21話 利他主義者の羽化
お悩み相談会から数日経って、次の冒険者ギルド訪問診療。
冒険者に話を聞いたところ、ハインがいなくても問題なく回っているようだ。
ハインが姿を見せなくなって1週間は依頼が溜まって忙しかったそうだが、その後は依頼も減っていき、今では式典前の水準まで戻ったらしい。
ついでに、モンスターフローについても聞いておいた。
もしドラゴンのような強い魔物が来てもギルド長が対処できるし、その不足は他で補充すればいい、ということらしい。
まぁ、ハインなしで滅びる町なんてとっくの昔に滅んでいるからな。
最後に、ハイン姉と補佐子に関しては、遠目に見ただけで分かる苛立ちと怒り。その様は禍々しいオーラを纏っているように見える程だ。
触らぬ神に祟りなし。見つからないように立ち去った。
次の休日の朝。
「こんな感じだったんだが、参考になったか?」
「はい、ありがとうございます。モヤモヤした不安が減りました」
「というか、本当に今日行くのか?」
「はい。いつまでもカイト先生のお世話になれませんし、早い方が良いと思いますから」
「それじゃあ、作戦会議するか」
「作戦会議ですか?」
「ああ。強大な敵に無策で挑んでも無駄死にするだけだからな」
「確かに……」
「先に言っておくが、俺は君の姉に会わないから」
「どうしてですか?」
「嫌だよあんな自己中な人と話すの。ああいう手合いには関わらないのが1番だから」
「それに、俺がいるとややこしくなるだけ。目の敵にされてるし」
「そうですね」
「まずは、それだな」
「それとは?」
「相手の言うことを何でも受け入れて、同意するだろ?」
「はい……あっ」
「姉に対峙するなら自分の意見で反論できないと、言い包められて終わる」
「特に相手は精神的に不安定だからな。感情的に追い詰められた時に、それでも言い返せるか?」
「……」
不安だ。
「できれば、ですけど、反抗的な事を言いたくないです」
「なんで言いたくないの?」
「どうしても自分が悪いんだって気持ちが消えなくて」
「まぁ、自責は仕方ないんじゃない?」
「どうすれば良いですか?」
「う〜ん。すぐに自責の念が消えることはないから」
「無理に消そうとするよりは、いつか過ぎ去ると理解して静観した方がいい」
「そう、ですか」
「他に何か理由はあるの?」
「……気に障ることを言って、居場所がなくなったら辛いです。この世界でたった一人の姉だから」
ハインの世界が狭すぎる。
家族を中心とした小さなコミュニティが世界の全てで、逃れられないと思っているのだろう。
「なるほどね。姉弟の仲が大事だから、と」
「だって、人は独りで生きていけないじゃないですか」
「助け合うのが大切なのは分かる」
「だが、血縁者じゃなくても、他人同士でも助け合うことはできる」
「俺はこの世界に血縁者は誰一人いないけどね、孤独ではないよ」
同じ時間を過ごして、信頼関係を積み上げて、互いを知っていけば、血縁者よりも深い関係になれる。
生物学的な話をしても構わないが、俺達は遺伝子の奴隷ではない。
肉親であっても、所詮他人。
他人に自分の人生を左右されてもいいのか、よく考えるべきだろう。
「家族関係が壊れたら人生終わりみたいな視野の狭い考え方はやめときな」
「というか、そもそも姉弟関係を改善するためにハインは話し合いをしようとしているのに、反抗しただけで関係が壊れるなら、もう既に修復不可能ってことだろ」
「う、その通りです……」
「それなら、姉に対して思っていることを素直に吐き出して、本音でぶつかり合った方がまだマシじゃないか?」
「実際、ハインは姉をどう思ってるんだ?」
ハインは喉の栓に抵抗するように声を搾り出す。
「嫌……苦……良く、思っていない、のかも」
だろうね。姉弟関係なんてそんなもんだろう。
