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巨神機兵の契約者 ―破滅のオーメン―  作者: Super Soldier
第3章 ブラン帝国
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21話 実戦投入

午前7時になると、僕たちの寝室にノルエールさんがやってきた。

アルナとカーナを起すためだ。


コンコン、と寝室の扉がノックされる音がして、それからノルエールさんが部屋に入っくる。


「おはようございます、お嬢様、シーザー様、レギオン様」


 と、丁寧な挨拶。

 僕はアルナとカーナのペットという設定だがあくまでも主の娘のペット。

 雑な扱いは許されない。

故に、《様》もつけられる。


「おはよう、ノルエールさん」


 僕はベッドを覗きこんできたノルエールさんに挨拶する。

 彼女のような常識人がこの屋敷にいてくれてありがたい。

 今後の生活のことを考えると、彼女のような一般人だけが真面に会話の出来る相手になるだろう。

 ハウゼンにしろ、アルナにしろ、カーナにしろ、僕からすれば異常者だからね。


「アルナ様、カーナ様、朝でございますよ」


ノルエールは若くして家政婦長と呼ばれるだけあり、ハウゼン家一の厄介者、アルナとカーナに果敢に挑みかかる。

だがブラン人は《半神》だから若く見えてもかなりの年ということもある。

実際の年齢は知らない。


「んぅ……」

「むぅ……」


 アルナとカーナは朝が弱いので起きようとしない。

 ノルエールさんが二人の小さな肩に手を置いて体を揺すると、容赦なくその手を叩く。双子の寝起きは本当に機嫌が悪い。


 でも、ノルエールさんは慣れているかのように気にしない。

怯むことなく呼びかけ続けるとようやく瞼を開け、ごしごしと目をこすり始める。

 だが、ここで早くも第二関門。


「おはようございます、アルナ様、カーナ様。さ、御着替えを」

「ヤダ……」

「ウザ……」


 アルナとカーナから繰り出される言葉の暴力。

 二人はノルエールさんを鋭い眼光で睨みつけながら、見下すような態度で毒づくのだ。

口癖も手癖も悪いなんて、将来はどんな悪女に成長するのか。

ハウゼンの娘であることを考えると、きっととんでもないサディストになるんだろう。


「嫌でも着替えていただきます」


 で、ノルエールさんは孤軍奮闘。

 無理やりネグリジェを二人から剥ぎ取り、強引にドレスを着せ替え始めてしまった。

 無論、僕はきちんと視線を背けている。

間違っても見てない。


 二人は着替が終わると洗面所で顔を洗い、朝食のために食堂へと向かう。


 アルナとカーナも寝起きは凄まじく不機嫌だったが、朝食の時間には落ち着いている。

 ノルエールさんがさっきこっそりと教えてくれたが、二人ともあるていどごねると満足したように身支度を始め、それ以降は機嫌も直っているのだとか。

不思議な双子だ。


 食堂には大きな長テーブルが一つあって、その両端にハウゼンと、アルナとカーナが席に着いて食事をする。


 ハウゼンの給仕はあのクライセルさんが務め、アルナとカーナの給仕をノルエールさんが務める。

 僕はというと、ガラス瓶に詰められている状態で食卓の上に置かれ、もはや何なのかもわからない。


 朝食の後は本来、クライセルさんによる算術と読み書きの授業になるのだが、今日は予定を変更して、城の外に出る。

 昨日、話したようにブリアオレスの能力を試すための狩に出かけるのだ。




 食事が終わると早速、ハウゼンが馬車を用意させた。

 騎手はクライセルさんが担当する。

 アルナとカーナも外用に、なぜか女性闇魔術師の正装と言われる露出過多なボンテージっぽい魔道服に着替え、馬車に乗り込んだ。

 普通のドレスでもいいと思うんだが。


 そういえば、今回はあの金髪のイケメン、シュナイゼルの姿が見えない。

