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11話 化物と魔法の板


 お嬢との顔合わせが終わって、次は何をしようか。


 夜はホワイトくんと会う予定があるが、それまでは自由だ。


 町を散歩しながら適当に決めよう。


(……終わった?)


(ああ、終わったよ)


(ほっ……良かった良かった)


(あ、今後は定期的にお嬢に会うことになったんで、そこんとこ宜しく)


(うへぇ、まじかぁ)


(それが免許を得る交換条件だから)


(お嬢と会っている間は呼び出さないから安心してくれ)


(おけおけ。それで、今どこに向かってるの?)


(特に目的地は無いな。昼時だけど腹減ってないし)


 お嬢がよく食べるもんで、それにつられてお菓子を食べすぎてしまった。


(じゃあお店巡りしようよ。異世界ならではのお店とか見てみたいな)


(そうだな)


 大通りのお店は何度も通って見ているから、横道に入ってお店を探してみよう。


 そう思って横道を歩いていると、家具屋、武器屋、防具屋など耐久消費財のお店が多い。


 家具は兎も角、大きな剣やゴツゴツした鎧が店先に鎮座している様子を見ると、画面越しで世界を見ているような気分になる。


 それらを横目に道を歩いていると、突き当たりに鍛冶屋があった。


 立派な炉と金床、無造作に置いているハンマー。


 剣でも鍛造しているのかと思って覗いてみると、鈍く光を反射する金属板が延ばされていた。不思議と目が離せない魅力を放っている。


「なんだ?お客さんか?」


 店の奥から大柄なおじさんが出てきた。


「金床の上に置いてある金属板は何?」


「あれは隕鉄版だ」


「隕鉄版?」


「そうだ。空から降ってくる鉄を延ばして板状に加工してんだ」


「何に使うんだ?」


「これには表面に魔素を留める不思議な性質があってな。魔法師が魔法をストックするのに使ってんだ」


「面白いな。どうやって魔法をストックするんだ?」


「そんなこと知らねぇよ。魔法師が買うから加工してるだけで、中身には興味がねぇ」


「……興味がねぇっつーか、魔法師がその方法を秘密にしてんだよ」


「ま、どうせ簡単な魔法は隕鉄版がなくても使えるからな。必要としてるのは魔法師くらいだ」


(なんだか面白そうな話だね)


(そうだな。使い方さえ知れれば、面白い事ができそうだ)


「それ、俺に売ってくれないか?」


「なんだ?あんちゃん魔法師だったのか?」


「違うが……魔法師以外には売れないのか?」


「そんなこたぁねぇが、魔法師以外にとってはただの金属板だぜ?」


「幾らで売ってくれるんだ?」


「不思議なあんちゃんだな。まぁ、1万ルクで売ってやるよ」


「はい、じゃあこれで」


 躊躇わずお金を出した俺を訝しみながらも、鍛冶屋は隕鉄版を渡した。


「それじゃ、面白い話を聞かせてくれてありがとう。多分また買いにくる」


「お、おう……まいどありぃ」


 買った後、人通りの少ない道に入って隕鉄版を調べてみる。


 魔法師の知り合いは居ないし、初対面で尋ねても秘密は漏らさないだろう。


 ここで軽く試行錯誤するか。


 それで使えるようになれば万々歳だし、無理そうなら別の方法を考えよう。


 下敷きサイズの隕鉄版を触ってみた感触としては、薄い鉄板と同じだな。


(匂いはどうなの?宇宙の香りとかする?)


