表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巨神機兵の契約者 ―破滅のオーメン―  作者: Super Soldier
第2章 魔神の産まれた日
6/32

5話 運命の出会い

 僕は河崎零、17歳、線路に落ちたおばあさんを助けて死んだ、哀れな高校生。


でも、生前は何一つとして悪事を働かず、真っ当に生きたため目出度く天国に行けることになった。

天国には御父さんと御母さんもいて一緒に暮らすことも出来る。

 人生が負け犬で終わってしまったことが心残りだったけど、天国で家族と過ごせるならそれでもいいか、と未練もなく天に召されようとした。


でも、その直後のこと。

何かはわからない、巨大な黒い手が空間を突き破ってきて、僕を《虚無の世界》と呼ばれる世界に引きずり込んだ。


 そして僕はレギオンと出会った。


彼は僕に奪う側に回れるだけの力を与えてくれると言った。

そして、一緒に虚無の世界の外に出て、奪う側の世界を満喫しようと誘ってきた。


僕はその申し出を迷うことなく拒否した。


 僕はそんなものよりも、地球で、河崎零として、自分の力で生きぬいていきたかったんだ。

 それが叶わない異世界になんて興味は無い。


だというのに、あのレギオンとかいう黒い球体は一方的に……。


 何が悪霊に魅入られた、だ。ふざけたことを……。


 僕をもとの世界に帰せッ!


 肉体が無くてもいい。

 魂だけでもいいから地球に帰せ。

下らない事に僕を付きあわせないでくれ。


 そう何度も繰り返し怒鳴ったというのに………


 ニヤニヤ


僕を、スキンヘッドの初老の男がずっと覗き込んでいる。

顔は酷い火傷を負っているためただれていて、笑うと醜い頬が吊り上り、その禍々しさに悪寒が走る。

極めつけは大きな赤い瞳。ぎょろっとしていて、今にも飛び出してきそうだった。


(なんだ……こいつ……)


 言葉では言い表せない不快感を覚える。

 目の前の老人からは《狂》の匂いが漂ってくる。

 絶対、こいつ、真面じゃない。

 ただ、目の色が赤いのだけはどことなく好感が持てる。

 生前の僕の目も赤だからね。


「なかなかに警戒心が強いようだ」


 老人は僕が警戒しているのを難なく見抜いてきた。

 でも、口元は相変わらず醜く微笑んでいて、焼けただれた頬がヒクヒクと動いている。


 そしてスキンヘッドの老人は振り返り


「召喚は成功したと本国に伝えろ。ここは放棄し、ブランに帰還するぞ」


 背後に控える軍人?達に命令した。

そのおかげで彼の後ろの様子を見ることができた。


スキンヘッドの老人の背後には見たことも無い不思議な機械?のような物がずらりと並び、太い配管のようなものが僕の方に伸びていた。

そしてその機械を、老人と同じ深い緑色をした軍服に身を包んだ男たちが操っていたが、老人の命令で手を止め、忙しなく動き出した。


(それにしてもここはどこだ?)


 なんとなくだけど、地球じゃない気がする。

 ということは異世界という奴なのだろう。


(あのレギオンめ……)


 よくも僕を無理やりこんな所へ連れてきたな。

 あれほど嫌だと言ったのに、来たくないと言ったのに。

 地球では、いや、天国では僕の両親が待っているんだ。


(くそ……あそこであの男を信じてさえいなければ……)


 悔やんでも、悔やんでも、悔やみきれない。


 苛められた日々が鮮烈な印象と共に脳裏に蘇ってくる。

どれもこれも辛いものばかり。


 僕を愛してくれていた両親の、突然の死。

 唯一の味方だった祖父が殺されたあの日。

 一人ぼっちになった僕を執拗に苛め抜いてきた一族の奴らの顔。

 そしてあの日、僕は叔父に殺された。

駅のホームに落とされて。


(許せない……)


 ドックン!ドックン!ドックン!