「その認識があれば、姉に対してこうしてほしいと要求できる。不満はないと思い込んでいる内は何も改善されないから」
「大事なのは、感情を認識した上で、それをどうするのか」
「ということで、本題。話す内容を詰めたいんだが……少し休憩するか?」
「いえ……大丈夫です」
「僕が考えていたのは、これからは余裕のあるスケジュールにすることと、休日を作ること」
「あとは、人前での話し方とか、一人称とかを強制しないで、自然な僕でいさせてほしい……とか」
「……ど、どうですか?」
「良いと思う」
「自分にできないことは拒否しているし、具体的に姉に対して、こうして欲しい、こうして欲しくないと要求できてる」
「それじゃあ、もっと具体的に練習するか」
見た目や声は変えていないが、ハイン姉の言動や雰囲気を思い出しつつ、家族会議のシミュレーションを行った。
ハインは辿々しくも自分の要求をぶつけて、姉役の俺はそれを踏み潰す。
他人を演じるのは好きかもしれない。普段言わないことも言えるし。
「ハインくんは一生この町でみんなのために生きるんだよ?ハインくんの意思とか関係ない。みんながそう望んでるんだから」
興が乗ってセリフに魂が入る。
「……」
「何?その目は?お姉ちゃんに反抗するの?」
2、3分待ったのだが、ハインの口から言葉は出ない。
「一旦止めるか」
「はい、すいません……」
「やっぱり、どうしても、嫌な反応されると、身体が固まって、反論できないです」
「それは、この練習で慣れるしかないな」
その後も、ハイン姉の思考を想像で補いながら大袈裟にハインを追い詰めていった。
本番で失敗するよりは、過酷な練習をして本番で拍子抜けした方がマシだ。
そんなこんなで、数時間練習した。
最初は腰抜けだったが、段々と威圧感のある環境に慣れて、練習では話し合いができるようになった。
「実際、ここまで紛糾するかどうかは分からないが、覚悟はした方がいい」
「お姉ちゃんと争いたくないから自分の願いを諦める。こんな弱気な選択をしたら責めますか?」
「それでハインが納得できるならいいと思うよ。本当に」
「ハインの選択について、俺は否定も肯定もしない。徹頭徹尾、他人事だしな」
「で、やめるの?」
「や、やめません!」
「まぁ、どちらにせよ、闘争するか、相手に屈するか、良い妥協点を見つけるのか。自分で決めなきゃ」
「現実的に考えるなら、妥協点を探すことになると思うけど」
「話し合うことで理解し合えなくても、理解し合えないこと分かるだけで話し合う意味はある」
「ただ、友人として君の心が守られることを祈っている、とだけ」
「本当の本当に、ありがとうございます」
「ダメだったらまたここに来な。一緒に考えよう。失敗しても死ぬわけじゃないから」
ハインは大きく頭を下げた後、診療所を出て、自身の家へ向かった。
・
・
・
人事を尽くして天命を待つ。
その休日の昼間、ゆっくり紅茶を嗜んでいると、扉が勢いよく開けられた。
「はぁ……はぁ……」
「おう、おかえり」
「……やっぱり、だめ、でした」
ハインは悲しんでいるのか笑っているのか分からない複雑な顔で言う。
「そっか」
「もう昼時だし、サンドイッチでも食べるか?」
「……はい」
昼食を食べながら話す。
「僕、本当に逃げて良かったんですかね……」
「さぁな」
「誰もハインの人生に責任を取れない」
「ハインが逃げるべきだと思ってそう行動したなら、それがベストなんじゃない?」
「でも、もっと上手くやれば違ったのかなって」
「え?そんなに交渉が上手くいきそうだったの?」
「いや、全く折り合えなかったです」
「あっ、そう」
「話を聞いてもらっても、良いですか?」
「勿論」
「最初に家出したこと、心配かけたことを謝りました」
「お姉ちゃんは予想したよりも冷静で、許してくれました」
「へぇ〜」