(鉄の匂いだな。特に変わったところはない)


(じゃあ、もう魔素を流してみるしかなさそうだね)


(そうだな、試しにやってみるか)


 手の先から魔素を流してみると、確かにプレートの表面にぼんやりと魔素が広がっている。


 だが、そこから先は何も起きなかった。 


(う〜ん、一筋縄では行かなそうだね)


(本屋とかに行って調べてみない?案外簡単に入門書が見つかるかもよ)


(そうだな。期待はできないが、本屋の品揃えも見ておきたいし、行ってみるか)


 以前イケメンくんに描いてもらった地図を使って近場の本屋に行こう。


 本屋に入って棚に並ぶ本の背表紙から、それらしい本を探してみる。


 ……が、案の定見つからない。


 店員に訊いてみても、隕鉄版については魔法師が秘匿しているから流通しないと言われた。


 まぁ、そうだよな。


 隕鉄版は一旦諦めて、本屋に置いてある本をざっと確認する為に本屋巡りをしよう。


 約束の時間まで暇だしな。





 この町の本屋を巡った感想としては、魔法関係の本の内容のレベルが低い。


 最初の洞窟に置いてあった本の方が圧倒的に興味深い内容が書いてあった。


 専門的な本は魔法師が独占しているという事なのだろう。


 他に気になった事としては、医学関係の本が多く、突出してレベルが高かった。


 お嬢も言っていたが、本当に衛生観念のレベルが高いらしい。


 しかし、結局隕鉄版の件は解決していない。


 本屋に移動している間にも隕鉄版を触ったり曲げたりしてみたが、進展はない。


 陽が傾いて約束の時間になってしまったので、図書館に行こう。


 大きな満月に暗い道が照らされて、閉館した夜の図書館に到着。


「こんばんはであります!」


「ああ、こんばんは」


「図書館の調子はどうだ?」


「お陰様で順調であります」


「体調は崩してないか?無理はするなよ」


「無理はしていないのですが、いざとなったらカイト先生にお願いするでありますよ」


「いざとなったらな」


 そんな雑談をしながらいつもの椅子に座って話し合う。


「何か図書館で改善する所は見つかったか?」


「実は、2階にある本棚の間隔が狭すぎて、本を取りづらいという意見を頂戴しましたであります」


「あぁ、確かに最初に来た時も狭かったな」


「1階は机と椅子を増やした関係で、本棚を移動させるスペースはないし」


「本を処分すれば本棚の数を減らせるが……」


 化物を見る目で見られてしまった。


「それが嫌なら、どうにかしてスペースを作るしかないな」


 部屋を見渡しながら考える。


 通行の邪魔にならずに、尚且つ本を置いておけるスペースはもう一箇所しかない。


「机の下に収納スペースを作って、そこに本を入れるか」


「DIYは必要だが、非力でも魔法を使えばそこまで難しくないはずだ」


 実際に机の下に潜って、どんな構造の棚を作るべきかジェスチャーを交えながら伝えた。


「ふむふむ。なるほど」


「それなら机を使う人が足を伸ばしつつ、本を置くスペースを確保できるでありますね」


「本の置き場所についてはこんなもんでいいか?」


「はい!参考になったであります!」


「カイトくんの方は何か相談事はありませんか?」


 今すぐに知りたいのは隕鉄版の使い方だが……


 そういえば、ホワイトくんは知識人でこの国の出身ではない。


 魔法師ではないとしても、隕鉄版の使い方を知っている可能性はあるか。


 一応、聞いてみよう。


「ホワイトくん。魔法は得意か?」


「はい。人並み以上には得意だと自負しておりますが、急にどうしたでありますか?」


「これって知ってるか?」


 懐から隕鉄版を取り出した瞬間、ホワイトくんの肩が跳ねる。


