18話 百手騎士(前編)
実際にArmedを造ってみることになった。
基礎的な知識はレギオンが教えてくれるらしい。
『ま、造られた側の俺が知ってることなんてちょっとだけどな』
レギオンももとはArmedによって生み出された兵器だ。
武装術式の全てを知っているわけじゃない。
でも、僕にとっては些細な情報であっても有益だ。
『Armedを製造するのに必要なのは、Qliphoth(外殻)と呼ばれるものだ。
このQliphothは兵器の性能を決定づける重要な要素になる。
だが、ここで注意しなければいけないことがある。
Armedの性能はQliphothに必ずしも依存するわけではないということだ』
「それはつまり、悪霊とQliphothにも相性があるっていうこと?」
『その通りだ。
悪霊によってはどのようなQliphothであっても能力が変わらない奴もいる。
でも、逆にQliphothの能力に大きく依存する奴もいる』
「レギオンはどっちのタイプなの?」
あの巨大な騎士の外殻がなければ力が発揮できないのか。
それとも、別の外殻でも力を発揮できるのか。
『俺は半々、と言ったところだ。
巨神機兵の外殻があれば力を発揮できるのも当たり前だ。
でも、別の外殻であってもある程度の力は発揮できる』
つまり、汎用性は高いということか。
『悪霊の性質を見極めてQliphothを選定するのが製造者たるお前の役割だ』
「なるほど」
『あと大事になってくるのは悪霊の質だな』
「悪霊の質?」
『悪霊とは悪意の集合体だ。
つまり、無数の意志が乱雑に混ざり合った雑種だ。
だからQliphothに憑依させてもど互いの意志がぶつかり合い、兵器として機能しない』
プログラミングで例えるならクラッシュといったところだろうか。
『だから憑依させる悪霊には俺たちのような《自我》を持つ悪霊が必要になる』
「自我を持つ悪霊って簡単に手に入るものなの?」
『この世界では難しいな。
悪霊は殆どが《人の悪意》の集合体だ。雑多で質も悪い。
だが、世界が変われば悪霊もがらりと変わる』
「世界が変わればって、どういうこと?」
『召喚魔術を使うんだよ。
悪霊を《奈落の底(地獄)》から呼び出して、外殻に憑依させる』
「そんなことできるの?」
『出来る。
お前だってもともとは違う世界から呼び出された魂じゃないか。
そして今は、その外殻に憑依させられる』
「なるほど」
そう言われれば納得だ。
『古代レイヴァン帝国でも地獄から強力な悪霊を召喚し、Armedとして兵器化した。
俺のそのうちの一体だ』
「俺のようにって……レギオンも地獄から召喚された悪霊なの?」
『そうだ。俺はレイヴァン皇帝自らが地獄から召喚した悪霊だ。
だから、悪霊でありながら自我を持ち、こうして他者と意志の疎通を行う能力も持っている』
なるほど。
この世界の悪霊でダメなら違う世界から悪霊を召喚し、使用する。
機転が利いてるな。
『ただし、地獄から悪霊を召喚するには闇魔術師の協力が必要だ。
地獄から悪霊を召喚するにしても、召喚魔術が誰も使えないんじゃ話にならない』
つまり、僕たちに必要なのは闇魔術師。
それも召喚術とか使えそうなすごい奴、ということになる。
『「ハウゼン」』
僕とレギオンは口をそろえてあの老人の名を呼んだ。
「先ほどから何を熱心に話しているのかね?」
と、完ぺきなタイミングでアルナとカーナの魔術の指導を終えたハウゼンがやってきた。
「よかったら、この老いぼれも話に混ぜてもらえないだろうか?」
