2、まったり夕食づくり
森の湖の近くに一軒の家があった。そこには長い銀色の髪に紫がかった青いの目の男性が住んでいる。
彼はエルドジーク・ジルダロード。最凶の魔導師と呼ばれている人物だ。
彼は紅茶を飲みながら街で配られていた紙を見ていた。そこには皇帝の改革などが書かれている。
「ほう、うまくいっているようだな」
ひとり呟いたエルドジークに応える者がいた。
『珍しいな。主が人を褒めることはめったになかろう?』
白い毛に青い目の虎が話す。この虎はエルドジークの使い魔である。
「ヴィリエ、どういうことだ?」
『そのままだ。主は怖いからな。めったに褒めぬだろう?その主が呟いておったからだ』
「我はそんなに怖いか?お主らにはだいぶ態度がやさしい気がするが」
『我らには少しいいな。だが、人間にとっては怖いであろう。魔力や実績も相まってな。だから、最凶の魔導師や破壊神などと呼ばれておるのだ』
「そうか?」
白虎のヴィリエとエルドジークが話していると一羽の梟に似た、目が緑色の赤い大きな鳥が窓から入ってきた。この鳥もヴィリエと同じく使い魔である。
『あら、何の話をしてるの?』
「フィリアか。帝都はどうだ?」
『ええ、特に変化はなかったわ。だいぶ賑わってたしね』
それを聞いてエルドジークは頷く。
『今、主が怖いという話をしておったのだ。お主もそう思うであろう?』
『ええ、思うわ。だって最凶の魔導師に破壊神じゃない。でも、今更変えようったってできないんじゃないかしら?』
「いや、できなくはない…と思うが」
エルドジークの言葉に、使い魔二匹は驚く。
『やってみて』
『確かに、見てみたいな』
エルドジークは少し黙ると
「…どうしていいかわからん。とりあえず次に訪問者が来たらやってみることにしよう」
『いつ来るのだ?』
『さあね、当分来ないんじゃない?』
「....お前たちなあ」
エルドジークは紅茶を飲み干すと立ち上がった。
「湖に行くが、どうする?」
『我は行かぬ』
『私も、野菜に水でもやっておくわ』
「分かった」
そうしてそれぞれの場所へ向かう。エルドジークは家から出ると、釣竿を持って湖の方へ歩いて行く。
湖は木々に囲まれているが、水も透き通っていてとてもきれいな場所だ。
エルドジークはほとりにある小舟に乗り込むと自らの手で漕いで真ん中の方へ船を進めた。
魔法を使えば簡単に終わることだが、この生活ではあまり使わないようにしている。なので、ほとんどのことを自分の手でやっている。慣れないことが多いが、今では何とか出来ているようなものだ。
だいぶ岸から離れるとエルドジークは釣りを始める。
我が、怖いか。ふふ、確かにな。我と対等に話せたのは先代皇帝と皇妃と、あとすこしくらいか。この性格が影響している、か。
やさしくすればいいのだろうか?
わからんな....。それにしても、先代皇帝がまだ来ていないのが気になる。奴なら、もうすでにわかっているはずであろう?まあ、いいがな。
物思いにふけっていると竿が揺れる。
「釣れたか?」
竿を上げてみると二匹魚がかかっていた。
「おお、意外に釣れるのだな」
また、湖に糸を垂らす。
我とヴィリエとフィリアが食べるだろう?いったい何匹いればいいのだ?
我は一、二匹でいいだろう、フィリアも我と一緒でいいだろうがヴィリエはどのくらい食べる?
....聞いて来ればよかったな。
まあ、いい、たくさん釣って持って帰ればいいのだからな。
そうしているうちにも次々魚が釣れた。
「なぜ、こんなにたくさん釣れるのだ?…まあ、いい。たくさん釣らねばならんからな。時間はたくさんある。ゆっくりと物思いにふける時間が欲しかったしな」
この時エルドジークは一つのことが気になっていた。
伯爵令息と令嬢が連れ去られていたな。あの伯爵の子どもならばしっかりと守られているはずなのだが....。
なぜ、こんなに簡単に捕まえられた?誰かが手引きしたか?
まあ、私にはそこまで関係のないことだが...