「……ええ!魔法師の皆様がよく使っている隕鉄版でありますね!これはどうやら何も書き込まれていない新品のようですが、それがどうかなさいましたか」


 そうホワイトくんは早口で捲し立てる。


 "書き込む”というワードを漏らしたな。何かを知っていそうだ。


「これがなんなのか気になったから尋ねただけだ」


「ただ……随分とそれについて詳しいな」


「そんなことないであります!本当に!全く知らないであります!」


 首をブンブンと横に振って全力で否定している。


 隠し事が絶望的に下手というか、素直というか。


「隕鉄版の使い方を知っているだけか?」


「それとも、隕鉄版の説明書を持っているのか?」


 ……目を瞑って、息を殺して、微動だにせず。


「はたまた、書き込まれた現物を持っているのか?」


 ……一瞬、身体が跳ねた。


 どれだけ意識的に身体の反応を鎮めようとしても、素人には限界がある。特に素直な人間には無理だろう。


「少しだけでもダメか?」


 ホワイトくんは俺に秘密を知られた事を察して、肩を落として語る。


「ちょっとこれだけは本当に厳しくてですね……他人に見せた事を身内に知られると、冗談じゃなく処されるので……」


「もちろん、個人的にはカイトくんのお世話になりっぱなしなのでお見せしたいのでありますが、こればっかりは……」


「そうか……」


 ここで双方沈黙。


 時計の秒針の音だけが支配する空間で、緊張感のある空気が流れる。


 ここで1つ。


 案を思い付いた俺は沈黙を破る。


「君の家族も語学マニアだろ?未知の言語の知識と交換で納得させられないか?」


 以前ホワイトくんと会話した時に、言語について真剣に考えているのが"私達”だと言っていた。


 ホワイトくんと同じくらいの熱量が家族にあるなら、この条件は悪くないはず。


「確かに、未知の言語の知識なら間違いなく納得させられるでありますが……」


「私達の知らない言語など、この世に存在するのでありますか?創作しても簡単に見抜かれるでありますよ?」


「凄い自信だな。ただ、創作ではないから問題ない。俺が交換条件に出すのは英語だ」


 日本語を教える事も考えたが、日本語は覚えるべき文字が多くて面倒なので、この場には向いていない。


 それに対して、英語は覚えるべき文字も少ないし、教材も豊富で使い方も単純。


 語学のプロならすぐにマスターするだろう。


「えいご……?全く聞いたことのない言語でありますね」


「そうだろうな。まぁ、百聞は一見に如かず。実際に基礎の部分を教えるよ」


 という事で、アルファベット26文字を書いて見せて、その後、簡単な英単語と文法を教えた。


「なるほどなるほど。26種類の文字の組み合わせで全ての単語を表して、主語動詞目的語の順番になっていると」


「確かに、理論整然としているのに一度も見たことのない言語でありますね……」


「しかし、これだけだと……」


「英語で書かれた本を幾つか持ってきて、それを証拠にすれば納得してもらえるか?」


「それなら大丈夫であります。わたくしも次回までに隕鉄版を持ってくるであります」


「宜しく。集合は明日の閉館後でいいか?」


「はい。問題ないであります」


 今日は明日の予定を立てたところで解散。


 買ってきた夕飯を宿で食べて、明日の準備の為に夢現図書館へ。


 いつもの席に到着すると、そこでは桜ちゃんが本を片手に読みながら、手鏡を持っていた。


「何をしてるんだ?」


「アクセサリーを作りたいんだけど、どれにしようか迷ってて」


「何個も作れないから吟味してるの。この手鏡を作るだけで給料の半分が吹き飛んだし」


「オシャレ好きなんだな」


「人並みだけどね」