 ハウゼンの御付人だと思っていたのだが、今朝の限りではお城にいなかったようだ。


 そして馬車はボルメンシュタインを出発し、近くにある森へと向かった。


 レイヴァン地方の森は、見た目、死の森だ。

 木は生えているのだが、どの木も皮が灰色で、葉っぱが生えていない。

 生えているのは食虫植物のような異形な何か。

 形も歪で、うねうねしている。


 そんなものがレイヴァン地方の森には生い茂り、青黒い土と常に空が雲に覆われている気候も相まって凄く不気味だ。


 森の入り口で馬車を止めると、クライセルさんはその場で待機。

 僕とハウゼン、アルナ、カーナの4人で森に入った。

 ちなみに、今日はずっとカーナが僕を運んでる。

 半目で語尾がですます調で、アルナの双子の妹だ。

 

 城から出るときガラス瓶から出され、馬車の中ではずっと彼女の膝の上に置かれていた。

 そして今も両手に抱えられている。


「魔物を見つけるのにそこまで時間はかからないだろう」


 というハウゼンの予想は的中した。

 森に入って直ぐに複数の魔物とエンカウントした。


 数は8匹。

 狼のような魔物で、毛並みは白く、しかし目が6つもあった。

 鋭い牙をもち、異様に長い舌べらをだらりと垂れさがらせている。

 魔物たちは威嚇するように唸りながら半円状に布陣し、僕たちを包囲する構えをみせてきた。


 向こうがやる気ならこっちとしても好都合だ。


 カーナが僕を地面の上に置き、後ろへと下がっていく。

 ハウゼン、アルナももしもという時のことを考え少し距離を置いた。

 なんといっても召喚時にお城の中を滅茶苦茶にしてしまう程の凄まじいパワーを持つ悪霊だ。


「じゃあ、ブリアオレース、頼むよ」

『頼む?それは敵を殲滅せよという命でございますか?』

「うん、そう。一匹残らず」

『御意』


 次の瞬間、地面に出来た僕の影から地を這うように真黒な影が魔物たちに伸びていった。

 影は魔物たちの目と鼻の先まで伸びると地面から飛び出して複数の影に分裂し、各々の先端を剣や、槍や、斧のような形に変形させて魔物に襲いかかった。


 そして8匹の魔物が原形をとどめないぐらいにずたずたにされた。


 犬の魔物たちは反応することすらできなかった。

 いや、一瞬のこと過ぎて自分達が殺されたことすら理解できていないかもしれない。


「え、終わり?もう?」

『百手の力を考えれば当然だな』


 見ていた僕ですらあまりの呆気なさに拍子抜けしたぐらいだ。

 レギオンはこうなることをわかっていたみたいだけど。


「やはりあの程度の魔物では相手にもならなかったか」


 ハウゼンも予想通り、といった感じで近づいてきて、惨殺された魔物達に目をやった。


「どんな力があるのかを試そうと思ったのに、あまりにも早く勝負がつきすぎて何の実験にもならないな」


 スペックを把握するには彼の力を出来る限り引き出す必要がある。


「しかし、この調子で魔物を駆れるならこの森から魔物を駆逐するのも容易い」


 ハウゼンの言う通り、ブリアオレスは一瞬で8匹の魔物を仕留めた。

 これなら、森の中の魔物を殲滅するのも簡単だろう。

 あとは、出来る限り彼の実力を見れるように工夫して魔物と戦わせるだけ。

 

「ブリアオレス、森の中の魔物を残らず駆逐するぞ」

『御意。御命令に従い、森の中の全ての魔物を駆逐する』


 え?

 ブリアオレスは僕の言葉を命令と受けとったみたいだ。

 そして次の瞬間、地面に出来た僕の影から無数の黒い影が伸び、四方八方に伸びていった。

 間をおかず、森から魔物たちの断末魔の声が次々と木霊してくる。

 

 影が分散し、索敵と攻撃を自動で繰り返している。


 暫くして森が静けさを取り戻すと、全ての影が僕のところに帰ってきて


『御命令に従い、森の魔物は全て殲滅いたした』

 

 と、ヘルメットから重々しい声が響いてくる。


 え、もう……?


