第50話 悪人
再び見えるようになったとき、亜紀たちは小部屋にいた。
怯えた顔の少年が正座をしている。その前に三人の男女が立っている。深川、悠紀夫、それに亜紀だ。
正座している少年がいる。玉山だ。額から脂汗を垂らし、三人を見上げている。
「おい、上納金を払えないってどういうわけだ」
「この間は何とか逃げ切れたけど、もう顔がばれてるから店には行けないよ」
「バカ、別のところでパクってくればいいだけの話だろ」
「でも……。逃げたときのことを思い出すと、怖くて手が震えてきちゃうんだ」
「ほう」
悠紀夫が乾いた笑いを見せた瞬間、繰り出された右足が玉山の腰に直撃した。
「ひいっ」
悲鳴を上げ、玉山がよろめきながら崩れ落ちる。
「俺は知ってるぜ。こいつよ、まだサッカー選手になりたいとでも思っているんだ。だから捕まりたくないんだよ。経歴に傷が付くからな」
深川の言葉に、亜紀が耳障りな声でケラケラ笑う。
「あんた、こんな貧乏施設で住んでいるって言うのにさ、まだそんな夢持ってんの?」
体を起こしながら、一瞬玉山は恨みがましい目で深川を見た。
悠紀夫から表情が消えた。
「だったら、夢を潰しちまえば言うことを聞くわけだな」
暗い目が光る。
悠紀夫が起き上がろうとした玉山の胸を蹴り上げる。悲鳴を上げながら、仰向けに倒れた。
無防備になった右膝を思い切り踏みつける。
「うあぁっ、よせよ」
悠紀夫の意図を悟った玉山は逃げようと立ち上がり掛けた。
「深川、こいつを押さえとけよ」
「おう」
深川がニタニタ笑いながら玉山を羽交い締めにし、床に座った。
「よせよ、よせったら」
「暴れんじゃねーよ」
狂ったように暴れる玉山に、悠紀夫は拳で繰り返し顔面を殴る。
悲鳴に泣き声が混じり出し、玉山の顔が醜く腫れ上がる。抵抗が弱まっていく。
「こんなもんでいいか」
荒い息をしながら悠紀夫が呟く。
「ほら、持ってきたよ。使うだろ」
つまらなそうな顔をした亜紀が差し出したのは金属バットだった。
「おう、サンキュー」
悠紀夫は笑顔でバットを受け取る。
「何するんだ……。やめてくれよ」
「ほら、足を出しな」
バットの先を胸元に押しつける。
「めんどくせえな」
羽交い締めしていた深川が腕を放し、玉山の首に手を回し、一気に締め上げた。
「ぐえぇっ……」
玉山が目を剥き、深川の腕に爪を立てて抵抗していたが、ふっと力をなくした。深川は手を離し、床に倒れた玉山へ馬乗りになる。
「早いとこやれよ」
悠紀夫が投げ出された玉山の足にバットを振り下ろす。
獣のような叫び声が響くと同時に、目の前が白く輝きはじめる。