許嫁
許嫁というもの、自分に好意が無いのに嫌々付き合わされる物だと思っていたが、そんな事は無かった。美姫に対する愛情は日に日に深まって行く。
「咲耶、どうしたの?」美姫は後ろからおどかしてきた。
「びっくりさせんなよ。で何でここに、美姫が居るんだ?」
「何言ってるのよ。ここは元々湯殿王国の宮殿の一つよ。一応王女である私が居て何が悪いのよ。」
「そうであったな。ごゆるりとなされよ。」
「何その侍みたいな言葉遣い。」
「えっ?いや何でもないよ。それより、美姫何か気を感じるんだけど。」
「咲耶も禍々しい気を感じるの?」
「あぁな。恐らくは王位の危機だ。」
「あっ!そう言えば!」
「どうした?美姫。」
「実はこの前、立花愛也から果たし状を受け取っていたんだ。もしかしたら、今日がその日なのかも。」
立花愛也は、自らを男だと自称している女である。いつも学ランを着ていて、トイレも男子トイレを利用している。素行が悪く先生も手を煩わせているようである。
高校二年である。風呂も男子風呂に行こうとしていたが、阻止された。
「その果たし状はあるのか?良ければ見せてくれ。」
咲耶はそう言うと、果たし状と書かれた手紙を受け取り開けてみる。
手紙の文字は男の字ではなく、女の子らしさが出ている。きっと、この事を言ったら怒られるんだろうな。
文は凄く簡単なものであった。それでいて不親切だ。
『場所は湯殿トランプホテル、土曜日夜の8時に集合せよ。
服装は、異性装で来ること。以上。』
今は7時、あと1時間だ。
「爺ちゃん。ちょっと行ってくるよ。」咲耶は鴎耶に言った。
「咲耶、こんなに若返ったのに爺ちゃんと呼ばれたくは無いな。分かった。何かあるんだろ?」
「湯殿トランプホテルで喧嘩があるようだ。」
「ワシも昔は愚連隊で大暴れしてたからな。だが、今は王太子の身分。見守っておる。ご武運を。」
「いつも男装してその辺を歩いていることがバレてたようだわ。嫌だわね。」美姫は咲耶に話し掛ける。
「僕も女装癖を見抜かれていたとは。でも、美姫。絶対に生きて戻ろう。この服を着て。」
「何、このゴシック系の黒い服は。」
「一応、電気属性の攻撃もあるかもしれないから。この服には絶縁体が入ってる。攻撃を無効化できると思うよ。」
「大体分かったわ。そろそろ行った方が良いよね。」
「道中、色々なことがあるだろうからね。よし。」咲耶と美姫は外に出ていった。
副王の立花家。町将軍を務める影の権力者。きっと尋常じゃない兵力を備えているのであろうな。