渡りに船とはこのことだ。
僕とレギオンは今までの内容をハウゼンに伝え、協力を仰ぐことにした。
ハウゼンは目をギラギラと輝かせて承諾してくれた。
◇◇
「なるほど。Armedの材料に地獄の悪霊を使うというのは実に面白い。
召喚に関しては任せてもらっても大丈夫だ。
ただ、その前に確認しておきたことがある」
「確認?」
「そうだ。召喚魔術と聞くと、皆、悪霊や精霊の類を呼び出す魔術だと思う者が多い。
しかし、召喚魔術の肝は、悪霊を自由に使役できるかどうかという所だ。
術者は召喚とは別に、呼び出した悪霊ないし聖霊と《契約》を結ぶ必要がある」
「つまり、召喚しただけじゃ自分の言うことを聞いてくれないってこと?」
「その通りだ。
仮に術者が強力な魔物を呼び出せても、それを御しきれるだけの力が無ければ殺されることも珍しくない。
特に、地獄の悪霊は自分よりも劣っている者には従わない」
つまり、召喚した奴よりも術者が強くないといけない、というわけか。
「だとしたら、召喚魔術って意外と不便だね」
僕のイメージだと、召喚魔術の自分よりも強かったり、自分には無い特殊な能力を持ったりする奴らを呼び出す魔術だ。
でも、地獄の悪霊などは実力的に下の奴には従わない。
産廃だな、召喚魔術って。
「でも、全てというわけでもない。
強さで上回ることが出来なくても交渉次第でいくらでも契約することは可能だ。
例えば悪霊は契約するかわりに《見返り》を差し出すのが有効だ。
殆どの場合は生贄だ。
人であったり、動物であったり、あるいは魂を差し出すことで契約を結べる」
「貢物ね……」
実力で上回れなくても、対価を支払えば契約を結んでくれる場合もあるのか。
どれだけの対価を求められるのかはその悪霊の強さで違ってくるらしい。
それでも魂や生贄が必要だなんて使い勝手の悪い魔術だ。
いや、使い勝手が悪いのは悪霊か。
「その一方で、聖霊の類は自分を呼び出した術者の《人格》を見る。
見返りよりも自分が尽くすに値する主かどうかを見極めて契約を結ぶ」
実力以上に心根を測るとはいかにも聖なる存在らしい。
契約を結んでもらえる奴はきっと神聖な精神を持ち合わせているんだろう。
「だが、今回、召喚するのは悪霊だ。
実力が下だとみられたら、後は交渉で契約を結ぶしかない。
そして仮に交渉をしてもダメだった場合、戦闘になる。
奴らは手ぶらで地獄に戻ろうとはしない。
地獄の悪霊を召喚するということはこういったリスクを多く含むが大丈夫かね?」
ハウゼンが憂慮しているのはArmedの術式によってQliphothに悪霊を憑依させる際、悪霊がこちらの思惑通りに動かない可能性があるということ。
仮に戦闘になった際にどうするかを事前に協議する必要があるということだ。
「どう思う、シーザー?」
『それについては全く心配ない。
お前が憑依している金属の球体こそがArmedを産むArmed、《総てを統べる独裁官》のQliphothだ。
それさえあれば悪霊を強制的にQliphothに憑依させ、支配下に置くことができる』
「僕が憑依してるこの球体にそんな力があったの?」
赤黒い金属で出来た球体。
文字とも記号とも取れる無数の文字が刻み込まれている、これが?
「聞いてないけど」
『聞かれなかったからな』
ニヤリ、と笑みを浮かべるレギオン。
この悪霊はサプライズがお好きらしい。
『だから、いちいち怖い顔するなって。
こっちの世界に慣れてもないのに、いきなりArmedやQliphotの話をされても混乱しただろ?
