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巨神機兵の契約者 ―破滅のオーメン―  作者: Super Soldier
第3章 ブラン帝国
16/32

15話 幼女との生活 半神と魔術編

 剣術の稽古が終った午後三時頃、たっぷりと運動をして疲れた二人は御昼寝タイムへと突入する。

 クライセルさんにみっちりと扱かれた二人は全身を汗と泥に塗れさせ、流石に疲労の色が滲んでいた。


 鍛練が終わる時間に家政婦長のノルエールさんが中庭まで迎えに来て二人を浴室へと連れて行く。

そこで二人の汚れた練習着を回収すると共に汗ばんだ体をお湯につけたタオルで綺麗に拭って、ネグリジェを着せるのだ。

 

 僕はというと、クライセルさんに一足先にアルナとカーナの寝室へと運んでもらい、二人がやってくるのを待つ。


 暫くするとノルエールさんに連れられて二人がやってくるのだが、疲労困ぱいの二人は目をしょぼしょぼさせながらベッドにもぐりこみ、直ぐに眠りについてしまう。


 ただし、二人はハウゼンから言われた僕を肌身離さずという言葉を忠実に守り、ベッドの中にまで連れて行った。

そいて、抱き枕を抱くようにして昼寝をする。


『憎いね、旦那。両手に花かい?』

「うるさい」


 ただ、二人はこの時、普段からこんな顔をしていれば可愛いのに、と言いたくなるような穏やかな寝顔をしているのだが、目を覚ますとやっぱり目つきが悪くなる。



時刻が午後4を過ぎる頃にハウゼンが帰ってきて二人を起しに来た。

アルナもカーナも父親の言う事には従順なようで、素直に起きると誰の手も借りずに着替えを始める。


 これが父親の威厳か、などと最初こそ感心していたが、双子は起しにやってきた父親を、僕やノルエールさんやクライセルさんを睨むとき以上のきつい目つきで睨んでいたため、また違う意味があるのだろうと察した。


 ちなみに、ハウゼンがいるからといって調子に乗って


『親父殿が帰って来たぞ~』


 などと口にすると、一瞬でランタンが宙に飛ぶ。

 主にレギオンのせいで。


 魔術の授業はハウゼンの魔術工房で行われる。

名前の通り、魔術の研究をするための部屋だ。

 工房は城の地下階層にあり、石レンガが剥きだしの壁と床に、広さはそこそこあるものの窓はなく、明かりは蝋燭のみという、いかにも魔術師の研究所といった場所だ。

棚には魔術関連の書物や道具のみならず、不気味な生物や、その一部と思わしき臓腑、目玉、脳などが瓶詰されたものが並んでいる。


もし僕が正常な人間だったならばこんな気色の悪い場所には来ないだろう。


「さあ、アルナ、カーナ、シーザー君に魔術を見せてあげなさい」


 授業の最初は、アルナとカーナが僕に魔術を実演してみせる所から始まった。

 僕はこの世界にある魔術というものをよく知らない。

 それを学んでもらう、という意味もまって二人に実演してもらう。


 魔術を使うので、部屋に隣接する射撃場のような場所に移動する。

 部屋の奥に数体の藁人形がおかれ、それ以外には何もない空間だ。


 ここで今からアルナとカーナが魔術を実際に披露してくれるのだが、その前にどうしてもひとつだけ気になったことがあったので


「あの、その前にハウゼン。少し聞きたいことがあるんだけど」

「ん、何かね?」


 尋ねたいのはアルナとカーナの服装についてだった。

 二人は剣の稽古の時、動きやすいようズボンとシャツ姿に着替えていた。

 ハウゼンに起こされてかも二人は魔術の授業用の服に着替えたのだが、それがどうしても僕には違和感があって仕方が無かった。


 某ハ〇ー・ポッターみたいに真黒なローブに帽子をかぶった姿とかなら普通に魔術師っぽくて納得できたんだけど、二人の格好は僕のイメージとはかけ離れていた。


 黒のホットパンツに、中央にジッパーが通った黒のへそ出しノースリーブのトップス、足元は膝上まで長さのある黒のロングブーツからホットパンツの中まで黒革のガーターベルトが伸び、ホットパンツの上端から二本のベルトがむき出しの腹部の中央でクロスするようにトップスへと延びている。

