6、友人レイス
最後の方に少し付け足しました。
買い物を終え三人は家へと戻ってきていた。二人とも…というかエトワールはかなりご機嫌だ。
「よし、荷物を整理しておいで。二人に部屋をあげよう。別の部屋に移動する」
「本当ですの?他に部屋なんてありますの?」
「大丈夫、いくつか部屋は余ってるからね。一人一つでいいね?」
「ああ、もちろんだが…いいのか?今のままでもいいぞ?」
アルフォンソのその言葉にジークは苦笑した。
「だが、兄弟とはいえ気を使うだろう?エトワールが喜んでいるし、アルフォンソも悪い気はしないはずだ。この家の主である私が言うんだから大丈夫さ」
「そうだな…すまない」
アルフォンソは何かを悟ったようでそれ以上何も言わなかった。
「さあ、行っておいで。私は買ってきた物の整理をするから、荷物をまとめ終わったら下に来るんだよ」
「わかりましたわ」
エトワールは嬉しそうに返事をして、アルフォンソは頷いてから部屋へ向かった。
『ねえ、部屋なんてあったかしら?私たちが気付かなかっただけ?』
「いや、ない。今から少し増築する。ヴィリエはいるか?」
『ああ、いるぞ。主、この姿でも普通に魔法が使えるのか?』
「問題ない。二人はエトワールとアルフォンソが気付かないようにしていてくれ、すぐに終わる」
『わかったわ』
『ああ、引き受けた』
赤褐色の梟と白猫は部屋の方に向かった。それと同時にエルドジークは外へ向かう。外に出ないとできないのだ。
家の壁に触れるとさっそく魔力を流し始めた。同時にイメージを膨らませる。
あまりにそれっぽい部屋だと怪しまれるからな、同じような部屋にしよう。二部屋…いや、もう一部屋つくっておくか。
地下には地下室があるからなあ、我の部屋とフィリア、ヴィリエの部屋が一階、それで、扉があるだろう。よし、二階だな。今いるのが客間でそして廊下があり…奥にエトワールの部屋、向かいにアルフォンソの部屋。そして客間の向かいにもう一部屋だな。よしこれでいい。ベットと机、椅子…後は、クローゼットでどうだろう?まあ、他に何かあれば後で買うとしよう。
エルドジークのイメージが固まると家の壁が動き出した。窓が増えていく、それと同時に家も少しだが大きくなった。そしてエルドジークが魔力を流すのをやめると動きが止まった。
「これでいいだろう」
エルドジークは一人でつぶやくとヴィリエとフィリアに念話を送る。
『フィリア、ヴィリエ、終わった。もういいぞ。気付かなかったか?』
『ああ、大丈夫だ。荷物をまとめるのと話に夢中で気づいておらん』
『私たちがいるんだもの心配しなくていいわ。それより、もう少しで下に降りていくわよ。』
『わかった。我も戻る。ご苦労だったな』
そこまで言うとエルドジークは念話をやめて戻っていった。
何事もなかったように買ってきたものを整理していると二人が降りてくる。
「ジーク、準備ができたぞ」
「楽しみですわ~!」
もう、エトワールは楽しみでしょうがないようだ。軽く飛び跳ねている。
「ふふ、わかった。じゃあ行こうか。部屋は同じ二階だ」
一緒に二階に上がっていった。
「そんなに場所は変わらないけど、こっちだ」
先導して歩き部屋ができているか確認する。心配は必要なかったようで普通にできていた。
「こっちがエトワール、こっちがアルフォンソの部屋だ。中に入っていいよ」
すると二人とも同時に扉を開けた。何気にアルフォンソも楽しみだったようだ。
「ここを使ってしまってよろしいんですか?誰かの部屋ってことではなくて?」
「いいや、もともと部屋が余っていたんだよ。だから、気にしないで」
「うん、使い勝手もよさそうだな。ありがたく使わせてもらうよ」
「そうか、よかったよ。クローゼットとかがあるから好きに使っていいよ。何か他にいる物があったら言うんだよ。私は下にいるから終わったらおいで」
「はい」
「わかった」
二人が返事をしたのを聞いてからジークは下に降りて行った。
そして下にいるフィリアに声をかける。
「フィリア、手紙を届けてくれ?」
『ええ、どこに持っていけばいいの?』
「ドラティエラ伯爵まで。一応知り合いだしな、二人のことを心配しているだろうから伝えようと思う」
『いいんじゃない?できたら届けに行くから言ってね』
「ああ」
そう返事をするとすぐにジークは部屋に行った。ドラティエラ伯爵への手紙を書くためだ。
伯爵が騒動のことを知らないというのは十中八九あり得ないな。
知っていて何もしなかったんだろう。まったく厳しい。それでも、出ていくというのは予想外だっただろう。
私のもとにいることを書いて、どうするつもりなのかを聞くか。それと魔法と剣術を教えると書いておくか?