 心臓が力強く脈打ち始める。

心臓の耳の真横にあるんじゃないかと思う程、音がはっきりと聞こえてくる。

怒りのあまり視界まで真赤に染まってきた。


 ニヤリ……


 だが、視界の端に、吊り上った焼けただれた頬が見えて思考が一時的に中断される。

視線をふと持ち上げてみると、あの不気味な老人が僕の顔を間近で覗き込みながら愉快そうに微笑んでいた。


「君の心の波動はしっかりとこちらに伝わっているよ」


 老人はいたく満足そうだった。

僕を見て、達成感を覚えているようにも見える。


「何も怖がることはない。私はただ、君と会話を楽しみたいだけだ。そう、会話だよ、会話」


今は会話なんてする気分じゃない。

これからどうすればいいか、それを考えるのに精いっぱいだ。

でも、目の前の禿げ頭はしつこく僕に話しかけてくる。


「ほら、恥ずかしがらずに、喋ってごらん。さあ」


 それがあまりにもしつこくて僕はつい


「黙れ」


 と、声を出してしまった。

だが、自分の声に少し違和感を覚えた。

以前の聞きなれた僕の声とはまるで違う上に、声帯の感覚がない。

声を発するとき、喉の奥が震えている感じがしない。

 と思った矢先


 ゴツンッ!


 老人の顔が僕の目の前に突き出されてきた。

それこそ、彼の顔と僕の顔が激突すると思う程の勢いだったけど、なぜか老人の顔は途中で見えない何かに遮られて、停止した。


「おい、聞いたかッ!彼が喋ったぞ!言葉が通じたんだッ!!」


 老人は歓喜の声をあげて、拳を震える程強く胸の前で握りしめた。

焼けただれた頬がビクビクと震え、不気味な笑みを浮かべてくる。

 でも、突き出された顔は何かに遮られるように僕の目の前で停止していた。


(ガラス……?)


 僕と老人との間に透明な仕切りがあるようだ。

僕は無意識にそのガラスに触れようと手を伸ばした。


 ピタ………


 でも、ガラスに触れた僕の手は人間の手じゃなかった。


「え……?」


(これが……僕の手……?)


 僕の手は異常なまでに細く、影のように真黒だった。いや、僅かに赤が入っているけどそんなのはどうでもいいか。


指の本数も四本だし、指先も刃物のように鋭く尖っている。


それに、サイズが異様に小さい気がする。いや、絶対に小さい。


 僕はそれが本当に自分の手なのか確かめるように、ペタ、ペタ、とガラスに触れてみた。だが、感触が返って来ない。

でも、僕の意思と連動して動いている。

この手には運動神経はあっても、感覚神経が通っていない。


 そんな僕の姿を、老人はガラスに額をぴったりとくっ付けながら、目をぎょろつかせて観察している。

でも、なんだかその老人の顔が僕には大きく見えた。


(いや……大きく見えてるんじゃない……本当に大きいんだ……)


 顔を突き合わせているからこそわかる。

彼の顔は巨大だ。まるで巨人みたいだと思った。

本当に巨人なのかもしれないけど。


「どうかね、気分は?何も問題はないかな?」


 もっと会話をしたい。

彼の急かすような気がひしひしと伝わってくる。

目の前の巨大な老人は異常なまでに興奮していた。

鼻息が荒くて、ガラスが曇る。


「ああ、そうか。よくよく考えてみればまだ自己紹介も済んでいなかった。名前を尋ねた方が名乗る。それが礼儀だったね。すまない、すまない」


 と、勝手に自己完結して話を進める老人。


「私の名前はヴィルヘルム。ヴィルヘルム・フォン・ハウゼン。ブラン帝国軍大将であり、ブラン帝国の大公爵を務めている者だ」


 とご丁寧に名乗ってくれるのだが


(そんなのどうでもいい)


 それよりも僕だ、僕の身体だ。

 