背中側にも同じようにベルトがクロスしてパンツからトップスへと延びていた。

その上から太腿ぐらいまで長さのある紫色のマントを羽織っている。

 

 黒のボンテージ風のボディースーツに、へそ、括れ、肋骨、太腿を惜しげもなくむき出しにする格好を初めて見たとき、唖然とした。

 

「と言われてもね。ここブランでは女性の闇魔術師の服装はこれ、と決まっているんだ。古来からの伝統だよ」


 ハウゼンはそう答えるのだが古来からの伝統でこれって……。

 まあ、ボンテージって確かに闇魔術っぽい感じがしなくもない。

でも、一見すると魔術師よりもアサシンって感じに見えるんだよね。


『なんだシーザー、幼女に欲情か?』

「お前な……」


 いやらしい笑みを浮かべながら頭上から僕を覗き込んでくるレギオンにイラっとした。

 しかも、アルナとカーナがレギオンの一言で僕を、汚物を見る様な目で見て距離を置いてきた。


 ふざけるな。

 だれが幼女の身体で興奮するもんか。

 10年速い。

 

 まあ、それはともかくとして、伝統的な衣裳というのはどこの国にもあるものだ。

 地球でもスコットランドの民族衣装、キルトを履くときは下着を身に着けないって聞いたことあるし。

 などと無理やりに自分を納得させ、この件には今後、触れないことにする。


「まずはアルナ、やってごらん」

「はい、父上」


 アルナは相変わらずのきつい目つきで父親を睨みつつも素直に応じる。

 

 彼女は手に真黒な本を一冊、持っていた。

それを携え藁人形の前に立つと、いきなり呪文のような言葉を唱え始める。


「荒地に巣くう負の力よ。闇の精霊の名において力の解放を命じる」


 バラバラ、とアルナが手にしていた黒い本のページが勢いよく開かれ、紫色の光が溢れだす。

本がアルナの呪文に勝手に反応しているのだ。


「マカエルッ!」


 アルナが声を張り上げた瞬間、本から真黒な球体が飛び出してきた。

 そして、藁人形に高速で飛んでいき


 がちゃん


 木端微塵に破壊してしまう。

無残にも破壊された残骸がぱらぱらと床に落ちる。


「おお、素晴らしい魔術だ。流石、我が娘。よくやったぞ」


 ハウゼンは戻ってきたアルナの頭を優しげな手つきで撫でてやるのだけど、アルナはそれに嫌悪感を抱くように顔をしかめた。

 まるで汚物に触れられているかのような、苦々しい表情だ。


 この後、アルナはハウゼンが見ていない所で髪を何度も手で払っていた。


「次はカーナ。出来るね?」

「はい」


 と、カーナもハウゼンの言葉に素直に応じつつも、気怠そうな半目の中に負の感情を蠢かせている。


 カーナもアルナと同じ黒い本を持っており、唱える呪文も使用した魔術も同じだった。

 用意されていた藁人形がまた無残にも破壊されたのである。


「よくやった。本当に優秀な娘だ」


 ハウゼンはご満悦の表情でカーナを撫でるが、対するカーナは果てしなく嫌そうに実の父を睨んでいる。

 こちらも、ハウゼンの死角に入ると髪を手で何度も払っていた。

 アルナもそれを手伝うように頭の上を手でさっさと払う。

 

