3、訪問者
家の中に入るとフィリアとヴィリエが並んで料理を作っていた。
美味しそうな匂いもしている。
「どうだ?できそうか?」
『ええ、もうすぐできるわ』
『我もだ。主も終わったのか?』
「ああ。大分多いからな、保存しておく。皿でも用意するか」
三人?で用意した夕食はとても美味しかった。
『主よ。これはまだあるのか?』
「ああ。かなりさばいたからな。ゆっくり食べろ」
『まだまだあるから、気にしないで食べていいわよ』
どうやらヴィリエはムニエルを気に入ったようで先程からすごいスピードで食べ進めている。
結局、ヴィリエがほとんど食べ尽くしてしまい少しも残らなかった。
『うまかったな。主よ、また釣ってきてくれ』
『あなたがやればいいじゃない?』
「いや、ヴィリエは待てないだろう。それより、肉の方が好きなんじゃなかったのか?」
『うむ。それとこれとは話が別だ。うまかったからな』
ヴィリエは美味しいものを食べられてご機嫌のようだし、フィリアもつくった料理を誉められてまんざらでもないようだ。
その日はみんな疲れていたのかすぐに寝てしまった。
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次の日は珍しく、というか初めて訪問者がいた。
「やあ、エルドジーク。遊びに来たぞ」
「なぜ来る。誰も連れてきていないだろうな」
「大丈夫だ。どうせ、見つけられんさ」
なんとやって来たのは先代皇帝であるレイストルだった。
『あー、ジーク、次の訪問者よ』
『そうだ。主よ、やるのであろう?』
こういう時に限ってなぜ、レイストルが来るのか。嫌がらせか?とエルドジークは思いながらも顔には出さない。
「...こいつにやらなくては駄目か?」
『ええ。だって、次の訪問者ですもの』
『主が言ったのだぞ。守らなくてはな』
使い魔たちに言われてしまったエルドジークは嫌々ながらも実行する。
その瞬間にエルドジークは笑顔になる。
「よく来てくれたな。今はなんと呼べばいい?レイストルでいいのか?」
「い、いや。お忍びだからな。レイスでいいぞ。お前はどうする?」
「ジークで頼む。他の者に最凶の魔導師だとしられたくはないのでね。」
「....お前、ずっとそれか?」
「戻した方がいいと思うか?」
「ああ…むしろ頼む」
レイスに頼まれる形だったのでジークはすぐに元の無表情に戻る。そして使い魔たちの方を向く。
「どうだ?できていただろう?」
『ええ、以外だったわ。できるのね』
『レイスは不信感しか抱かなかっただろうがな』
「お前たち、これはいったいどう言うことだ?」
レイスが本当に困惑していたので簡単に経緯を伝える。
「....と、言うことだ」
「はははは!そうか…ジークは気にしていなかっただろう?」
「別に、軟弱者たちがどう思おうと、我には関係ない。本質を見抜けぬのが悪い」
ジークの辛辣な言葉にレイスは動じることもなくまた笑う。
「まあ、そう言うな。さて、態度を優しくするだったな....今までエルドジークとして冷酷に接してきた者たちには変えぬ方がいいぞ。不信感と恐怖しか与えんだろうからな」
『そうなのか?人間はわからぬ』
ヴィリエが不思議そうに言う。
「初対面だったら効果は抜群だろうな」
「ならば、ジークとして過ごす間だけこうすることにしよう。エルドジークとしているときと、もとから面識のある者たちには今まで通り接する、これでどうだ?」
「いいんじゃないか?面白いと思うぞ」
『それならいいんじゃない?』
『二重人格のようだな。面白そうだな、主よ。』
皆が賛成したため、そのようなかたちに収まった。
エルドジークはまだ少し不満そうだったが…
とりあえず落ち着いたところでエルドジークがレイスに声をかける。
「それで、何の用だ?レイス」
「特に、用はない」
「ならば、それを飲んだら帰れ」
「ええー、もう少しここにいたいのだが…王宮はつまらない」
「気持ち悪いことを言うな。お前は先代皇帝だぞ、そんな王宮にいて当たり前だ」
「たまには休みたい」
「いつも休みであろう。暇人」
エルドジークとレイストルは実は歳が結構離れている。
だが、二人にとってみればお互いが一番気を許せる相手だと言っていいだろう。皇妃が生きていればで別だったのだろうが....
レイストルが皇帝だった時に、勧誘されて皇帝付き魔導師になったわけだが、二人で乗り越えてきた修羅場は数多い。
それに皇帝であったレイストルにとっては、立場に関係なく厳しい言葉を浴びせ、支えてくれるエルドジークは充分信頼に値する人物だったのだ。
彼の言葉はいつでも辛辣だ。だが、的を射ている。だからこそ反論できないのだ。
人はそれを冷酷と言うし、冷たいのも事実だがレイストルにとっては冷酷でも何でもなく、間違いを指摘してくれる存在である。
退位し皇帝ではない今でも、それは変わらない。
エルドジークにとってもそれは同じである。
苦労を知っているからこそ、共に歩んできたからこそ分かる。性格のせいで言葉は辛辣で冷たいがレイストルを誰よりも信用しているのは明らかだった。
「さて、ではそろそろ暇するよ」
「ここのことを知らせるなよ。我は隠居した身、よほどのことがない限り協力せん。我は知らんからな。力がないのならすぐに降りた方が身のためだ」
エルドジークの言葉は一見冷たいが裏を返せば
『隠居した身を頼らせぬようここを知らせるな。もし、どうしても協力が必要であれば言え。力になる。できぬようなら皇帝の座を降りるのもひとつの手だ』
と言っている。
ほとんどの者は恐怖と緊張でエルドジークの言葉や行動を正確に理解していないため、冷酷な恐ろしい人物と思っている。気付いていないだけでエルドジークは認めた者には結構優しい。
認めるに値しないものには、本気で言っていることもあるが.....
「ああ、言わんさ。皇帝も頑張っているからな。また来るからな」
レイスはしっかりわかっているからこのように返す。
レイスは転移魔法を使って帰っていった。
ちなみに転移魔法は結構高度なもので、距離にもよるが、だいぶ技量が必要なものなのだ。
やれやれ、やっと帰った。全く忙しいな。とジークがため息をつくと今度はフィリアの声が聞こえた。
『ちょ、マスター!早く来て!』
なんだか大分慌てているようでフィリアにしては珍しいとエルドジークは思った。
今度はなにがあった?…そちらに行くとそこにはオーガの死骸と青年と少女が倒れていた。青年と少女は身体中に傷を負っている。
「これは?」
『私にもわからないわ。交戦している音が聞こえたから来てみたんだけど。どうやらオーガにやられたみたいなのよ。オーガは私が倒したんだけど...おかしいのよ』
「何がだ?」
『こんな森の奥深くに来ていたのにまともに戦えていなかったのよ。何かありそうよ』
ジークは少し顔をしかめたが二人が生きていることを確認する。
「息はあるな。フィリア、ヴィリエを呼んできてくれ。この二人を運ぶ」
『いいの?ほぼ百パーセント面倒事の予感がするわよ』
「我がどう思われているのかは知らんが、ここで見捨てるほど冷酷ではない」
そう言ってフィリアが呼んできたヴィリエと共に二人を家の中に運びこんだ。




