チート転生した女勇者のささやかな願い「……お願い、つらいの。私をベッドにつれてって……」
初投稿です!
「あなたは死にました」
おお、神よ。死んだらわざわざ教えてくれるのね、ごくろうさまです。
私、神山美月16歳はまずそう思った。人間いつかは死ぬものだけど、わざわざ教えてくれるのか。
いや報告にきた黒スーツのお方、ほんとおつかれさまです。
「そしてあなたには善行ポイントがたまっていますので、あなたには転生してもらいます」
訂正。転生ものだから神様は私に使いを寄越したのだ。
「転生、ですか」
「はい。転生です」
ラノベやアニメでよくあるやつだ。転生先で無双して、世界を救えとでも言うのだろうか。
「あなたには、転生先で世界を救ってもらいます」
……わお、ドンピシャ。
☆★☆
「いくつか質問があるのですが、よろしいですか」
とりあえず私は、黒スーツの人に疑問を投げかけた。
「どうぞ。時間はたっぷりあるのでいくつでも受付ますよ」
「では、善行ポイントってなんですか」
私はまずこれが気になっていた。なんだよ、『善行ポイント』って。私たちの人生ポイント制なのかよ。
「善行ポイントとは、その通りその人が生きてきた中でどれだけいいことをしたのかを表します。例えば、満員電車で老人に席を譲ると1ポイント、大量のプリントを職員室に持っていくと1ポイント、AEDで人の命を救ったら10ポイントという風に貯まります」
つまり、『どんな小さなことでもいいから人のために何かをしなさい』と言った母の言葉は正しかったのか。ありがとう、お母さん。
さらに、黒スーツの人の話は続く。
「逆に悪いことをすればポイントは減ります。嘘をついたら-1ポイント、万引きで-10ポイント、宿題をやらないと-10ポイントといった具合です」
「な、なるほど」
私はある程度理解した。したが、万引きと宿題をやらないことと人の命を救うことを同列に扱うのはどうかと思う。
「では、ポイントがマイナスになるとどうなるんですか?」
「ポイントがマイナスになると死後地獄行き、プラスで天国行きとなります。そこで100ポイント貯めると、記憶を失って転生となります」
なるほど。どちらに行っても一応救済余地はあるのか。
「また、善行ポイントを100ポイント以上貯めて亡くなった方は100ポイント消費してそのまま記憶を失って転生となります。ですがどういうわけか、地獄へ落ちる方が多いんですよね……」
「はあ」
そりゃ、人の命と宿題を同列に扱うポイントなら圧倒的にマイナスに寄るだろうと思いつつ、私は一応肯定した。
だが、私は短い人生で多くの善行ポイントを貯めたと思うと、少し誇らしくもあった。
「ちなみに、私の善行ポイントって……」
「はい、4億と飛んで125ポイントです」
…………聞き間違いであってくれ。
「ちなみに、私の善行ポイントって……」
「ですから、4億と125ポイントです」
聞き間違いではなかった。なんだよ4億って。人の命救って10ポイントの世界でどうやったら4億貯まるんだよ?!
すると、黒スーツの人はご丁寧に、
「ポイントの内訳ですが、人助けをしたなどの細々したもので152ポイント、宿題を忘れたなどで-120ポイント。前世、マザー・テレサが貯めたポイントが5000万と425ポイント、さらに前世ナイチンゲール様が、1億ポイント」
…………ん?
