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巨神機兵の契約者 ―破滅のオーメン―  作者: Super Soldier
第3章 ブラン帝国
18/32

17話 巨神機兵(レギオン)と武装術式(Armed)

ブラン帝国に来て一月が経った。


 特に変わったこともない。

生活は単調そのもの。

 

 一日中、双子にくっ付いているだけの毎日だ。

 平穏で、争いのあの字もない。

 あるとすれば暴君の如きアルナとカーナの圧政のみ。


 この一月でわかったのだが、あの双子はやばい。

 ふつうじゃない。

 人間ではないのは当然の事として、子供とは思えないほど凶暴だ。


まずは起床。

ノルエールさんが寝室に入ってきてカーテンを開ける。

だが、レイヴァン地方はとりわけ明るいわけでもない。

日本でいう昼間の曇り程度の明るさだ。


眩い光が睡眠を妨げることもない。

 おまけにアルナとカーナは朝が弱かった。


 メイドが必死に起してもシーツを頭まで被って、頑として起きようとしないのだ。

 こういった所は子供らしい、と思うのも束の間。

 

『おい、朝だぞ、起きろよ』


 とレギオンが余計な事を口にした直後、僕達はランタンごと宙に舞った。

 

そして朝食。


 アルナとカーナは散々、起きるのをとにかく嫌がる。

でも、朝食の時間には食堂に顔を出した。

最初から素直に起きればいいものを。


 二人とも白のゴスロリ調のドレスに身を包み、ハウゼンと向かい合って食事を採る。

 しかし、親子の会話は皆無。

ハウゼンが話しかけてもアルナとカーナは首を縦に振るか横に振るだけ。

全く口を開こうとしない。

 

そして算術と読み書きの授業。


双子はクライセルさんに算術と読み書きを習っている。

まあ、それは以前にも話したことだ。

問題はその後。


アルナとカーナはクライセルさんにもっと愛想をよくするよう指導される。

ハウゼン家の令嬢として恥ずかしくないようにだ。

だけど


「ヤダ」

「ウザ」


 真顔で毒づくものだからクライセルさんも深いため息をつく。

しかし


『おい、アルナ、カーナ、そんな怖い顔してっと眉間に皺が寄っちまうぞ』


レギオンのせいで床に叩きつけられた。


 昼食を挟み、午後の剣術の授業。


 講師は変わらずクライセルさんが務める。

剣を振れない僕は庭の片隅で見守だけ。

 それなら暴力を振るわれることもないかと思いきや……。


『なんだ、アルナ、カーナ。クライセルに手も足も出てないじゃねぇか』


 クライセルさんに叩きのめされたアルナとカーナをレギオンが煽った。

直後、木刀でランタンが破壊された。


 そして昼寝の時間


 たっぷりと運動をして疲れた二人は、一時の御昼寝タイムへと突入する。

 普段からこんな顔をしていれば可愛いのに、と言いたくなるような寝顔。

だが、目を覚ました瞬間、そこに閻魔が降臨する。


『いつまで寝てんだよ。早く起きろって』


 レギオンが余計な催促して、ランタンが宙に舞った。


 そして魔術の授業


 この時間になるとハウゼンが城に帰ってくる。

 相変わらずアルナとカーナは無愛想な態度で父を迎えるがハウゼンは気にしていない。

 父に連れられて二人はハウゼンの魔術工房へと向かう。


このときだけは双子もおとなしい。

ただし、闇魔術の使えない僕を見下して笑ってくるが……。


そして夕食

朝食と何も変わり映えしない。


入浴……カット。

 


