表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本当の物語は一つだけ  作者: 青嶋幻
28/80

第28話 引き込まれる

「いったい何が起きているんだ」


「わたしはこの世界を手中に収めるため、三百七十年前から蘇ってきた。お前たちを呼び寄せたのは野望を実現させるためだった」


「意味がわからないわ。あんたが世界を手に入れるのに、なんであたしたちを呼び寄せなけりゃならないのよ。だいたい由井正雪ってなんなのさ。あんた、馬鹿じゃないの」


 亜紀が叫んだ。


「私はきわめてまともだ。おかしいのは君たちの認識さ」


「だったら順序立てて説明してよ。ここで何が起きているの」


「それを私の口から言う気はない。勝手に考えればいい」


「何、その言いぐさ」


 由井が乾いた笑い声を上げた。


「え?」


 堀の水面が揺れていた。


 ぐおぉぉん、ぐおぉぉん。地鳴りのような音が辺りに響きはじめる。


 地震なのかと思ったときだ。悠紀夫が立っていた縁に水が溢れてきたかと思うと、たちまち水没し、腰まで浸かり、更に沈んでいく。


 石垣が沈みだしているのだ。


「うわっ」


 玉山と亜紀がぶら下がるようにして柵にしがみついていた。布が穴に引きずり込まれていくように、周辺の土地が堀の中へ入っていく。


 道路を走っていた二トントラックが横転し、水しぶきを上げて水中に落ちた。

 県庁のビルが傾き、空を覆うように迫っていた。


「まずい、逃げるんだ」


 悠紀夫は横に倒れはじめた柵を掴んで上に乗る。


「未来、捕まるんだ」


 怯えた表情で水に浸かったままの未来に手を差し出した。


「早くしろ」


 怒鳴りつけ、ようやく手を掴んだところを引き上げた。石垣はほとんど水没し、手すりも水面に迫っていた。生け垣を乗り越え、斜面になっている道路を転げ落ちないよう進んだ。


 ビルの窓が割れ、机と一緒に人が悲鳴を上げながら落ちていく。


「みんな、こっちだ」


 悠紀夫はビルを回り込み、急激な上り坂になっている通路を四つん這いになりながら進んだ。その後を未来、玉山、亜紀がついてくる。


「気をつけろ」


 前方から自転車が落下するようにして落ちてきた。悠紀夫は体を倒して避けたが、亜紀の肩に直撃した。亜紀が自転車と共に落ちていく。


「亜美」


 悠紀夫が叫びながら手を離し、滑り落ちていく。堀に着水し、水面から顔を出した。一メートル先に亜紀が同じように顔を出していた。


「大丈夫か」


「うん」


 道路沿いの生け垣が横倒しになり、堀の中に飲み込まれていく。


 ゴゴゴゴッ。


 傾き続けた県庁のビルが横の重みに堪えきれずに崩れてきた。堀の中にコンクリートの塊がしぶきを上げながら落ちていく。


「もう逃さんぞ」


 見上げると、腕を組んだ由井がふわりと浮かび上がり、腕を組んでいた。引きつったような三角眼で悠紀夫たちを見下ろしている。


「だめだ、自由にはさせない」


 悠紀夫が叫んだ瞬間、周囲の物体がわずかに発光した。


 動いていた道路のペースが遅くなっていく。


 浮いていた由井の体が、透けて見え始めてきた。


「お前も幻だったんだな」


「私は深川と違う」


 落ち着き払い、笑みさえ浮かべていた。


 由井の体が発光し始める。最初はぼんやりとした光だったが、強くなり始め、周囲を照らしはじめる。


 再び、堀に落ち込んでいくスピードが速まっていった。


「馬鹿な……」


 どおぉぉっ、と音を立て、底が抜けたかのように水ごと体が落ちていく。


 底は闇が控えている。


 石垣が狭まり、日の光を遮っていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