表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本当の物語は一つだけ  作者: 青嶋幻
30/80

第30話 福井さん、あなた知ってるでしょ

 亜紀は暗闇の中を歩いていた。横には福井がいる。水の中に落ちたのだから、濡れていいはずだったが、服は乾いていた。


 辺りはひっそりと静まりかえり、非常灯の明かりが奥の方で灯っている。両サイドにはドアが並んでいた。


 ここはさっきまで閉じ込められていた施設だ。再び来てしまったのだ。


「怪我はしていないですか」


 非常灯に照らされ、心配そうな顔をした福井が亜紀の顔を見た。


「ええ、大丈夫です。ただ、頭がおかしくなりそう。どうしてこんなところへ来てしまったのかしら」


「わかりません」


「嘘」亜紀はいきなり福井に向き直り、睨み付けた。「あなたは知っている」


「どうして……そんな風に言うんですか」


「あなたは仕事帰りで急にここへ来てしまったと言っていましたね」


 福井は頷く。


「でも、その割には落ち着いていた。普通なら、もっとパニックを起こしてもいいはずだわ。窓を開けた時も変。いきなりガラスが消えちゃうんですもの」


 福井はうつむき、目を逸らした。


「まだあるわ。お堀で女性を助けようとしたときもそう。私たちが躊躇しているのに、あなたは助けに行った。そして深川を消し去った。きっと、ここで深川の首を絞めた後も、死体を消したんでしょ」


「僕だって内心驚いていましたけど、顔に出なかっただけですよ。窓を割ったのも、ここから出たくて必死だったからだし、深川が消えたのは……よくわかりません」


「じゃあ、どうしてお堀に落ちたとき、あたしのことを亜美と呼んだの」


「……たまたま間違えただけですよ」


「嘘、深川もあたしのことを亜美と呼んだわ。こんなの偶然ではあり得ない」


「早川さん、あなたは知らなくていいんだ」


 どこからか声が聞こえてきた。辺りを見回すが、どこにも声の主はいない。後ろを見て、再び前を向いた。


 いつの間にか、目の前に男が立っていた。


 黒いスーツでノーネクタイ。髪の毛は肩まで伸び、ややくたびれたような表情をしている。


 由井正雪と名乗っていた男だ。


「ここに閉じ込めたのはお前の仕業か」


 福井が由井を睨み付ける。


「その通り。この間、私は世界制覇を行うと言っただろう。そのためにはお前たちを閉じ込めなければならないんだ」


「理由を言え」


「その必要はない。お前たちはこの場所で閉じ込められていればよい」


 ゴゴゴッ。


 足下から、細かい振動が響いてくる。


「お前たちを動けないようにしてやる」


 左右の壁が近づいてきて、天井も下がり出す。


 部屋が縮まりはじめていた。


 由井の体が薄くなり、消えようとし始める。


「待てよ」


 福井が駆けだし、由井の肩を掴んだ。


「逃がさないぞ」


 由井の体が再び形を取り始めた。しかし、由井に焦りの色はない。


 ゴゴゴッ。


 音が激しくなり、部屋の進むスピードが速まる。


「きゃあっ」


 天井が頭にぶつかり、両側の壁が肩に当たってきた。体が押し潰され、身動きができない。


 前にいる福井が常夜灯の明かりを遮り、何も見えなくなってしまった。


「これでもう動けない。永遠にね」


 由井の笑い声が響いた。


 まるで、自分の体が大きくなってしまったような錯覚を覚える。いや、実際自分が大きくなっているのかもしれない。


「一体どうなっちゃってるのよ」


「わからない。こんな事になるなんてあり得ないよ」


 福井がはじめてうろたえた声を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