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最凶魔導師のまったりスローライフ  作者: 霧丈來逗
第一章 貴族の兄弟
5/19

5、買い物



 翌朝、ジークことエルドジークが朝食を用意していると二人が起きてきた。



「おはようございます。ジークさん」


「おはよう」


「おはようございます。もう少しでできますのでお待ちください」


 ジークが振り返って言う。エトワールはエプロンを付けたジークのことをかわいいと思った。





「よし、できましたよ」


 エルドジークが声をかけるとすぐにエトワールが立ち上がった。


「私に手伝わせてくださいませ。何もかもやってもらっては申し訳ないですわ」


「ですが、これが当たり前では?」


「確かにな」


 いつの間にかそばにいたアルフォンソが続ける。




「普通の状況なら、な。」


「ふふ、そうですわね。お兄様」


「…そうですか。では、これを運ぶのを手伝ってください」


「ええ、わかりましたわ。ジークさんも一緒ですよ」


「そうだな。三人分だ。それと、敬語じゃなくていい。最初みたいな感じでいいぞ、それが素だろ?」




 そんなアルフォンソにジークはニヤッと笑った。


「そうだね、そうさせてもらうよ」





 この時がジークとアルフォンソの距離が縮まり始めた瞬間だった。



























「いや、やはりうまかったな。料理は得意なのか?」


「う~ん、やったことは無かったけどね。やっていくうちに上達した感じかな?」


「本当においしいですわよ。我が家の料理人にもなれますわ」


「いやいや、それはさすがに無理だよ」





 ジークが苦笑いしながら言うとエトワールは不満そうな顔をした。それに気づいたアルフォンソは脇で必死に笑いをこらえていた。

 だが、肝心のジークは全く気付かずに紅茶を飲んでいた。


 



