第3章 知覚 (3)
彼女はギターを弾き、僕は歌う。
パート分けは自然にそういうことになった。まあ、当たり前なのだが。
僕は特に歌が上手いほうではないが、カラオケなどは好きで友達とも何度か行くことがあったし、下手ではないと思う、・・・多分。
最初に合わせた曲は、誰でも知っているような有名な曲。
ありきたりなラブソングであったが、ハルと一緒に歌ったその曲はいつもと違って、輝いて聞こえた。
すると、彼女は興奮した様子で、赤みがかった顔をこちらに向け、言った。
「あきらさん!お上手です!本当にいい声してます!」
そんな怒涛のように褒められると、さすがに照れた。
「・・・そんなことないよ。」
彼女の前では少し大げさに発音することにした。彼女が言うには、そうすればそれなりに聞き取れるらしい。
あと、口の動きを見せるようにすると、それからだいたい推測できるらしい。人間の頭ってすごいな。
「そんなことあります!すごく、なんとも言葉にしにくいんですけど、すごく優しげな感じでいいです・・・。」
いいながら、さすがに少し恥ずかしかったようで、少しずつ音量のトーンが下がっていった。最後には、顔を赤くして手で顔を覆ってしまった。
「・・・歌っている僕の声は聞こえる?」
彼女はハッとして、一瞬無表情を見せた。
僕はしまった、と思った。せっかく楽しかったのに、不必要な一言を・・・。
僕が後悔に浸っていると、彼女は小さいが決意のこもったような声で話し始めた。
「・・・確かに、完全には聞こえないですけど。でも、わかるんです、伝わるんです。ギターが教えてくれるような気がするんです。あきらさんの声。」
そう言って、ハルはギターを僕に手渡した。
「ちょっと、持ってみてください。」
言われるがままに、僕はギターを抱えた。
すると、彼女の小さい体のどこから出たのだろうと思うほど、大きな声で叫んだ。
「あきらさんの声、とっても好きです!」
すると、ギターがビリビリと共振して、確かに体に伝わってきた。
「・・・どうです?伝わりました?」
彼女は、少し上ずった声で、僕に尋ねた。
いつも、恥ずかしがり屋のくせに、なんでそんなことはできるのか不思議だった。
正直なところ、叫んだセリフの「の声」の部分なかったら、さらに嬉しかっただろう、と思った。
僕は、彼女が聞こえるように、耳元で囁くように言った。
「うん、ギターが僕に伝えてくれた。」
彼女はふふっと笑って、「よかったです」と答えた。
「ありがとう。」
僕は本心から、思った。言葉には出たが、彼女が聞き取れているかはわからない。
何に対しての感謝なのかはよくわからなかったけど、こんな幸せで満たされた気分になるのは生まれて初めてな気がする。
彼女は笑っていた。
僕らはギターを通じて繋っているのだ。