6-1 来訪者
ヴァロが例の魔獣狩りに行ってから丸一日たつ。
ヴァロが向かった翌日の朝、ココルには確認のためにヴァロが向かったという村に向かわせた。
ココルの報告によれば、ヴァロの使っていた馬らしきものが荷物と一緒にみつかり、その上魔剣を使った戦闘の痕跡も見られた。
さらにココルが聞きだした唯一の目撃者である子供からの証言だと、ヴァロは捕まったとみて間違いないだろう。
ココルとの連絡を取るなり彼女は使い魔を放ったが、そのうちの数匹の使い魔と連絡が取れない。
相手には空を飛ぶ使い魔を使い魔と認識し、それを正確に狙って打ち落とせる魔法使いが存在することになる。
その手際から推察するに相当上位の魔法使いが今回のヴァロの捕縛に関与している。
「…『魔王の卵』であるヴァロを直接狙ってきたってことか」
ヴィヴィはその状況を冷静に分析する。こうなることは予測していた。
ただその展開が彼女の想像よりも早かった。
いくつか対策も打とうとしていた矢先にこの事態が引き起こされた。
カランティの計画の進行がヴィヴィの想像をはるかに上回っていた。
口論となったあのとき結界の力を使ってでも力づくでも止めていればよかったと思う。
フィアとの連絡を終え、ヴィヴィは頭を抱えていた。
そんな中ココルがヴィヴィの元に戻ってきた。
「ココル、お疲れ様」
「ヴィヴィさん、師匠は…」
帰ってきたココルは全身汗だくだ。
ココルには慣れない馬を使わせてフゲンガルデンとルーゲンを往復させている。
今日一日ココルにはかなり無茶をさせてしまったとも思う。
「…捕まったとみて間違いない」
ヴィヴィは苦々しげにその事実を口にする。
ヴィヴィは自身が後手に回ってしまったと感じずにはいられなかった。
こうなってしまった今、自分には何ができる?
ヴィヴィは現状聖堂回境師としてフゲンガルデンを出ることはできない。
連絡は経った今唯一この状況で動けるであろうフィアと連絡はとった。
追いかける手段ならある。だがその方法は禁じ手の一つだ。
以前のように魔王復活などという途方もない異常事態ならばその手段をとる理由になるが、
一個人の『狩人』を助ける理由でこのフゲンガルデンを留守にするわけには彼女の立場、存在にかけて絶対にできない。
その上既に一日以上経過してしまっている。
通信の途絶えた使い魔たちの向かった方角から凡その方角は想像がつくが、相手がどこまで逃げたのか、見当もつかない。
ヴィヴィは頭をフル回転させて最善の手を模索していた。
コンコン
不意に入口の方からノックする音が聞こえ、ヴィヴィはその音のした方向に視線を向ける。
そこには一人の女性が腕を組んでドアに寄りかかっていた。
「この私を見過ごすとは。ずいぶんと取り込み中みたいじゃないか、ヴィヴィ」
鋭い瞳に口元にはどこか挑発的な微笑みが特徴的である。
髪を見えないように布で巻いているが、その間から金色の短い髪が見える。
「誰だあんたは」
いきなりの来訪者にココルは即座に腰につけた短刀を引き抜く。
「ヒルデ様…」
ヴィヴィは亡霊を見るかのような表情でその女性を見ている。
「久しいな」
ヒルデは小さく笑う。
「ココル、短刀を収めて。この方は敵じゃない」
ヴィヴィの言葉にココルは短刀を収めた。
「ヒルデ様どうしてあなたがここに…」
「ここの結界の目を盗んだ」
さも当然のようにヒルデはそう言う。
「そうではありません。あなたは…」
「別に不思議じゃないだろう。今の私ははぐれ魔女だ。どこにでも現れても不思議じゃない。
…フゲンガルデンには私個人が用があってきただけだよ」
「この人は?」
ココルがヴィヴィにその素性を問う。
「カーナ四大高弟にして元ミイドリイクの聖堂回境師。『雷洸姫』ヒルデ・ラシエン」
「元聖堂回境師…」
ココルは驚愕の眼差しでヒルデをみつめる。
「約束の物を持ってフゲンガルデンまで来てみれば、ヴァロとフィアもあの男もいやしねえ」
一人の男がヒルデの背後からひょっこりと顔を見せる。
背後に剣を背負い、さらに両脇にも剣を差している。怖ろしいことにその三本とも魔剣である。
いきなりの男の登場にヴィヴィとココルはあからさまに不審者に向けられる視線になる。
「そいつの名はクラントだ。そこの港で会ったので一緒に連れてきた」
当然のようにヒルデは答える。
「魔剣使いのクラント?あの賞金首の?」
ヴィヴィはその男の姿をつま先から頭の天辺まで眺める。
異国の装束に身を包み、バンダナのようなもので髪をまとめている。
四本の魔剣を持った多重契約者。現在は三本だが。
相当なお尋ね者だったはずだ。
ただミイドリイクの一件の協力により、ラフェミナの恩赦により狩人のお尋ね者リストからは外されたと聞いている。
「ラフェミナが教会からの指名手配は解除したときいたが?」
ヒルデは不思議そうにクラントの顔を見る。
「三カ国が出してる賞金は別なんだと。魔剣をとられたことをまだ根に持ってるらしくてな。
その上魔剣狙いの未だにチンピラがこの首を狙ってきやがる」
不機嫌そうな声でクラント。
「フィアが見当たらないがまたどこかへでかけているのか?」
辺りを見渡しヒルデ。
「フィアならコーレスに向かいました。フィアに御用ですか?」
「なに、少し礼を言いたかっただけだ。ミイドリイクでは私の弟子がずいぶんと世話になったらしいからな」
例のミイドリイクの遺跡の事件だろう。
異邦から魔族の襲来もあったという話だ。公表はされていないが大事件だったと聞く。
「さて、ヴィヴィ。一つ質問だ」
ヒルデは腕を組みヴィヴィに向き合う。
「お前は私の敵か?」
ヒルデは殺気の籠った瞳でギロリとヴィヴィを睨む。
ヒルデ・ラシエン
カーナ四大高弟にして、元ミイドリイクの聖堂回境師。
『雷洸姫』の異名を持つ者。
かつてヴァロたちに聖剣を封印するのを手伝ってもらった。
ヒルデ久しぶりに登場っす。
今回ちょっと納得のいかない出来です。たとえば5-3とか。
いつか書き直すことがあったとしたら、もうちょっと丁寧に書きたいところっす。
教会もいよいよ本気。本当ならもう少しキャラを登場させたいところだけど、
あんまり出し過ぎると収集つかなくなるからここら辺で。
さていよいよ魔王戦争編最終章突入です。
そのときフィアの下した決断が大陸のすべてを巻き込んでいきます。
完全に自己満足の話だけどここまで書けるとは思ってなかったです。
何はともあれここまで書けたことに感謝。




