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本当の物語は一つだけ  作者: 青嶋幻
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第22話 検証

「まず、お互いどういう経緯でここへ来たのか話してみましょう」亜紀は玉山と福井を交互に見る。「まず私から話します。福井さんもご存知かと思いますが、私はサクラの不具合を調べるために静岡へ来ました。


 用が済んで車で東京に戻ろうとしたところ、いつのまにか静岡へ戻ってきてしまったのです。そうこうするうちに、地震でトンネルに閉じ込められ、気がついたらこの建物にいたのです。その後、深川という人に襲われました」


 玉山が話し始める。


「自分は新幹線で東京から大阪へ向かっていました。ちょうど静岡へ差し掛かったとき地震に遭い、新幹線が停車してしまったのです。


 当面運行しないという案内でしたので、私は静岡駅で降りて、マネージャーに宿を探してもらいました。それがここなんです。


 最初あの気持ち悪い男に会ったのは、静岡駅の構内でした。最初は有名人に絡んでくる素人かと思ったんですけど、子供達止めに入りまして。変だと思ったのはその辺りからなんです」


「子供?」


「ええ。男と女の二人で、まだあどけない顔をしていましたから中学生か高校生ぐらいでしょうか。彼らも急に消えてしまいましたが」


「子供達に心当たりはありますか」


「いいえ。見たこともないです」


「そうですか。じゃあ次に福井さん、話してください」


「僕の場合は……。仕事を終えて、家に帰る途中でした。急にめまいがして目をつぶったらこの建物にいました」


「深川という人に心当たりはありましたか」


「深川……」


「あなたが首を絞めた人です」


 玉山がぎょっと目を剥き、福井を見る。


 福井は曖昧に笑った。「気のせいじゃないですか」


「そんなはずないでしょ。あたしは確かに見たわ」


 暗闇の中で福井が馬乗りになり、首を絞めている様子。引き絞るような声が、生々しく頭に焼き付いている。それに窓を割ったとき、目を大きく見開いたまま、仰向けに倒れている深川。間違いない、この男が首を絞めたんだ。


「申し訳ないけど、僕は記憶がないんです。仮に深川という人に僕が暴行を加えたとして、その人はどこへ行ったんでしょうか」


 言葉に詰まる。確かにそうだった。深川は忽然と姿を消してしまった。


「わかりました。私の勘違いだったんでしょう」


 夢の中なんだから、矛盾した事はいくらでも起こりうるんだ。あまり気にしないようにしよう。深川がいるかもう一度確認してみたい思いはあったが、二度と中に入りたくなんかなかった。


「じゃあ、あの窓がどうして暗くなっているのかわかりますか」


 福井は首を振った。


「でも、窓を開けたのはあなたですよね」


「僕もどうしてそうなったのか、よくわからないんです」


 亜紀は首を振りながらため息をついた。


「あの……」玉山がおずおずと話し出した。「自分の個人マネージャーで橘という人がいるんですけど、姿が見えません。きっとここにいるはずなんですけど」


「でも、建物の中で、あたしは深川から逃げ回っていたんです。かなりの音を建てていたはずですけど出てきませんでした」


「確かにそうですね。自分も廊下で動けなくなって彼を呼んだのですが、出てこなかった」


「また探しますか」


「いや……。中へ入るのはもうごめんです」


「あたしも。福井さんは」


「僕もごめんです」


「だったらここでマネージャーさんが来るのを待つしかないですね」


「それより、警察を呼びましょう。自分はあいつに暴行を加えられているんです。あなたもそうでしょう。誰か携帯は持っていませんか。自分のはバッテリーが切れてしまっているんです」


「あたしはなくしてしまったわ」


「僕は持っています」福井が携帯を取り出した。「でもだめですね。ここは圏外になっています」


 画面を見ると、確かに圏外の表示が出ていた。


「仕方がない。警察を呼びに行きますか」


 亜紀も異存はなかった。深川が割れた窓から飛び出して来るかもしれない。そう思うと一刻も早くここから立ち去りたかった。

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