怪しみながらもその梟を見ていると机の上に銜えていた手紙を落とす。そして中を見ろとばかりにこちらを見つめる。



 どこか見たことがあるその梟から目を離し私は手紙に手を伸ばす。…どうやら害のあるものではないようだった。

 立場上そのようなものが送られてくるときもあるため警戒は怠らない。裏にして手紙につけられている印章を見て驚いた。



 そして無言で魔力を流す。描かれている鳥と虎は動き出し手紙の両端に移動する。間違いない、これはエルドジークの印章だ。鳥と虎が描かれている時点でそうだとは思ったのだが念のため魔力を流した。すると模様が動き出し手紙を開けるようになる。間違いない。



 私はかすかに笑みを浮かべる。レイストル様が皇帝の位を譲った時にともに退いた、冷徹で容赦ない物言いの最凶の魔導師。

 そして……私の苦悩を見抜いたもう一人の者。そんな人物が何もないのに手紙を送るわけがない。そして大方事情を把握しているのだろう。

 少しの期待を込めて読み始めた。。








……思った通りだ。思った通りだが、想定外もある。

 その手紙にはアルフォンソとエトワールが自分のもとにいると書いてあった。そして、そこにたびたびレイストル様が来るということも。

 何より驚いたのが、アルフォンソとエトワールがその分野の頂点と言ってもいい者に魔法と剣を教わっているということだ。

 親としては何よりの英才教育なのだが、あの二人が本当についていけるのか少し不安になった。


 そして最後にはいつも通りの口調でこう記してあった。




『お前の考えはわからんが、大方子供にどうにかさせるつもりだろう?まあいい、やる気にはなっているが今のままで到底どうにはできるとは思わん。我も少し手を貸そう。


 お前のことだから無いとは思うが、仕事が手につかぬなどと甘ったるいことを抜かすな。もし、そうならお主はもうだめだ。隠居して、自分の無能さとでも向き合っていろ。直接会う日まで首を洗って待っているがいい。



追伸

 我の住まいを探そうとしても無駄だ。何かあるのなら手紙を持ってきたフィリアに聞け。我の使い魔だ。』







 手紙を読み終わり目を向けるとそこには真っ赤な髪の女性が立っていた。



『お読みになられましたね。これは主より預かったものです。』


 そういうと一枚の紙を差し出された。そこには魔法陣が描かれている。


『何かあればこれで送れ、とのことです。ですが魔力をたどって家を探すなど無駄なことはなさらぬよう』

「そのような事、しようとも思わない。少し聞きたいことがある。座ってくれ」

『はい、私もいくつかございます』



 短い言葉を交わしソファーに座ってもらう。


「して、アルフォンソとエトワールは無事だな?」

『ええ、主のもとで暮らしております』

「そうか、にしてもあの二人はとんでもない人物の協力を取り付けたものだ。」

『あの二人は協力すると言ったのが主だとは知りません。回復魔法が得意なジークさんだと思い込んでおります。(わたくし)どもも本来の姿は隠しているのです。もちろんレイストル様も同様です』




 その言葉に私は苦笑した。あの二人も大したものだ。今後はどうなるかわからぬにせよ強力な人物とつながりを持ったな。それに、剣と魔法を教えてもらうとは…



『ドラティエラ伯爵。私からも質問をさせていただきます。』

「ああ、答えられるものならばな」


 暗に、すべてには答えぬと言ったのだが、それに気づいているのかはわからなかったがうなずいた。


『後妻を迎えられた理由をお聞きしても?子供が二人いるのならば別に必要ないのではないのですか?』

「単に愛しているから、と言う理由だが?」

『それはあり得ません。主が「あなたが亡き奥方以外を愛すことは無い」と、「何か企んでいる」と言っていましたゆえ。....それに私自身今の言葉は白々しいと感じましたので』