エルドジークには関係ないことのように思えたが、なぜかこの時に気になったのは彼の第六感が働いたのかもしれない…
日が傾き始めた頃にはだいぶたくさんの魚が釣れた。これだけあれば皆満足するだろうと思い、エルドジークはまた自分でこいで岸へと向かった。
魚が入った入れ物と釣竿を持ち上げると家へと向かう。
「ただいま」
『おかえりなさい』
家に入るとフィリアだけがいた。どうやら野菜をいくつか持ってきてくれたようだ。
「おお、いい具合だな。ありがとうフィリア」
『別に....ヴィリエは私もわからないわ。帰った時にはいなかったの』
長い付き合いであり、使い魔の彼女には聞こうとしたことが伝わったのだろう。ほしかった答えが返ってくる。
「そうか...魚がたくさん釣れたぞ。フィリアは一、二匹くらいでいいか?」
『ええ、そのくらいで十分よ。何をつくるの?』
「ムニエルにしようと思っていたんだが、どうだ?」
『いいんじゃない?魚も久しぶりにいいわね。ヴィリエは肉が好きだから』
「まあ、たしかにな。...先にさばくとしよう。フィリア、ヴィリエを探してきてくれないか?」
『ええ、いいわよ?なにをしてるのかしらね?』
そう言うとフィリアは窓から飛んで行った。それと同時にエルドジークは包丁を取り出して魚をさばき始める。
まだ、少しぎこちないが、それでもだいぶうまくなってきていた。
エルドジークの最初のころを知っていれば考えられない手際の良さで、次々と魚をさばいていく。
やっと大半をさばき終わり、あとすこしというところでフィリアとヴィリエが帰ってきた。
「いったいどこ....」
エルドジークはそこまで言って首を振る。どこから言っていいかわからなかったのだ。
ヴィリエは白い毛を血の色に染めていた。そして足元にはヴィリエが仕留めたのであろう大きなシカが置いてある。
『その、主、すまん。魚料理だと思わなくてな。狩ってきてしまった。』
ヴィリエは申し訳なさそうにしている。エルドジークはため息を一つついた。
「別にいい。処理して保存する。ヴィリエはとりあえず湖に行って体を洗って来い。いろんなところに血がついてる」
『お、おう。では、行ってくる』
ヴィリエは気まずそうに湖に向かって行った。
『私も見つけたときには仕留めた後だったのよ。ごめんなさい』
「いや、別にいい。それに、お主のせいでもないだろう。どうしたらあんな血を浴びるのか、謎だがな。
....まあ、手伝ってもらおうか。ムニエル作りを任せていいか?魚をさばき終わったら、シカの処理もやってしまう。」
『味付けも?』
「ああ、香辛料など自由に使え」
『わかったわ』
フィリアは返事をするとシュルっと人型になった。色はそのままで髪が長い美女だ。
「じゃあ、やっておくわね」
エルドジークは魚をフィリアに任せ、シカを持って外に向かう。
解体の際に血がだいぶ出るので外でやらないとだいぶ大変なことになるからだ。
ヴィリエが狩ってきたシカはだいぶ大きかった。まだ、血抜きもしていなかったため、解体にも時間がかかってしまった。中からいい匂いが漂ってくる。シカは部位ごとに斬り分けたが、なにぶん大きいのでたくさんある。
何日か持つか?と肉の塊を前に考えているとヴィリエが戻ってきた。どうやらちゃんと血を落とせたようだった。
『主、それは我が狩ってきたシカか?』
「ああ、だいぶ大きかったからな。ソーセージでも作ってみるか?」
『なぬ?ソーセージとはなんだ?うまいのか?』
「ヴィリエは知らなかったか?明日まで、楽しみにしておけ」
『む、わかった。...フィリアはどうした?』
「中でムニエルをつくってもらっている。」
するとヴィリエが気まずそうに言った。
『…我だけ何もしないのは気が引ける。主、何かやることはあるか?』
「そうだな…スープを作ってくれ。フィリアが野菜を収穫してきてくれた。それを使え。」
『うむ、任された』
そう言うとヴィリエもシュルっと人型になった。ヴィリエも色はそのままで髪が長めの男性だ。どこに持っていたのかひもで髪を結んでいる。
中に入っていくと悲鳴が聞こえたが.....まあ、何とかなるだろう。エルドジークも不要な部分を魔法で焼きはらうと家の中に戻っていった。