「これ見て!このページのネックレスとかめっちゃ可愛くない?特にこの飾りが好きなんだよね」


 「でも、こっちの指輪も捨てがたいな〜」と楽しそうに選んでいる。


 数分悩んで、


「ん〜、やっぱりこのネックレスにする!」


「星の飾りが付いたネックレスか。シンプルなデザインで俺もそれが好きだな」


「やっぱりこれイイよね!これにしよ!」


 数日分の給料を使って桜ちゃんはネックレスを生成。


 首に掛けて、


「どう?似合ってる?」


「すごく似合ってる」


 照れくさそうに桜ちゃんは笑う。


「それで今日はこっちで何するの?」


「ホワイトくんに英語の本を渡すから、この図書館から現実に持っていく本を選ぶぞ」


「そういえば、具体的にどうやってここの本を持っていくの?」


「現実で複製したい本を思い浮かべて、魔素を使えばそれで複製できる」


「そうなんだ?」


「以前現実で試したから間違いない」


「現実で生成魔法を使うのは面倒なんだが、本に関しては例外みたいだ。十中八九、夢現図書館のお陰だろう」


 記憶の中にある本を取り出しているから普通の生成魔法よりもコストが低いのか。


 それとも、直接的に俺のソウルアルスの力が作用しているのかは謎だが、どちらでも支障ない。


「へ〜、本選び手伝おうか?」


「英語の初学者向けの教本の中から、主観でいいから理解しやすい本を選んでくれ」


 ホワイトくん用にクラプル語で対応表を作る必要はあるが、それは朝起きたらやろう。


「おっけー!」


 俺は初学者でも読める名作文学を選ぼう。


 できるだけ長くて完成度の高い物語本があれば、創作だとは思われないはずだ。


 そんなこんなで、膨大な量の本から数冊を厳選した。


 本当はもっと多くの本を渡したい。


 だが、ホワイトくんが家族に証拠の本を見せるとなると、それがいつになるのか分からない。


 3年保つ量の魔素を込めれば十分だろうが、それがネックだ。


 今日は現実での本の複製に備えて休もう。


 次の朝。


 昨日目星を付けた本を実際に複製する。


 朝の身支度を整え、深呼吸をしてから行う。


 まずは、1冊目の本を思い浮かべて複製。


 そこからググッと魔素を込めて、込めて、込めて……こんなもんだな。


 これなら年単位で読み続けられるだろう。


 出来上がった本を開いて読める事を確認。


 よし、OKだな。


 この調子で2冊目、3冊目と行こう。


 本を複製する間に何時間か間隔を空けないと魔素不足で頭痛になりそうだったので、時間をかけて複製を行う。


 その間に英語とクラプル語の対応表を作成していたので、暇にはならなかった。


 ……よし。時間ギリギリだが、5冊目完成。これで最後だ。


 もう夜なので急いで宿を出て図書館に向かう。


「ふぅ……こんばんは」


「こんばんはであります!」


 1日中司書の仕事をして疲れているだろうに、妙に嬉しそうな、そわそわした顔をしている。


 何があったのか聞いて欲しいのだろう。


「今日何かあったのか?」


「聞いて下さるでありますか!?」


「おう」


「実は、役所の方がいらっしゃいまして、最近の図書館利用者の増加について領主様が褒めていると伝えて下さったのであります!」

 

「そして、この調子で利用者を維持できるのなら予算を増やす事も検討すると!」


「良かったな」


「これも全てカイトくんが図書館の改善に手を貸して下さったお陰であります!」


「半分はホワイトくんが努力した結果だろ?」


「俺はホワイトくんとの契約の中で、対価として手伝っただけだ」


「いやいや!カイトくんが指針を与えて下さったお陰で、欲しかった本が買えるくらい図書館が賑わったであります!」


 ん?


