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本当の物語は一つだけ  作者: 青嶋幻
20/80

第20話 未来が逃げる

「大丈夫だ」


「深川は……どうなったの」


「そこで伸びているよ」


 暗闇の中、倒れている男のシルエットがうっすらと浮かび上がってくる。


 まさか、殺されちゃったの。


「ともかくここから出よう」


 男は窓に手をかけ、開けようとした。しかし、窓は開かない。


「だめか。ならば」


 今度は手のひらを窓にあてた。深呼吸しているのか、肩が大きく上下する。


 光が差してきた。真っ黒な窓が透明になってきたのだ。


 日の光が目に突き刺さり、まぶしくて思わず目を閉じた。何度も瞬きさせながら、目を慣らし、窓際に近づいた。


 外は広場になっていて、壁に囲まれていた。空は曇っていたが、間違いなく太陽光は降り注いでいる。


 対して、隣の窓はいまだに真っ暗で何も見えない。


 窓を黒いペンキで塗りたくってあるの……。


 いや違う。黒い窓からはうっすらと風景が見えていた。


 暗い窓の向こうは暗く、光の差す窓の向こうは明るい。


 そんなわけないでしょう。単なる目の錯覚よ。奇妙な感覚を、理性が打ち消した。


 いつの間にか、男が触れていた窓ガラスは消えていた。


 草木の青臭い匂いを帯びた弱い風が室内に進入していた。


「これ、どういうことなの」


「二人とも外に出ていて。僕は上にいる玉山を連れてくる」


 男は未来の質問に答えず、さっさと奥へ行ってしまった。


 床に倒れている深川が目に入ってくる。瞳孔の開ききった目は閉じることがない。口を大きく開き、驚きと苦悶に満ちた顔をしている。


 さっき延びているなんて言ったけど、そんなもんじゃない。


 この人、明らかに死んでいるわ。


 未来は呆然として女を見た。彼女も目に戸惑いの色を浮かべながら未来を見ていた。


「これ……一体どういうことなの」


「わからないわ。あたしも頭が混乱しているのよ」


 改めて女を見た。暗闇の中、鬼のような形相で椅子を振り下ろしていた姿。


 マンガは途中までしか読んでいなかったが、ユキオとアミが悪役として描かれるのは間違いない。


 マンガは現実を描いていたの?


 強烈な恐怖がわき起こり、逃げようと思ったと同時に体が動いていた。


「ねえ、ちょっと待ってよ」


 未来は棚に乗り、窓から外に飛び降りた。着地した瞬間、強烈な頭痛が襲い、バランスを崩して地面に倒れた。


 それでも立ち上がり、頭を抱えながら走り出した。


「どこへ行く気よ」


 振り返ると女が窓から心配そうな顔をして見ていた。一旦止まりかけるが、マンガを思い出し、だまされてはいけないと思う。どうやら建物から出てきてまで、追いかけてくる様子はない。


 未来はおぼつかない足取りで門から道路へ出た。

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