「でも、“その代わりにどうするべきか分かってるよね?”って脅してきて」
「あぁ……」
「辛いけど、ここで従ったら終わりだと思って、体の震えを抑えながら、自分の特性と限界を話しました」
「お姉ちゃんは話を聞いてくれませんでしたけど、カイト先生との練習のおかげで折れずに向き合い続けられました」
「そうしたら、観念したのかお姉ちゃんも誤魔化さずに本音で話してくれました」
「どうだった?」
「お姉ちゃんは、やっぱりお金とか、みんなに好かれるとか、そういうのが大事らしくて、それが常識でしょって」
「でも、なんで僕を目立たせるのか教えてくれなくて」
「確かに。金が欲しいだけなら別だけど、承認されたいなら本人の努力が必要だよな……」
「勝手な推測だけど、ハインの社会的な価値が上がれば、相対的に支配している自分の価値が上がるとでも思ってるんじゃない?」
「そう……ですかね」
「それで最後に、両親の遺言の“姉弟で仲良く暮らしなさい”はどうでもいいと思っているのかを聞きました」
「僕とお姉ちゃんは認識が違うらしくて、一緒に住んでいればそれでOKって」
「僕に譲歩して助け合いながら生活する気は更々なくて、僕が全部やればいいって」
「その時にお姉ちゃんは“あっ”って、思わず言っちゃったみたいな感じでしたけど」
「それで、僕は、姉にとって家族じゃなくて、道具なんだな、って、思ったら」
「力が抜けて、頭の中がぐちゃぐちゃで、逃げちゃいました」
悲しそうに笑う姿が痛ましい。
「その行動は間違ってないと思う」
「こっちを人間扱いしない奴に、人間扱いしてやる義理はない」
そう言った瞬間、バタン!と急にドアが蹴って開けられた。
「しっつれいしま〜す!!」
俺はその声を聞いて、急いで扉に向かう。
クソが。失礼すんなら来んな。
「ここにハインくん、いるよね??」
「ハインくん?来てないですよ」
診療所の中が見えないように体でブロックする。
「は?どいて」
地声が高いのに、なんでこんなドスの効いた声出せるんだよ。
「この宿に入るのを見たんだから。惚けても無駄」
ハインが宿に帰る時に尾行されていたのか。
姉が診療所に入らないようにブロックしていたのだが、突き飛ばされる。
「勝手に探すから気にしないでいいよ〜、せ・ん・せ・い」
これは本格的にマズい。
診療所の奥側から調べるようで、ゆっくりと歩を進める。
「ん?この子は誰?」
ベッドの陰に向かって話しかけている。
バレていないという事は、俺が稼いだ僅かな時間で変身魔法を使ったようだ。
ハインは頭を抱えて蹲っていた。
「ちょっと前にこの宿で知り合って、仲良くしている子です」
「ふ〜ん。ねぇ、顔よく見せてよ」
姉はハインの顔を掴んで無理矢理上を向かせる。
「ん〜?」
「……」
「ま、違うか」
ハイン姉はそう言うと、診療所の隠れられそうな場所を調べ始めた。
その時に階段を下りる足音が聞こえ、誰かが診療所に入ってきた。
「あ、シアさん!部屋はどうだった?」
「全ての部屋に突撃しましたが、見つかりませんでした」
こいつらクソ迷惑だな。
「本当に隅々まで確認した?」
「はい」
「本当にいないんだ?見間違いだったのかな?」
「どう思う?先生」
「さぁ……」
俺は瞬きもせずハイン姉の目を見つめ返す。
「じゃ、一旦帰るけど、また来るからね」
来るな。
「……はぁ」
「荒らすだけ荒らして帰っていったな」
「平気か?ハイン……って」
ハインの目から涙が溢れていた。
「あはは……絶対にバレないように、こんな格好してるのに、なんで涙が出るんだろう。おかしいな」
「ごめんなさい。なんか、色々と込み上げてくるものがあって」
「いいよ。暫く俺は外に出てるから」
顔を見ないように、黙って俺は出ていく。
(ハインくんが可哀想すぎて見てらんなかったよ)
(慰めてあげなくてよかったの?)
