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本当の物語は一つだけ  作者: 青嶋幻
19/80

第19話 闇の中で争う

 闇から現われた女の顔を見て、未来は恐怖で思わず声を上げてしまった。


 目の前にいる女は、〈忍び寄る陰〉に出てくるキャストの一人とそっくりだった。


 ユキオが付き合っていた女で、アミという名前だった。ユキオとつるんで、ミクたちを陥れるのだ。マンガより年齢はかなり上らしく、顎のラインがはっきりとしていたが、目鼻口は間違いなく共通だ。


 反射的に逃げ出そうとしたが、女に体を押さえ込まれた。


「大丈夫、あたしは何にもしないから」


 本当だろうか。表情は誠実そうに見えるので、一瞬信じていいのかと思い、動くのをやめた。


「そこにいるか」


 深川の声だ。ドアの開く音が聞こえる。闇の中で目をこらしていると、陰が動いた。


「どーこーにいるのかな」


 おどけたような声を上げる。


 マンガがこの女をモデルとしているなら危険だ。彼女も深川に追いかけられているらしいからこうして静かにしているが、状況次第で牙を剥いてくるかもしれない。


 闇の中から、目の前に足が現われた。思わず声を上げそうになり、体が反応した。


 床が擦れる音が出た。


「なんだ。目の前にいるじゃん」


 深川がしゃがみ、二人を覗き込むように見た。目の前に、嫌らしい笑顔が広がる。


「みーつけた」


 おもむろに襟首を掴まれ、床に押さえつけられる。振り払おうとするが、強い力がかかって動けない。


「やめて」


「そんなこと言っちゃだめだよ。お前は俺の物なんだからさあ」


 深川が上に乗ってくる。息もできないほど苦しかった。


「あんた、やめなさいよ。その子がいやがっているじゃないの」


「うるせえ。怪我したくなかったら、とっとと消えちまえ。お前に用はねえ」


「うっ」


 何かが当たる音と共に、深川が呻きながら倒れた。体重から解放され、反射的に立ち上がる。


「お前……。蹴ったな」


「あんたもさっき蹴ったじゃない。お返しよ」


 非常灯に照らされて、うっすらと女の姿が見えた。毅然とした視線を深川に向けている。本気でこの男に憤っているようだ。


 深川の顔に笑みは消えていた。純粋な憎しみの表情が緑色の非常灯に照らされ、浮かび上がっている。


「殺す」


 深川が女に掴みかかろうとするが、逃げられる。闇の中、二人の姿が現われては消える。深川の怒声と机がぶつかる音が響いた。


 速く逃げなきゃ。未来は目立たぬよう、そろりと戸口へ移動する。


「逃げんじゃねえよ」


 突如、深川の怒りにゆがんだ顔が現われ、強い衝撃が走った。


 殴られたんだと思ったとき、飛ばされて背後にあった机に衝突した。衝撃が痛みに変わるのに時間はかからなかった。


 左頬が焼けるように痛い。幸いメガネはずれただけで飛ばされていなかった。


「ぎゃあっ」


 深川の悲鳴と、鈍い衝突音が同時に聞こえた。音は立て続けに響いた。立ち上がり、目をこらす。


 女が仁王立ちになって、折りたたみ椅子を振り上げていた。足下には深川が倒れ、腕で頭をガードしていた。


 鬼のような形相だ。


 恐怖に駆られ逃げようとしたときだ。戸が開き、男が一人入ってきた。


 深川は女が気を取られた瞬間を見逃さず、タックルされた。女と深川が闇の中に消えた。そこへ新たに入ってきた男が加わる。


 怒声と悲鳴、骨と骨がぶつかるような鈍い音が響く。


「ぐうぇぇぇぇ」


 引き絞るような声が聞こえたかと思うと、静寂が広がり出す。


 闇の中から男の顔が浮かび上がる。


 未来は恐怖で叫び声を上げそうになった。


 男はマンガの登場人物――ユキオそっくりだった。

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