 本当に親が嫌いなんだな、この二人。


 「さて、次は君の番だ、シーザー君」

 「え、僕?」


 唐突に名前を呼ばれて僕は驚いた。


「僕も魔術の授業を受けるの?」

「勿論だ。魔術というのは使えても損にはならない。いざというときにも役に立つだろう」

「ま、まあ、確かに……」


 ハウゼンの言うとおりだ。

 確かに、魔術が使えたらそれはそれで楽しいかもしれない。

 それに、僕が魔術をマスターできれば科学的な知見からそのメカニズムを解明できるかもしれない。


 ということで、僕はハウゼンから魔術を習うことにした。


「そうと決まれば早速、やってみよう。アルナ、本を貸してあげなさい」

「はい」


 アルナは僕の目の前にあの黒い本を置いてきた。

分厚くて、年季の入った本だ。


「それは《闇の魔道書》だ。初歩から上級クラスまでの闇の魔術に関する知識が詰まっている」

「これをどうすればいいの?」

「簡単だ。その本には闇の魔術の発動に必要な呪文が綴られているからそれを読むだけでいい」


 ほう、魔術というのはそんな簡単に出来るものなのか。

 意外だった。


 ハウゼンは最初の1ページ目を開いて僕に見せてくる。

だが


「……う~ん……」


 1ページ目を見て僕は無い首を傾げた。

 魔術の発動に必要な呪文が綴られていると言われたからてっきりこの世界の文字がつかわれていると思っていた。

 でも、実際は違う。

 使われていたのは《楔形文字》だ。

 三角であったり棒であったり、よくわからない図形みたいなのが無数に羅列されている。

 

「読めない……」


 当然、僕にその文字が読めるはずもない。

 アルナとカーナがハウゼンの後でクスリ、と僕を小馬鹿にするように笑ったのが見えた。

 この屋敷に来て初めて見た二人の笑みが人を侮辱する笑みだとは思いもよらなかったよ。


「そうか、読めんか」


 ハウゼンは顎に手を添え、そんな筈はない、と言いたげに眉間に皺を寄せる。

 だが事実、僕には読めなかった。


「あの、読めないとどうなるの?」

「魔術は使えないな」


 ですよね。


 魔道書で使われている楔形文字は古代の著名な魔術師たちが生み出したものらしく、一文字、一文字に特殊な魔力が宿るのだとか。

 そしてその文字は、魔術に才能のある者が見ると古代文字に込められている魔力が反応し、読めるようにしてくれるのだという。


 本当か?

 疑わしくて仕方がない。


 しかし、アルナやカーナは同じ本で魔術を発動してみせた。

 だが僕は出来ない。


「或いは、魔道書に認められていない、ということやもしれん」

「認められていない?本に?」


 ただの紙を束ねただけの物体が人を選ぶの?


「魔道書は確かに本だが、ただの本ではない。綴られている古代文字は太古の魔術師たちが生み出した特別なもの。一文字、一文字が魔力を持つそれが何千、何万個と記されているのだから、本が何等かの意思を持つことは珍しくない。現に、魔術師を志しても本を読めずに道を諦める者も大勢いる」