夜の読書の時間


アルナとカーナは5歳にして読書が好きだ。

大人ですら読むのに尻込みするような分厚い本を二人で覗き込みながら読む。


『お前らその本読んで理解できるのか?』


 とレギオンがからかうとやっぱりランタンが宙を舞った。


 そして就寝。


 この時間までくるとアルナとカーナも目がしょぼしょぼしてきて眠たそうにする。

 本を棚に戻して寝室へと移動すると、直ぐにベッドにもぐって寝てしまう。

 僕を抱えたまま……。


 そんな日々をもう一月も続けていた。



◇◇



『全く、凶暴な双子だぜ』

「どの口がほざく。お前が余計なことを言うからだろ」


 下らない漫才をしながら今日も授業を見学。

 今はアルナとカーナが闇魔術をハウゼンから習っている所だ。


 場所は地下の魔術工房。

 今日もアルナとカーナは絶好調に、黒い球体で藁人形を破壊している。


「そういえばレギオン」


 呆然と双子の様子を眺めながら頭上のレギオンに話しかけた。


『なんだ、シーザー?』


 シーザー、この名前にも慣れてきた。

 河崎零と呼ばれることはもうないかもしれない。


「Armedって何なの?」

『あれ、知らなかったのか?』


 驚いたように目を丸くするレギオンに僕は頷き返す。


「ハウゼンからは希望だのなんだのと言われてるけど、結局、Armedが何なのか理解できていない」

『ArmedはQliphothに悪霊を憑依させ、兵器として武装化する魔術体系だ。

そして、兵器化された悪霊もArmedと呼ばれている』

「それが僕とレギオンってこと?」

『そうと言えばそうだし、違うといえば違う。

 俺とお前はどちらも《巨神機兵》と呼ばれるArmedだが、戦闘は俺の役目だ。

お前の役目はArmedを産むこと。つまり、兵器の《製造者》だ』

「ややこしい話だな」


 《巨神機兵》であり、Armedでもある。

 でも、僕はArmedを造り、レギオンは戦う。

 つまり、何なんだ?


『お前の悪い頭でも理解できるよう、順を追って教えてやるよ』

「どうも」


(今の説明で理解できる奴なんて誰もいねぇよ)


『まず、Armedについてだ。

Armedとは悪霊を外殻であるQliphothに憑依させ、兵器化させるための術式だ

昔は《武装術式》とも呼ばれていた。

そして兵器化された悪霊もArmedと呼ばれる』

「その話が本当なら、今、僕達は外殻(Qliphoth)に憑依していることになる」

『憑依してるじゃないか。金属の球っころに』

「これが?」


 変な模様が刻み込まれた金属の球体。

 僕はてっきり球の内部の空洞に身を潜めているだけの状態だと思っていた。


「これで憑依してるの?」

『ああ、もちろん』

「これで僕、兵器なの?」


 金属の球なのに?


『ああ、そうだ。立派な兵器だぜ』

「どこがだよ……」


 金属の球で何ができるっていうんだ。


『むしろ、何でこの球をハウゼンが持っていたんだか……』

「ん、何か言った?」


 レギオンの声が小さくてうまく聞き取れなかった。


『立派な外殻を身に着けていてカッコいいぜ、旦那、って言ったんだよ』

「あ、そう」

『そんな怖い顔するなって。

 お前の言う通り、ただ悪霊を憑依させれば強力な兵器を製造できるわけじゃない。

Armedを憑依させるQliphothも重要な要素だ』

「なら、そのQliphothとやらはどうすればいい」

『どうするも何も、それは製造者様たるお前が自分で用意するんだよ』

「じゃあ、Qliphothを用意すれば僕でもArmedを造れるってこと?」

『お前でも、じゃない。お前だけしか造れない』

「僕だけ……?」


 本当だろうか。

 全く造れる気じがしない。

 Armedを産むArmedって言われても、そんな物騒な物の作り方なんて知らないし。


『大丈夫、その気になれば直ぐさ』

「じゃあ仮にその気になったとして、どんなArmedを造れるの?」

『そうだな。

 ま、それこそ製造者の腕の見せ所なんだが、究めれば俺みたいなのが造れるぞ」

「俺?」


 ちっぽけな金属の球っころがそんなにすごいのか?


『んなわけねぇだろ。

 お前も見ただろう、ハンマーベルで。

 最高にイカした機械仕掛けの騎士、《巨神機兵》をよ』

「え、あれってレギオンだったの?!」

『当たり前だろ。ほかに何だと思ってたんだ?』

「いや……それは……」


 てっきり、僕だと思ってた……。


『そう思うのも無理はないか。

 あの時、お前の意識は俺の意識と混同していた。

 だからまるで、自分が巨神機兵になったような錯覚を覚えたんだ。

 でも、あれはお前じゃない』

「そうか……」


 なんだかショックだ。

 自分の実力だと思い込んでいたものが他人からの借り物だったなんて。

 まるでトラの威を借るキツネだ。

 まあ、それで戦いに勝てるなら別にいいちゃいいけど。


『ショックなのかそうじゃないのかどっちなんだよ。

 まあいい。

 とにかく、あの巨神機兵は俺の、つまりレギオンの身体だ』

「じゃあ、僕の頭の上に乗ってるお前は何なんだよ?」


 ハンマーベルの戦いの後、あの巨大な騎士は消えてしまった。

 戦いが終わり、気づいた時にはどこにもいない。

 僕とレギオンは血の海の上でポツンと佇んでいた。


『これも俺だ。俺のもう一つの身体、と言ったところだ』

「じゃあ、あの巨神機兵の身体はどこにある?」

『俺の中だ』


「は、ありえないだろ」


 どう考えても入りきるサイズじゃない。

 物理法則を完全に無視している。


『本当だって。

巨神機兵の身体を取り戻した今、俺はいつでも、好きな時に機械の身体に戻ることができる。

むしろ、何を疑問に思ってるんだ?』

「全部だ」


 全部に決まってるだろ。

 地球にはな質量保存の法則というものがある。

 あの巨大な騎士がどうやったらちっぽけなレギオンの中に収まるんだ?