だから時を見て話そうと思ってたんだよ』
「なるほど」
確かに、理に適っている。
「レギオン君はArmedのことに詳しいようだね」
とハウゼンが会話に入ってきた。
「それに、シーザーの力のことにも詳しいようだ」
『俺はもともと地獄の悪霊だ。
名前は言いたくないから伏せるが、俺はこの世界に召喚された時、抵抗する事も出来ずArmedになった。
一度、あの術式に囚われたら最後、絶対に抗えない』
「なら、何も問題はなさそうだな」
と、レギオンとハウゼンは互いに納得し合う。
だが
「僕、上手く出来るかどうかわからないよ」
今まで一度もやったことが無い、というか結局、具体的なやり方すらわからない。
悪霊をQliphothに憑依させ、兵器として武装化させる一連の流れの詳細を知らない。
結局、レギオンも知識だけで具体的なところは何も知らなった。
『大丈夫だって。お前ならやれる。楽勝さ』
と、レギオンは僕の成功を信じて疑わない。
でもせめて
「アルナとカーナは傍に居させないほうがいいんじゃないの?」
先ほどから話の輪の中にアルナとカーナが混じっていた。
ずっと黙ってはいるが、きちんと話には聞き耳を立てている。
「なんで?」
「いちゃけいないんですか?」
アルナとカーナはあからさまに出ていきたくなさそうな顔をした。
どうやら、Armedの製造に立ち会いたいみたいだが。
「シーザー君。娘達は大丈夫だ。
それよりも、これが成功すれば我がブラン帝国にとって大きな成果となる。
その瞬間はぜひ娘達にも見届けて欲しいと思っている」
と、父親であるハウゼンが言うのであればいいだろう。
何が起こっても僕は責任取らないからね。
「じゃあ、始めるとしよう」
と、いよいよArmedの製造を開始することにした。
だが
「どの悪霊を召喚すればいい?」
ハウゼンからしてみれば当然の疑問だった。
『百手騎士だ』
レギオンは即答する。
僕の意見を挟ませまいとするぐらいの速さで。
ま、悪霊の知識なんてないから別にいいんだけどさ。
「なるほど、百手騎士か。面白い」
ハウゼンは焼けただれた頬を吊り上げ、邪悪な笑みを浮かべる。
なんだろう、少し不安になってきた。
「そいつ、大丈夫なの?」
名前からして百本の手がある騎士ってことなんだろけど、凄くキモそうなんだけど。
『安心しろって。あいつは悪霊の中でも下っ端の下っ端さ。簡単に従えられる』
今回はあくまでも初歩。
基本を身に着けるためのものということは念頭に置いてくれているらしい。
「でも、Qliphothはどうするの?」
Armedの製造に外せない重要な要素のはずだけど。
『それに関しては心配しなくていい。
百手騎士は外殻の優劣に影響されない種だ。
ただ、そうだな。
できればヘルメットか何かを用意してもらえると助かる。
それも、それなりのいい奴をね』
「ヘルメット?
それで大丈夫なのか?」
『ああ、問題ない
ただ、ある程度、デザインに凝ったものがいいな。
お前のためにも』
「僕のためにも?」
いまいち意図が見えてこない。
百手騎士は外殻の優劣に影響されない種だというのになぜヘルメットの外観にこだわる必要があるのか。
「ではすぐに用意させよう」
とハウゼンは一度、席を立った。
◇◇
暫くしてハウゼンが戻ってきた。
その手に《ピッケルハウベ》をもって。
『いいじゃんッ!』
目の前に置かれたピッケルハウベを見てレギオンが声をあげる。
ヘルメットって聞いたときは工事現場とかで使う奴を想像してたけどまさか軍用とは。
「この兜は昔の軍隊で使用されていたものだ。
今は顔面への防御性も考慮して使用されていないがね」
ハンマーベルではブラン兵達は顔に鉄仮面を身に着けていた。
ブラン帝国軍では顔面の防御を重視する思想でもあるのか。
「ただし、この兜は将官用のものだから物はいい。
溶かしたグライネット鋼を鋳型に流して固めたものだ。
それに装飾も施されている」
ピッケルハウベの前面には鷲を表現していると思われる装飾板がついている。
黒光りする表面の艶やかさからみてもそれなりのものだとわかる。
『これで必要なものは揃ったな』
「ならば早速、Armedの製造をやってみようじゃないか」
意気揚々とするハウゼンとレギオン。
まるでこの二人がArmedを製造するみたいだ。