 ハウゼンの話だと、記されている内容が高度になるほど魔道書には《意思》にも近いものが現れ、その者に記されている魔術を扱えるだけの力があるかどうかを見定めるという。


 本当かよ。

 文字や紙に意志が宿るなんてやっぱり違和感がある。

 迷信じゃないの、それ。


 まあ、そんなこんなで僕は魔術が使えないことがわかった。

 ただ、今の段階では、ということらしい。

 本が読めない理由ははっきりとしているわけではないので諦めずに挑戦してほしいとのこと。


 でもいいや。

魔術とか剣とか、現代科学が主流の世界から来た僕にはどうにも肌になじまない。


 ただ、これからこの世界で生きていくうえで魔術というものがどんなものかぐらいは知らないといけないので、座学だけは受けることにした。

 ハウゼンが僕の先生となり、魔術のことを手取り足取り教えてくれるとのこと。


 また、ちょうどいい復習の機会ということで、アルナとカーナも僕と一緒に座学を受けることになった。

 面倒事が増えたと、アルナとカーナに凄まじい形相で睨まれたけどね。


「ではまず、魔術に関する基本的な知識からだ」


 ―魔術に関する知識―


 その1.魔術は大きく分けて4つの種類が存在する。


 ・自然魔術:火、水、風などの自然界の力を利用する魔術。

・ 光魔術:聖なる力を利用する魔術。

 ・ 闇魔術:闇の力を利用する魔術。

 ・治癒魔術:傷や病を癒す魔術。


 まんま、といったところだ。


 その2.魔術の使用には魔力を使用する。


 これもゲームなどではお馴染みのルールだろう。

 魔力を得る方法は主に2つ。


 ・自分の体内に保有している魔力

 ・特定の物質や生物から魔力を吸収する。


強大な魔術ほどより多くの魔力を使い、逆に体内の保有する魔力量の少ない者は強力な魔術を使えない。

その代りとして魔力を有している特定の物質や生物から魔力を吸収することで足りない分を補う、というのがこの世界の一般的なやり方らしい。

中には、魔力を吸収しやすい物質に普段から己の魔力を蓄えておき、いざというときの切り札に使う者もいるとか。


 その3.魔術を発動させるには二つの方法がある。


 ・詠唱

 ・魔法陣


 これもお馴染みといったところだ。

 魔道書に書かれている内容を読み上げるか、魔法陣を描くかの二択。

 魔術の発動に詠唱を使うか魔法陣を使うかはケースバイケースであるためどちらが強いということは一概には決められない。


 その4.個人の魔力量、魔術の才能は血統によってほぼ決定される。

 

 この世界における血統とは魔術師としての家系が何代続いているかが重要らしい。

 魔術師は代々、自分が人生で築き上げてきたものを全て子供に引き継がせる。

 子供は親から引き継いだ魔術に自分自身の魔術を加えることでそれに磨きを駆け、より高みを目指すのだとか。

 だから、代を重ねれば必然的に魔術師の力は増し、親の遺伝子を引き継いでいるのだから当然、才能にも恵まれる。体内に宿る魔力の量も同じだ。

 逆に、代の浅い家系は才能も魔力の量も少ない傾向にあり、一代発起という訳にはいかないらしい。

 ただ、本当に極稀に、魔術とは全く関係のない家庭から天才的な魔術師が生れ落ちることもあるのだとか。

 

「ハウゼンの家系はどれぐらい続いているの?」

「私で19代目、アルナとカーナで20代目になるかな」


 わかっているだけで、だそうだ。

代々、家に伝わる話によるとハウゼン家の歴史は古代レイヴァン帝国よりももっと長いとのこと。

もしそれが本当であったならば、ハウゼン家は数千年と続く魔術の名門ということになる。


 その5.扱う魔術によって魔術師のクラスが決定される。


 武人のクラスが扱う武器によって違うように、魔術師も扱う魔術によってクラスが違うのだとか。


 一つは自然魔術を扱うクラス、《ウィザード》

 

 一つは光魔術を扱うクラス、《クルセイダー》


 一つは闇魔術を扱うクラス、《ドルイド》


 に分かれる。

 ちなみに、治癒魔術に関してはどのクラスであっても習得することが出来るため専門のクラスが存在しない。


そして魔術師も騎士と同じように一つのクラスに身を置き、その道を究めるらしい。

魔術師の力量がその血統に強く依存するという法則からすれば当然だろう。

親が代々、引き継いできたクラスを投げ捨て新しいクラスに転職するなど折角の宝を溝に捨てるのと変わらない。

だが、そう考えると魔術の世界で上り詰めるよりも武人の世界で名を挙げるほうがまだ簡単なのではないかと思えてくる。

 武人の世界でも才能は必要かもしれないが、その血統で実力が決まってしまう訳ではないからだ。


ちなみに、格クラス分けは武人の世界と同じだ。

 クラスアップに関しても、各ランクの昇格条件に指定されている魔術を習得し、その発動に成功すれば称号を得ることが出来るというのも同じだった。

当然のことだが、ランクが上がるにつれて指定される魔術の難易度も高くなる。

 そして高いランクの魔術程、人を選ぶそうだ。


 人が魔術を選ぶのではなく、魔術が人を選ぶ。

より高いレベルの魔術を習得するにはそれに見合う実力を長い時間をかけて養う必要があるらしい。

 

「ちなみに、私のクラスは闇魔術を扱う《ドルイド》だ」


 と、自分のクラスを教えてくれるハウゼンだが聞かなくてもなんとなくわかっていた。

 闇魔術はマッドサイエンティストっぽいこの老人に打ってつけのクラスに思える。


「じゃあ、ハウゼンのランクはどれぐらいなの?」

「エンペラー」

「ですね」


 ハウゼンが答えるよりも前に、アルナとカーナが僕の質問に答えてくれた。

 でも、その声はどこか唸るように低く、実父の称号に嫌悪感を抱いているようにも聞こえた。


「え、エンペラー?」


 むしろ、聞いた僕の方が目を丸くしてハウゼンを見てしまう。

 数億人に一人と言われているあの?