....まあ、こんなものだろう。
ジークはエルドジークとして手紙を送るつもりなので手紙に封をするときにエルドジークの印章(フィリアとヴィリエが描かれている物)を魔法でつけた。
フィリアが行くと言ってもこれくらいしておくのがエルドジークなのだ。もちろんただ書いてあるわけではなく、いろいろと効果があるのだが…
手紙を書き終わり部屋を出てフィリアとヴィリエのもとに向かうといつの間に来ていたのかレイストルがいた。エルドジークはいつもならば嫌味の一つでもいうのだろうが、今はそれどころではない。すぐにレイストルのもとへ詰め寄った。
「おい、レイス。お前いつからいた?」
「おお、エルドジーク。さっき来たばかりだぞ」
「いいか、聞け。今ここには、ドラティエラの伯爵の子ども二人がいる。お前、顔を知られているか?」
「いや、会ったことは無かったはずだ。だが、どうしている?」
「説明は後だ。いいか、二人は我がエルドジークだとは知らない、ジークと呼べ。お前のこともレイスでいいな?ばれるなよ」
エルドジークの焦っている様にレイストルは困惑した。今までエルドジークが焦るようなことはほとんどなく、いつも落ち着いていたからだ。
「ジークさん。終わりましたわ。だれかいらっしゃるのですか?」
エトワールの声が聞こえた。
エルドジークはもう一度念を押しようにレイストルを見ると答えた。
「ああ、友人が来ていてね。気にせずに来ていいよ」
「わかりましたわ。お兄様、行きましょう」
しばらくすると二人が降りてきた。
「こんにちは。ジークさんのご友人ですのよね?」
「あ、ああ、レイスというんだ。あなた方は?」
「訳あって、ジークさんと一緒に住んでいるエトワールですわ。」
「兄のアルフォンソだ」
ジークはばれるのではないかと内心ひやひやしていたのだが特に怪しむ様子もなく二人は納得したようだった。
「お茶を持って来よう」
「私も行きますわ」
ジークがお茶の用意をしようとするとエトワールも一緒に来た。
「ご友人なのですね。ですが年が離れているのでは?」
「確かにね。多少離れているけど、まあ、色々あって友人になったんだけどね」
「へえ、そうなのですね」
エトワールはすんなり信じたようで何も言わなかった。
お茶を用意して戻ると何やらレイスとアルフォンソが話していた。
「では、騎士団におられたのですね?」
「そうだよ。今は引退したけどね。これでも結構強かったんだ」
どうやら、仕事の話らしい。エルドジークは嘘をつけと心の中で言う。時折、騎士団の訓練に参加していたが、実際は先代皇帝なのだから。まあ、ごまかすためには必要な嘘ではあるが…
「ジークさんは魔法を使うんですよね。レイスさんはどうですか?」
「私も多少はね。最も剣術の方が得意だけどね」
「そうそう、ケガをしたときなんかに私が治したりしてたんだよ」
嘘をつけ、とでもいうようにレイスはジークのことを見た。まあ、嘘なのだが…
エルドジークが訓練を見に来るときもあったがレイストルがケガをしても『お前のよけ方が下手だからだろう?』と言うだけで何もしなかった。 そもそも、レイストルが弱いわけでもないし、相手も気を使っているのでケガをすることなどほとんどない。
そんなことをエルドジークとレイストルが考えていると何かを決めたようにアルフォンソが顔を上げた。
「あの、無理を承知でお願いします。私に稽古をつけてくれませんか?」
「「え!?」」
ジークとレイスの声がはもった。
「はぁ、すみません。お兄様はもともと剣術をやっていたのですが、先日何もできなかったことがずっと気にかかっていたみたいで…」
「はい。あの時、俺の力がまだまだだということを思い知らされたんです。どうか、ここに来る時だけでいいので稽古をつけてくれないでしょうか?お願いします」
「あの、私からもお願しますわ。お兄様の願いですもの」
二人から頭を下げられてしまった。レイストルはジークの方を向いてどうする?と目で聞いている。ジークの方は頼む、とばかりに小さく頷いた。
レイスはそんなジークの様子に少し驚いた。自分もこうして頼んでいる者たちの願いをあっさり断るほどの事情があるわけでもないし、何よりエルドジークが頼んでいるのだ。もう、答えは最初から決まっていた。
「頭を上げて。わかった、稽古をつけよう」
「あ、ありがとうございます」
「ただし、だいぶ厳しい訓練になると思うけど、いいかい?」
「はい、よろしくお願いします。」
アルフォンソは本当にうれしそうだ。そんな兄をエトワールも笑顔で見ている。そんなエトワールにジークは声をかける。
「エトワール、アルフォンソは剣術の稽古をやるようだけど、君はどうだい?私にできることならやるよ?」
その言葉を聞いてエトワールは目を輝かせた。どうやら、ジークの言わんとしていることを理解したらしい。
「ジークさん。私に魔法を教えてくれませんか?」
「ああ、できることを教えるよ。一緒にやろう」
エトワールは本当にうれしそうだった。兄妹は顔を見合わせて笑っている。それを見ている最凶の魔導師と先代皇帝という大物二人も此処まで喜んでもらえてまんざらでもなさそうだった。