「そうか…」



 エルドジークが鋭いのはいつものことだが、やはり気づいていたか。私はわざと微笑を浮かべる。



「では、何かしらの方法で聞きだしてみてはいかがですか?」

『そのように時間のかかることをするつもりはありません。別に私一人でもあなたぐらいはどうにかできますので』



 挑発の意味を込めたのだが逆に脅されてしまった。やはりエルドジークの使い魔だな。



「わかった。理由は後妻の家をつぶすためだ。子供がいるのなら絶対に自分の子どもを後継者にしようとする。そうにらんでのことだ。しいて言うのなら、アルフォンソとエトワールに経験を積んでもらうという意味もある。」

『そうでしたか。では、遠慮なくさせていただきます。』

「そうか。ではこちらからも。二人の様子はどうですかな?」

『そうですね。....今の生活を楽しんでおられるようです。自分のことは自分で、食事作りなどもやっておられますのでいい体験になるのではないでしょうか?

 お買い物にも行かれておりましたよ。」



 それにはさすがに驚いた。私は広範囲にわたって私兵を送り込んでいる。だいぶ本気で探しているのだ。それでも見つからなかったということは…



『気づかれなくても無理はありません。色なども変えておりますし、当然のように平民の服を着ておりますから』

「そうか。エルドジークがやったのなら仕方あるまい」


 思っていることを見透かされたように言われてしまった。


『こちらからは特に聞きたいことはございません。』

「そうか、私も特にない。後で手紙を送ると伝えてくれ」

『はい、確かに』



 そう言ってフィリアは一礼するとまた赤褐色の梟になり窓をすり抜けて飛び去って行った。そして、しばらく考え事をしていると扉がノックされる。



「失礼します。旦那様、あのお方がまた、使用人をいじめているそうです。子供の方もメイドを部屋に連れ込もうとしているようですが、いかがなさいますか」


 私は従者の言葉に少し考える。後妻と子にまったくの敬意が感じられないがそれでいいと許したのだ。あの者らを引き入れた目的はこの従者とこの家の執事も知っている。



「そうか。とりあえず大事にはならないようにしてくれ。特にメイドの方はな。本人が望むのなら別だが…。ケガを負ったのなら治してやれ。後妻の方には私が行く。伝えておいてくれ。」

「はい」



 そういうとすぐに従者は下がっていった。私は立ち上がり今の妻のもとへ行く。





「ブランカ少しいいかい?」

「旦那様!はい、もちろんです。お入りください」



 私は今の妻ブランカの部屋にいる。相変わらず、金のかかるだけのセンスのかけらもないドレスを着ている。お前がそのようなドレスを着るとますます太って見えるというのに。

 ブランカは少し太り気味だ。最初はそのようなことは無かったのだが金を食につぎ込んだようでより太ってきていた。




「ブランカ。今日は相談があってきたんだ。」

「相談ですの?」

「近いうちにハイメを後継者に据えたいと思っているのだが、どうだ?」

「まあ、ハイメをですか?もちろん賛成ですわ!あの子ならきっとうまくやってくれますわ」


 ブランカの予想通りの反応に思わず笑みがこぼれる。もちろん、思惑通りにいっていることに喜んでいるのだが、ブランカには違うように写るだろうな。


「そうか。喜んでもらえてよかった。私ほどの立場になると後継者を選ぶにも許可がいるようなのだ。正式に後継者に据えるまでは時間がかかると思うのだが、それでもいいか?」

「もちろんですわ!」

「よかった。では、私はそろそろ行く。まだ仕事が残っていてね」

「はい」




 そこまで言うと私は部屋を出る。あちらもたくらみが成功したと思っているだろうが、所詮は私の掌の上。せいぜい踊るがいい。



「旦那様。よろしいのですか?」

「ああ、私の策だ。ラモンを呼んでお前も一緒に私の執務室に来てくれ。待っている」

「わかりました。」





 そう言い残し従者のロベルトは去っていった。

 ルフィノ・ドラティエラ伯爵は人知れず、笑みを浮かべていた。











ドラティエラ伯爵…怖いですね。

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