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女騎士が俺のファンタジー小説を監修してくれるらしい。

「って、結構綺麗に締めたつもりだったんだけどなあ……」


「何が綺麗にですか! 綺麗にするならまずはご自身のご自宅から綺麗になさってください!」


「は、はいっ!」


 俺は家に帰るや否や、『はい、これとこれをお願いします』と三角巾をしたソードにゴミ袋と雑巾を渡されて、ここ数週間の缶詰によって阿鼻叫喚の様相を呈する部屋を懸命に掃除させられていた。


「もっとこう、感動的な再会を期待してたんだけどなあ……」


「わたしだって、できればそうしたかったですよっ! ですが!」


 両手を大きく開いて、俺にその惨状を再認識させてくる。


「この惨状で、感動も何もありますか!? ないですよね!?』


「す、すみません……」


 確かに、これは完全に俺の落ち度だ。ソードが返ってくるかもしれないというのに、書くことに夢中になりすぎて、掃除のことなど全く頭をよぎらなかった。


「まったく、私がついていなければ導師せんせいはすぐこれなんですから……」


「あ、それ久々にきいたなあ」


「口ではなく手を動かしてください!」


「は、はいっ!」


 キッと睨みを利かされる。こわいよー。久々にあった俺の女騎士がこわいよー。

 などと心の中で文句をたれていたところに、彼女がぼそっと呟く。


「まったく。はやく片付けて、したいとは思わないんですか?」


「えっ!?」


 したく……だとお……!?


 俺の頭は、瞬間的にトリップした。


(したくってつまり要するにそういうことですよねずっとあいたかったのにあえなかったわけですしね我々もいい大人ですし問題ないですよねって俺ソードの年齢きいたことあったっけ法律的に問題ないんですよねというかそういうことだと思って間違いないんですよねそこんところどうなんですかソードさん的には!?!?)


 という全ての念を込めて、


「そ、そうだよな……」


 と平静を装って返す。

 どうだ、これが大人の余裕だ!

 ちょっとどもってるんですがそれは、とかは受け付けません聞こえません。


「……さっさと片付けるか」


「そう、ですね」

 

 この後めちゃくちゃ頑張って掃除した。



 * * *



 掃除があらかた終わり、所在なくおどおどする俺をよそに、


「じゃあ、そろそろはじめましょうか」


 存外にざっくり切り込んでくるソード。いやちょっと真っ直ぐすぎやしませんか。

 正直心の準備とかまだできてないが、ここまできたらもう後戻りなどできない。ソードも、


「もう、先ほどから我慢できずにうずうずしてしまって」


 と、相当乗り気と見える。なんだようずうずって。

 ……と、ここまでやっておいてなんだが、すでにちょっとだけ、落ちが読めてしまった気がした。

 だが、そうじゃない! そんなはずはない! とその予感を振り払い、俺は一縷の望みにかける。

 そして、


「じゃあ」「では」


 と、互いにその行為にふさわしい場所へと一歩を踏み出して―― 


「え……どうして寝室なんです?」


 俺はもちろん寝室に。そしてソードは、リビングの、いつも俺たちが監修を行っていた場所へと、足を向けていた。


 ですよねーーーっ!! 知ってた!!


「あ、ごめんごめん間違えた。そっちだったな」


「まったく。もう忘れてしまわれたのですか?」


 そういって口を尖らせるソード。


「ごめんごめん。ちょっとね、早とちりをね」


「……よくわかりませんが。では、さっそくはじめましょうか。先生の短編を読んだときから、監修すべき点が多すぎてうずうずしっぱなしで」


 うずうずね。そうだよね。日本語って難しいね。

 そして、一度は途絶えてしまったあの日々が、また、動き出す。


「さて、まずはこの食事のシーンですが……直前にハーピィを倒しておいて、それを供さないのはいささか勿体無いと思います」


「ハーピィって食えるの!?」


「もちろんです。半分は鳥ですからね」


「う、うまいの?」


「絶品ですよ」


 こんな、雰囲気もへったくれもない、監修と執筆に明け暮れる日々が。


(まあ、この方が俺たちらしいといえば、俺たちらしいか――)


 そう。

 これからも俺たちはかわらず——

 ……いや。

 最後だから、どうせならこう締めくくっておこう。


 これからも、


 女騎士が、俺のファンタジー小説を監修してくれるらしい。

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