第68話 戦い
一瞬腰をかがめ、高々と跳躍する。
悠紀夫の頭上から薙刀を振り上げ、襲ってくる。
頭よりも体が勝手に反応する。刀を上段に構えながら、腰をためて衝撃に備える。
「だあっっ」
気合い共に、薙刀が振り下ろされる。
悠紀夫は刀をかざすように横に構え、衝撃に備える。
刃と刃がぶつかり、まばゆい閃光が散る。
一瞬、光で目前が真っ白になる。刀も腕も見えない。
ただ強烈な圧力が頭上から襲いかかってくる。
潰れそうになるが、意志の力で押し返す。
「うぉぉっ」
不意に圧力が弱くなる。渾身の力を込めて、腕を振り払う。
天海が、オレンジ色をした空の彼方へ飛んでいくのが見えた。
一息ついて、辺りを見回すと、地面が陥没し、腰の辺りまで沈み込んでいた。
恐ろしいほどの圧力がかかっていたのだ。
悠紀夫は、更に強靱な体と力で押し返していた。
上空から岩のような物が落ちてきて、振動と共に玉砂利を飛び散らせた。
立て膝を付いた天海がそこにいた。
悠紀夫は地上に飛び上がり、燃えさかる刀を構える。
「猪口才な」
立ち上がり、中段に薙刀を構える。
笑みを浮かべながらも、燃えさかるような気迫が全身から立ちのぼっていた。
「だあぁぁっ」
天海が突進しながら薙刀を横に払う。
自然に手が動き、刀を倒して防御する。
白い光と圧力が起こり、横に飛ばされる。
石灯籠に当たり、衝撃が走った。
粉々に砕けた石灯籠を横目に見ながら、よろめきつつ立ち上がる。
間髪置かず、天海が突進してくる。
振り上げた薙刀が袈裟切りで襲ってくる。剣で防御したが、そのまま引き倒される。
地面を這うようにして、薙刀の刃が向かってくる。
防御する時間はない。
起き上がると同時に天海へ向かって飛び込んだ。
左腕で薙刀の柄を抱えながら、右手に持った刀で柄を断ち切る。
「うあっっ」
気合いと共に、上段から天海へ切りつけた。
血しぶきを上げながら、天海が倒れる。
仰向けになってかっと目を見開いたまま、身じろぎしない。鮮血が玉砂利のに広がっていく。
荒い息をしながら亜美の遺体と未来へ駆け寄る。
「天海が復活しないうちに早く神廟へ行こう」
強ばった顔の未来は頷き、亜美を悠紀夫に背中に乗せた。
あと少しだ。
石段を登り、神廟へたどり着いた時だ。オレンジ色だった空に雲が立ち込み始め、湿り気を帯びた風が吹いてきた。
中空から突然人影が現われ、ふわりと着地した。切れ長の目に肩まで伸びた髪、ノーネクタイのスーツ姿。
由井正雪だ。
「見事な腕前であったな、褒めてやろう。しかし天海が不在となったおかげで、私もこの場へ入ることか出来た。今後は背中の女と同様、永遠に眠ってもらわねばならない」
由井の手に刀が現われた。鯉口を切り、抜刀する。
「お前……」
悠紀夫の刀と同じ、めらめらと炎が燃えさかる刃が現われた。
悠紀夫の驚いた顔を見て、由井がうれしそうに笑う。
「先ほどは力をもてあまして肝を冷やしたがな、もう大丈夫だ。お前の力は俺のもの。この原則は変わらん」
「亜美を降ろしてくれ」
未来が強ばった顔で頷き、亜美を抱えた。
「早く抜け」
悠紀夫は両手を握りしめ、前へ突き出す。火柱を吹き出しながら、刀が立ち現れた。
「いいだろう。いざ勝負」