 自分の両手を見てみても、やっぱり普通じゃない。

 明らかに人の手じゃない。

 一体、僕の身に何が起こったんだ……。


「ふーむ、君は自分が何者なのか理解していないようだね?いきなり召喚され、見たことも聞いたことも無い場所に連れて来られてさぞ、不安だろう?」


 文脈から察するに僕をここに呼び出したのはこの老人らしい。


(不安ね……)


 不安よりむしろ不満のほうが強い。


 せっかく父さんと母さんの待つ天国に行けるところだったのに……。

 家族3人でまた幸せに暮らせるはずだったのに……。


 それなのにこんな訳もわからないところに連れてこられて、醜い顔の爺さんと顔を突き合わす羽目にあった。


 不満がありすぎて発狂しそうだ。


 ていうか、本当に顔が近いよ、御爺さん。

ガラスにぴったりと顔を押し付けるのをやめてくれたら少しは気分がよくなると思うよ。


 と、敢えてその本心は口に出さなかったけど、老人は僕の心を察して……くれたわけではないだろうが、ガラスから額を離してくれた。

そして振り返り、指をパチンと鳴らす。


「鏡を持ってきてくれ」


 老人がそう言うと直ぐに同じ緑色の軍服に身を包んだ男が小さな鏡を持ってきた。

老人と対比すると小さく見える鏡だが、僕からすれば凄く大きい。

遠目からでも、それが僕の今の身の丈と同じぐらいの大きさがあるのがわかる。


 老人は鏡を受け取ると満足そうな笑みを浮かべてまた僕を振り返ってきて


「さあ、御対面の時間だよ。君の姿に、だ」


 まるでサプライズパーティーのプレゼントを差し出すかのように、一度背中に鏡を隠した。

いちいち、面倒な人だ。


 でも、彼が僕に向かって鏡を差し出すとそんな感情すらも一瞬で消し飛んでしまう。

僕は、鏡に映った自分の姿を見て目を見開いた。

正確には、目を見開いたつもりになっていた。


(これが……僕……?)


 鏡に映っていたのは金属と思わしき赤黒い球体だった。


球の中心には穴が空いていて、そこから一つの巨大な目玉のようなものが顔を覗かせている。

眼の色は僕の生前と同じ、赤。

しかも、瞳の部分がまるで電球のように煌めいていて発光していた。


それだけでも十分に不気味なのに、球体の両側面には穴が空いていて、そこからあの細くて、赤黒い小さな手が生えている。


 これ、本当に僕?


 それを確かめるべく、目玉を動かしてみることにした。

視線を右に、左に移動させてみる。

すると、球体が左右に動いて、赤い光が鏡の中で動いた。

 間違いない、鏡に映るこの姿こそが僕らしい。


そして、ここでおかしなことに気づく。


(頭の上に何か乗ってる……)


 頭、というか球体の上に何かが乗っていた。

 ただ、ガラスに強い反射光が当たっていて良く見えない。


 僕はそれを確認しようと顔を上げ―正確には球体を回転させて目を上にした―ると


 ニヤニヤ


顔があった。

 正確に言うならば、金属製の球の外殻に包まれた、僕そっくりの奴がいた。

 真ん中には赤い電球のように煌めく目。

 そのすぐ下がジグザグに裂けてジャックオランタンみたいな笑みを浮かべている。


 ただ、大きさが違う。

 僕よりも二回りぐらい小さい。

 それが僕の球体の外殻とぴったりくっついて存在していた。

 まるで大小異なる球体が磁力によって密着しているように。


(って……え……?)


 なにこれ……。

 