(どうなんだろうな)
(俺なら一人にして欲しいと思うから、こうしただけだ)
(ここからどう転ぶかは本人次第と言う他ない)
(というかさ、酷すぎない?あれ)
(流石に自己中すぎるでしょ、あの人たち)
(宿の他のお客さんにも迷惑かけて、散々調べ尽くして、はいさよならなんて)
(あれは度が過ぎてる。冷静じゃないのもあるだろうが)
……図書館行くかぁ。
・
・
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時間も忘れて町の図書館で本を読み漁っていると、いつの間にか陽は落ち、夜になってしまっていた。
あ〜、やべ……そろそろ戻るか。
宿の診療所に戻ると、ハインが鍋を机の上に置いて待っていた。
「お帰りなさい」
「……ただいま」
「何時間外にいるんですか、流石に遅すぎですよ」
「悪い。で、その鍋はどうしたんだ?」
「まずは、自分を知るのが大事だと教わったので」
「料理に挑戦しようと思って、材料を買って、部屋でスープを作ってみました」
「おー、いいじゃん」
「温めてくるので、待っててください」
「おう」
診療所で待っていると、お盆にスープ皿を乗せて持ってきた。
「ど、どうぞ」
「いただきます」
「これは……まぁまぁだな」
不味いとまでは言わないが、美味いとは決して言えない味だった。
塩辛めで味が単調。
「そうですか……うまくいかないですね」
「美味いか不味いかは今はいい。料理は楽しかったか?」
「ちょっとだけ、ですかね」
「そうか。色々やってみて、その感覚を少しずつ積み上げてみな」
「はい!」
今まで見たことのない、柔和でポジティブな雰囲気だ。
「というか、あんなことがあったのに妙に落ち着いてるな」
「お姉ちゃんと正面から話をして、見つからないように隠れて、ようやく心の底から理解したんです」
「愛されてないんだなって」
「……」
こんな時、どんな顔をすればいいの。
「そんな顔しないでください。これで良かったんです」
「お姉ちゃんを変えようとする事自体が無駄で、間違っていて……自分が変わることが正解なんだって」
「泣きながら色々と考えて、吹っ切れました」
「そうか」
全く予想しない形で、ハインのレジリエンスが高くなった。
「ハインの今後の目標は?」
「自分が何をしたいのか、どう生きたいのかを知って、他人に左右されずに、自分の心に従って決められるようになりたいです」
「人生を振り回されるのに疲れました」
「でも、まだ具体的に何がしたいのか、これからどうするか見えなくて」
「カイト先生の意見を聞いてみたいんですけど……」
「ん〜」
「……駄目ですか?」
「ハインに影響を与えすぎない言い方を考えてた」
「大丈夫です。参考程度ということは分かってます」
「それじゃ、どんな夢を見ることが多い?」
「……えっと、なぜそのようなことを?」
ハインの目が泳いでいる。
けど、なんで?
「夢はその人の抑圧された願望を映し出すと言われているから」
「え、えっと……色んな人に追いかけられて逃げる夢とか、空を飛んでいる夢とかですかね」
「そうか」
嘘ではなさそうだが、歯切れが悪いな。
まぁ、追求はするまい。
「一般的には自由になりたいという願望があるかな」
「他には、ありませんか?」
「ハインって人といる時に緊張してるよな」
話すときに体が固まったり、指を組んだりしてるし。
「はい。緊張しいなので、家に帰るとすごく疲れてしまって」
相手に不満があっても内側に溜め込む癖があるし、やっぱり過剰適応だよな。
「この宿に来てから、一人で過ごす時間ばかりでしたけど、前よりも過ごしやすかったです」
「それに、変身して誰にも注目されずに町中で過ごしていると、凄く気が楽で」
「それなら、一人旅に出るのはどうだ?」
地球で俺は一人旅を頻繁にしていて、その魅力や欠点を知っている。
それを考慮した上で、ハインには合いそうだ。
「一人旅ですか?」
「誰かと一緒が良いのか、一人が良いのか、実際に一人で生活しないと分からないからな」
「それに、外の世界を見て、自分の世界の狭さを知ってからこの町に戻ると景色が変わって見えると思う」
自分の世界が広がると、他に選択肢があるのだと思えて、心に余裕が生まれる。
「旅をすることで僕の目標に近付けますか?」
「当然」
「自分の常識が全く通用しない経験をして、想像もできない文化や価値観を知れば、自分を知る大きなヒントになる」
「色々と失敗するだろうけど、失敗しながら学べばいい」
「短期間でも、長期間でも、得るものは多い」
「それなら……思い切って外に出てみます」
「結局、逃げたって言われそうですけど」
