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晴れた夜の星は輝く  作者: YUNO
7章 彼女は守る
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51話 彼女とその事実


 それから2日経った。

 オスカー室長が無期限の休暇を申請したこと、それは統括室と上層部以外には公にされていないことだった。だからこそ、誰にも話せないし、相談も出来ない。不安と心配は極限までつりあがるばかりだった。


 それでも周りにいてくれる人たちには、落ち着きのないわたしの様子から何かあったのではないかということは容易に想像できることだったようだ。

 マーガレットにも、ジャスパーさんにも、言葉少ないながらにもはっきりとした口調でライナスさんにも大丈夫かと問われる始末。いかに自分が周囲に心配をかけてしまっているのか、迷惑をかけてしまっているのかを思い知った。

 口では大丈夫と返しながらも、事情を知るマーティンさんの前や自分の部屋では今にも泣きそうになってしまう。本当に辛いのはきっと、室長自身であろうに。


 そんなとき、予想もしなかった来客があった。

 一週間ほど前に帰ったはずの、ノーラさんが訪れてきたのである。


 「お邪魔するわ。」


 そう言って統括室を訪れた彼女は、やはり暗い表情で、そしてどこかやつれているように見えた。彼女はきっと、オスカー室長がどんな様子で、そして彼の周りで起こっている問題についても知っているのだろうと思った。


 「ノーラさん、よくいらっしゃいました、どうぞ。」


 マーティンさんは穏やかにそう言って、来客用のソファへ彼女を座らせる。ちょうど終業報告をしていたわたしはふたり分のコーヒーを淹れ、傍に控えた。すると「あなたにも、聞いてほしいの。」とノーラさんに言われ、マーティンさんも「座って。」と隣を視線で指した。



 「あなたたちも分かっているでしょうけれど、今日ここに来たのはオスカーのことよ。」


 いつになく真剣な表情で話し始めた彼女に、わたしとマーティンさんは一瞬だけ視線を合わせ、そして再び彼女の言葉を待った。


 「あの人が家に帰っているということは、知っているのよね?」


 問いかけに、確かに頷く。

 それから、彼が養子であること、家族とあまりうまくいっていないこと、そしてその家族が危険かもしれないという理由で家に帰っていることまでは知っていると、説明する。


 「そう、そこまで知っているのならば、話は早いわ。」


 そう言って彼女は話すことを整理しながら、順番を考えながら、ゆっくりとオスカー室長の事情について語り始めた。


 「彼が家の異変に気付いたのは、わたしの所為なの。

わたしが町へ帰るときに、彼に少しでもブラックストーンの家のことを報告しておこうと思って。でも、言わなければよかったのかもしれない・・・」

 「彼に、なにを?」

 「・・・おじさんとフレッド、いえ、彼の父と兄が最近、原因不明の体調不良だったり、怪我をすることが多い、と。」

 「・・・それでオスカーは家のことが心配になって・・・?」

 「ええ、おそらく。

  そして彼には思い当たる節があったの。ブラックストーンを目の敵にしているシュタイン家という存在がね。」


 あの家は、いつでもブラックストーンに対抗してきたわ、と苦しげな表情のままに彼女は続けた。

 聞けば、家族の最近の変化はおそらくシュタイン家が関わっているのだと、室長は思ったというのだ。

 ノーラさん本人が彼がシュタイン家について調べているところを見たから、間違いないと言う。


 「でも、それだけじゃないの。クオレトール家、オスカーの本当の生家である家にもシュタイン家が関わっていると、彼はそう思ってる。」


 たくさんの本と町の人に聞いたのであろうメモ書きの数々の中に、クオレトール家の名前を見つけたノーラさんは、彼が何かしようとしているのだと思ったという。

 それを問い詰めた彼女に、室長はひどく冷たい目をしたまま、言った。


 「『決して、誰にも言うな』と、そう言ったの。・・・でも、もしもあの人が何かしようとしているのだとしたら、復讐なんてことを考えたのだとしたら、そう思ったら言わないわけにはいかなかった。

 でもわたしには頼る人がいなかったの。ブラックストーンは当主と次代当主の不調でひどく大騒ぎだったし、わたしの家にはオスカーを止められる人も、シュタイン家に対抗できるような権力もないのよ。」


 そこまで話したのち、彼女は大きく息をついた。


 「こんなこと、あなたたちに話すのは間違ってるって分かってるわ。でも、どうしてもひとりで抱えられなくて、誰か一緒に抱えてくれたらって、そんな甘えた考えでここまで来たの。」


・・・ごめんなさい、とぽつり、彼女が零した言葉に首を左右に振る。


 彼女は彼の行動についての可能性に気付いたとき、どれほどショックを受けて、どれほど非力さを知ったのだろうかと、わたしには容易に想像できた。

 それでも誰にも言えない、言ってはいけないという思いからひとりで抱え込んで。でもどうしても彼のことが心配で、ここまでやってきたのだ。

 それのどこが甘えているというのか、わたしには理解出来なかった。


 「話してくださって、ありがとうございます。」


 言葉を発したのは、マーティンさんだった。その言葉を聞いて、ついにノーラさんの目からは大粒の涙がこぼれ始める。


 「ともに、オスカーを助ける方法を考えましょう。」


 そう言ったマーティンさんは凛々しくて、ここにいる人たちは本当にオスカー室長のことを大切に思っている人ばかりだと、そんなことを思った。


 そしてそんな人たちに囲まれ、わたしもひとつの決意をするのだった。



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