『よう、シーザー』


 と、僕そっくりの小さな球体がギザギザの口を歪めたのだ。


「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!」


『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!』


 僕が絶叫すると、僕の頭上にくっついている球体も同じように絶叫した。

 僕にも目の前の奴と同じように、目の真下のプレートが裂けてギザギザの口が現れていた。


 そして、僕と僕そっくりの奴の声量で周囲を取り囲んでいたガラスが砕け散り、吹き飛ぶ。

 そればかりか、周囲の軍人たちが一斉に耳を塞ぎながら苦しげにうめきはじめた。

 よほどの高周波らしいが、ハウゼンだけは平然と僕達を見てニヤニヤと白い歯を覗かせている。


『って落ち着け。俺だよ、レギオンだ』


 球体は開いていた口をパックンと閉じて、再度、僕に話しかけてくる。


「レギオン?お前が?」

『ああ、そうさ。お前の外殻を真似て、外に形を持たせてもらった』


 ぴったりとくっ付いた、大小の大きさの異なる二つの球。

 大きいのが僕で、小さいのがレギオン。

 でも、そんなのはどうでもいい。


「レギオンッ!お前、よくも僕をこんなわけもわからない場所に連れてきやがったなッ!」


こいつのは恨みがある。

 無理やりこの世界に引きずり込まれたという恨みが。


「な、なんだよ、シーザー……。そ、そんな大声で怒鳴らなくても」


 僕に怒鳴られ、僕よりも一回り小さな球体がおどおどする。

 でも、僕にしてみれば何を今さら、だ。


「怒鳴られて当然だッ。よくもこんな訳もわからない場所に連れてきたなッ!」


 この、不気味で、醜い、金属の塊めッ!


『い、いや、待ってって、シーザー。肉体が滅んだ時点でお前はもと来た世界から隔絶されてたんだ。俺が連れてこなかったとしても戻れなかったんだって。だ、だからそんな怒った顔しなくても―』

「うるさいッ!黙れッ!余計なお世話だッ!」


謝罪も言い訳も聞きたくない。

 僕を地球に、天国に返せ。


『だから、それは無理なんだって。虚無の世界に迷い込んだ時点でどうにもならなかったんだって。あのまま残ってたら、お前は永遠にさまよい続けたぞ』

「またその話か」


 それが余計なお世話だというんだ。

 運よく地球に戻れる可能性だって0じゃなかった。

 それをよくも……。


「ていうか、いつまで僕の頭の上に乗ってるつもりだ。早く降りろ」


 僕の視界の中は、僕を見下すレギオンで一杯だ。

 全く同じ外見の奴が頭の上でニマニマしてると思うと虫唾が走る。


『無理だ。くっついて離れられない』

「はぁ?」


 離れられない?

 冗談じゃない。


「いいから降りろッ!」


 体(球体)を右に、左に、捩じって動かして頭上のレギオンを振り落とそうとする。

 だけど、レギオンは落ちるどころか僕の動きと完全に連動して、常に頭上のポジションを維持していた。


 そんなにも僕を尻に敷きたいか、この屑玉めッ!


「レギオンッ!お前、意地でも僕の頭の上に乗ったままでいる気かッ!」

『だ、だから、離れられないんだって。あきらめろよ、シーザー』

「諦めろ、諦めろ、お前はなんでもそれかッ!」


 どうしても離れないっていうなら僕にも考えがある。

 赤黒い自分の手でレギオンの球体を掴み、渾身の力で引っ張ってやる。


『いでででッ!だ、だから無理、無理なんだってッ!』


 何が痛い、だ。

 お前、金属っぽい物質の塊だろ。

 それに、僕の受けた被害に比べればお前の痛みなんてどうでもいいッ!


「早く離れろッ!この醜い化け物めッ!」

『いだいッ!いだいッ!シーザー痛いってばッ!ていうか、俺が醜いならお前も同じだろッ!」


 確かに、こいつが醜ければ瓜二つの僕も醜いことになる。

 なら、なおのこと引き剥がしたいねッ!