「歴史上、数人しかいないと言われる伝説のエンペラーなの?」


流石、19代続いている魔術の名門の出身。

 極端に飛び出た部分がありそうな人だったけど、やっぱり闇の魔術に関しては吐出した才能を持つ人だったようだ。

 

「照れるじゃないか。私はただ、無駄に長い時間を魔術に注いできただけだ。決して才能があったわけじゃない。エンペラーの地位にまで上ることが出来たのは、ただの年の功だよ」


 と、御謙遜なさるハウゼン。

 だが、その瞳は全く笑っていない。

今更ながらに実感する。


「でも、60、70年も魔術の探求に費やすんだから相当な根性がいるだろうね」


 60、70年とはハウゼンを見た感じの年齢で言っただけだ。


「60、70年?」

「なに言ってるんですか?」


 アルナとカーナが、お前、バカか?と言わんばかりの目で僕を睨んできた。

 僕は思わず


「え、ひょっとしてもっと短期間でそこまでいったの」


と真顔で聞き返してしまう。

 すると、ハウゼンも何かを納得したようにうなずいて


「そうか、シーザー君にはまだ半神族について詳しく話していなかったな」

「え、列車の中で話したあれとは違うの?」

「あれは半神族の歴史だ。しかし、種族的な特徴をまだきちんと話していなかった」

「種族的な特徴……」


 見た目が人間と大差ないから特に考えもしなかった。

 しかし、実際に神の血が混じってるんだから人間と同じはずもないか。


「以前、我ら半神族が魔神と人間の混血種であるということは話したね?」

「うん、覚えてるよ。

魔神と人間との間に産まれた世界最初の半神族、ブラン、ヴォルデミア、サラディンの3人が戦いに敗れた折に最高神に子を孕まされ、地上に追い落とされたっていう話でしょ」


と切り返すとハウゼンがわずかに困ったような顔をした。


「その通りだ。

我ら半神族には魔神だけでなく最高神の血も混じっている。

 しかし、それは我らにとっていいことではない。

 我々の血の中に最高神に敗北した証が流れ続けているということだ」


 敗北したからこそ最高神の血が半神族の血に混ぜられた。

 なるほど。

 その考えはハウゼンたちには申し訳ないが面白いと思う。

 ただ、今は彼らの屈辱の歴史について知りたいわけじゃない。


「詰まる所、半神族は人間をはじめとする種族と何が違うの?」


話題が逸れないよう軌道修正をかけておく。

 正直、負けた話はあまり好きじゃないんだ。

 地球での日々が思い起こされて惨めな気分になる。



「最初に挙げられるのは魔術への強い耐性だ。

 我らは魔神の血をひいているため人間や魔族以上に魔術への耐性が備わっている。

 過去の戦争でも半神族の騎士は魔術よりも剣や槍といった物理武器で死亡するケースが多かった。

 しかし、人間や魔族では魔術攻撃で死亡する兵の数の方が圧倒的に多い」


「魔術攻撃ってそんなに強力なの?」


 ハンマーベルで既に実戦を経験した僕だけどそこがいまいち理解できなかった。

 あの時の記憶は少しおぼろげで、そもそも敵が魔術を使っていたかもわからない。


「魔術が強いか弱いかを一言で決めることはできない。

武器にも様々な種類があり、得意、不得意があるように、魔術も一概に強弱をつけることはできない。

ただ、剣や槍、弓といった武器は鎧を纏えばある程度、防ぐことができるが魔術を防ぐための鎧はない。

つまり、単純な殺傷能力だけを比べるなら魔術のほうが高いのだ」

「だけど、クライセルさんは剣の道を究めて遠距離の相手も倒せる技術を持ってる。

 あれだけの技量なら魔術師が相手でも勝てそうだけど」

「確かに、クライセルほどの技量があれば魔術師とも渡り合えるだろう

 だが、世界の軍隊にあれだけの優れたグラディエターが果たして何人いるだろうか?

