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魔王の立つ日  作者: 上総海椰
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4-3 彼女の最期

城をつなぐ橋の上で一人の少年と少女が対峙する。

少女、リュミーサは見下ろすように少年を見据え、少年の背後には集団がじっとその趨勢を見守っている

中心にいるのは見た目はただの少年である。

そしてそれは異様な光景でもあった。

「これは…」

グレコとラウィンは屋根の上からそれをみつめる。

岸には何が起きているのかギャラリーが集まっている。

「あの橋の上に立つ餓鬼は一体…」

グレコはその姿に全く見覚えがない。

その上に狩人の手配書にすらその顔など乗ってはいない。

そもそも子供の姿をしたモノなどお尋ね者の中にすらほとんどいない。

それも肉体の時間を止めることができる一部の魔法使いぐらいだ。

それにカランティを含めた一団が従っているようにも見える。

グレコは果てしなく嫌な予感がした。

「はじまるぞ」

ラウィンが言うのと同時に、巨大な岩がポルファノアの頭上に出現する。

ポルファノアの影から巨大な腕が出現しそれを迎撃していく。

湖に巨大な岩が次々に堕ち、湖面に無数の大きな水しぶきが上がる。

リュミーサは攻撃の手を緩める。

「どうしたこんなものか?」

次々に転移してくる杭を躱しながらどこか余裕を感じさせる声でポルファノア。

リュミーサを見上げるポルファノアの背後の腕は消え、無数の巨大な影の魔物の姿が姿を現す。

湖に映る影から生えるようにそれは徐々に増えていく。

リュミーサは手から無数の光の玉を繰り出す。

ポルファノアはそれを新たな光の玉で迎撃する。


二人の間に閃光が炸裂する。


ポルファノアの頭上に岩が転移される。ポルファノアはそれを影で次々と迎撃。

息もつかせぬ攻防。

聖堂回境師と魔王の戦いは一瞬でその橋の半分を破壊した。

ポルファノアは橋から離れ、水の上を滑るように移動する。

リュミーサはそれを浮遊し、追いかける。

次々に巨大なしぶきが立ち上る。


リュミーサが手を止め、二人は湖面で向かい合う。

「魔法を使い、この結界の加護を受けたとしてもそれでも…」

影の中からさまざまな怪物が姿をあらわす。

獅子の姿をするモノ、ムカデのカタチをするモノ、魔獣のカタチをするモノ。

大小さまざまだがその影は湖面に広がっていく。

「私の方が上のようだ」

勝ち誇ったかのようにポルファノアはリュミーサを見る。

「転移魔法の欠点。一つ、転移が発動する瞬間、その場に微小な空間の波をたてることだ。

その転移物が大きければ大きいほどその波は比例し大きなものになる」

ポルファノアは得意気に解説する。

「もう一つ。元来空間転移は繊細な魔法だ。その繊細な構成式を構築させないためには、空間に魔力による微小な波をたて続けてやればいい」

ポルファノアの像が揺らいでいる。

空間に波を立てるといってもそれは極めて上位の一部の魔族と最上位の魔法使いぐらいしか出来ない行為である。

彼もまた伝説の化け物。教会から第五魔王の指定を受けた魔族。

「以上のことにより転移魔法は一流の魔法使い同士の戦闘には向かないものだ。

リュミーサ、最後の忠告だ。負けを認めよ。降伏すれば命までは取りはしない」

ポルファノアは余裕の表情でリュミーサを見つめる。

「…私は降伏するつもりはない」

ポルファノアの声にリュミーサは応じない。ただ冷たい眼差しを向けるだけだ。

「残念だ」

ポルファノアは肩をすくめる。

ここでリュミーサは息を思い切り吸い込む。

「コード『フェアリィ』」

空間魔法。二つのうちのもう一つの特性はその支配する空間への干渉。

空間を歪曲させ、ポルファノアのいる空間ごと行動の自由を奪った。

「空間歪曲場」

それは空間の歪みを利用した攻撃。

肉体が空間とともに歪む。肉体はひしゃげ、断裂し、無数にいるポルファノアの分体ですら形をとどめることができない。

普通の人間がそれに巻き込まれれば一瞬で全身の骨は砕かれ、即死していてもおかしくはないほどのものだ。

またポルファノアを取り巻くのはひしゃげた空間、そこから何人たりとも逃れることはできない。