 醜い自分の顔が自分の頭に乗ってたら誰だって引き剥がしたいだろ。


 そんな感じで僕とレギオンの、埒の明かないやり取りが繰り返されていると


「ほう、シーザーとレギオン、という名前なのか」


 あの禿げ老人、確かハウゼンとか言った奴が話に割り込んできた。

 僕とレギオンのことをとても興味深そうな目で見ている。


「実にいい名前だ。不思議な響きを感じる」


 そう言ってハウゼンが僕の胴体(球体)を両手で掴んできて、パカン、と台座のようなものから外し、持ち上げてしまう。


(ど、どうするつもりだ……)


 まるで親に抱きあげられる赤ん坊のように僕はハウゼンの腕の中に収まってしまった。

 手を使って抵抗することもできなくはないが、不思議とそうしようと思えない。

目の前の老人には抗わせない何かを感じた。


「最初に言っておきたいのだが、私達は君の敵ではない、シーザー君。私は君の味方だ」

「み、味方……?」


 その言葉を聞くのは久しぶりだった。

 直接、誰かにそう言われたのはこれが初めてかもしれない。

 

 地球で生きていたころの僕に味方なんでいなかった。

 味方でいてくれた人たちは直ぐに死んでしまった。


 だからなのだろうか。


(何が味方だ……)


 全く心に響かない。

 むしろ、うまく懐柔しようとして言っているようにしか聞こえない。


 僕に味方なんていない。

 地球で自分にそう言い聞かせて生きてきたから余計にそう思えるのかもしれなかった。


 ただ、ハウゼンのような怪しげな相手に、自分は味方だ、と言われて素直にうなずける奴はまっとうな人生を送ってきた奴でも難しいと思う。


「そう、我々は君の味方だ。我々が呼び出したのに、なぜ敵に回る必要がある。それは滑稽というものだ」


 ハウゼンはそういって僕の目のある球体正面を、僕が収まっていたと思われる装置の方へと向けた。


(何なんだ……これは……?)


僕の目に飛び込んできたそれは、とても太い一本の柱だ。

その柱の中に僕がはめ込まれていた台座があり、その周囲はガラスによって覆われていた。今は割れてしまっているが。


 柱は地面から天井にかけて伸びており、天井には無数の管のようなものが張り巡らされていて、装置に繋がっていた。


 そして僕が設置されていた装置を中心に、魔法陣のようなものがコンクリートっぽい灰色の床に赤で描かれている。

円の直径は大きく、老人はおろか彼の背後に控える見たことも無い機械も陣の中に入るほどだ。


「これでわかってもらえたと思うが、君を召喚したのは我々だ。召喚したものを敵と認識する愚か者がどこにいる」


 なるほど、だとしたら確かに理に適っている。

 そして同時に、お前たちが僕をここへ呼び寄せたわけか……。


(でも、本当にそうなのか?)


 正直、何が何だかわからない。

 ハウゼンの言葉が正しいとしてどこからどこまでがこいつらのせいだ?


 天国へ登っていく最中によくわからない空間に引きずり込まれた所からなのか、虚無の世界に入り込んだ所からなのか、それとも虚無の世界からこの世界へとやってきた所からなのか。


「それにしてもシーザーとは、うん、実にいい名前だ。響きがいい」


ハウゼンは焼けただれた頬を吊り上げて笑みを作ってくる。

だが、醜い肌に反して唇からのぞく歯は驚くほど白くて、輝いている。

歯並びもよくて、歯茎の血色もとてもいい。

老人のものとはとても思えなかった。


 老人はしみじみと僕の偽名をいい、といった。

 だが僕は、全く嬉しくない。

 僕の名前は零だ。

 シーザーなんて偽の名前で呼ばれたくはない。

 だけど、この老人に本名を話すのも嫌だ。


「これからよろしく、シーザー君。私と君はきっと長い付き合いになるだろうからな」


ハウゼンは満面の笑みを浮かべながら、まるで産まれたての赤子を見るような慈愛に満ちた瞳で覗き込んできた。


正直、悪寒が走るからやめてほしい。


『さあ、シーザー、今日から俺達の新しい人生のスタートだ。楽しくなるぞッ!』


 そして僕の頭上でレギオンがくるくると自分の丸い体を回転させた。

 まるで今から遠足にでも向かうかのように、こいつはわくわくしている。

 でも僕は不安で圧し潰されそうだった。

 一体、僕はどうなるんだ。

 

 絶望のあまり目の前が真っ暗になりそうだった。


次回 ブラン帝国の将軍

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