 呆気にとられてハウゼンを振り返ると彼も小首をかしげていた。

 一方のアルナとカーナは鉄仮面を被っているかのように表情の変化が無い。

 

 確認のため僕たちは森の中を移動してみたが、いたるところに魔物の死体が転がっていた。


 どの死体も原型をとどめないぐらいにずたずたにされているが、傷口を見れば鋭利なもので切り裂かれたことがわかる。

 または風穴があいていたり、体の一部が綺麗に切断されていたり、おおよそ人の武器によってつけられた傷だとわかる。


 だが、その武器を操っていたのは人ではない。

 百手騎士ブリアオレスの能力であり、彼の配下である騎士達がやったことだ。


(実験にならないな)


 余りにも強すぎる。

 RPGで例えるなら最初のステージから終盤用の装備で戦っているようなものだ。

 実力差がありすぎて正確に装備の力を測ることが出来ない。


 それから森の中を隈なく回ってみたが生き残っている魔物は一匹もいなかった。

 そしてわかったことは数少ない。

ブリアオレスがべらぼうに強い。

攻撃手段はやはり影。

ということしかわからないまま今日はお城に引き上げた。


 ただし、魔物が出没して困っている地域はまだいくらでもあるので、実験場には困らないだろう。



◇◇



 翌日からもハウゼンに連れられて僕は領内の森に通い、魔物の退治をした。

 アルナとカーナは勉強だったり剣術だったり、やらなければならないこともあるため同行はできなかったが、かなり不満そうに頬を膨らませていた。

 そういう仕草はやっぱり5歳児だな。


 一方で、ブリアオレースの能力については次第に明らかになってきた。

 魔物を駆除する際に色々な実験を行い、その結果から多くの情報を得ることができた。

 

 最初にわかったことは、彼は僕の命令がなくとも自律的に僕を守ってくれる。

 魔物に囲まれてもわざと命令をせず、沈黙を続けた結果、ブリアオレスが自分の判断で周囲の魔物を駆除した。


 また、僕が気づいていなかった敵、例えば背後から襲いかかってきたり、茂みからいきなり飛び出して来たりした敵についても同様に排除してくれる。

 これはつまり、僕が敵を認識しているいないにかかわらず、ブリアオレスは全周囲の敵に対応することができるということだ。


 次にわかったことは、僕でもブリアオレスの影を操作できるということ。

 魔物の死体を実験台にして、自分の意志で影を動かせるか実験したところ出来た。

 例えば槍で死体を貫いてみたり、斧で切断してみたり、と単純な動作だけだが可能だった。


 ただ、これは僕が実際に影を操作しているのではなく、僕が影をこう動作させたい、という僕の意志をブリアオレスが感じ取り動かしているだけだ。

 ただ、それに対するタイムラグが殆どない、というよりも認識出来ないレベルであるため自分の意志で動かせているような気になっているだけだという。


 それは以前、レギオンの巨神機兵の外殻に取り込まれたときに覚えた感覚と似ている。

 おそらく同じだろう。

 

 また、僕自身が影を操作していてもブリアオレースの自律防御は継続される。

 つまり、ブリアオレースの身体を僕とブリアオレースの二人で同時に操作できるということになる。


 ただし、体の支配権は当然の如くブリアオレースにあるため、いざという時は僕の意志を無視して行動する。

 これはブリアオレースの口から聞いた。


 彼は寡黙で基本的に言葉を交わさないが、突き詰めて質問していけばきちんとそれに答えてくれる。

 しかし、質問していてわかったことは、彼にものを尋ねる時は具体的にしないと駄目ということだ。

 

