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頬から手を離してから、改めて気づく。
背が高いわりには……と言っても私より低そうだが、細すぎるなと。
この細さなら持ち上げられる、そう思った私は男の子に悪いと思いつつ、所謂、お姫様抱っこをした。
思っていた以上に男の子は軽かった。
意識がない時、人間は重く感じると聞いたことがあったから、ある程度の腕への負担は覚悟していたと言うのに。
……あまりに軽すぎた、健康体とは言えないくらいの異常なくらいの軽さだった。
座っていたベンチに一度、男の子を横たわせ、ポケットから携帯電話を操作し、知り合いの町医者の男へと連絡し、病院を開けてもらえるように頼んだ後、すっかりと常連になったタクシー会社に連絡し、いつもの公園へと来て欲しいと頼んだその時……、小さく唸ったような声が男の子の方から聞こえてきた。
……まだ生きているな。
体温が高いんだ、生きているはずなのに一安心するなんて重症だな。
死に対して身構えすぎている自分に、呆れて苦笑いしか出来なかった。
苦しそうな男の子が心配で、タクシーが来たかどうか確かめに行けずにいると、いつも運転してくれるおじちゃんが公園の中まで迎えに来てくれた。
「にいちゃん、いつもなら時間を計ったように現れるから公園で倒れてないか心配したんだぞ? 」
相変わらず面倒見の良いおじちゃんだ。見ず知らずの社会人の身を案じてくれるなど、どれだけお人好しなんだ。……いや、調子の良くない学生を見ている私もなかなかお人好しか。
類は友を呼ぶってか。昔の人は本当に良いことを言う。
「すみません、おじちゃん。手間をかけてしまいまして」
そう謝れば、おじちゃんは、
「いいんや、良いんだよ。それよりにいちゃん、そこの兄ちゃん病院に連れてくんだろ? にいちゃんはお人好しだからな、そんなとこだろうと思ったわ。にいちゃんが公園までタクシー呼ぶ時は、緊急時の時だけだしな。
にいちゃんは優しすぎるわぁ、子猫拾ったり、子犬拾ったり、里親見つからない時は自分で飼ったりなぁ。それだけやない、喧嘩した学生達を叱って手当てしてやったり、病院まで連れて行く。俺にはそんなこと出来やしない。
だから、なんか困ったことあったら相談してな。一応、おじちゃん、お前さんよりは長生きしてっからな」
人の良さそうな笑顔を浮かべながら、おじちゃんはそう言ってくれた。
その言葉をくれただけで、私にとっては十分心が満たされたような気がした。
「ええ、ありがとうございます」
タクシーの常連だとは言え、私とおじちゃんの関係の繋がりはそれだけだ。
なのに、おじちゃんはそれだけの私のことを心配してくれる。……そんなおじちゃんの方が優しい人だ……。
私はむしろ周りからは偽善者だとしか思われてないからね、ここまで純粋に褒められたのは随分と久しぶりなような気がする。
そのことに、思わず表情筋が緩みそうになるが、すぐに引き締めて、
「浅村病院までお願いします」
おじちゃんに行き先を伝えた。