第4章 約束 (2)
今週末空いてますか今週末空いてますか今週末・・・・・
僕は口パクでお経のように唱えながら、いつもの川辺に向かった。
気が気ではなかった。これも、男子校を背負った業なのか。
急に誘ったりしたら、気味悪がられるのではないか。
そんなことを考えていると、胃液が逆流するような気分に襲われた。
やっぱり、現状維持でいいじゃないか。そう、それでいいんだ。ハルが僕の横で笑ってくれれば。
僕は結局、ヘタレなのだ。
「あっ、あきらさん!」
彼女は僕の存在に気づくとこちらを向いて、小さく手を振る。
・・・現状維持でいいじゃないか。また、僕は自分に問いかける。
「どうしたんですか?暗い顔をして。」
いつもはのほほんとしているのだが、ハルは妙なところかんがいいところがある気がする。
「そんなことないよ。大丈夫!」
「そう?本当に??」
そう言って、口を少し尖らせて川の方を見やるハルの横顔に僕は見とれてしまった。
高くはないが筋のとおった形いいはなと、血色の良い赤みがかった肌、そして長く上を向いたまつげは彼女の大きな目をさらに印象的に仕立て上げている。
ふとハルがこちらを向くと、僕はバツが悪くなり、下を向いた。
「あ、顔赤いですよ。気分は悪くありませんか??」
そう言うと、ハルは僕の頬に手を当て自分のほうを向けさせると、自らの髪をかきあげ、額を僕の額に当てた。
目を開けると彼女の端正な目や唇が目の前に会った。
心臓が高鳴り、血液が頭のほうに登ってくるのがわかる。
「ちょっと熱いかもしれません!やっぱり気分が良くないのではありませんか?」
「・・・」
あなたのせいだ、と声高に叫びたい。
ハルはあたふたして、「そういえば」と言ってバッグをあさっている。何か医療用の薬や道具を持ち歩いているのだろうか。
少なくとも、心配にはおよばない。
心臓は動転し、頭は予期せぬ事態にショート寸前だけれども、体だけはバッチリな健康状態である。
彼女の一つ一つの行動は、僕に大きな化学反応を起こすものであった。
「あっありました。」
そう言うと、彼女は白く長方形で布状のものをバッグからとりだした。
「熱さまシートです!」
ジャジャーン、とどっかの猫型ロボットが道具を持ち出すような様子で、ハルは誇らしげに両手で熱さまシートを僕に見せた。
「なんでそんなの持ってるの??」
「・・・えっとですね、恥ずかしながら眠気に耐えられない時があって、そういう時にはシャキッとこれを貼るんです。すると、頭がすっきりして・・・。」
「そういう使い方もあるんだ。」
「・・・はい。」
ハルは恥ずかしそうにしているが、熱さまシートを張って頑張っている彼女を想像すると可愛い。
「ということで、貼ってあげましょう。」
ふふーん、とハル自慢げだ。
最近少し印象が変わってきた気がする。
ハルは少しずついろんな表情を僕に見せるようになった。そのことは僕を嬉しくさせた。
「なら、貼ってもらいます。」
そう言って僕は、前髪を右手であげた。
「いきますよ・・・」
そう言って彼女は真剣な顔で熱さまシートを、寸分をずらさずという手つきで僕の額に貼った。
結構やってもらうのは気恥ずかしかった。
ハルも同じようで、顔を赤くして「少し恥ずかしかったです。」と笑った。
「自分で貼るって言ったのに。」
そう言って、二人は笑った。
照れくさい言い方だけど、彼女の笑顔は光っているように見えた。