 この世界には初歩の魔術を使える者は大勢いる。

 同様に初歩の剣技を身に着けている者も大勢いる。

 その者たちを戦わせたとき、勝つのは初歩の魔術を身に着けている側なのだ」

「なるほど」


 なんとなく理解できた。

 つまり、魔術と武術では初歩の段階から優劣がついているのだ。

 例えばアルナとカーナがクライセルさんとしている稽古、あれは間違いなく初歩の部類だ。

 その一方でアルナとカーナがハウゼンとしている闇魔術の稽古、これも魔術の世界では初歩の部類だ。


 しかし、剣の稽古と魔術の稽古、どちらの初歩技術のほうが強いだろうか。

 藁人形を相手に考えるなら、アルナとカーナのか細い腕で剣を精一杯振るよりも詠唱を唱えるだけで人形を木っ端みじんにできる闇魔術のほうが効率的なうえに殺傷能力の点でも優れている。


 また、この世界に魔術を防げる特殊な防具がないのであれば、鎧である程度の威力をそげる剣や槍よりも強いということにもなる。


「だからこそ半神族の魔術への耐性は大きな利点なのだよ」


 ハウゼンのいう通り、本来ならば防ぎようのない魔術に耐性を持っていることは大きなアドバンテージになる。


「さらに付け加えるなら半神族は闇魔術に対して極めて高い親和性をもっている。

古から今に至るまで闇魔術で名を馳せた偉大な魔術師は全て半神族だ。

この世界には《光》、《自然》、《闇》の三つが三大魔術とされているが闇魔術を最も巧みに扱えるのは半神族なのだよ」


闇を司る魔神の血をひいているが故に、か。

つまり、闇魔術=半神族の魔術、と言っても過言ではないだろう。

 

「さらに、我らは魔神の血によって人間族よりも遥かに長い寿命を有している。

 世界では3番目に長寿な種族だ」

「ほう」


 魔神の血というのは本当に便利なものだ。

 魔術への耐性と闇魔術への親和性、そして人間を凌駕する長い寿命。

ただし、寿命に関しては、なんだ3番目かと思ってしまったのは秘密だ。

 