「ちょっと待て。お前予算を何に使う気だ?」


「へ?勿論、本を買う為に使うでありますが……」


「おかしいな……昨日、本が多すぎて苦情が出ているという話をした気がするんだが……」


「したでありますが、DIYをすればもっと増やせるでありますよ?」


「机の下に本を置いておくのは最終手段だからな。机の下の本とか取り出しづらくて仕方ない」


「というか、他に予算を使うべきところがあるだろって話」


「本以外に……予算を!?」


「そうだ。例えば、人を雇う人件費は必須だろう」


「ホワイトくんが病気や諸事情で休む時に、代わりの人が居ないと図書館は休館せざるを得ない」


「言われてみれば、そうでありますね……本を増やせる嬉しさで頭が沸いていたであります」


「まぁ、お金の使い方はよく考えな」


「一度頭を冷やして考えるであります」


「それで、例の物は持ってきたか?」


「はい。この鞄の中に入っているであります」


「俺も持ってきた。これが英語で書かれた本だ」


 そう言って本を取り出す。


「魔素で複製した本だけど、3年程度なら保つと思う」


「それまでに証拠として出せるのならそれでいいし、無理なら手書きで書き写してくれ」


「おぉ!内容を確認しても宜しいでありますか?」


「ああ」


 ホワイトくんは単語1つ1つをじっくりとなぞりながら内容を精査する。


「ふむふむ。確かに登場する単語の頻度の分布は自然言語っぽいでありますね」


「しかし、わたくしがこの本の内容を説明できるくらい英語について詳しくならないと……」


「そうだと思って、対応表を作ってきた。それと教科書を合わせて見れば、頻出単語や文法は理解できるようになってるから」


「流石カイトくん!準備が良いでありますね」


「疑問点があれば明日以降聞いてくれ」


「難しい取引条件でありながら、これ程丁寧に対応して下さるとは……!」


「わたくしもそれに応えるであります。知りたい事があれば何でも仰って下さい!」


「まずは、ホワイトくんの隕鉄版を見せてくれ」


「こちらをどうぞであります」


 ホワイトくんが手渡してくる隕鉄版を見ると、掌サイズのカードの表面に精巧な幾何学模様が彫られている。


 その模様は魔素で淡く輝いていて、一層のこと目が離せない。


 この彫刻品が美術館で展示されていたら、来館者を魅了し耳目を集めるだろう。


「これは……言葉を失うほど美しいな」


「ありがとうございます」


「訊きたい事は幾つかあるが……この隕鉄版に刻まれている魔法は何なんだ?」


「聞いても腰を抜かさないで下さいね。その隕鉄版には”飛行“の魔法が刻まれているのであります!」


「それに……なんと!大陸間を移動できるほど長時間発動できるのであります!」


 誇らしげに、ドヤ顔を隠さず発表するホワイトくん。


「へぇ〜、そりゃ凄いな」


 こんな小さいカードで空を飛べるようになるのか。


「……リアクションが薄いでありますね。大陸間の飛行なんて私達以外誰も持っていない超技術なのに」


 あぁ、もっと驚く方が自然なのか。


 ただ、意外だな。魔法のある世界で飛行がそんなに難しい技術だとは。


 でも、確かに長時間魔素を使って飛行するのは難しいな。燃費的に。


「そんな事ない。驚いているし、感心してるよ」


「そうでありますか?」


「それでは最初に、隕鉄版について最も重要な部分を教えるであります」


「わたくしの隕鉄版を見て下さい。この模様1つ1つに意味がありまして、それらを組み合わせる事で実際に魔法をストックできるようになるのであります」


「それは面白いな」


「そうなんです!例えば、この円形の模様は緻密なほど沢山の魔素を溜める事ができて、この四角の模様は魔法の出力に関係します。こっちの鳥の羽の形は具体的な魔法の内容を決定していて……」


 一つ一つの模様について丁寧に解説してくれているので、俺はメモを取りながら話を聞く。


「……と、そんな理屈でこの隕鉄版は飛行魔法をストックしているのであります」


 ホワイトくんに色々と教わった結果、隕鉄版に魔法を刻む技術はコーディングに似ていると判明した。


 何を、どの順番で、どのように繋いで回路を組むべきか考えるところが本当にそっくりだった。


 俺自身で魔法を考えてプログラムを組むことはできそうだ。


「どうやって表面に模様を彫ってるんだ?」


「それはですね、これを使っているのであります」


 そう言ってホワイトくんが取り出したのは、細長い鉄串だった。


「金属製の串に魔素を流して表面に模様を彫っていくのであります」


「それ、借りてもいいか?」


「それは差し上げるであります。本当にただの鉄串なので」


「ありがとう」


 自分で購入した隕鉄版を取り出して、実際に彫ってみる。


 確かに彫ることはできるが、ホワイトくんの隕鉄版みたいに精密に描き込むのは相当難しいぞこれ。


 手先はそれなりに器用だと自負しているが、そんな小手先の技術が通用しないほど、手本の幾何学模様は細かい。


 手本を見ながら集中して彫る技術を磨きたいが、流石に家宝を貸してはくれないだろう。


「一朝一夕では無理だ。難しすぎる」


「それでは、明日からも夜に集合しませんか?」


「連日の仕事で疲れてるだろうに。いいのか?」


「はい。わたくしとしても英語について色々と知りたいので、その交換という事で」


「それは本当に助かる」


 今日はホワイトくんが図書館を閉めるギリギリの時間まで手本の隕鉄版を借りて練習をした。


 練習用にもっと隕鉄版を買い込まないと足りないな。

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