第2章 協奏 (1)
その日、僕は家でギターを練習していた。
Em7のコードを教わった後、遠藤さんからギターを借りた。
聞いたところによると、コードを幾つか覚えれば、曲は大抵弾けるようになるらしい。
それにしても、コードを弾くためには、普段は絶対しないような指の形が強制されるため、すぐ手首や指が筋肉痛や関節痛に苦しむようになった。しかも、弦と擦れる指先は摩擦によってヒリヒリする。
・・・こんなの弾けるようになるの???
不安がよぎる。
でも、遠藤さんに呆れられたくない一心で、僕は練習を続けた。ギターを始める人の9割は、モテるために始めるというけれど、完全に僕もその一人と成り果てているように感じて、なんとも言えない気持ちになる。
『すぐできるようになります!!』
彼女は、僕にギターを持って帰らせる際に、激励の言葉を言いながら、両手を握って、軽くファイティングポーズのような格好をした。その輝いている黒い目に見つめられると、僕はもう断ることはできなかった。
そう、つまり、断るには彼女は可愛すぎた。
彼女を思い出し、よしっと気合いを入れ直すと、またEコードやEm7コードを押さえる練習を始めた。考えてみたら、こんなに熱心に何かに打ち込むのは、初めてかもしれない。
ふと、自分の弾いた音を聞くと、何やら不気味な音階になっていた。不協和音だった。
「おかしいな、押さえる場所は合っているはずなんだけどな・・・。」
やっぱり、チューニングが狂ったのかもしれない。でも、直し方を遠藤さんに聞いていないため、どうすればいいかわからない。困ってしまった。
遠藤さんに聞いてみようか、と思ったけれど、連絡先を知らないことに気づいてしまった。
したがって、次の目標が決まった。
「遠藤さんに連絡先を聞くこと」である。