第4章 約束 (1)
「それから毎日会ってるんだろ?」
僕がハルとの経過を話すと、裕二は言った。さすがに彼女の障害については伏せた。
「毎日というか学校ある日はいつも、かな。」
彼女の難聴の話を聞いてから、一週間が経った。
僕は相変わらず、下校時刻になるとハルのいる河原へ自然と向かっていた。
特段の約束をしているわけではなかったが、彼女はそこにいてくれたし、なんとなく絆のようなものを感じていた。
「もう付き合ってるんじゃねーの?」
守が机に肘を置いてぶっきらぼうに言うと、僕は心臓が跳ね、顔が熱を持つのを感じた。
「ば、ばか、そんなんじゃねーよ!」
「へー、まだなんだ。どうぜ、あきらがヘタレなだけだろ?」
「ヘタレとかじゃないし!その気になれば言えるし!」
口ではそう言いつつも、僕は実際彼女に告白なんてしようものなら、守の言う通り口が動かなくなるのは承知していた。
「ま、いいじゃん。あきらに彼女できたら、付き合い悪くなるかもだけど、面白い。」
「なんだよ、裕二はいつも余裕あって、腹たつな。」
守の言う通り。裕二はなんか余裕があって気に食わない。
「・・・じゃあさ。学校のない週末デートに誘うってのはどうなん?」
裕二の言葉に、僕は「え?」と素っ頓狂な声を上げてしまった。
「・・・デート?」
「うん。だって、下校中だけで、週末には会ってないんでしょ?だったらさ、興味あるでしょ、デート。」
・・・ある。興味は正直ある。とてもある。
すでに、何度か挑戦しようとはした。
「今週の週末空いてる?」
彼女の前で、何度もそんな言葉が頭の中を満たしていったが、結局口から漏れ出すことはなかった。
ヘタレである。認めよう、認めるから、誰か治し方を教えてもらいたい。
僕はうらめしそうに、裕二を見た。
「・・・デートの誘い方を、教えて欲しい。」
健全な男子高校生には、なかなかプライドを傷つく尋ねことである。ただし、もう背に腹は変えられない。なんとしても、僕は彼女をデートに誘いたい。・・・失敗したくない。
「あきら、失敗したくないんだろ?」
僕は心を読まれたような裕二の発言にきもを冷やした。
「・・・わかるよ、失敗したくないお前の気持ち。そりゃ、誰だって断れるのはきついよ。でもさ、相手だって人間だ。嫌いな人とデートは行きたくないし、一緒にいて楽しい人とはデートに行きたくなる。」
「・・・うん、だから?」
「まあさ、つまり、デートの誘い方でどうこうなるもんじゃねえよ。合格発表の掲示板をすぐ見たって覚悟してから見たって結果は同じ。だから、誘いたいって思った時が、誘いどきだよ。だから、グダグダ悩む前に誘えってこと!」
裕二は僕の方を強めに叩きながら言う。
「頑張れよ、大丈夫だよ!・・・多分」
「おい、多分かよ。」
「そりゃわからんよ、俺は彼女じゃないし。・・・でも、俺が彼女だったらあきら、結構いい線いってると思うんだよな。」
「気持ち悪いこと言うなよ!」
俺は、ひじで裕二を突いた。
「まあ、がんばれってことだよ。なんとかなるさ。あとは、彼女の人を見る目だな。」
とはいえ、裕二の言うことは一理ある。
合格発表の掲示板みたいなもので、誘い方どうこうじゃなくて、誘われた方が誘った方がどう思うっているかで結果は決まっているのだ。
そう思えば、僕のドギマギは確かに無駄なのかもしれない。でも、その誘い方が少しでも、結論に影響するかもしれないという疑惑が完全に晴れない限り、「じゃあ気軽に誘おう」という気分にはならなかった。
「まあ、頑張ってみるよ。」
「振られないようになー!」
守の発言は無視した。