「くく……いや、すまない。…ジーク、俺たちも、ただで力を貸してもらうわけにはいかない。何か手伝いをさせてくれ」


「いや、だがなあ。特にやってもらうようなことは…」


「では、いつもどんなことをやっているのですか?」





 ジークは少し考えこむ。




「そうだな。野菜の手入れをしたり、魚を釣ったり、獲物を狩ったり…それと、ポーションくらいか?」


「そうですわね。私は野菜の手入れをやりたいですわ。後、ポーションにも興味があるのですが…」


「俺もだ。まあ、そうでなくても剣が扱えるから獲物を狩ったり魚を釣ったりするくらいはできるだろうな」




 二人の言葉にジークは少し不安そうな顔をする。





「いや、オーガに負けてたけど」


「いや、あれは、刺客に追われてたからだ」


「それに、ポーションづくりは魔法を使うけど」


「そ、それくらいなら…たぶん」






 二人がしどろもどろになったのをみてジークは笑う。


「とりあえず、少し剣は使えるし、魔法はもちろんから後で見ようか?」


「あ、ああ、頼む」


「お願いしますわ」





 アルフォンソは半信半疑の様だったがエトワールは純粋に喜んでいた。


 ジークはどの程度まで教えていいかを悩んでいたが、そのことは誰も気づいていなかった。




「そういえば、二人は着替えなんかはあるのか?」


「いや…それがないんだ。逃げてきたからな」


「私もですわ。」



 ジークは失念していたとばかりに額に手を当てた。


「それが先だな。よし、今日、町に買いに行こう。ばれないように平民の服にするけど、異論は?」


「ない」


「それで充分ですわ」





 エトワールはむしろ喜んでいるようで鼻歌を歌いながら二階に向かった。アルフォンソは苦笑しながらその後を追い部屋に行く。

 そして、ジークも準備をするべく部屋に向かった。




 少ししてジークが戻ってくると、品の良いズボンとシャツに上着という一般的な平民の服装よりも少しいいような姿で現れた。


 その服装自体は決しておかしくないのだがエトワールは眉をひそめた。そう、その原因は…髪だ。



「ジークさん。髪はそのままですの?」


「ああ、いつもこれだからね。…どうかした?」


「ちょっと、私に任せてください」



 そういうとエトワールはジークを座らせ櫛と青いリボンをとってくる。そしてジークの髪を整え始めた。




「あら、これは、でも、こちらね。う~ん」





 エトワールは一人で悩みながらジークの長い銀髪を整えてゆく。色々と試してみた結果。今回は一つに結ぶだけのシンプルなスタイルになった。



「今回は、これがいいと思いますわ。後でいろいろ試させて下さいませ」


「おお、これはいいね。ありがとう、エトワールさん」

「…ジークさんの方が年上なのですから呼び捨てで構いませんわ」

「わかった」



 そんなやり取りをしているとアルフォンソが降りてきた。




「だいぶ変わったな、ジーク。でも、似合ってるよ」


「ありがとう、アルフォンソ」




 エトワールに言われた通りアルフォンソの事も呼び捨てで呼んでみたが特に気にした様子もなく頷いた。






「にしても、ここから町までってだいぶ遠くないか?なにで行くんだ?」


「ああ、歩いてだよ」


「歩いて!?どれだけかかると思ってるんだ!?」


 



 アルフォンソが呆れたように言うとジークは笑う。


「まあ、行けばわかるよ。」



 そういうと、扉を開ける。

 アルフォンソとエトワールは半信半疑の様だったがとりあえず外に出た。





「こっちだよ。私から離れないようにね」




 そういいながら森の中に歩いていくジークをアルフォンソとエトワールは急いで追いかけた。



 森の中は小鳥のさえずりが時々聞こえたりした。木漏れ日もとてもきれいだ。だが、逆を言えばそれくらいで何の仕掛けもあるようには見えない。





「あの、ジークさん?どのくらいかかるのですか?」


「もうすぐ着くよ」


「だが、普通は三日はかかるだろう?」


「普通ならね」




 ジークは明確には答えずに曖昧に微笑んだ。アルフォンソとエトワールはまったく意味が分からず首をかしげている。





 しばらく歩いていくと森の終わりが見えてきた。向こう側からはたくさんの人の声が聞こえる。





「え、どういうこと?」


「まさか、町が?」


 ジークは二人に何も言わずにそのまま行ってしまう。ついていくと森を抜けた。そして森が開けた先、そこはまさに目指していた町だった。ふつうに行けば馬で三日かかる距離にある、だ。






「私は魔法を使えるからね。仕掛けを作ったんだよ。転移の一種と思ってもらえばいいかな?」





 二人が気になっていたことに対して、ジークは平然と答えた。エトワールは目を輝かせアルフォンソは唖然としていた。





「だから、歩いていけるのですね。すごいですわ!私もできるようになりますの?」


「う~ん、やってみないとかな?それにこれはだいぶ高度な技術だからね。わからないな」


「そうですの」





 エトワールは少し残念そうだったがまだ希望を捨てていないようだった。ジークは…というかエルドジークとしてもこれほど魔法に興味を持ってくれるのはうれしいことだった。




「転移の一種?あなたは回復魔法に特化しているんじゃないのか?」





 アルフォンソの鋭い突っ込みに一瞬たじろいだジークだったがすぐに取り繕う。




「知り合いに手伝ってもらったんだよ。そういうのを作れる友人がいてね。一緒に作ったんだ」


「そうか」






 ジークはアルフォンソにしっかりと答えられてほっとしたが、まだ納得していないようだった。




「じゃあ、買いに行こうか?」




 三人はそろって町を歩く。

 最初は服を買う店だ。ジークがいつも行っている店に向かい採寸をした。オーダーメイドの方がいいだろうというジークのささやかな計らいだった。もちろん、既製品もなん着か買ったが、気に入ってくれたようだった。




 デザインは既製品と同じものを何着かと自分たちでいくつか選ばせた。

 ついでにジークも服を作ったのだがエトワールが張り切ってデザインを決めたのでどうなったのかはわからない。

 だが、エトワールが満足そうだったのでいいことにしよう。




「次は食材でも買おうか?」


「はい」


「ああ、俺も見てみたいからな」





 色々見て回ったのだが、アルフォンソがいろんなものに興味を持っていて驚いた。ちょっと、いや、かなり意外だ。

 そんなこんなで野菜や果物をいくつか買った。そしてそのすきにジークは手紙のセットを購入していた。ドラティエラ伯爵に送るためだ。




 まあ、一応買い物ができた。帰りも森を通ったのだがアルフォンソもエトワールも町で会ったことがよほど楽しかったのかとてもご機嫌だった。











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