「さらに前世、マリー・アントワネット様が-1223万ポイントでしたが、その前世、ジャンヌ・ダルク様が7255万と1251ポイント、さらに――」
「いや、待って待って待って待って。何か凄い名前が並んでいるけどどういうこと?!」
「はい。あなた様の魂は聖母マリア様を始めに様々な方へと転生を繰り返しており、そのポイントが貯まり続けてるいるのです」
私は言葉を失った。いや、なんで私みたいな凡人が生まれたの?ただの女の子だよ。よくも悪くもない頭と運動神経を持った普通の女子高生だよ。
「とにかく、その貯まりに貯まったポイントであなたの転生先の能力を強化して、ポイントを消費、ゲフン、もとい世界を救っていただきたいのです」
本音が出たよ、この人。要はポイント貯めすぎだからどうにかしたいんだね。
ここで私は一番聞かなければならないことを思い出した。
「あの、私の死因ってなんですか?」
これを聞かなければ死んでも死にきれない。お父さんお母さん、先立つ親不孝者をお許しください。
「ああ、私も始めに伝えるべきでしたね。道に飛び出した子どもを助けたことによる事故死です」
「えっ」
私は驚きを隠せなかった。
「はい、立派な行為でしたが即死でした」
黒スーツの人よ、違うんだ。そこに驚いたんじゃない。
「私、助かりましたよ」
「………………えっ?」
そう、私は子どもを助けるために道を飛び出した。だが、奇跡的に車は止まり私も子どもも無傷だったのだ。
そこから、警察に事情聴取されるわ、子どもの親に頭下げられ続けるわ、テレビの取材を受けるわでヘトヘトになって家に帰ったのだ。そして私は夕食も取らずベッドにダイブしたはずだった。
なるほど、つまりこれはきっと夢だ。疲れすぎて変な夢を見ているんだ。
明日、学校で友達に話してやろう。こんなリアルな夢を見たと。そんでもって一緒に笑おう、そんなことを考えていたのだが、
「おい、上司。どういう――だよ死ん――か?生き――じゃねえか」
黒スーツの人は携帯電話でどこかに電話をしていた。なんか、物騒な話が聞こえるのだけれど。
「はっ?――う転生――身体――意した?どうす――よ、魂ひとつ――――だぞ。――まえにまか―る?ふざ――な。ちっ、切りやがった」
黒スーツの人は携帯電話をポケットに入れると、さっきまでの罵詈雑言はいったいなんだったのか、笑顔になった。
「今回は特殊例ですので、記憶を持ったまま転生してもらいます」
「あの、それ神様のミスの尻拭い――」
「いってらっしゃいませ」
そこで私の意識は途絶えた。
☆★☆
目が覚めると、森の中でした。
「ほんとに転生したよ」
こういう時ってどうにかして自分のパラメーターを見るのがお約束だったのでは、と私は思い出して何とかがんばってパラメーターを確認した。
いや手をハート型にしてパラメーターオープンってどんな羞恥プレイだよ。
《ミツキ》性別:女 16歳
体力:1000000/1000000
魔力:1000000/1000000
知力:SSS
耐久:SSS
敏捷:SSS
運:I
器用:SSS
耐状態異常:SSS
火魔法:SSS
水魔法:SSS
土魔法:SSS
風魔法:SSS
剣術:SSS
・
・
・
こんな感じだった。運を除けばすべてSSS。基準が分からないが間違いなくチートだろう。
ただ2点、不可解な点がある。
ひとつ、運がIランク。解せぬ。
もうひとつ。一番下にこんなものがあった。
【状態異常】
・不眠……眠れなくなる(解除方法:世界を救う)
嫌がらせではなかろうか。世界救うまで眠るなって。
私は、転生させた黒スーツと神を殴りたい気持ちになったが、
「キャァァァァァァァァァ」
どこからともなく悲鳴が聞こえた。確か、強制イベント、という物だったっけ?
☆★☆
そしてそれから、
3年の月日が流れた。
森で女性を助けて、倒した相手が魔族だったから王様に魔王討伐を依頼され、人を助け、魔族を倒し、以下割愛。3年間、一睡もせずにここまでやって来た。
そしてついに、
「ハハハ、女勇者ミツキよ。よくぞここまでたどり着いたな。我が魔王カ――」
「寝かせてくださいぃぃぃっ!」
「ギャァァァァァァァァァ―――」
魔王は名乗りすらあげることなく倒された。
かくして世界は救われた。
☆★☆
「勇者ミツキよ、あなたのおかげで世界は救われた」
王様は、私にそう語りかける。私の魔王討伐に対する式典が開かれている。王様含め出席者はとても嬉しそうである。
ぶっちゃけると、ものすごく眠い。未だ不眠状態は解けていない。この3年かけて取った【イベント解析】スキルによると、この王様の話が終わってようやく解けるらしい。
しかし王様、話長いよ。もう9回は同じ話しているよ。
「勇者ミツキよ、あなたのおかげで世界は救われた」
えぇ、まだ続くの?