「そんなの勝手に言わせておけ、どうせ町を出れば聞こえなくなる」
「そうですね」
その日は解散して、次の日の朝。
「それじゃ、決めたことを説明するために帰ります」
「大丈夫なのか?色んな意味で」
「大丈夫です。僕の部屋を整理して、決定事項と別れを伝えるだけなので」
「何かあったとしても、逃げる能力くらいはありますから」
「それが終わったらギルド長にも同じ説明をして、探さなくていいと言っておきます」
「あと、ギルドには色々と迷惑をかけたので、自分の剣を寄付しようかな、と」
「旅に持って行かないのか?」
「はい。1から出直ししたい気分なので」
「カイト先生は要りますか?」
「要らんな。持ち歩くのも大変だし、一応医者だし」
「ですよね。じゃあ、行ってきます」
そう言って、ハインは素顔のまま帰っていった。
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・
・
「ただいまです」
「おっ、どうだった?」
「なんとか、無事に終わりました」
「それは良かった。すぐにでも出発するのか?」
「はい」
「また尾行されても困るので、変装して出るつもりです」
「それじゃあ、これを餞別に渡しておく」
「これは……ブローチですか?」
「ああ。ハインといえば剣だと思って、その形のブローチを作っておいた」
「凄い!器用なんですね」
「実は、隕鉄版が材料でな。色々と役に立つ機能が入ってる」
刻んだ魔法、その使い方、注意事項まで含めて具体的に説明した。
「全て了解しました。これからもよろしくお願いします」
「まぁ、直接会うことは中々無いだろうけどな」
「そうですね。それじゃ、僕の方からはこれを受け取ってください」
お金の入った袋を渡された。
「一人旅の準備でお金かかるんじゃないか?」
「大丈夫です。最低限のお金は持っているので」
「それに、ここで借りを少しでも精算しないと、自信を持って自立できたと永遠に言えなくなる」
他人の助けを借りないことを自立とは言わないと思うが、ハインなりのこだわりがあるのだろう。
「まぁ、ハインならどうにでもなるし、どうにでもするか」
「俺もこの町での生活に一区切りついたら、出るつもりだ」
「そうなんですか」
「それなら、あまり意味のない忠告かもしれませんが……」
「カイト先生がいない時に、不審な人物が診療所を監視していたので、気をつけてください」
「分かった」
宿の前の路上で、最後の別れを交わす。
「それじゃあ、良い旅を」
「はい!本当に、本当にお世話になりました!」
ハインは深く礼をした後、こちらが見えなくなるまで、手を振り続けていた。
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◇◇◇
カイト先生と別れて、時間は丁度お昼くらいかな。
旅の行き先とか、お金を稼ぐ方法とか、買い忘れないかなとか、色々と考えながら歩いていると、
「おい!そこのあんた!」
突然声をかけられた。
変装している時は完全に油断しているので、心臓が跳ねる。
「なっ、なんでしょうか?」
顔を見ると、いつもお世話になっている鍛冶屋のおじさんだった。
「それ、誰から貰ったんだ?」
おじさんは僕が身に付けているブローチを指差す。
「えっと、それは……ごめんなさい。口外するなと言われてまして」
そうか、あのカードって、このブローチと反応するものだったんだ。
じゃあ、前におじさんが言ってた夜に会った人って……
それも含めて何も言うなってことだよね。
「そうか……まぁいい。どちらにせよ俺は恩を返すだけだ」
「あんた、うちの鍛冶屋に寄ってかないか?武器のメンテナンスとか、他にもなんか武器に関して相談があったら乗るぜ?」
「じゃあ……少しお願いします」
僕とおじさんは鍛冶屋に移動した。
「あんた、武器を持ってないのか?」
「はい」
「それなら、好きな武器を一つ選びな。持ってっていいぜ」
人に施しを受ける自分を受け入れられるように、深呼吸をする。
「それなら、この剣を」
「そんな安い剣でいいのか?」
「はい」
「それが好きなら、持っていきな」
「ありがとうございます」
深くお辞儀をして、感謝を伝える。
「ん?」
「どうしたんですか?」
おじさんが僕のお辞儀姿を見て、不思議そうな声を上げた。
「いや、なんでもねぇよ。懐かしい気分になっただけだ」
「じゃあな。元気でやれよ」
「はい!」
馬車という選択肢もあるけど、急ぐ旅ではないし、運動も兼ねて走って行こう。
僕は新しい剣を持って、生まれ育った町を飛び出した。
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