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魔王の立つ日  作者: 上総海椰
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1-1 四人の来訪者

トランはマールス騎士団領ソーンウルヒの警備担当者だ。

ソーンウルヒはマールス騎士団領における北の玄関口であり、

「あー暇だ暇だ」

ソーンウルヒの警備者であるトランは大きな声で通りを歩いていた。

彼は二人でソーンウルヒの街を見回っていた。

「盗賊はでてこねえし、殺人事件も起きやしねえ。体が疼いてしょーがねえよ」

「いいじゃないか。平和ってことだろ」

トランと一緒にいる男性がトランを諌める。

「あーあ、最近面白いネタともいえば、ヴァロの奴の感謝状の件ぐらいか」

「その話か。教皇じきじきの感謝状を贈られたって話だな。

話ではトラードで教皇暗殺を企てた魔族一味をやっつけたとか。トランはそう言えばその男と同期だったな」

「まあな。あんにゃろ、しばらく顔を見せないと思ったらトラードまで行ってやがった」

羨ましいとすら思う。なぜあの男ばかりそんな面白い状況に出くわすのか。

必死で牙を研いでいてもこんな田舎ではその牙を使う機会はほとんどないといってもいい。

「トラード…ずいぶん遠いな」

「半年間何やってたか今すぐにでも問い正しに…」

その三人とすれ違った時、トランは剣を喉元に突きつけられた気がした。

トランは硬直する。その一瞬、この平和なソーンウルヒがまるで戦場にでもなったかの印象を受けた。

「なんだ?あの連中」

トランは疑問を漏らす。トランはその一瞬で表情を変える。

常に緊張をとぎれさせない野生の獣、特有の臭い。

まるで羊の群れの中に狼を見たような感覚だ。

「男二人に少女一人のただの旅行者だろう?」

トランの同僚が不思議な顔をする。かつて同じような感覚を一度味わったことがある。

フゲンガルデンに魔女が攻め入った前の時だ。

もっともそれを知ったのは事がすべて済んだあとだったが。

「巡回は任せた。俺はあいつらをつけてみる」

「おい」

トランはその三人を尾行を始めた。

他ならない彼もその野生の獣の一人なのだから。



ソーンウルヒにて三人の人影が通りを歩く。

大男に少女、さらにひょろりと痩せた男。

その者たちは買い出しを行っていた。通りを行く人もまばらだ。

「暇だなぁ。イルーダ姐さん何か魔法みせてよ」

痩せた男が手を頭の後ろで組みながら話しかける。

「私の魔法は見世物じゃないけど、まあいいわ。退屈してたしね」

イルーダという女性が魔法式を描くと宙に小さな氷が現れる、

通りを歩く人にはみえないように注意を払いながらイルーダ。

それは火を上げ溶けることなく燃え続ける。

「おー。すげー、燃え続ける氷か…。魔法って本当に何でもできるんだな」

「私は四元魔法のエキスパート。このぐらいはわけはないわ」

「四元魔法?」

ジフォイは聞き返す。

「基本の四元魔法ってのは火、空気、水、土と言われてる。

火は物質の変化を司り、風は物質の流動させ、水は物質の状態を管理し、土は物質の形を自在に操れる。

そしてそれらを操ることで万物を意のままに支配することが可能になる。理屈の上ではね」

道を歩きながらイルーダは話す。ジフォイはちんぷんかんぷんの様子だ。

「この四つを私は究めている。最強のはぐれ魔女といっても差支えないんじゃないかしら…まあ一名を除けばね…」

「一名を除けば?」

「いるのよ。化け物が。…生きているうちにあいつだけはいつかはこえてやる。

ところでジフォイ、あんたの望みは魔剣との契約なんでしょ」

今度はイルーダがジフォイに話題を振る。

「そうさ。今回の作戦を成功させて俺は魔剣の契約者になる」

「そう言えば『狩人』はほとんど魔剣を所持してなかったわね。魔剣の契約…それがあんたが黒狼に入った動機ってわけ?」

異端審問官『狩人』は複数の魔器を所持している者はいるが、魔剣をもつものはほとんどいない。

魔獣や魔族、魔女と戦うにはいささか不十分ともいえなくはない。

