帰宅
僕、白峰咲耶は学校にある温泉を満喫して帰路につく。
何せ僕が住み始めた住居は豪邸で畏れ多かった。
白い教会風の建物であり、凝った作りであった。
ルネサンス様式という建築方式なのであろうか。
住むには素晴らしすぎる邸宅であった。
中に入ると打って変わって、和室と洋間がある。落ち着ける空間である。また、驚いたことにトイレも男性用と女性用に分かれていた。こんな素晴らしい邸宅に住んでいいのだろうか。
そう思えてしまう。
「咲耶、お帰り。今日の学校はどうだった?初めての学校は。」
祖父の鴎耶が尋ねた。
「湯殿高校最高だわ。温泉は有るし。馴染みやすい。良い学校だよ。」
「そうか。そりゃあ良かったなぁ。そう言えば、今日は許嫁の子が来るから覚悟しておいてな。」
「今日来るのかよ。突然すぎるわ。」
どんな子なのかな。僕と付き合うことになる女の子は。
許嫁とか古めかしいと思っているが、今までに付き合ったことも無い僕にとってはある程度の強制力が必要だろう。
しつこいようだが、都会では勉強一筋であり、僕はそんなところに嫌気がさしてしまった。そんな傷を癒すために湯殿に来たのだ。
結局は、放浪、放蕩とも言われるが、諸国を歩き回っていた祖父、鴎耶に会って落ち着いた。
湯殿はいいところだ。温泉が心地よく、病気も無いだろう。
健康な町だと思う。湯殿は内政権を持ち、独自の王国となっている。湯殿王太子となり、湯殿家を引き継ぐこととなった祖父、鴎耶は、湯殿鴎耶と名乗っている。
六代目湯殿輝政の死後、男系は絶えたとされていたが、白峰政耶という白峰家初代が三代目当主、政頼の二男に居たのだ。しかし、町を出ていた為に、行方は分からなかった。仕方なく、岡沼誠を婿養子とし、湯殿 政誠と名乗らせた。
祖父が湯殿に定住することで失われた男系湯殿氏の復活となった。
ピンポーン。インターフォンが鳴る。
どうやら約束の時間が来たようだ。
「こんばんは。お邪魔します。」
その少女が姿を見せた。
「お、お前は…」二の句が継げなかった。その少女こそ、湯殿美姫、その人であった。
「ねぇ、言ったでしょ?私と付き合ってって。」
「まさか、同じ人だったとはな。僕も君のような可愛い子と付き合えて嬉しいよ。」
「君なんて使わなくていいよ。美姫って呼んで。」
「美姫、宜しくね。」
「咲耶、愛してるよ。」
二人の生活は幕を開けようとしていた。