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晴れた夜の星は輝く  作者: YUNO
6章 彼女は想う
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41話 彼女と彼らの恋愛話



 あなたのことが、好きです




 あれ、今、わたし、何を?

 目の前にいるのはあの冷徹なオスカー室長で、彼はわたしが見合い相手に振られたと思っていて、そしておそらく慰めてくれていて。その表情が、手が、いつもよりも優しくて、それで。


 それで、思わず告白してしまった、というのか、わたし。


 おそらく自分でも物凄く驚いた顔をしているのは分かっている。目も口も大きく開いていると自覚しているからだ。それでもいつもなら聞こえてくるはずの辛辣な言葉が無いのは、前に立っている室長も同じように驚いているからだ。得体の知れないものを初めて見たかのようなその表情は、声になっていなくても「何を言っているんだこいつは」と思っているのが伝わってくる。


 「あ、あの・・・」


 ふたりして驚いている今の状況に耐え切れなくなって、自分自身に腹を立てながらも、何とかこの場を乗り切りたいと口を開いた。そうするとそれと同じように室長も顔を引き締め、わたしよりも先に言葉を紡いだ。


 「・・・寝言は寝て言え。」

 「・・・・・・。」


 正直に言えば、それが告白をしてきた相手に言う言葉かと思ったが、否そもそもこんなところで上司に告白をしている自分こそおかしいのだと再確認し、「寝言ではありません」とも、「そうですね!冗談でした!」とも言えないまま、ただ「すみませんでした」と呟いて部屋を出た。

 どうして告げてしまったんだろう、とか、今日の室長は優しかったな、とか、とにかく色々なことで頭がいっぱいになって、明日はどんな顔で会えば良いんだろうなんて考える間もなく、自室に戻った途端に眠りについてしまった。




 「そ・れ・で、そのまま帰って寝ちゃったっていうの?」

 「・・・そう。」

 「もー!そこはもっと押していかないと!」


 朝から問い詰めるように、それでもどこか楽しそうにこちらを睨むのは、もちろんマーガレットである。どうやら青ざめて食堂に入ってきたわたしを見て、昨日何かあったに違いないと思ったらしく、朝食をゆっくり食べる間もなく、お見合いからオスカー室長への想いを自覚したこと、そして告白に至るまで全てを洗いざらい吐かせられた。


 「室長もそんな風に優しくしてくれるってことは、少なくともアリシアのことを嫌ってはいないわよ!」

 「・・・でも寝言って言われたのよ。」

 「照れ隠しだったのかもしれないわよ?」

 「あの室長がそんな可愛い性格をしているとは思えないもの。」

 「・・・それもそうね。」


 そこは納得してしまうマーガレットに、少し遠くで小さく噴出す音が聞こえた。その方向を見ると、食事を終えたライナスさんがいた。


 「・・・・・・・・・なに?」


 微かに笑みを浮かべていたその表情を、次には消し去って小さく呟いた彼に、マーガレットは手招きをする。一瞬面倒くさそうに顔をしかめた彼は、それでも小さくため息をついて食べ終わった食器を載せたトレイを持ってこちらへやって来た。


 「ライナスさんは、どう思います?もう少し押すべきだと思いませんか?」


 そう言って人懐っこく話し始めるマーガレットは、ものすごく楽しそうだ。どうやら会話を聞いていたらしい彼は、彼女が何の話題を指しているのかを理解したようで、


 「・・・・・・別に。」

 「ええー!今時は女子が頑張らないといけないと思うんですよ!」

 「・・・・・・俺なら、・・・自分から告うけど。」


 いつものようにゆっくり、ひとつひとつの音を優しく紡いだライナスさんに、わたしもマーガレットも驚く。


 「・・・なんで驚くわけ。」

 「何でと言われましても・・・。」

 「そう言いきるってことは、自分から告白したことがあるってことですか?」

 「・・・・・・・・・まあ。」

 「もしかして、今の彼女だったりします?」

 「・・・・・・・・・まあ。」


 マーガレットの突っ込んだ質問に、渋りながらも答えるライナスさんの表情が、少しだけ緩んだように見えた。失礼ながら、ライナスさんは恋愛事に興味が無いのだと思っていたから、余計にこういう話をしていることが意外に思えた。


 「・・・・・・・・・・・・結局、相手とどうなりたいか、でしょ。」


 ふたりの会話がひと段落したところで、これから室長に会わなければならない事実に頭を抱えているわたしに、ライナスさんはそう言った。マーガレットもそれに頷くと、


 「昨日のことを無かったことにすることは出来るけど、あなたの気持ちは簡単に無くならないでしょ?」


 と、そう付け加えた。

 どこか意気投合した様子のふたりの言葉は、どうしたってわたしを悩ませる。だってこの恋は走り出したばかりだったから。先の見えない想いを抱えるのは初めてだったから。それでも、どうしたいかなんて答えは一つしかないから、余計に怖くなってしまうもの。それでも、ちゃんと向き合う勇気がわたしには足りないから、もっと辛くなってしまうもの。


 だけど、こうして話を聞いてくれて、力をくれる人たちがいるんだから。



 「わたし、室長のことを好きな気持ち、諦めたくない。」



 そう思った。


ようやく第6章開始です。

前回から間が空いてしまい、申し訳ありません。

今回のお話も、皆様に読んでいただけますように。

よろしくお願いします。

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