 その逆だって意味がわからない。


 まあ、化学反応を使っていないなら別の話だけど。


(そこが異世界様の便利なところというわけか……)


 なんでも異世界で片づけられてたまるか。

 絶対にそのトリックを暴いてやる。

 科学は万能なんだ。


 少なくとも僕の知る限りではね。


『ちなみに、巨神機兵はレイヴァン帝国が造り上げたArmedの最高傑作だ

 だから、巨神機兵もArmedに含まれる』

「じゃあ僕もその気になれば巨神機兵を造れるってことか」

『今のままじゃ無理だろうな』


 え、無理なの。


『レイヴァン帝国は機械技術と暗黒魔術の分野で世界の何世紀も先を行っていた。

 4000年経った今でさえ世界は帝国に追いつけていない。

 巨神機兵を造ろうと思うなら、まず失われた技術を取り戻す必要がある』

「そんなことできるのか?」

『さあな。

 なんせ俺もこの世界は4000年ぶりだ。

 レイヴァン皇帝が死んでから、世界がどう変わったのかすらわからない

 でも、巨神機兵を一から造るぐらいなら生き残りを探したほうがいいかもしれんぞ』

「生き残り?

 巨神機兵はレギオン以外にもいるの?」

『数はそんなに多くはない。

 だが、Armedは紛うことなく世界最強の決戦兵器だ。

 聖騎士ローエンは龍神族の協力を得ても俺たちを破壊することはできなかった。

 多くの犠牲を払いながら、封印するのでやっとだったのさ。

 他の巨神機兵がどうなったかは知らないが、俺のように封印されているだけの奴がいるかもしれない』

「そいつらを見つけ出して、でもその後はどうする?」


 蘇って、いきなり襲い掛かったりしてこないだろうか。


『その心配は全くない。

 むしろ、その逆だ』


 とレギオンは人心満々に豪語する。


『お前は全てのArmedを製造し、全てのArmedを従えられる唯一の存在だ

 巨神機兵も例外じゃない』

「そういわれて、はいそうですか、と納得できると思うか?

 なぜ巨神機兵は僕に従う。

 そもそも、なぜ僕はArmedを造り、従わせる力を持ってる?」


 僕は、言ってしまえばただの悪霊だ。

 地球で死んで

 天国に行きそびれて

 狂った禿老人に召喚されて

 ただそれだけの存在。


 レギオンのような化け物を従わせる力なんて持っているはずがない。


『なんだ、そんな簡単なことすら理解できていなかったのか。

 さっきも言っただろ?

 俺も、お前も《巨神機兵》だって』

「だから?」


 騎士の化け物にも変身できない金属の球に何の力がある。


『俺は巨神機兵、《レギオン・バチカル(軍団の心臓)》。

 魂を喰らい増殖する、一つの個にして、一つの軍たる存在。

 そしてお前は《ディクタトル・キムラヌート(総てを統べる独裁官)》。

総てのArmedを支配し、総ての外殻を纏う者だ。

その意味は実際にArmedを作り出せば理解できる』

「できるのか、僕に?」

『そう言ってやってるじゃないか。

 ま、いきなり巨神機兵は無理だがな』

「ほう」


 出来るというならやってみようじゃないの。

 習得も出来ない魔術の特訓を見学しているのも飽きたことだしね。



◇◇



Another view ヴィルヘルム・フォン・ハウゼン



 シーザー君とレギオン君が何かを話している。

 アルナとカーナに新しい魔術を教えている最中、二人の話し声が微かに耳に届いてきた。

 年を取ったせいか最近は耳が遠く、何を話しているのかまでは聞き取れない。

 

 ふと視線を向けてみると、二人は何やら真剣な顔つきで話していた。

 いや、金属の球体ではあまり表情はわからないのだが、何となく二人とも真剣な気がしたのだ。


 一体、何を話しているかは知らないが、悪霊同士が会話するのも極めて稀有なこと。

 闇魔術の一端を担ってきた者としてはそれだけでも興奮を覚える。

 彼らにどんな力が秘められているのかは未だ計り知れない。

それを解き明していく私の責務は重大だ。

 それと同時に心も躍る。


(ただ、急がねばならんな)


 聖典騎士団が怪しげな動きを見せている。

 どうやら、シーザー君はハンマーベルで騎士を討ち漏らしたようだ。


 何が起こるかは予想もつかんが。

 しかし、それ故に備えは怠れん。

 

 皇帝陛下への謁見も控えていることだ。

 あの煩い《元老院》のクズどもを黙らせられるだけのネタは用意しておかねば。

 それまでは、二人にこれから祖国となるブランのことをもっと知ってもらおう。


 Another view end


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