第69話 三つ巴
由井は中段の構えから、一気に殺到する。
「いやぁっ」
横へ払う。
飛びすさって避けたが、かかとを敷石に引っかけ、バランスを崩す。
上段から炎の刃が振り下ろされる。
とっさに刀を差しだし、防御する。
すさまじい光と、爆発したような接触音がつんざく。
強烈な圧力が襲う。
光が近づき、飲み込まれそうになる。
このまま押し込められたら、亜美は永遠に閉じ込められたままだ。
亜美の笑顔を思い出す。
力がわき出す。
「うぉぉっ」
叫びと共に押し返す。
光が後退したところで一気に起き上がった。
由井が飛ばされ、木の幹へ衝突する。
巨木が破片を飛び散らせながら折れ、倒れていく。
由井は中空に浮いたまま、刀を構えている。ダメージを受けた様子はなく、口元に涼しげな笑みさえ浮かべている。
「私は肉体を持っていない。故に傷を負うことはない。対してお前は現実の存在だ。このまま戦っていれば、必ず力尽きて行くであろう」
由井が突進してくる。
「死ねっ」
炎が上段から落ちてくる。
刀で受けるがはじき飛ばされた。
倒れたところを間髪置かず、突きが飛んでくる。
転がり避ける。
次の突きを加えようと由井がぐいと脇を引いたとき、悠紀夫の刀が脛へ向かって横に払った。
由井が飛び退く。
起き上がった悠紀夫が相対する。
由井の言うとおり、このままでは僕が体力を失っていくだけだ。早く決めなければ。
悠紀夫が踏み出す。
「うぉぉっ」
心の底から発する咆哮が響く。
刀を横倒しにし、由井の胴へ向かって払う。
由井は跳躍し、刀は空を切った。
頭上から刃が落ちてくる。刀をかざして防ぐ。
輝きと轟音、強烈な圧力。
力は湧き出てくるが、体が持たない。意志に反して片膝をついた。
再び由井が刀を振り上げたとき、飛び退いた。
確実に体力は落ちていた。このままでは由井の思うつぼだ。
由井が踏み出し、連続して切りつけてくる。後退しながら防御する。
背中がぶつかる。背後に木があった。
由井か横から払う。刀を立てて防御するが、体ごと持って行かれる。
背後の木が真っ二つに切断され、倒れていく。
「いよいよへたれてきたようだな」由井が冷ややかな笑いを浮かべる。「今度こそ眠ってもらう」
由井が上段から踏み出そうとしたとき、雷鳴が響き出した。
「何――」
ただの雷鳴ではない。何かの変貌を予感させるように、天上から腹の底へ重く響いてくる。
突風が吹いた。
体を持って行かれそうになるほど強い。木々がしなり、葉が飛び散る。思わずバランスを崩しそうになり、よろめいた。
「これ以上、権現様の元へ近づくことは許さん。お前たち、儂がまとめて成敗してくれるぞ」
気がついたとき、神廟の前に天海が立っていた。
墨色の裳付衣に、目だけを出した白い裏頭をかぶり、鎧を身につけていた。腰には太刀を差し、八尺を超えるであろう大ぶりな薙刀を携えている。
仁王像のように目を剥き、悠紀夫と由井を睨み付けている。
「もう復活しおったか……」
「もうではないわ。儂が死ぬことはあり得ない」目尻の皺が緩み、わずかに笑みを浮かべる。「神廟をお前たちの手で汚すことはまかり成らん。ここで一気に片を付けて見せよう」
天海が悠紀夫に向かって走り出す。
「待てい」
由井が横から切りつける。
既に懐に入った由井に、天海は薙刀を捨て、腰の刀を抜きながら居合い切りつける。
刃と刃がかみ合った瞬間、爆発が発生する。爆風にあおられ、木々が圧力で大きくたわむ。悠紀夫は飛ばされ、木の幹にぶつかった。
爆発が収まったとき、四尺はある大太刀を構えた天海が立っており、由井は尻餅をついていた。刀は飛ばされたのか既に手になかった。
「愚か者め。貴様のような亡霊など儂の相手ではない」
立ち上がりかけた由井を、天海が袈裟懸けで切りつけた。
疾風のような刃が奔る。
「ぐえぇぇっ」