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「どうしてそこまで人として生きることにこだわる? 俺は例え、お前が俺の血を吸おうと、返しきれない恩があると感じているし、吸血鬼だろうが構わないと思うくらいにお前に依存してる。だから吸血鬼だろうが生きててほしい、だけどお前は人として生きたいって思ってんだよな。

だったら、もっと大事な誰かを作る努力をしてくれ。お前が思っているより、周りはお前を大切に思っているんだぞ? もう少しは俺達を信じてくれ、お前を出来るだけ人として生活出来るようにサポートするから、だからお前から人として生きることが出来ないと諦めるようなことを言わないでくれよ。頼むから、それだけはしないでくれ」


強気ながらも縋るような「言葉」

私は、金でしか彼を助けることしか出来なかった人間なのにどうしてここまで依存をしてくれるんだろうか? ……私はある意味、彼の将来を買い取ったようなものなのに、彼は憎みもせず、むしろ私を慕ってくれている。


彼と出会った当時、私は実家の会社の手伝いをしながらも、親名義で株をしていた。株の資金源は実家の手伝いをして貰ったお金だけだが、相当な金額を稼ぐことが出来た。おかげで、経済学は大学生並みの知識を得ることになったが、赤字が出さないためだ、自分の時間を削るのは当然だと思っているため、青春をする時間を削ったことは後悔してない。

と、言っても私が株をしていたのは中学一年から二年の間だけ。後は、実家の手伝いをした中の給料を貯金するだけで平気なくらいの貯金額になったからな、中学三年やら高校一年くらいから大学費の全面補助やら貸し出しやらをする活動を始めた。


自分の分の大学費、生活費を除いても、結構な人数の学費の全面補助、貸し出しをすることが出来る値段が自分の手元にあった。もちろん、学費の全面補助をするのは条件を満たした者だけだったけど。


「医療の道に行く人」の学費は、返さなくて良いし、大学に関する費用も全て保証した。……その代わり、「吸血鬼」の資料を基に、私の治療について陰ながら研究することを条件に、だがな。

もちろん、「私」が吸血鬼だとは言ってないけれど、頭の良い彼らなら察しているはず。それでも、私が人として生きていけるのは、学費についての恩があるからだろう。……なんて、自分はずるい奴なんだろうな。


「学費については恩を感じる必要はない。お金を持ってようと、それで贅沢な暮らしが出来ようと私の吸血症状がなくなる訳ではないし、君達医学の道に進みたい人をサポートする方が私にはメリットがあった。私の吸血症状が抑えられる薬やキッカケを発見することが出来たのだから、君達はそれを果たしただけでも十分、学費への恩は返せている。

それでも、私の側にいてくれるなら、私は来る者も拒むことはないし、去る者も追わない。君達の好きにすれば良い。

勘違いはしないでくれ、君達がどうでも良いからそう言っているんじゃなく、理性が残っていればもし吸血症状が出ても抑えることが出来るが、欲求のまま吸血してしまえば人間である君達は間違えなく死に至るだろう。そんな事態になる可能性があると覚悟の上で、君達が側にいるのなら止めないし、逆にまだ死ねないから私の側から去るというのならそれも止めないと言うだけのこと。

私からすれば君達が側にいてくれるだけで人間のまま過ごしたいと思えるから、君達が側にいてくれるのは有難いのだけど、権力で人の心を縛るのは嫌いでね、私の元に残るのも良し、去るのも良し、君達で選んでくれ。

別にな、私は生きることを諦めた訳じゃないんだ。確かに傍観者に徹してはいるが、私には愛しく思う者がたくさんいる。だから、悲しませたくないから人間で生きようと努力しているし、私自身も人間でいたいと思っている。

だけどな、私がもし吸血症状が抑えられなくなって、吸血鬼としての欲求だけしかなくなってしまったとして、そうなってしまったらきっと一般人の誰かの血を吸ってしまうだろう。そうしたら、批判されるのは家族だ。弟達も吸血鬼なんじゃないかとありもしない疑いをかけられることになる。そんな苦しみを与えるのは嫌なんだ、だから別に生きるのを諦めているんじゃないんだよ」


そう言えば、浅村は照れなのか怒りからなのか理由はわからないが、顔を真っ赤にさせた後、悲痛な声で叫ぶように、


「お前が、権力を人にぶつけるような奴だったら、こんなに苦しまずに済んだのに!! お前がそんな奴だったら、こんなにも辛く思わなくて済んだのに!! 昏睡させることを躊躇いを持たせたのはお前のせいだ! お前が、こんなにも親切で、優しくするから、情を沸かせるんだ!」


そう言って、スーツの襟を掴み、縋り付くように泣く叫ぶ浅村を強く強く抱きしめた。

そして、


「ごめん、ごめんなぁ。

なるべく長く生きるから、吸血鬼に負けないように頑張るから、だからそんなに泣かないでくれ。強気なお前がそんなにも弱々しいと、調子が狂うだろう? 泣かれると、どう慰めたら良いのかわからないんだよ」


そう言って、ただただ浅村を抱きしめることしか出来なかった。

その会話を、彼が聞いていたとは知らずに、私は泣かせてしまったことに狼狽えていたのだった。







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