 人に1を聞いた時、だいたい3から5ぐらいの範囲までを包括的に説明してくれる。

 しかし、ブリアオレスには1を聞いても1しか返ってこない。

 気が利かない、という見方も出来るが、僕は単純に彼がコミュ症なのだ。

 ブリアオレスに10まで教えて欲しければ1から10までを一つずつ丁寧に質問するしかない。


 また、彼の影を使って歩くことも可能になった。


 足を使うわけじゃなくて、地面から浮き出た影が僕を目的地には運んでくれる。

 これも自分の意志と連動してやってくれるためわざわざ口を開く必要はない。

 他にも影は手の役割も担ってくれるため、本を手に取ったり、ページを開いたりといった作業も代行してやってくれる。

 この機能は地味に助かる。


 そして最後にわかったこと。

ブリアオレスのQliphothであるスパイク着きヘルメットは外すことが出来た。

 やり方は単純、ブリアオレスに頼んで離れてもらうだけ。


 彼は僕を守ることを主眼置いているため、一体化していた方が都合がいい、と言ってあまりいい顔はしなかった。

 だけど、僕としては頭にレギオンとブリアオレスの二人が乗っかっているのはどうも落ち着かない。

 

 それに、QliphothであるヘルメットそのものがブリアオレスのArmedであるため僕から離れても常に稼働し続けることが可能だ。

 被っていなくても傍に置いてあるだけで勝手に守ってくれる。

 また、一定の範囲内であれば危機を察知して助けてくれるらしい。

 正確な範囲は測定できていないけど、実験してみた結果、半径20から30mぐらいの範囲なら守ってくれる。

 だが、それ以上離れると危険の察知が遅れてしまうらしい。


 なので、ヘルメットは基本的に装着し、お風呂と睡眠の時だけ外れるということで決着した。

 ちなみに、ブリアオレスが外れるということはレギオンも僕から離れる可能性が出てくるのだが本人は


『ぴゅ~ぴゅぴゅ~♪』


 その件に触れると口笛を吹いて無視してくる。

 どうやら、離れることは可能みたいだが頑なに離れたくないらしい。

 人の頭上でふんぞり返って見下すのがそんなに楽しいかね?


 まあ、僕なら楽しいと思うだろうな。

 人を尻に敷くなんていい気分にならない筈がない。


 ま、重さを感じるわけでもないし、既に慣れ始めてきてしまっているため良しとしよう。


 こんな感じで魔物駆除を通じてブリアオレスの能力は次第につかめてきた。

 だが、Armedというものの全容は殆ど明らかにならなかった。

 Armedの術式についての進展も皆無だ。

 ブリアオレスをArmedにした時の、頭の中で組み上げた魔法陣。

 あの意味も、構築方法もよくわからない。

 早くその謎を解き明かさないと、次のArmedを製造に支障をきたすのは間違いなかった。


 だが、Armedの謎を解明できずにいた一方で、別の大きな進展もあった。

 僕には魔術の才能が無いため魔術の使用は不可能だと思っていたのだが、召喚魔術は出来ることがわかった。


 きっかけはハウゼンに、地獄の悪霊にどんなのがいるかを知りたい、と言った時だ。

彼は、召喚魔術の書物にその詳しい概要と召喚するための魔法陣が記されていると言って、彼の召喚魔術の書を見せてくれた。


その本は悪霊について詳しく書かれているだけでなく、地獄の悪霊を呼び出すための召喚術式や魔術的な要素についても深く掘り下げられており、言ってしまえば召喚魔術の教科書的なものだった。


 僕はその中身を全て読むことが出来た。

 闇の魔術の書では一文字も読み解くことができなかったのに、召喚魔術は読めた。

 普通の魔術は使えないかもしれないが、召喚魔術を使えればAmredにそのまま組み込み、配下に加えることが出来る。


 Armedはあくまでも悪霊をQliphothと呼ばれる外殻に憑依させ、兵器として武装化させる術式だ。

 つまり、この世界の悪霊を使うのでなければ、地獄の悪霊を召喚魔術によって呼び出す必要がある。

 無論、Armedの術式を使えば強制的にQliphothに憑依させ僕の支配下になる―このメカニズムも未だ不明―なので交渉や生贄は必要ない。

 

 そこで僕はハウゼンから召喚魔術を習うことにして、地獄の悪霊を召喚できるようになろうと決めた。

 そうすれば自分で好きなだけArmedを製造できる。

 製造を繰り返せばArmedの術式の根幹に迫ることもできるだろう。


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