表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本当の物語は一つだけ  作者: 青嶋幻
50/80

第50話  悪人

 再び見えるようになったとき、亜紀たちは小部屋にいた。


 怯えた顔の少年が正座をしている。その前に三人の男女が立っている。深川、悠紀夫、それに亜紀だ。


 正座している少年がいる。玉山だ。額から脂汗を垂らし、三人を見上げている。


「おい、上納金を払えないってどういうわけだ」


「この間は何とか逃げ切れたけど、もう顔がばれてるから店には行けないよ」


「バカ、別のところでパクってくればいいだけの話だろ」


「でも……。逃げたときのことを思い出すと、怖くて手が震えてきちゃうんだ」


「ほう」


 悠紀夫が乾いた笑いを見せた瞬間、繰り出された右足が玉山の腰に直撃した。


「ひいっ」


 悲鳴を上げ、玉山がよろめきながら崩れ落ちる。


「俺は知ってるぜ。こいつよ、まだサッカー選手になりたいとでも思っているんだ。だから捕まりたくないんだよ。経歴に傷が付くからな」


 深川の言葉に、亜紀が耳障りな声でケラケラ笑う。


「あんた、こんな貧乏施設で住んでいるって言うのにさ、まだそんな夢持ってんの?」


 体を起こしながら、一瞬玉山は恨みがましい目で深川を見た。


 悠紀夫から表情が消えた。


「だったら、夢を潰しちまえば言うことを聞くわけだな」


 暗い目が光る。


 悠紀夫が起き上がろうとした玉山の胸を蹴り上げる。悲鳴を上げながら、仰向けに倒れた。


 無防備になった右膝を思い切り踏みつける。


「うあぁっ、よせよ」


 悠紀夫の意図を悟った玉山は逃げようと立ち上がり掛けた。


「深川、こいつを押さえとけよ」


「おう」


 深川がニタニタ笑いながら玉山を羽交い締めにし、床に座った。


「よせよ、よせったら」


「暴れんじゃねーよ」


 狂ったように暴れる玉山に、悠紀夫は拳で繰り返し顔面を殴る。


 悲鳴に泣き声が混じり出し、玉山の顔が醜く腫れ上がる。抵抗が弱まっていく。


「こんなもんでいいか」


 荒い息をしながら悠紀夫が呟く。


「ほら、持ってきたよ。使うだろ」


 つまらなそうな顔をした亜紀が差し出したのは金属バットだった。


「おう、サンキュー」


 悠紀夫は笑顔でバットを受け取る。


「何するんだ……。やめてくれよ」


「ほら、足を出しな」


 バットの先を胸元に押しつける。


「めんどくせえな」


 羽交い締めしていた深川が腕を放し、玉山の首に手を回し、一気に締め上げた。


「ぐえぇっ……」


 玉山が目を剥き、深川の腕に爪を立てて抵抗していたが、ふっと力をなくした。深川は手を離し、床に倒れた玉山へ馬乗りになる。


「早いとこやれよ」


 悠紀夫が投げ出された玉山の足にバットを振り下ろす。


 獣のような叫び声が響くと同時に、目の前が白く輝きはじめる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