「ああ。そうさ。そうでもしなきゃただの平民が魔剣と契約するなんてのは千回生まれ変わってもできやしねえしな。

異端審問官『狩人』になれるかは魔法抵抗力の有無で決まる。

対して魔剣の管理は家で管理しているのがほとんどだ。

そのために家柄関係なく選別される場合が多いために魔剣を持つ者は少ない。

伝説では、かつて『狩人』の始祖の聖剣使いのソウ・ガルファミアが教会からの魔剣提供の話を断っちまったらしいぜ。

うちらの武器は魔道具や魔器だけ。たまーに家柄が良くて持ってるやつもいるけどな」

「…ソウ・ガルファミア。第二次魔王戦争での英雄であり聖剣使いという存在ね。

聖剣と同調し過ぎたために、同化し、歳をとることなくその姿を保ったままっていう。

最後にその姿が目撃されたのは四百年前の第四次魔王戦争って言われているわね」

第四魔王戦争。それは四百年前、かつて第七魔王ブフーランが引き起こした戦争である。

魔王戦争と呼ばれるモノの中でもその戦いは相当なものだったという。

「よく知ってるね。ブフーランの引き起こした第四次魔王戦争のあとは大きな戦争は無かった。

第五次魔王戦争は知っての通り、大魔女ラフェミナ、サフェリナがほぼ二人で解決しちまった。それもあるんじゃないかって噂されてる」

「ソウ・ガルファミアか。生きていれば私たちの障害になりそうだな」

横にいる大男が声をかけてくる。

「生きていればね」

半眼でジフォイ。もしその伝説が本当ならばその男は第二次魔王戦争時から生き続けていることになる。

そんなことは生物的にあり得ない。

「逆に言えば聖剣一本でそれだけの力があるってことだろ。まったく聖剣は魔剣の何本分の力を有してるのかね」

他の七本のうちの残り三本は第二次魔王戦争時に破壊されている。現存する聖剣は四本だという。

その四本はバフーフ、エウラーダ、メントア、クジイーラ。

バフーフは聖カルヴィナ聖装隊の長であるミリオスが、エウラーダは狩人の祖であるソウ・ガルファミアがそれぞれ所有している。

メントアとクジイーラは教会の本山の地下深くに眠っているという。

「そう言えば俺が入る前に黒狼には四つの魔剣と契約した多重契約者がいたって聞いたな。確か名前は…」

「クラントのことか。奴なら二年前にミイドリイクの報告を最後に姿を消した」

ジフォイの問いに大男モーリスは答える。

「そうそう。クラント。四つも契約していたら歳の減るのもかわらなかったのかね」

「…どうだろうな」

モーリスの表情は変わらない。

「いいよなぁ。モーリスやシレの旦那でも二つだろう?四つの多重契約者は大陸史上初めてなんじゃないのか?」

「くだらんな。魔剣の契約本数がそのものの実力に直結しているわけではない」

モーリスは憤然と答える。

「でも無いよりはあったほうがいいだろ…」

「きたか」

三人の影になるように一人の男が並走する。

周囲に溶け込むように、普通の者ならば至って自然に。

「『魔王の卵』はフゲンガルデンに戻った」

影から小さく声が聞こえてくる。

「ラーロウ、ご苦労だった」

「ネズミがいるがどうする?」

ラーロウと呼ばれた男はモーリスの顔を伺う。

「やめておけ。ここの警備隊を刺激して帰りに警戒されては面倒だ。必要なものが買い揃えられ次第我々はソーンウルヒを出る。

狩場は別の場所にするとしよう」

モーリスの言葉にジフォイとイルーダは黙って頷く。

「私はソーンウルヒを抜けた後、合流する」

そう言ってラーロウは三人から離れていく。

「ラーロウ、相変わらず辛気臭い男ねぇ」

気配が消えるとイルーダは声を上げる。

「あーあ、つけられっぱなしになるってのは少しストレスを感じない?ねえ。ジフォイ」

「姐さんも気づいていたんで」

ジフォイは舌を出す。

「あんたもでしょう。あんた、舌がいつも以上に回ってた」

「ありゃ、ばればれだったか」

「私も追いかけられるのってあまり好きじゃないのよ」

イルーダは凄惨な笑みを浮かべる。

「殺したくなっちゃうから」


そうして三匹の狼たちはソーンウルヒを後にした。

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