「なら、世界で一番長寿な種族は何なの?」

「それは《ドラゴン》だ」


 ドラゴン、確か世界を創造した最高神の使いとしてこの世の始まりかわ終わりまでを見届ける役目を負った生き物だ。

 まあ、魔神と恋に落ちて、その役目から逃れるために最高神に挑んだ挙句、敗北して奈落の底に落とされたらしいけど。

それが世界で最も長寿な種なのか。


「まあ、あくまでも伝説でそういわれているだけであり、ドラゴンが実在するかどうかもわからないがね」


 ハウゼンも今までドラゴンを一度も見たことはないとのこと。

ファンタジーの世界のようにやたらめったらいるわけではないらしい。


「そして次に長寿なのが龍と大地の女神との間から産まれたと言われる《龍神族》だ。

龍は一般的に神に分類される種。

だから龍神族は神と神の掛け合わせで、世界で唯一の《神族》に分類される。

不死ではないものの不老の種族であり、数万年を生きると言われている」

「龍神族か」


 名前を聞く限りかなり強そうだ。

 龍と神の混血なんてとんでもない化け物が産まれてくるに違いない。


「龍神族は強い。

口惜しい限りだが奴らの強さは我ら半神族を上回る」


予想通りだ。

ハウゼン曰く、龍神族は龍と全能の女神との間に産まれたと言われるだけあってこの世界で最強の種族らしい。

ただ、どう強いか、ということに関してはわからないとのこと。

なぜなら


「奴らは他の種族に関心を示さない。

既に4000年近くこの世界に降りて来ていない」


龍神族は自分達を世界の傍観者と位置付けているらしく、世界の出来事に介入したがらないらしい。

彼らは世界でも最高峰の峰の頂上で暮らしており、下界で起きている出来事にはそこまで関心を示さないのだとか。

ただし、世界が滅亡の危機に陥った時は別だ。


「4000年前、奴らは我ら半神族の聖戦に横やりを入れ、我々を敗北に追い込んだ。

聖騎士ローエンがレイヴァン皇帝を打ち倒すことができたのも最後の決戦で龍神族が力を貸したからだ」


 つまり、龍神族はレイヴァン帝国が世界を支配してしまうとこの世が滅んでしまうと思って聖騎士ローエンに力を貸した。

 何が彼らをそう思わせたのかよくわからないけど。


「そして三番目に長寿なのが我ら《半神族》だ。寿命はだいたい500年といったところだろう」


 人間の5以上倍、でも龍神族の20分の1以下。

 二位と三位の間にかなりの差があるようだ。


「そして半神族の次に長寿なのが《賢族》だ。

単に《エルフ》とも呼ばれている。

寿命は半神族と同じか少し短い程度と言われているがその代わり不老だ。

光系魔術の開祖とも言われており、我が半神族の最大の《敵》だ」


敵、そう口にした時のハウゼンの眼には強烈なまでの憎悪が渦巻いていた。

列車の中でもローエン教皇領の話が出たが、あの時もハウゼンは瞳の中に並々ならぬ感情を蠢かせていた。


「シーザー君、君はすでにエルフを見たことがあるはずだ」

「あの天使たちか」


 白銀の鎧と真っ白な法衣に身を包んだ聖騎士達の姿が脳裏に浮かんでくる。


「その通りだ。

《聖典騎士団》は《ローエン教皇領》に古より伝わる《聖典》を守護する存在であり、同時に聖典に記された神の教えに反する者達を討伐するための軍隊だ。

 そしてその構成員のほとんどはエルフ族であり、奴らは半神族こそ神が忌むべき存在と信じて我らを滅ぼそうとしている」

「ひどい話だ」

「実際は酷い以上に厄介な相手だ。

エルフが用いる光魔術は唯一、半神族に深手を負わせられる魔術だ。

我ら半神族が闇魔術の親和性が高いように、奴らは光魔術に高い親和性を持っている」


 つまり、完全な天敵というわけだ。

「そしてもう一つ。

奴らは常に人間を盾にして戦わせ、弱ったところを仕留めに来る

エルフには魔術への耐性がなく、我らよりも脆いのだ」


そういえばハンマーベルの戦いでも人間の軍がいたような気がする。

あの人間達も盾というわけか。

狡猾な上に半神族の弱点である光系魔術を得意とする厄介な存在というわけだ。


「でも、なぜそこまでしてエルフは半神族を敵視するの?半神族が魔神の血をひいているから?」


 過去のいきさつを考えれば確かにエルフと半神族は宿敵だろう。

 半神族の英雄であるレイヴァン皇帝を討ち取ったのはローエン教皇領を興した聖騎士ローエン。

 だけどそれは4000年も前の話だ。

 地球なら4000年前の出来事までさかのぼって争っている国は存在しない。


「それこそ私も彼らに聞きたいぐらいだ。

 なぜ我らをそこまで滅ぼしたいのかね」


 と、ハウゼンはわずかに困ったような笑みを浮かべた。

 

 とにかくエルフは半神族が嫌い。

 半神族もエルフが嫌い。

 これだけはよく理解できた。


「まあ、半神族とエルフとの因縁についてはこれぐらいにして他の種族の話に戻そうじゃないか」


 半神族とエルフの次に来る種族が《鍛冶族》と《人間族》だそうだ。

鍛冶族はドワーフとも呼ばれており、鉄と火に関する知識と技術では右に出る者はいないとされている種族。

鍛冶はドワーフが始祖とも言われている。

彼らは金属加工技術と鉱山開発の名手として世界中で重宝されており、どの国の鉱山にもドワーフのコミュニティーが存在するという。

そのためドワーフは国を持たず、基本的には鉱山の属する国の国民として生活している。


ちなみに、レイヴァン地方はドワーフの住んでいない数少ない地域として有名だ。

 半神族はドワーフからもあまり好かれてないらしい。


そして人間がくるのだが、これは説明するまでもない。

 

「ちなみに、ハウゼンって今、何歳なの」

「今年で456歳になる。もう、よぼよぼの老人さ」


 と笑った。

 なるほど、確かに500年を寿命と考えるといい年ではあるな。

 

 ちなみに、半神族は15から20辺りで成長が止まり、300年ぐらいはそのままだという。その後、徐々に年を取り始めてだいたい400近くで急激に老けはじめるのだとか。


 詰まる所、ハウゼンは数十年どころか数百年も長い年月を闇魔術の探求に費やし、その道の頂点に君臨したということだ。

 よほど好きなんだろうな、闇が。

 ハウゼンを見ればなんとなく理解できるけどね。


 こんな形で魔術の話題から大きくそれながらも半神族とこの世界の知識を学んだのである。


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