☆★☆
そして2時間後
「以上を持って余の言葉とする」
長かった。思っている以上に長かった。まさか50回も同じ話を聞かされるとは……。夏休み前の校長先生のお話を思い出したよ。なんで炎天下の下、あんな長い話を聞かされたのだろう、あれ。教頭先生、止めるとかあったでしょ。
でもこれでやっと眠れる。そして今日私はその場に倒れこんだ。
「ゆう――がたお――ぞ」
「お――て、ゆう――まぁぁぁ」
疲れた。おやすみなさい。
そして私は眠りについた。
――fin
☆★☆
ここで目が覚めた。
「…………夢?」
なんだったんだろう、今日の夢は。寝ていたはずなのにやけに疲れた気がする。
「やっば、遅刻する」
私は、慌てて制服に着替えてパンをくわえて学校へと向かった。
「おはよー、ミッキー」
ギリギリ遅刻を免れた教室で友達のひとりが声をかけてきた。
「おはよう、かおり。今日も元気だね。あと、いい加減やめてよそのあだ名。某会社に怒られるよ」
「ただのあだ名に反応するほど暇じゃないと思うよ。それにしてもミッキー、今日はおつかれさん?」
「ああぁ、うん。ちょっと変な夢を見てね……」
「えっ、どんなのどんなの?」
かおりのその反応に私も夢のことを話そうとした。一緒に笑って忘れようとしたが、
「よーーし、授業始めるぞー」
授業に阻まれた。
「あっちゃぁ、時間切れか。じゃあかおり、また次の休み時間にね」
「うん。またあとでね~」
休み時間に約束しつつ、私は席についた。
「神山、昨日はお手柄だったな」
先生はそう言った。昨日というと
「凱旋パレードの件ですか?」
「寝ぼけてるのか?子どもを救った件だよ。ていうかなんだよ、凱旋パレードって」
ドッ、と教室が沸いた。私はというと、どの子どものことだろうと思い出すので必死だった。
夢のはずなのにわりと記憶がはっきりしているんだよ。あの3年間でいったい何人の命を救ったと思ってるんだ、先生。
「……ああ、事故未遂の件ですね」
私は何とか思い出した。
「いや、他に何があるんだ」
「いえね、なんだか3年も前のことのように感じまして……」
「3年って……。何寝ぼけたことを言ってるんだ?」
「疲れてはいますよ。ああ、もしかすると体力が減っているのかも。ステータスオープン」
私は手をハートにして叫んだ。もちろん、ステータス画面なんて開かない。
その言動に先生は心配そうな顔をして、
「だ、大丈夫か、神山。頭でも打ったか?」
頭は打ってないが、不意打ちを仕掛けた魔族に馬鹿みたいに殴られたことはある。
「神山、疲れているなら保健室で休んできてもいいんだぞ」
その先生の言葉に、
「いってきます」
私は食いぎみに答えた。ありがとう、先生。あなたこそ本当の神様だ。
そして保健室で私は眠りについた。
☆★☆
「勇者様が目覚めたぞ!」
「王様を呼び出せ!」
……これはどういうことだろう。私は保健室で眠ったはずだ。
とりあえずステータス画面を開くと、一番下にこんな文字が。
【状態異常】
・ひとつの魂
眠ると世界を移動する。また、魂に疲れは蓄積する
(解除方法:この世界を救う)
…………ねえ、神様。これはつまりこの世界を救うまで、現実世界で眠るとこの世界に来て、この世界で眠ると現実に戻るということでしょうか。
そういえば、黒スーツの人が言っていたな。『私の魂は転生を繰り返してきた』と。つまり魂はひとつなのに身体がふたつあるからこんなことになっている、そういうことなのだろうか。
おお、神よ。せめて別の魂をこの身体に転生するとかあっただろ。
神への怨み節を唱えていた私に、王様は話しかける。
「勇者ミツキよ。あなた様に残り107人の魔王を倒して頂きたい」
昼間は女学生、夜中は女勇者。私の二重生活はまだ始まったばかりだ。
――いや、そういうのいいので寝かせてもらえないですかね?
という訳で、はじめまして。宮野冬麻です。初投稿作、いかがだったでしょうか?
この作品は受験前、徹夜に徹夜を重ねてテンションがおかしくなった時に書き上げた物です。正直書き上げた記憶がございません。勉強しろよ、とは言わないでください。
なろうのシステムに慣れるためのお試しの投稿です。誤字脱字、その他もろもろ何か変なところがあれば報告お願いします。次の連載用に活かします。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。ぜひ感想及び評価の方もよろしくお願いします。