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本当の物語は一つだけ  作者: 青嶋幻
37/80

第37話 落下

「ううう……」


 うなり声を上げながら、貼り付いていた人々が中に殺到しようとする。


 表面に、光の幕が出来た。


 人々が押し返されていく。


「行くぞ」


 天海が呪文を唱えはじめる。手に持っていたショベルが輝きはじめた。


 ショベルを外にいる人々に向けて突き刺した。


「ぎゃあっ」


 人々のうつろな目に恐怖が宿り、悲鳴を上げながら後退していく。


「全員わしに付いてこい」


 天海がドアを開け、外へ出た。


「どうする……」


 不安な顔をして弘樹が亜紀たちを見つめる。


「つべこべ言わずに早くしろ、ぐたぐたしてると置いていくぞ」


「ごめんなさい、行きます」


 怒鳴られ、 弘樹が弾かれるようにして車から降りる。


「僕たちも行きましょう」


 福井に促されて助手席のドアから出た。


 天海の周囲には金色に輝く膜が張り巡らされていた。群衆はその中には入って来れないようで、手や顔を伸ばしてくるが、すぐに押し戻されていく。


「儂以外、誰も手を出すなよ」


「手なんか出しませんよ。こんなゾンビみたいな奴ら。恐っ」


「一体これ、どうなっているの……」


 上下左右、人々が折り重なっている。うつろな目に囲まれ、頭がおかしくなりそうだ。


「これより、上野山へ進んでいく」


 天海はその皺だらけの顔から想像できないような軽やかな動きで、シャベルを回転させる。


「でぁぁっ」


 気合いと共にショベルを群衆に突き刺した。群衆が割れ、道を開いていく。


 ハイエースの脇を抜け、路地を左折した。ビルの間を抜けていく。


「ゴゴゴッ」


 頭上から音が聞こえる。


「しゃがめ、落ちてくるぞ」


 訳のわからないまましゃがみ、手を突く。


「ぐぇぇっ」


「ぎゃぁぁ」


 頭上に群がっている人々から、引き絞るような悲鳴が聞こえてきた。


 結界が一気に落ちていく。


 結界越しに液体が広がりだした。


 赤い。血だ。


 結界の上にいる人々は何かに押しつぶされていた。


 圧力で鼻がひしゃげ、目が飛び出ている。


 地獄のような光景が広がっている。


「何……。どうなってんだよ」


 ゴトン、腹に響くような音と共に天井が高くなる。潰れた人々が落ちていき、日光が差してきたてきた。


「また来るぞ」


「何がっスか」


 日差しが遮られた。


 ビルの壁がはがれ、陰を作った。


「落ちてくる……」


 唖然として、体が動かない。


 落下してくるコンクリート塊から目が離せない。


 一瞬で亜紀の目前に迫っていた。


 結界に衝突し、大きくたわんだ。


 目の前に塊があった。薄い結界一枚で遮られているだけだ。


 悲鳴が聞こえてくる。


「早坂さん、落ち着いて。大丈夫ですから」


 体を揺すられて気づいた。


 悲鳴……、それは自分が叫んでいた。


 恐怖で、体が痙攣したように震えている。


「動けますか」


「だめ……。もうだめ」


 逃げたかったが、体が動いていかない。


「悠紀夫、時間がない。彼女を引っ張り出せ」


 脇を抱えられ、ずるずると引きずられていく。それをまるで他人事のように感じている自分がいた。


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