「空間に波をたてるのならばその空間ごと隔絶すればいい」

リュミーサの語る言葉には何の感情も読み取ることができない。

「ポルファノア様」

配下の者たちがその名を叫ぶ。

「これで終わり。空間閉鎖」

リュミーサが手を叩くと、プチンという音とともにポルファノアのいた空間が閉じられる。

ポルファノアはこの空間ごとこの世界から消失した。

リュミーサは肩を落とし、浮遊していたその身を水面にまで落とす。

水面で片膝を折り、リュミーサは橋の上でそれを見ていた一人の女性カランティを睨む。

「私がいる限りリブネントは落とさせない」

つぶやくようにリュミーサ。

彼女はこのリブネントの守護者。

「どこをみている」

湖面から巨大な杭が現れ、リュミーサの左肩を貫いた。

「残念だったな」

腕を組んだポルファノアが水の中からゆっくりと姿を現す。

「なぜ…」

杭に刺された場所から転移するも、リュミーサの傷はそのままだ。

「その程度では私は倒せない」

ポルファノアが手を上げると湖の中から巨大な黒い杭が無数に出現する。

それらは一斉にリュミーサめがけて放たれる。

転移を繰り返そうとも、空間を歪曲させ進行方向を変えようとも、それらはリュミーサめがけて向かってくる。

それは意志を持つように時には黒い獣となり、黒い霧となりその進行を止められない。

リュミーサは必至でそれから逃げる。

左肩の傷のためリュミーサの動きはさっきよりも確実に悪くなっている。

「その一つ一つには私の魂の欠片が埋め込んである。それは標的にたどり着くまで決して追撃を止めない」

逃げ回るリュミーサを眺めながらポルファノアはつぶやく。

「…さようならリュミーサ」

巨大な手がポルファノアの足元の陰から現れる。

手には巨大な岩が握られている。

その腕は巨大な岩をヒトの住む町の方向めがけて投げつける。

「転移」

リュミーサはヒトの街に向かって投げられた巨大な岩をどこか別の場所に転移させる。

リュミーサの体に無数の黒い杭が突き刺さった。

黒い杭が突き刺さった体は力を失ったように空から水面に落ちていく。

「せめて顔だけ残したのは私からの慈悲だ」

ポルファノアは見下すように湖に落ちたリュミーサを一瞥すると仲間のいる橋に跳躍した。


体から力が抜けていき、視界がゆっくりと暗闇に溶けていく。

水の中にいるのに冷たいとも感じない。

「これが終わり…」

薄れゆく意識の中、彼女はどこか安らぎのようなモノを感じていた。

すべての彼女の役目を終えたのだ。

彼女の背負った『星の民』もこの星の原住民と交わり、それが定着した。

言うべきことはあの一人の少女に託してある。


「ほう、お主が『暁の三賢者』リュミーサか。見た目はただの子供じゃの」


「『星の民』と友になるのは初めてじゃ」


「感謝せよ。妾がじきじきにお主に魔法を教えてやろう」


「何をきょとんとしておる。これからお主はここの城の主じゃ。つべこべ言う教会の連中はわしが黙らせておいたわ」


「リュミーサ、すまぬな。妾はもう疲れた。少し眠ろうかと思う」


最後に思い出したのは長い間時間を過ごした『星の民』のことではない。

その生で初めて自分を友と言ってくれた一人の女性。

自身の人生でほんの短い間だったが、光が差した気がした。

「…カーナ…」

リュミーサはその意識とともに深く暗い湖の底に沈んでいった。



ポルファノアが橋の上に戻ると歓声が上がる。

それをグレコたちは湖の岸にある建物の上から眺めていた。

「グレコ」

ラウィンは厳しい表情でそれをつぶやく。

「リュミーサがやられた…」

現役の聖堂回境師である彼女がこの静謐結界の中で敗れるということは一つの大きな意味を持つ。

都市に張られた結界は対魔王用を想定してつくられた結界であり、それを一番扱える聖堂回境師が負けた。

それは最悪の展開を意味していた。

「…」

グレコたちの目の前でその謎の集団はカロン城に入っていく。

「俺は相手をこの目で確かめに行く。相手のこともわからないようじゃ報告もできやしない」

「ああ、そうだな」

ラウィンとグレコはそうしてカロン城に向けて歩き始めた。


この日、こうして守護者であるリュミーサは討たれ、カロン城は落ちたのだ。

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